織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第25話 姫武将の日常

玉ノ井湊の桟橋でのんびりと釣りをしていたところにやってきたのは、十兵衛と義元だった。

 

「お休みの所申し訳ないですぅ。実は明日、勝家どのが稲葉山を攻めることになりましたです。それで渡しの手配の調整にきたです。」

 

「そうか・・・ってまたえらく急だな。陣容は?」

 

「はいですぅ。大将は勝家どの、副将に犬千代どのが付いて五千の兵で美濃領内の狩り働きと城の兵力調査を行うとのことですぅ。」

 

狩り働きとは、敵国領内の田畑や山林を荒らすことで米などの収穫にダメージを与える攻撃のことを言う。つまり本格的な城攻めではないのだが、後々地味に効いてくるジャブのような攻撃だ。

 

「仔細了解した。渡しの管理は川並衆担当だから、前野の親父頼んだ。」

 

「おう、五千程度ならすぐに運んでやらあ。」

 

前野某の頼もしい言葉を聞いて、今回の戦いは俺の出番はなさそうだと悟る。明日の朝に渡すとのことなので、勝家と犬千代に挨拶くらいはしておこうと心の中に留めておく。

 

「それで、魚は釣れましたですか?」

 

「ああ。鮎がいい感じに大きくなってきたな。この大きさなら塩焼きが美味いぞ。食べていくか?」

 

「いいですね!ご相伴にあずからせてもらうですぅ!」

 

ちょうどいい時間だったので釣りを切り上げることにして、俺と十兵衛、義元は屋敷へ向かった。前野の親父は「折角暇だったのによう、俺にも鮎残しておけよ小僧!」と言って渡しの調整のために組合の方へ向かっていった。

 

 

玉ノ井の工事がひと段落し、街としての動きが活発化してきたことに合わせて、玉ノ井会議の際に作ることになった組合も活動を本格化させ始めている。

川並衆が中心となって運営しており、玉ノ井湊に施設を建てた人への家賃や船着き場の利用料の請求や、共同利用の設備の維持管理、そして津島の納屋衆や正徳寺を始めとした出資者への収益分配、そして木曽川の渡しの営業などを取り行っている組織だ。今は前野某が代表を務めており、今回のような船の手配などは彼から各所に手配をかける流れになっているのだ。

 

今後はこの組合も更に拡大し、美濃路の集落や萩原宿、そして俺の所領となった一宮の商店にも加入してもらいたいと思っている。また、木曽川の鵜飼をはじめとした水産や農家などの生産者支援にも乗り出しており、さながら俺がいた時代の農協や漁協のような様相を呈し始めているのだった。

 

ちなみに組合の建物は俺や義元の住む屋敷のすぐ横にある。これは義元の見張りという役割も密かに持っていたりする。

そんな屋敷に戻ってきて俺は早速魚の処理に取り掛かった。

 

 

「そういえば、義元は何しに桟橋まで来てたんだ?」

 

「やっとわたくしに気付きましたわね。なに、少しお腹がすきましたのでお昼でも用意して頂こうと思っていたところでしたの。そうしたら十兵衛どのが屋敷に参られまして、金槻さんをお探しとのことでしたので道案内をして差し上げたまでですわ。おっほっほ!このわらわに直々に道案内してもらえること、感謝なさい?」

 

「全く、この十二単は自分の立場をお分かりなのですか?この十兵衛はてめーなんかの道案内がなくても金槻先輩の所までたどり着けたですぅ!そもそもこの湊は先輩と私で築き上げたもの。出しゃばるんじゃないですぅ!」

 

鮎に串を通しながら聞いていると、2人はこんな調子だ。どうやら義元はお腹を空かせていただけらしい。

 

「はっはっは。分かった分かった。義元の分も鮎はあるから安心しな?」

 

「流石は金槻さんですわね。わらわの想いは通じておりましたわ。」

 

俺と義元のやり取りを聞いて十兵衛はジト目だ。

 

「・・・金槻先輩、信奈さまも言っておられでしたが、義元に甘くないですか!こいつはあくまで捕虜なのですよ。斬られて当然のこいつがなんでこんなゆったりした暮らしを許されてるのですぅ!」

 

十兵衛の怒りはもっともだが、本当に斬られると困る。

織田家正式メンバー入りをしてから俺の事を先輩と呼ぶようになった彼女に俺は手招きして耳を貸せとジェスチャーする。

 

 

「十兵衛の言いたいことも分かるが・・・、俺は義元を捉えた時、この子が全てを失って泣きじゃくってるのを見ちゃったからさ。アレを見ちゃうと斬れなくなったんだよ・・・。」

 

そう、あの大雨の泥田に全てを失って沈んでいる義元を見て、この戦国時代に繰り返され続けてきた残酷さを感じ取ってしまった。文字通り全てを失ってただの少女になってしまっていた義元を、俺は彼女の命まで取るという選択は出来なかった。

 

「それに、彼女は今川家の当主として武田、北条と互角以上に渡り歩いた経験がある。まだ若い信奈が行き詰った時、経験がある義元が補佐してくれる・・・そんな気がしてるんだ。」

 

「・・・それは金槻先輩の未来の知識があるから、そう思われるのですか?」

 

「いや違う。桶狭間の戦いで俺がしる歴史だと義元は戦いで死んでいる。だから本当なら殺さないといけなかったのかもしれない。でも、平和な時代に生まれ育った俺だから言えることなのかもしれないけど、こういう悲しみが連鎖し続けているから戦国の世は終わらないんじゃないかって、そう思うんだ。

信奈は苛烈な行動をとることも多いからな、ここまで乱れた乱世を治めるには確かに劇薬も必要なんだが、全部劇薬にしてしまうとどこかで壊れると思う。それを義元なら上手く調整してくれるんじゃないかと思っているんだ。」

 

 

そう、いつかは考えないといけないことだが、信奈は俺の知っている通りの歴史を歩めばどこかで本能寺の変という悲劇につながる。そしてそれを起こすのは目の前の少女なのだ。

俺は理屈として、本能寺の変を回避するために史実にない動きをする必要がある。そういう意味では義元の助命は正解だと考えている。

 

「まぁ、確かにこいつならこうして飼っている分には害はないです。ですが、金槻先輩の知っている歴史にない動きをすれば、いずれ先輩自身の首を絞めることにつながるです。」

 

「ああ、でもそれでいいんだ。それに歴史にない動きならこれまでもいくらかやってきてる。この玉ノ井もそうだし、武田包囲のための上杉との同盟もだ。それに・・・」

 

「それに、なんですか?」

 

「俺が知ってた通りの歴史を辿ってもつまらんからな。より楽しく、より良い結果を求めるためなら俺の知識なんてその辺の犬に食わせて構わん。」

 

元よりその覚悟なのだ。今更歴史を動かすことにためらいはない。俺は全力でキメ顔をして十兵衛を安心させようとした。しかし十兵衛は肩を震わせていた。

 

 

「金槻先輩、そこまで想っておられでしたか・・・。でしたらもう何も言わないです。でも、一つだけ約束してほしいですぅ!」

 

「何だ?」

 

「金槻先輩は確かに優秀です、この十兵衛よりも広い視野を持ち、度胸もあるです。」

 

「褒めても何も出さんぞ。」

 

「分かってるです。でも、先輩は自分を顧みなすぎるです!この時代に本来いないからといって、先輩がいなくなっても誰も悲しまない訳じゃないですぅ!」

 

気が付けば十兵衛は半泣きだった。

 

「先の桶狭間の戦いの折も、先輩は一歩間違えれば服部党に殺されていたと聞きます。先輩が死ねば義元やこの十兵衛だけではなく、信奈さまも悲しみになります!もっと自分を労わってくださいですぅ!」

 

そこまで言われて俺はぐうの音も出なかった。確かに俺の中で、自分の命は2の次という考えは常にあった。

 

「・・・女の子を泣かせてるようじゃ俺もまだまだだなぁ・・・。分かったよ、俺は死なない。約束する。」

 

「本当ですか・・・?破りやがったら正徳寺の墓に嘘つきの女たらしって戒名を刻んでやるです!」

 

「お、おう。それは守らないとヤバいな。」

 

「おっほっほ、金槻さんはやはり女たらしですこと。男はみんな姫武将の涙には敵いませんのよ?おわかりになって。」

 

少し茶化されるように軒先にいた義元にも言われるが、彼女も目は少し本気だった。

 

 

「ま、まぁ俺がいた時代でも女の涙は武器とは言うけどなぁ・・・。

大体本気で女の子に泣かれて俺が勝てる訳ないよ。元いた時代でも恋愛経験ないし。」

 

「えっ、金槻先輩まさかそのお歳で童貞なのですか?」

 

いきなり十兵衛がぶっこんできた。俺はたまらず噴き出す。

 

「い、いきなり何言うんだよ!どどど童貞ちゃうわ!それに恋愛とそれは関係ないでしょ!」

 

俺の反応を見てニヤつく十兵衛、そして義元も乗っかってきた。

 

「まあまあ、金槻さん。いい歳をしたおのこが情けないですこと。関係大ありですわよ?」

 

ここぞとばかりに全力で見下してくる義元、こういったいじられ方に慣れていない俺は更に地雷を踏みぬいた。

 

「うるせえ!俺がいた時代じゃ齢20までに卒業すれば問題ないんじゃい!ていうかそんなこという2人こそ経験あるのか!?」

 

「若い乙女にそんなこと聞くなんて扱いを本当にしらないのですね!やはり間違いなく童貞。それと姫武将は籍を入れるまでは基本みな生娘ですぅ~!」

 

「これは間違いないですわね。わらわも当然生娘ですわ。ちなみにおのこは大抵15.6にもなれば嫁をもらってお子を作られますわよ。」

 

「なっ!」

 

「そういえば金槻先輩のもとに来ている信澄どのも近く16になられますですぅ、遠からず縁談の話もくるのでは?」

 

「ああ、あの沢山のおなごを連れてわらわを足止めなされたお方ですわね。あのお方も織田家の長男として育てられたお方ですから、当然縁談もあり得ますわね・・・。というか、あの親衛隊の女子たちも既にお手付きではなくて?」

 

 

義元の言葉は実は的を得ている。信勝謀反の後に俺が預かることになった信澄だが、信勝派であった織田家の旧家臣団は軒並み信勝の元を離れていったにも関らず、親衛隊の女の子たちは未だに信澄のお付きをしているのだ。

正直、今の信澄の稼ぎは俺がういろう屋の稼ぎからほんの一握りを与えているだけで、信澄の店で全員がバイトしている訳でもない。それだけの給金であれだけの数の親衛隊を食わせているのは計算が合わない。

 

一度不思議に思って五右衛門に調査させたのだが、信澄親衛隊の娘衆の数は百ほどおり、しかもその全てが地主や商家の娘といった、所謂お嬢様なのが分かった。彼女らは今全員が玉ノ井に住処を持っており、ういろう屋の裏の長屋はさながら女子寮となっているとのことだった。

そして信澄のういろう屋の他、萩原宿の女中として修業していたり、商家出身の子はこの湊の店で丁稚をしていたりといった具合になっているというのが発覚している。

 

つまり信澄の親衛隊はそれぞれがこの近くで働いている他、実家からの仕送りもあるためそれなりに裕福で、しかも俺の所領内においてかなり重要な労働力となっているということが調査の結果わかったことだった。

当然裕福な層が纏まって生活しているため、この地域の商品はそういった層に向けての物が集まる。以前信奈が玉ノ井に来た時に、串本から大きなヒラメが入荷していた。俺は当初、あれは井ノ口からの需要を見込んで行商が持ってきたと思っていたのだが、純粋にこの地域が高所得化していたから高級品を持ち込んでいたということも明らかになった。

 

この調査結果を五右衛門から受けた俺は、なぜそこまでして信澄についてくるのかという疑問に行き着いた。考えてもらちが明かないため、ある時信澄を呼んで直接聞いたのだった。

その際に帰ってきた答えは、信澄が侍らせているという訳ではなく、彼女たちがついてくるといったものだった。

 

彼女たちの両親にあたる裕福な商人たちは、この地域の領主たる織田家との繋がりを欲していた。この時代、力を持つ身分は武士、そして力を得る方法というのに一番よくつかわれる手段は政略結婚だ。

 

信奈はあの性格なので男を送ってもまず突き返される。最悪首になって帰ってくる。しかし、信勝は温厚かつ信奈同様の美形でしかも男子だったため、娘がいた裕福な家は信勝を狙って娘を送り込んだ。

信勝との間に子が出来ればその子は織田姓の紛い無い武士になれる。そしてその子の身内として権力を握れるという寸法だった。つまるところ信勝にとってはハニートラップそのものだった。いつの間にかそれが纏まって親衛隊として組織的な動きをするに至ったのだ。

 

しかし信勝が旧家臣団に担がれていた時は、武家の頭領となる信勝は武家と結ばれなければならないという考えの家臣団によりこの親衛隊は解散させられていた。

多くの商人たちはこれによって内乱となることを予期して信勝から娘を離そうとしたのだが、送り込まれた娘も時代とは言え年頃の女の子、尾張の貴公子とすら言われた美形の信勝との恋愛に憧れていた。秘密裏にだが女の子たちの間で親衛隊は活動を継続していたのだった。

その結果信勝が謀反に敗れ信澄となった後も、純粋に信澄の寵愛を受けるための囲いが残り、親の商人たちは信澄に近づけば今度は新進気鋭の玉ノ井に足掛かりを得ることに繋がると考え娘たちを今も支援している、という流れだった。

 

つまるところあの親衛隊の一番の目的は信澄の寵愛、そしてそれを支援している親の意図はこの玉ノ井への進出の足掛かりということだった。

そして信澄自身も夜にはその長屋に消えていくというのを五右衛門が確認していた。

 

五右衛門曰く、「あそこは遊郭にござるよ。」とのことだった。

 

 

「ま、まさか・・・この時代にあって俺は、男として信澄にすら負けていたのか・・・!?」

 

俺は必死に目を背けていた現実を直視してしまい、悶え苦しんだ。

 

「ところで十兵衛さん、いつまでこのお遊びを続ける気ですの?わたくしいい加減お腹がすきましてよ?」

 

「まぁ、金槻先輩の面白い顔もみれたですし、そろそろ許してあげましょうか。先輩、流石に冗談ですぅ。」

 

「ふぇっ?冗談?」

 

何が冗談なのか、頭が回らない。

 

「実はですね、桟橋に行くまでに義元とお話していたのです。先輩の慌てる顔を一度みたいと。

十兵衛も先輩はいつもの毅然としたところしか見たことがありませんでしたので、私の”人をおちょくる七十二の方法“を使わせていただきましたですぅ。効果はてきめんでしたですね♪」

 

「そういうことですわ。いい顔を見れて満足ですわよ。ささ、早くお昼にしませんこと?」

 

つまるところ、Sっ気満点の女の子2人に言葉責めにされた。ということだった。可愛い女の子に罵倒されて喜ぶ趣味はねぇ・・・いつか仕返ししてやると思いつつ、俺はさめざめとした涙を流しながら囲炉裏に鮎を刺していくのだった。

 

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