織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
尾張・津島湊
明智光秀との会談から半月ほど、俺は訳あって五右衛門と共に津島の湊を訪れていた。
「小笠原氏、そろそろ教えてほしいでござる。いきゃようがあってちゅしまに参ったのでごじゃるか。」
「ああ、玉ノ井の湊を築くにあたって協力してくれそうな人に声をかけようと思ってな。
あとこの前の武具屋に種子島の件も報告しておきたいし。」
「協力でござるか?」
「玉ノ井の湊は今ようやく工事に着手したところだけど、船着き場だけあっても湊は機能しない。
そこまで来てくれる船が来て始めて役に立つ。
今から俺たちで1から問屋を始めても手間だからな、既にやってる人に頼もうと思ったんだ。」
「なるほどにござる。では小笠原氏、どちらきゃらみゃいられるでござるか。」
「とりあえずは武具屋だな、こっちの用事はすぐに終わるし。」
あれから半月が経過し、明智光秀から文が届いたのは3日前のことだった。
曰く、「先日稲葉山で評定があったです。玉ノ井の件は道三様にお話しを通しましたです。ついでに美濃側の湊の整備についてはこの十兵衛が任されることになったですよ。
つきましては今後の工程などの相談に伺いたいのですが、また日取りはお任せ致しますのでご連絡頂くようお願いしますですぅ。」とのことだった。
ひとまず第一段階はクリアだと文を見たときは息をついた。計画自体は光秀も賛成してくれてはいたがここは戦国時代、大名たる斎藤道三の鶴の一声でひっくり返される可能性もあった。
まぁ元々油売りの商人あがりである道三はこの計画で得る利益の大きさは目に見えているだろうからそうそう心配はしていなかったが、やはり結果が伴ってくると安心感が違う。
それに道三にしてみれば、ここで川並衆を懐柔することは尾張の織田家にくさびを打ち込むという、経済面以上に軍事的な意味も生まれてくるのだ。
今は穏やかな状態とはいえ斎藤家と織田家には現状交流がない、いつ兵を起こすか未知数な状態で「もしも」を想定して木曽川の対岸に橋頭堡となり得る場所を確保しておくのは斎藤家にとってもメリットが大きい。
なんせ渡河作戦は大概被害が大きくなるものであり、軍事的に回避出来るなら避けたい作戦なのだ。
そういう訳で今後も光秀、ひいては斎藤道三とはwin-winの関係を築いていけそうである。
そして今回津島に来たのは玉ノ井湊の計画第二段階のためだ。
現在の川並衆は特産品の転売でかなり裕福にはなっている。
具体的に今朝の収支報告では当初の二百両は一万貫に届こうかという所まで来ている。
浜松で茶を買い、今浜で売る。今浜では安くなっていた名物の仏具を買い、戦で死者が出た尾張や京で売った。
これを繰り返すうちに気が付けば大台に乗る所まできていたのだった。
しかし、この一万貫の半分は織田家仕官のために買う米に充てることとなっており、五千貫では玉ノ井の開発資金としては心もとない。
そこで今回は、玉ノ井の湊に出資してくれるスポンサー集めに来たというわけだ。
ちなみにこの後清州にも寄ることになっている。
「今度の儲けの仕組みはこうだ五右衛門。
まず俺たちは船着き場の設営を行っているが、湊にはそれだけではなく様々な施設がいる。
例えば蔵、座(所謂市場のこと)、工房などだ。
今回俺たちは玉ノ井に明智光秀と合同で商会を立ち上げる。
木曽川の両岸に湊を作るから尾張側は川並衆、美濃側は光秀が頭となる。
商会の儲け方は単純だ、湊に入ってくる荷物を預ける蔵を納屋衆に貸す。その家賃を取るんだ。
あとこれは玉ノ井の場合だが、船着き場の係留賃は直接川並衆に入るように直営にするのと、川の渡しも直営する。
これだけあれば川並衆は安定して食っていけるようになるさ。」
ちなみに尾張側の収益は俺たちに、美濃側の収益は光秀が持っていくことになる。
玉ノ井から井ノ口と清州の距離は井ノ口の方が近いから光秀の方が少し得をするが、川辺の平地の広さはこっちの方が広いから互角に儲けは出るはずだ。
そう五右衛門に説明している間に武具屋に着いた。かれこれ半月ぶりだが、凄く久しぶりな気がする。それほどこの半月は忙しかった。
「おーいご主人。おられるか?」
「おお、そなたは金槻殿ではないか。どうかされましたかな?」
「ああ、以前頼まれた明智光秀殿への使い。済んだからその報告をと思うてな。」
「それはそれは、文でもよかったものをわざわざご苦労をおかけしましたな。今茶を出しますから暫し待たれよ。」
そういうと主人は店の裏に下がっていったので俺はひとまず店の土間から一段上がった所に腰かけた。
「そういえば小笠原殿、以前来られた後お主のことが津島で噂になっておりましたぞ。」
「ほう、何と噂になっておりましたか?」
「南蛮の筆を三百両で競り出し、武具防具に馬まで揃えて颯爽と去っていかれた、名のある将ではあるまいかとまことしやかに囁かれておりましたぞ。」
それを聞いて俺は苦笑しつつ、やはり目立ち過ぎたかと内心少し後悔した。
この世界に来て2日目、まだ慣れない中でとはいえあの時点で目立つことは避けたかった。
しかし湊設営のスポンサーを集めに来た今としては、むしろ多少名が知られているほうがやりやすいだろうか。
「いやはや、まさかそんな噂になっていたとは。それがしは一介の浪人に過ぎませんがな、はっはっは。」
「ところで小笠原殿、此度はまさかその御礼のためにわざわざ津島まで参られたのですかな?」
「いや、一応用は他にある。そうだご主人、ちょっと話があるんだが・・・」
「はて、武具の発注ですかな?」
「いや、実はですな・・・」
ここで俺は店の店主に玉ノ井の計画を話した。これほど優秀な武具屋が来てくれれば相当に役立つと考えたのだ。
それにしてもこの店主は一体何者なんだろうか。
直接聞いてみたい気もするけども、藪をつついて蛇が出てきても困るので自重しているが、やはり気になる。
「なるほど、確かに玉ノ井の地に湊が出来るのであればかなりの人が集まるでしょうな。しかしワシは見ての通りの老骨、ここ津島の地での商いで手一杯ですの。」
「左様でしたか、それでは無理にとは申しますまい。話を聞いてくださった礼としてこのクナイを頂けますかな?」
「ええ、毎度ありがとうごぜえます。また武具でお困りのことがあれば参られい。十兵衛様のお使いの礼もあるでの。勉強させていただきますな。」
「心遣い感謝する。それではまた。」
そう言って武具屋を後にする。
「ほら、五右衛門これはお前への謝礼だ。受け取ってくれ。」
そう言ってさっき買ったクナイを手渡す。
「小笠原氏、感謝いたちゅ。しかしなじぇ急にそれがしにクナイを?」
「いやな、色々働いて貰っていたからさ。これくらいの礼はさせてくれ。」
「そ、そういうことでござったか。それがしはちぇっきりおぎゃさわりゃうじゅがそれがしをもにょでちゅりょうとしているのきゃと・・・」
「え?流石に聞き取れないんだがどうした?」
「な、なんでもにゃいでござる!!」
「んんん?、まぁ何でもないなら良いが・・・さぁそれじゃあ次の仕事だ。いくぞ五右衛門!」
「しょ、承知にござる。」
五右衛門は心の内で「ひょっとして小笠原氏、結構な天然で女たらしなのでは・・・明智十兵衛殿も一度の会話で仲良くなったようだし・・・」と感じた。
いつぞやの納屋衆の寄合所の前に小笠原金槻と五右衛門はたどりついた。
「小笠原氏、まさかここから始めるのでごじゃるか?」
「ああ、ここなら俺の顔は分かるだろ。」
「危のうござるぞ!前の三百両の件、忘れた訳ではありゃぬでごじゃろう!」
「ああ、だからこそここからだ。火中の栗を拾ってこそ今回の計画は成功する!」
そう言って暖簾を潜る。入った途端やはりというか、納屋衆は俺のことを見た瞬間に警戒色をあらわに・・・と思ったがそうでもない。これはどうしたことか。
「やあやあ久しいな皆々様方、半月ほど前に南蛮の筆の件で世話になった小笠原金槻と申す。」
「ああ?お前は・・・あの時のか!」
「おや、あなたはあの筆を競り落とした御仁ではないか。息災でござったか。」
「おう、おかげさまでな。」
「おかげさま?それがしが何かしましたかな?」
「いや、あの筆だが、あの後堺に持って行ったのだ。
すると倍の六百両の値がついてな。
おかげ様で蔵の買い戻しも出来たうえ、一財産築くことができたわい!ハッハッハ。」
流石のこれには俺も度肝を抜かれた。まさかあのボールペン、そんなことになっているとは。
これには乾いた笑いしか出ない。
「そ、それで筆は今堺に行ったということか。は、ハハハ・・・」
「おう、それだけじゃあねえ。六百両もの小判を出したのがあの三好長慶の側近だぜ。
今後とも贔屓にさせてもらえる商売の伝手も出来た!お前様には感謝しているぜ!」
ちょっと洒落になってない、あのボールペンが三好に行っただって?
三好家は今機内と阿波、讃岐を抑える間違いなくこの国最大の大大名だ。
もうどうにもならないとは言え、変なことにならないように祈るばかりだ。
内心冷や汗をかきながら、俺はそのボールペンを売った納屋衆を含めた寄合所の面々に話を切り出した。
「ところで各々方、今度は新しい儲け話を持ってきたのだが・・・」
「・・・ふう、流石に疲れたな。」
あの後五右衛門にした説明により具体的な収益性の話を加えて、玉ノ井の計画を納屋衆に伝え、多くの賛同を取り付けた。
また例のボールペンを落とした豪商は津島の他の寄合にも顔が広いらしく、津島中に話を回すように頼むと喜んで受けてくれた。
最終的には井ノ口や飛騨・信濃の街を回っている光秀側の商人と合わせて土地の振り分けを行う合議を玉ノ井で開くと伝え津島を後にした俺は、その足で清州に向かった。
清州の街は初めて訪れたが、幸いにして津島の商人の伝手を頼ることが出来たので同じように手早く玉ノ井の件を広めることができた。
また津島に出稼ぎにきた行商を通じて伊勢や知多、渥美のあたりにまで話を広めることができたようで、玉ノ井湊の計画は一気に東海伊勢湾一体の商人にとって注目のされるトピックに浮上したのだった。
「長秀様、眼鏡の浪人の件につきまして報告が上がってまいりました。」
「本当ですか、ここに通してください。」
あの三百両騒動から半月、ようやく足取りがつかめましたか。少し時間がかかりましたがようやくことを進めることができそうです、80点。
60点と心で採点し、放っていた足軽を小姓に呼びにいかせる。
「長秀様、ご報告申し上げます。眼鏡の浪人についてです。
浪人の名は小笠原金槻、齢は16.17あたり、現在玉ノ井の地を治める黒田荘は川並衆の頭領をしている人物という確認がとれました。仔細についてはこちらに記しております。」
「ご苦労様です、80点。下がりなさい。」
足軽を下げてまとめてきた情報を読む。小笠原ということは信濃からの落ち武者でしょうか、しかし自国内の国人衆とは、これでならば抑えるのは容易いですね。70点。
「・・・これは!そういうことですか・・・どおりで自国内にもかかわらず足取りが見えなかった訳です。30点」
足軽は非常に大きな情報を持ってきていた。玉ノ井の地に籠っていたうえ、その間の外出は美濃に一度という引き籠りぶり。これでは情報網から抜けていたのも無理はなかった。
そして足軽の報告書の最期にはこう記されていた。
【何やら木曽川にて大きな商いを始める模様。津島や清州の商人たちの間では近頃玉ノ井湊という言葉で持ち切り。その計画の中心人物と思われる。】
「玉ノ井湊・・・これは姫様にも報告しなければなりませんね。」
長秀はそう呟き報告書を閉じた。