織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第04話 下準備

美濃・井ノ口の街(稲葉山城下)

 

 

 

相棒の忍、五右衛門の率いる川族、川並衆との邂逅から数日。

 

俺、小笠原金槻は美濃国の稲葉山城の麓にある井ノ口の街を訪れていた。

 

今俺は一人で人を待っている。その間団子屋でここ数日のことを反芻しつつ今後の策を練っていた。

 

 

犬山を訪れた日の翌日、川並衆との酒盛りで酔い潰れた俺はそのまま川族のねぐらで一夜を明かし、気が付けばお天道様が真上に上っていた。

鈍く痛む頭を何とか回しつつ川並衆と五右衛門に最初の仕事を頼み、俺は川並衆の国人衆としての屋敷である玉ノ井へ向かった。現状の調査のためだ。

 

 

玉ノ井の集落は美濃との国境、木曽川の扇状地に広がる小さな村だ。

と前野某に聞いてはいたが、思っていたより土地自体は広く、田畑もそれなりにあるような場所であった。

 

仕事を手伝ってもらうため俺と同行していた前野某によれば、これでも大した広さではないらしい。

この時代の土地の大きさの感覚は現代のそれとは大きく異なることを思い知った。

 

ひとまず某の案内で川並衆の屋敷に上がり込んだ俺は、犬山で仕事を頼んだ川並衆と五右衛門の帰りを待つ間、仕事の準備として周辺の地図を読みふけっていた。

 

 

「ここ黒田荘は美濃と尾張の国境にあり、美濃路(東海道と中山道の脇街道)に近い。中々良い所じゃないか。」

 

「褒めても何も出ねぇぜ坊主。確かにここは人通りは多いが、何にしろ清州や井ノ口に近すぎる。あの規模の街が隣接してりゃあここは素通りされるんだよ。」

 

「まぁ商いやただの街道宿としてここを使おうとするならそうなるわな。だが、俺たちが活動するにはうってつけの場所だぞここは。」

 

「ほう、それはどういう意味だ?」

 

 

某に聞かれた俺は見ていた地図を畳の上に広げ、指差しながら語った。

 

「まず、川が近い。木曾の方から舟運でくる船は間違いなくここを通るし、川族をやるにはうってつけだわな。」

 

「そりゃそうだ、現に俺たち川並衆はそれで食ってる。」

 

「まぁ、川族に関しては仕官が成ったら侍に戻る以上辞めてもらうが、川族じゃなくてもここは使い勝手のいい土地だ。

まず木曽川の水深がそこそこ深く流れが緩い、かつここから上流は西に川が曲がっている。つまり川幅が狭まっているんだ。つまり海から大型の船を乗り付けれる限界点がここになる。この特性をうまく使えば一儲け出来るぞ。」

 

「水深、大型船か・・・坊主、もしかしてここに湊でも築くつもりか?」

 

「流石前野の親父だ、伊達に川賊なんてやってないな。さっきも言ったがここは清州と井ノ口のほぼ中間、そして美濃路沿いだ。大型船を伊勢湾からここまで乗り付けさせ、ここからは小舟や牛や馬に積み替えて荷を運ぶ。

船着き場の係留賃、荷を置く蔵、上流の木曾は材木の名産地だからそれを川で流してここで造船なんてのも出来る。

海が無い美濃や木曽川上流の飛騨・信濃にとっては小舟であっても希少な貿易拠点にもなる。城下でなくてもここまで条件がそろえばそれなりの宿場も作れる。そしてここを元川族で木曽川のプロである川並衆が取り仕切れば・・・」

 

「そのうちには勝手に銭が転がり込んでくるようになる・・・」

 

「ああ、悪くない構想だろ?頭の中でここまで絵を画けてたらあとは実行するだけだ。実際にそれが出来るかどうか確かめたかったから最初に玉ノ井に来たんだが、思いの外土地も広いし川もあるから水の手にも困らない、街を開くにはうってつけだな。幸いにしてここは川並衆の土地、いくらでも弄れるし、建築資材は犬山のねぐらの森から取ってくりゃいい。」

 

相変わらず金を稼ぐ時に下衆くニヤつく俺を見て、前野某は関心しきりだった。

 

「しかしよくそんなこと思いついたな坊主、俺ぁここに住んで長いが考えもしなかったぞ。」

 

「金は天下の回り物って言葉があってな、要するに経済を回せば回すほど自国は豊かになっていくんだ。

それを織田信奈は分かっているから楽市楽座を敷いている。

この先見の明も俺が織田信奈に仕官しようとしている決め手なんだ。

金を稼ぐにはまず人を集めるんだ。人が集まれば物の消費が生まれる。物を買うには銭が要る。その人・物・金の動きは活発であればあるほど景気が良いってことになる。

楽市楽座はその動きを活発にする手段って訳だ。

もちろん織田家は大名だからそれに軍事的な思惑も加わってるだろうがな。」

 

「なるほどなぁ、となるとここで俺たちがやる仕事ってのは・・・」

 

「ああ、ここに新しく作る街の設計って所だな。それじゃあ大まかに決めていくから紙と筆を持ってきてくれ。」

 

こうして俺は金を刷るように新たな街の設計に没頭していった。

なんだか信長の野望で何処に何を建てるのか考えている感覚で凄く楽しかった。

 

 

団子を嗜みつつ思い起こせばこうして一人でのんびり考える時間もこれまでなかった。

まだこの時代に来てさほど月日は経っていないはずだが、既にこの生活に慣れてきており元の世界よりむしろわくわくしている自分がいることに心の中で少し呆れている。

 

ちなみにこの数日で俺と前野某は玉ノ井湊の計画案を練っていたが他の川並衆はどうしていたかというと、各地の街の相場を調べて貰っていた。

今は届いた各地の相場を精査して浜松の茶が安いことが分かったので、それを茶が高騰していた近江の今浜で売りに出すように指示を行ったところだ。

相場リストを見た時、駿河の茶の相場が阿呆みたいに安くてさすが静岡だなぁと感慨深かった。

そういえば今浜は木下秀吉が長浜に改名したが、この世界では果たして改名されるのだろうか、もし俺が改名することになったらしっかり長浜にしておこうと記憶の片隅に思ったことを残しておく。

 

 

そしてもう一人、別の仕事をあたえていたのは五右衛門だ。

彼女には美濃の明智十兵衛の居場所を探ってもらい、俺がしたためた文を届けて貰っていた。

文の内容は種子島の件についてであり、落ち合う日時と場所を決めてくれという依頼だった。

五右衛門には別に近頃戦が無かった地域も調べて貰っていたため、明智十兵衛とのアポが取れて玉ノ井に帰還したのは昨日の夕刻であった。

五右衛門によれば明智十兵衛はつい最近京から戻った所だったということで、明智ではなく稲葉山に滞在していたとのことだった。

明智は美濃の山奥であり稲葉山は目と鼻の先、これは手間が省けてラッキーだ。

 

五右衛門が持ち帰った明智十兵衛の文には

 

「津島の武具屋に頼んでいた種子島の件、非常に助かりましたです。

丁度今稲葉山に滞在している所ですので、明日井ノ口に来ていただきたいです。

井ノ口に贔屓にしている団子屋がありますので、そこで落ち合わせていただきますです。場所は・・・・」

 

とあった。

 

そして今に至る訳である。ちなみに五右衛門は若干酷使気味だったので玉ノ井で留守を任せている。今頃玉ノ井残留の川並衆にまた揉みくちゃにされてる頃だろうか。

 

ちなみに玉ノ井から稲葉山に向かうにあたっては織田と斎藤の国境を越えることになるのだが、織田家は楽市楽座政策をとっていることもあって関所と呼べるものは存在していない。

代わりに国境地帯には狼煙台や櫓を多く建てて斎藤軍の越境に備えており、玉ノ井の近くにも木曽川に沿って設置されている。

一方の斎藤方はと言うと、こちらは関所はあるものの行商向けには門戸は開けられており、どちらかと言うと通行料を取るための税関的な意味合いが強いものになっている。 

また川並衆の米や特産品の転売も戦国の世とはいえ一応室町幕府は健在であるため、建前上「朝廷への献上品である」などと言えばほぼ素通りが可能であった。

そして今回俺は明智十兵衛からの親書を携えており、正規ルートで関所を越えることが出来たのだ。

 

 

 

気が付けば団子の皿が空になっていた。考え事にトリップしながら口は勝手に動いていたのだろう。

座っていた個室から顔を出して店の女将さんに茶と追加のみたらし団子を頼み、気持ちを今に戻して引き締める。

 

そう、今から俺は戦国随一の名将、明智光秀と対談するのだ。舐めてかかると足元を掬われかねない。

 

今回の会談はただの種子島のお使いではない。

俺にとっては明智光秀、そして斎藤道三への伝手を作る千載一遇のチャンスなのだ。

そのための準備は既に整えた、五右衛門から明智十兵衛の人となり、雰囲気も聞いている。あとは俺が仕事をする番だ。

 

「お待ちどうさまです。みたらしにございます。」

女将が茶とみたらし団子を2皿持ってきて一つを俺の前に、もう一つを対面に置く。

ついに明智十兵衛との対面だ。少しだか鼓動が速くなる感じがした。

 

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