織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第05話 麒麟児

「・・・お待たせしたです。明智十兵衛光秀にございますです。」

 

馴染みの団子屋の奥で待つ待ち人に対して私はそう口上を述べて部屋に入った。

 

以前に津島で注文した種子島を預かっているからお届けしたいという文が届けられたのは昨日、私が京からの帰りに報告のために稲葉山に入った夕刻だった。

 

ここ暫くは土岐家から斎藤家への政変による国人衆や豪族への対処、そして京の朝廷への報告、京にいる馴染みの医者への依頼などてんてこ舞いで忘れていたですぅ・・・と文を見て思い出し、翌日井ノ口の団子屋で落ち合うと文を持ってきた小さな乱破に返信の文を返したはいいが、よくよく考えればこれはかなり怪しいことであると聡明な私は気づいたです。

 

そもそもなぜただの浪人が乱破を使ってまで私に文を届けたのか、普通であれば明智荘か稲葉山の私の居宅に預ければいいだけのこと。

しかし文には、「直接お会いして受け渡ししたく」という文言があった。

 

直接会うということは種子島の件以上に伝えたい何かがあるということだろう。

しかし私は小笠原金槻という名の人物は初耳だったし、斎藤家の面々に聞いても聞いたことがないということであった。

先日武田家に滅ぼされた信濃・飯田の小笠原氏の落ち武者の線も疑ったが、十兵衛の居宅にいる元小笠原家の小姓に聞いても知らないとのことだった。

 

明智家の本領は恵那山を挟んで小笠原領と隣接しており、時折小笠原氏が刈り働きに来ることもあったため、彼らの主だった面々の名前は知っていた。

確か領主の小笠原長時は武田に敗れたあと越後に落ちて長尾家に仕えたが、そこも追い出され今は京の三好家に仕えていたはずである。

他の一門も殆どが武田に下るか駿河の今川家などに散っている。

 

とにかく怪しい身分不詳の人物だが、もし何かしでかすようなら直接捕まえるか斬れば良いですぅと内心に留めて予定の場所へと足を運んでいた。

 

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初めて目にするその姫武将の第一印象は、清楚という言葉がぴったりだと感じた。

 

生真面目そうな凛々しい顔立ちにきんかんの髪飾り、浪人である俺にたいしても由緒正しく桔梗紋をあしらえた正装で登場した明智光秀に対し、俺は息を吞んだ。

俺と同い年か少し下くらいだろうか、今まで出会った女性の中でも飛びきりの美人だった。

 

「お初にお目にかかります。小笠原金槻にございます。」

 

俺はひとまず挨拶を済ませ着席を促す。心の中で「相手はあの麒麟児、油断禁物」と再度唱えて自分にムチを入れた。

 

 

「さて光秀殿、此度は津島の武具屋にてご所望であった種子島を受け渡しに参った。

早速ですまないが御検分いただけるかな?」

 

「相分かりましたです。わざわざお届けいただき助かりましたです。」

 

俺は津島から預かった種子島を手渡す。光秀は袋から取り出し、品物の検分を始めた。

 

「ふむ・・・流石は噂に名高き津島の武具商、やはり一級品ですね・・・。

近頃鉄砲の勉強をしていますが、これほどの品は初めて見ましたです。これであれば道三様もお喜びになられるですぅ。」

 

「おや?これは斎藤道三殿の所望されたものでありましたか。てっきり光秀殿が注文したものとばかり思っておりました。」

 

「そうなのです。私は斎藤家の鉄砲班長として種子島の管理を任されているのですが、これは道三様が個別に注文された特別製なのですぅ。

注文を任されたのは良いですが、近頃各地の大名が鉄砲の存在を知り、種子島の一大産地である堺に押し寄せているのです。

種子島は確かに威力はあるのですが、如何せん一発撃つごとにかなりの時間を要するもの。

戦に取り入れるには数を揃える必要があるということで、鉄砲も高騰しているです。

そこであえて堺ではなく津島に発注をお願いしたのですよ。

どうやら津島の武具商殿は堺ではなく薩摩から取り寄せたようですね。

鉄砲の渡来も早く、既に島津家などは種子島の量産を行っていると聞き及んでおりましたが、まさかこれほどの良品を安定して作れるとは、やはり修羅の国は恐ろしいですぅ。」

 

そう述べつつひとしきりの確認を終え、種子島を袋に戻す。そのタイミングを見計らって俺は次の話題を切り出した。

 

「いやはや、それにしても美濃の麒麟児と噂される光秀殿にお会いできるとは、これも何かの縁でございましょう。それがしもここへきた甲斐がございました。」

 

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内心で「来た!」と私は気持ちを切り替えた。怪しいとは思っていたが、やはりこの浪人には裏があるです。少し探りを入れる必要がありそうですね・・・

 

「ほう、私をその名で呼ぶとはよく調べておいでですぅ。やはりただの浪人ではありませんですね?」

 

「ハハハ、やはり怪しまれておられましたか。左様、それがし今は確かに浪人ではありますが、尾張と美濃の国境にあります玉ノ井の川並衆を率いております。」

 

「玉ノ井と言うと、木曽川を渡った対岸ですか。」

 

「はい、実は我々は玉ノ井の地にてある商いを計画しております。

しかし彼の地は美濃との国境、尾張側は我々の所有地故どうとでもできますが、ことは美濃が絡むためこうして道三殿の側近たる光秀殿にお会いし、商いの許諾を頂きたく思い此度の使いをお受けしました。」

 

「なるほど、合点がいったです。しかし私どもの許諾を得る必要のある商いとは、一体何を始めるおつもりで?」

 

そう聞くと彼は何やら巻物と製本された紙を取り出した。

 

「こちらが、我々が現在推し進めている計画。《木曽川湊開発》です。」

 

「木曽川湊ですか・・・?」

 

「はい、簡潔に言うと木曽川に船を直接乗り付ける湊の整備、それに伴う各種設備の建築、美濃路と接続することによる宿場の設営などが盛り込まれております。」

 

書物を受け取り、まずは本の方を開く。そこには尾張から美濃にかけての木曽川沿いの地図、玉ノ井・羽島近辺の開発計画・必要な設備と費用、得られる利益の計算などが事細かに書き記されていた。

 

「それがしは、木曽川の両岸に船着き場を設けその周辺に街を開く計画をしております。ここに湊を築けば、海から離れた井ノ口の街への物流は大幅に楽になります。また上流の飛騨や信濃との流通も生まれ、大きな経済圏が作れます。」

 

「なるほど、確かに魅力的な計画です。これがあなたの本当の目的ですか・・・」

 

確かに、井ノ口の街は大きな都市ではあるが、近頃は楽市楽座を推す尾張の清州や津島に押されつつあったのは確かです。

また内陸にある井ノ口はどうしても物流を馬匹や人に頼ることになるので、船で直接乗り付ける沿岸の市に比べて取引の規模に限界が出てくるのですが、この計画が成れば井ノ口の地理的な不利は吹っ飛ぶです。

元々美濃は東海道と中山道の交わる交通の要衝、これに更に水運が加われば美濃は潤うです・・・。

 

十兵衛は持ち前の頭をフル回転させ、計画書を読み込んだ。

 

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俺は内心で「勝った!」と確信した。

明智光秀、やはり麒麟児だ、即座にこの計画の大きさに気付いたか。

仮にここで計画を通さなくてもこれで光秀の中では俺に対する印象が強く残る。伝手は作れたと言って良い。

 

「如何かな?」

 

「こ、これは確かに凄いです。これだけの規模の開発が可能であれば、斎藤家に入る矢銭は下手したら今の倍以上に膨れあがるですよ。

ですが、分からないです。なぜこれを私に持ってきたのです?」

 

「簡単なことです。一つは津島の湊で偶然にも光秀殿への用事を預かったこと。

そしてもう一つは美濃側の開発を一番うまく出来る斎藤家の武将があなただからです。」

 

ここでダメ押しとばかりに明智光秀をヨイショと持ち上げる。すると風向きは完全にこちらに靡いた。

 

「いや~、金槻殿はお目が高いですぅ。

相分かりました、これは持ち帰って道三様に今後の普請の計画に盛り込むように提案いたしましょう。」

 

「ありがとうございます。ちなみにもう一つお渡しした巻物の方ですが、そちらは私から道三殿への文となっています。

中身はこの計画に協力いただいた際の御礼についてなどです。」

 

「承ったです。こちらの文は評定の際に道三様へお届けいたしますです。」

 

 

こうして、俺の初めての大仕事は成功裏に終わった。

 

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