織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第26話 木曽川の戦い

尾張・清州城

 

 

リフレッシュ休暇明け、俺は信奈から登城の指示をうけ、清州の本丸御殿に入っていた。

昨日、勝家と犬千代が美濃へ攻め入ったのだが、散々な結果に終わったのだ。昨日の夜明け前、兵五千を連れた2人を川の対岸に渡したのだが、なんと二千の損害を出したうえ、こちらは斎藤義龍軍にまともな損害も与えられない始末だったのだ。

 

織田家が誇る軍事全振りの武将2人で出陣して負けたという事実に、家中は大慌てとなり、信奈も急遽美濃獲りの作戦を練り直すこととなったのだった。今日は昨日の報告と今後を話し合う会合で、信奈の他昨日出ていた勝家、犬千代。更に長秀さん、俺、元美濃勢の道三と十兵衛といった面子での会議となった。

 

「・・・それで、なんであんたたちがそこまでコテンパンにされたのよ?」

 

信奈はまるでフグののように頬を膨らませ、見るからに不機嫌だ。

 

「はっ、私と犬千代は昨日の夜明け前に光秀、金槻の用意した渡しに乗って美濃に入りました。桶狭間の戦いの後の戦ということもあり、兵の士気も高くこの士気と織田兵の強みである速度を活かして朝駆けを行い、日の出と共に井ノ口近くの敵陣にせめかかるつもりでした。実際道中に出くわした美濃勢は数合打ち合っただけで大抵引いていきました。」

 

「・・・でも、その日は朝から霧が出ていた。この時期に霧はまず出ないのに、それで速度を削がれた。」

 

「で、気が付けば霧の中敵のど真ん中を進んでいて、霧が晴れた途端に周囲が敵だらけだった。ということか。」

 

俺の想像に力なく首肯する2人。つまり包囲の形に嵌ってしまったということだ。これではいくら将が良くても勝てるわけがない。

 

「しかし不思議なのは霧です。この暑い時期にまず発生することはないのですが・・・。天運に見放されておりましたか。30点」

 

そう万千代が結論づける。実際自然のものをうまく利用した義龍軍に軍配が上がったと見るのが自然だ。俺も今回は運が無かったのだろうと思い、次の話へ頭を切り替える。しかし元美濃勢である2人は違った。

 

 

「・・・季節外れの霧に周到に手配され隠された兵、これはもしや・・・」

 

「うむ、まず間違いなかろう。不味いことになったわい。これでは稲葉山は落ちんのう・・・」

 

「ちょっと道三、十兵衛!何か心当たりがあるの?」

 

信奈の詰問に十兵衛は恐る恐るといった感じで答えた。

 

「はいですぅ。実は美濃には隠れた天才軍師がおられます。そのお方が敵方についているとみて間違いないですぅ。」

 

「美濃に天才軍師?初耳よそれ。」

 

「はいですぅ。そのお方は極端な人嫌いという噂。実際に十兵衛も会ったことがないです。」

 

「まぁ実際には人嫌いというより、世間に出たがらない内気な性格なのじゃが。それがどういう訳か義龍などの味方をするとは思っておらんかったわ・・・」

 

2人の深刻な表情を見て織田勢の顔も引き締まる。

 

「美濃・・・軍師か・・・。もしかして、奴か?」

 

「金槻!何か知ってるの!?」

 

「あぁ、俺がいた時代だと確かにこの戦国の世に名を馳せた名軍師に美濃出身が一人いるんだ。そいつは今孔明の異名を持つ。現代の諸葛孔明ってことだな。」

 

「うむ、流石に未来からきた金槻どのはご存知であったか。」

 

「確かに、もしそいつが敵方にいるなら勝家と犬千代じゃ無理だ。相性が悪すぎる。」

 

言い方は悪いがこの2人はノリで軍を動かすきらいがある。所謂脳筋部将だ。確かに腕っぷしは凄いのだが、頭を使う戦ならまず勝てないだろう。

 

「もう、もったいぶってないで名前を教えなさいよ!」

 

 

「はいですぅ、その者の名は竹中半兵衛。美濃の西の街、大垣から更に奥地へ行った菩提山という山村の陰陽師軍師ですう!」

 

十兵衛の説明を聞いて一瞬固まる。陰陽師なんて属性がついているとは思わなかった。しかし他は俺が知っている竹中半兵衛と同じプロフィールなので同一の人物だろう。

 

「半兵衛は、持ち前の知略と陰陽師の様式を取り入れた独特の戦術を用いる故、生半可な者ではまず勝負にならん。此度も恐らくは散兵と織田軍をぶつけ、すぐに退かせることでこちらの進路を誘導しておったのじゃろうな。それに陰陽師の術で霧を生み、兵を隠すことで織田軍を囲い込んだのじゃろうな。」

 

道三の予想に俺も頷く。恐らく半兵衛の採った策略は十面埋伏の計。敵の進路を誘導し、一度敵を素通りさせるかたちで敵を包囲し八方塞がりにするというものだ。軍を手早く進めようとした勝家と犬千代はまんまと敵陣深くに入っていたということだ。

 

 

「何よそれ、陰陽師なんて中世の古臭い考えに引きずられているだけじゃない。時代は南蛮よ!道三もそう思うでしょう?」

 

「うむ、じゃが実際半兵衛はその古式な伎を見事に用いておる。とりわけ合理主義者なワシや信奈どのとは相性最悪じゃわい。」

 

「ふん!どうせはったりよ!それならこちらも手堅くやるまでよ。万千代!金槻!あんたたちに五千ずつ兵を預けるわ。美濃へ攻めなさい!」

 

「ですが姫、ここで一万もの兵を動かしてはこの先の夏に米が不足しかねません。まず攻勢に出られるのは秋以降になります。35点です。」

 

「構わないわ!ここで義龍軍と件の竹中半兵衛を叩ければ秋までは敵に襲われることもないわ。今は織田家の周囲は東は松平で同盟予定、西の伊勢は左近が平定済みよ。向かってくる敵は北のみよ。」

 

長秀さんがやむを得ないといった表情で下がる。

 

「俺からも一言いいか?」

 

「何よ金槻?あんたも出陣に反対なの?」

 

「まぁ反対とまでは言わんが、良い方法とも言えんと思う。まず俺は未来から来ている以上竹中半兵衛が如何に凄いかよく知っている。大体この時代から400年以上後になっても名が轟いているのは名将の証だ。

それに俺だって戦術が無いわけでもないが、俺はどっちかっていると戦術よりも戦略家だからな、こういう個別の戦闘の指揮は未知数なんだよ。実際それだけの兵を率いた経験もない。やれと言われた以上全力で戦うが、戦果は上がらんかもしれんぞ。」

 

「構わないわ。あんたの言う通り、あんたに今不足しているのは経験よ?経験豊富な万千代もついているから、安心して全力を出しなさい。」

 

「分かった。」

 

ここまで言われれば俺も引き下がるわけにもいかない。全力で戦うのみだ。

 

「それじゃあ今日の会議はここまで!2人は準備出来次第すぐに攻めなさい。」

 

かくして、俺は長秀さんと共に再度美濃へ攻勢に出ることとなった。

 

 

 

 

その1週間後、俺は玉ノ井から兵五千を率いて美濃へ入った。

 

今回の合戦、俺と長秀さんがとった作戦はこうだ。

 

まず兵を五千ずつ、俺は玉ノ井から、長秀さんは犬山から美濃へ進める。南と東から稲葉山を挟み込む形だ。更に俺は副将に美濃に詳しい十兵衛を、長秀さんはリベンジに燃える犬千代と、更には信奈自身も入って陣頭指揮を執るということになっている。勝家は今回は留守番をしてもらうことになった。

俺の軍はどちらかと言うと別動隊だ。稲葉山から距離的に近いのはこちらなので、敵を俺の軍で引き付けて後に回った長秀隊が叩くという作戦だ。

また今回は以前のような朝方の戦いではまた霧を呼ばれると判断し、夕方の出陣で夜の攻勢ということになった。

 

普通に考えればかなり手堅い作戦なのだが、相手は竹中半兵衛。俺は慎重を期して五右衛門や足の速い兵を斥候にだし、かなりゆったりした動きで軍を動かしていた。

 

 

「なぁ十兵衛。もうそろそろこの前勝家がやられた場所じゃないか?」

 

「そういえばそうです。あの時はこの谷を囲むように敵がいたそうですよ。思えば完全に包囲された状態でよく三千もの兵を残して撤退できたですぅ。この地形で包囲じゃ下手したら全滅ですぅ。」

 

そう、勝家たちは谷の底で包囲されていたのだ。つい1週間前に起きた惨劇に瞑目しつつ、勝家たちが入れなかった更に先の地帯にすすむ。

 

その先を暫くいったところで、斥候に出ていた五右衛門が戻ってきた。

 

「小笠原氏、この先に敵陣がござるよ。」

 

「わかった。中の兵はどれくらいいそうだった?」

 

「それが・・・もぬけの殻でござる。」

 

「え?じゃあ廃棄された場所ってことか。丁度いい、ここは長秀隊との合流地点にかなり近い。この陣を使って守りを固めようか。」

 

「賛成ですぅ!それでは十兵衛は前に行って陣中の制圧をして参ります!」

 

のんびりとした行軍にしびれを切らしていた十兵衛が、勢いよく前に向かっていった。

千程度の兵を連れて先行してくれるようだ。

 

 

 

十兵衛から遅れること10分後、俺たちも敵の残した陣に到着していた。先に十兵衛がいるということで、さっさと陣内に入る。

 

しかし、陣内は迷路のように入り組んでおり、なかなか十兵衛と合流出来ない。これは変だと思った次の瞬間。

 

俺の率いている部隊の前方と後方から同時に鬨の声があがる。そして、銅鑼を鳴らして騎馬隊が俺たちをめがけて突っ込んできた。その兵の旗は波の紋、間違いなく斎藤軍だ。

 

「不味い!前後から敵が!?」

 

気が付いた時には敵味方入り乱れての乱戦が始まっていた。慌てて俺は槍を取るが敵兵は慌てるこちらに打撃を与えるとさっと引き上げてしまった。

 

「被害の報告を!」

 

「今の攻撃で百人ほどやられたみゃー!」

 

「なんでだ?前には十兵衛の部隊がいるはず。あの部隊はどこから来たんだ・・・」

 

ひとまず前線から上がってきた被害の報告を聞きながら考える。被害は軽微なのだが、陣内で敵に襲われたということで味方の士気がかなり落ちていた。これは良くない傾向だ。

 

「みんな!大丈夫だ。このまま進軍する!敵がまた来るかもしれないから前方と後方には常に気を配るように!」

 

と発破をかけて行軍を再開する。するとものの5分程度で再度敵騎馬隊が奇襲を仕掛けてきた。

 

 

「やっぱり来たか!押し返すぞ!!」

 

今度は準備が出来ていたため難なく押し返すことに成功する。こちらにも被害は出ていない。この機を逃してはいけないと思い俺は前方の敵に全力であたることにした。

 

「よし!それじゃあ前方の敵を追うぞ!どこかで十兵衛と合流したい!」

 

そういって馬を走らせ味方を前へと引っ張る。敵を追う立場となったことで味方の士気も盛り返した。ここからが本番だと気を引き締める。

 

「・・・いた!敵軍だ!突っ込むぞ!!」

 

ほどなくして敵部隊に追いつき、攻勢を仕掛ける。しかし・・・

 

「待ってくださいです!金槻先輩!!この舞台は十兵衛の隊ですぅ!!」

 

「なっ!? 全軍止まれ!!」

 

なんと敵だと思って突っ込んだ部隊は十兵衛率いる先鋒部隊だったのだ。即座に攻勢を止めるがこちらは兵四千、すぐに全員に伝わるわけもなく、戦線の端の方では同士討ちを発生させてしまった。

 

 

「どういうことだ!?俺たちは攻勢を仕掛けてきた義龍軍を追っていたんだが・・・」

 

「金槻先輩!どうもこの陣はおかしいですう!十兵衛も先ほどから何度か敵の挟み撃ちにあったですぅ。敵が退いていったあとすぐに金槻先輩の部隊がきたです!」

 

「そんな、あり得ないぞ。俺の部隊は襲われた後前方の敵を追ったんだ。襲われた所からここまでは一本道だった。道中退いてきた兵ともかち合わなかった。」

 

そうこうしているうちに、再度斎藤軍による攻勢が始まる。神出鬼没の敵軍に気が付けば部隊は大混乱に陥っていた。

 

「これは・・・マズいですぅ!どっちに進めばいいかも分からなくなってきたですよ!」

 

「ああ、まるで蟻地獄だな・・・。仕方ない。作戦を変更する!この陣は恐らくは竹中半兵衛の用意した罠だ!敵の有利な場所に留まる理由もない。このまま前進してこの陣を抜けて長秀隊との合流を目指すぞ!まずは部隊を立て直す!!」

 

断続的な敵の攻勢を何とか凌ぎ、部隊を急ぎ立て直し前進する。この時点で俺の部隊五千は既に千を超える損害を出していた。

 

 

 

 

「おかしいみゃあ。進めど進めど出口が無いみゃあ・・・」

 

「もう疲れたみゃあ・・・」

 

部隊を前進させ続けて一刻ほど、未だに敵陣を抜けることは適わず。ついに兵たちに限界が訪れ始めていた。

 

この間にも斎藤軍の攻勢は止まずに度々前後から襲われては反撃に出る前に敵は去ってしまう。いよいよジリ貧に追い込まれつつあった。

 

「くそっ、またか!」

 

「金槻先輩!もう限界です!!撤退を!」

 

「ダメだ!ここで退いてしまうと長秀隊が美濃で孤立しかねない!あの隊には信奈もいる。信奈が獲られることになったら桶狭間の2の舞だ!」

 

既に何度目か分からない敵軍が前方から押し寄せてきた。今度の軍は数が多い。しかしここで撤退すれば長秀さんや信奈のいる部隊を美濃に残すことになる。俺は部隊の先頭に立ち、敵を迎え撃つ体制を取った。そして先頭にいる故に、その違和感に気付いた。

 

「・・・ん?待て!この軍何かおかしい!さっきまでと違う!!」

 

気が付いた時には遅く、再度敵味方が入り乱れる。やむなく俺も槍を取り敵を捌いていく。しかし決して槍も剣も上手くない俺ではすぐに限界が来る。気が付けば敵軍にかなり押されてしまっていた。

だが今度の部隊はなかなか退かなかった。そのお陰か、敵将と思われる馬上の人を見つけることに成功した俺は、敵将めがけて突貫を行った。

 

「お前がこの部隊の将か!ここまで散々やってくれたな!覚悟!!」

 

槍を一合打ち合う。その時初めて敵将の顔を見た。

 

 

「なっ!金槻どの!!」

 

「長秀さん!?ということは!」

 

「・・・同士討ちですか。零点です!今すぐ止めなければ!!」

 

そう、今度出会った部隊は織田軍本隊、長秀さん率いる五千の軍だった。

 

「双方剣を降ろせ!!この軍は味方だ!!」

 

俺は馬を走らせ叫ぶ。しかしもう既に真正面から長秀隊と当たってしまっていたため部隊を静めるにはかなりの時間がかかってしまった。

度重なる斎藤軍の攻勢、疲弊する兵、深夜の行軍。条件が重なってしまい最悪の事態を招いていた。更に織田軍が同士討ちしている最中にも斎藤軍が再度攻勢を仕掛けてくるため、討つべき敵と戦ってはいけない味方の区別もつかず、兵たちを纏めるのにとてつもない時間がかかった。

結果、長秀隊と金槻隊合わせて一万で出ていたはずの織田軍は双方合わせても五千という状況、更に敵軍の包囲下という危機的状況に陥っていた。

 

 

 

 

 

「長秀さん悪い!斎藤軍の攻勢と勘違いしてやってしまった!」

 

「金槻どのは悪くありません。こちらも度重なる斎藤軍の奇襲を受けておりました。そこに軍を見つけて突撃を仕掛けてしまいまいた・・・。零点ですね・・・」

 

「先輩!長秀どの!お味方の損害の報告が上がってきました!はっきり言ってマズいですぅ!このままでは全滅です!」

 

「そうか・・・そういえば長秀さん、信奈と犬千代は?」

 

「ここにいるわよ!」

 

長秀隊の後方に控えていた信奈と犬千代がようやく合流し、やっと織田軍の首脳陣が揃うことが出来た。

 

「全くもう、散々な有様ね・・・。後方からまた斎藤軍が攻めてきたからそれを防いでたの。おかげで合流が遅れちゃったわ。」

 

「・・・なんとか退けたけど、ここからどうする?」

 

全員が思案するが、包囲下でどちらに進めば良いかもわからなくなっている現在。名案など浮かばない。

 

「・・・これ以上損害が出れば本格的に尾張へ戻れなくなる。長秀隊とも合流出来たしこんな所に長居は無用、ここが引き際だと思うが。」

 

俺はやむを得ずそう具申する。全員は沈痛な面持ちで信奈の判断を仰ぐ。

 

「デアルカ、是非に及ばずね。万千代!十兵衛!あなたたちが先陣で退路を切り開きなさい!わたしと犬千代がその後に続いて、金槻はしんがりよ。何としても生きて尾張へ!」

 

全員の「承知!」という声を確認して急ぎ帰り支度を整える。その撤退戦も壊走といっても間違いのないほど酷い有様だった。

 

 

 

 

先陣をきった長秀さんと十兵衛は、俺たちが元きた道を戻るという選択をとったのだが、迷路のように入り組んだ陣内を抜けるのは簡単ではない。

あっちじゃないこっちじゃないと迷い込んだ迷路の奥地へと足を踏み入れてしまっていた俺たちは、完全に退路も断たれていたのだ。真面目な長秀さんと十兵衛のことだ、恐らくは愚直に来た道を探そうとしていたのだろう。その間にも斎藤軍の轢き逃げのような攻撃は数回続いた。

 

「小笠原氏、おかしいでござる。この道さっきも通ったでごじゃるよ。」

 

「なっ、本当か五右衛門!」

 

「間違いないでござる。怪しいと思ってクナイを柵にさしておいたのでごじゃるが、既にしゃしたくにゃいがあっちゃのでごじゃるよ。」

 

「・・・ってことは・・・!分かったぞ謎が!!殿隊は少し止まれ!!」

 

俺の中でようやく謎が解けた。このことを伝えるために俺はあえて殿軍を止めた。

 

 

待つこと5分程、俺たちが進んできた道の後ろからぞろぞろと先陣にいた長秀さんと十兵衛がやってきた。

 

「あれ?金槻先輩!?なぜここに!」

 

「やっぱりだ・・・。長秀さん、十兵衛!この迷路に出口はない!!きた道をずっと周回させられていたんだ!」

 

おそらくは織田軍が完全に迷路に嵌った後に斎藤軍が柵を動かして出口を塞いだのだろう。ドーナツ状の陣内を俺たちは永遠に回遊させられており、その外から柵を動かして敵が奇襲を仕掛けて来た。これがこの陣の謎の答えだ。

 

「これは・・・八卦の陣ですか!」

 

「あの諸葛孔明が得意とした戦術ですね。金槻どのが半兵衛どのは今孔明の異名を持つといわれておりましたので間違いないかと。20点です」

 

長秀さんの採点はかなり辛い、謎が解けるまでに時間も被害もかけすぎた。

 

「仕掛けが分かれば後は簡単だ!恐らく俺たちは八陣の鬼門にあたる死門と杜門からそれぞれ入ってしまっている。この陣は変幻自在に動かせるのが強みだからな。」

 

「じゃあどうするのですか先輩!」

 

「陣を踏み倒す!相手の土俵で戦っているから負けるんだ。陣を強引に破って抜けてしまえばいつかは出られるって寸法だ!」

 

「それは名案です、80点。」

 

そうと決まれば後は早い。柵を破壊して堰を切るように織田兵がそこから逃げ出す。文字通り袋の鼠だった状況から解放されて、あとは一目散に尾張へと逃げ帰るのだった。

 

後に木曽川の戦いと名を残すことになるこの戦いで、織田軍は僅か二千の美濃勢に対し、一万いた軍の八千を失い、軍の回復に半年近くの月日をかけることとなったのであった。

 

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