織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」 作:Takenoko is God
美濃・玉ノ井の屋敷
玉ノ井の開発の支援者探しに津島・清州に行ってから更に半月ほど経ち、俺がこの時代にきてからちょうど1か月が経った。
今日はこの1か月の行動の結果が出る俺にとって節目の日だ。
俺は朝早くに起きて、目の前の木曽川で釣れて池に活かしておいた鮎の塩焼きと飼っている鶏の卵焼き、更に米と味噌汁を手早く調理しながら、今日やることを頭の中で反芻していた。今日は大まかに3つ、やることがある。
まず1つ、川並衆に頼んでいた米の買い出しの確認だ。
特産品を転がし続け、既に川並衆の財布は三万貫に届こうとしている。
この手持ちのうち一万貫を川並衆に持たせて、最近戦が無く琵琶湖のお陰で多くの米がとれる近江に買い付けにいかせているのだが、それが今日玉ノ井に帰ってくるのだ。この米は明日、織田家に仕官に向かう際の手土産とするものである。
次に2つ、玉ノ井湊の開発合議が開かれる。
今日のメインイベントである。この1か月弱、犬山のねぐら付近の森から木材を運んだり木曽川の中州を切り崩したりしながら船の係留ができる設備を整えていた。
船着き場自体はなんとか完成しているのだが、玉ノ井は未だ小さな集落にすぎず大型の商船が乗り付けてもそれを降ろす設備が整っていない。
そこで俺は尾張を、光秀には美濃側の街を回り、豪商たちと開発についての協議を行ってきたのだが、今日はそれらの豪商たちに加え、近隣の会合衆や近くの寺院勢力である正徳寺の寺内町の商工会なども加えての大規模な会議が行われるのであった。
会議の内容は簡単なセレモニーの後に、土地の割り振りや建築の調整、土地代や地域の共有施設の共益費など金の話、今後想定される事態への対応方針の策定など多岐にわたる。ほぼ1日を使って会議を行うことになっていた。
ちなみに今回の会議。遠方からは伊勢や京、飛騨などからも足を延ばしてくる商人もいるらしく、昨日聞いた話ではすぐ南にある萩原宿という小さな宿場町では会議に参加する商人などで大入りになったと聞いた。
既に近隣ではちょっとしたバブル経済のような効果が速くも生まれており、今日参加予定の会合衆や正徳寺も今後に期待しての会議参加となった。
最後は、木下藤吉郎の墓の除幕を行う。
実は今日は木下藤吉郎の月命日でもあり、丁度いいタイミングということで正徳寺の僧侶に読経を別に依頼している。
先の戦の際に木下藤吉郎は俺を守って倒れた後、実は五右衛門が埋めて弔ってはくれていたのだが、命の恩人に対して土葬しておくのは忍びないと感じ五右衛門と相談の上改葬することとしたのだ。
火葬は既に済ませており、正徳寺が管理する墓にも入れてもらえることになったので、納骨を今夜行うという運びだった。
またこれは死者を使っているようで反感を買いそうなので誰にも語ってはいないが、今回の会議と墓の依頼は正徳寺との繋がりを作る俺の策という一面も持ち合わせてる。
正徳寺と言えば織田信長と斎藤道三が会談し、美濃譲り状をしたためることとなった有名な場所。
この世界でも実際に正徳寺の会見が行われるかは未知数ではあったが、尾張と美濃の非武装地帯という寺内町の特性もあって正徳寺とは繋がりを作っておきたかったのだ。
「・・・あぁ!マズった・・・。」
気が付けば思いの他考えこんでしまっていたようだ。卵焼き焦げてる・・・
朝日が昇って暖かくなってきた頃。会場の設営中に明智光秀が到着した。
「おはようございますです金槻殿、いよいよですね・・・」
「ああ、おはよう光秀殿、準備の首尾は上々とは聞いているが流石に緊張するか?」
「ええ、何せここまで大規模な仕事は恥ずかしながら初めてなのですぅ・・・。」
俺と光秀は井ノ口の茶屋での邂逅以降、時折直接会って湊建設の打ち合わせを重ねていた。
そこで光秀の人となりを知ったのだが、彼女は現代に伝わるように頭脳明晰で聡明であり、そして少し調子乗りなところがある年相応に可愛い女の子だということだ。
自分自身、この時代の人たちのことをどこか歴史の出来事と思って引いて見ていたところがあったのだが、光秀と話をしているとそういった感覚が薄れてきて、気がつけば自然に話せる友達のような間柄になりつつあった。
「そうでしたか。しかしこれが上手くいけば道三殿にも覚えめでたく、出世にも繋がりますぞ。そう思えば一念発起できるというもの。
商いの道というものは案外度胸があれば何とかなると俺は思っていまして、道三殿は明智殿にそれを知って欲しくて今回の仕事を任されたのかと思います。」
「確かに、ここで成果を上げれば出世への道が開けるですか。そう思えば不思議とやる気も沸くものです!」
「その意気です。まぁかくいう俺もそれなりに緊張していますけどね。」
そう言って微笑みを返す。この言葉は俺の本心だ、というかこの大舞台で緊張しない方がおかしい。
こうしてお互い笑顔でいられる光秀との関係を心地よく感じている中で、俺はかねてから悩んでいた一つの問題に結論をだした。
それは「これから先どうするの?」という問題。
この1カ月、自分の生活基盤の構築や川並衆の立身のために働きつつ、この世界のことについて少しではあるが調べていた。
その中で分かったことの一つに「姫武将とは」というものがある。
自分の知っていた歴史に登場する戦国武将はほぼ全員が男性である。
もちろんこの時代にも武将の多くは男であるが、一部の武将が女性であり、隣にいる明智光秀を含めその多くが後世に名を残した有名武将たちなのだ。
他にも京都におわすやんごとなき御方が天皇ではなく卑弥呼と呼ばれていたり、主に姫武将の年齢が俺の知っているものと明らかに合わなかったりということがあった。
この状況から俺はこの世界をタイムスリップではなく、パラレルワールドではないかと予想している。
そしてこの世界がパラレルワールドとした場合、どう足掻いても俺の知る歴史とは違う未来が待っているのではないかという懸念が浮上した。
この懸念に対しての俺の答えは「そもそも同じ歴史を歩まない」だった。
そうだ、俺の知っている歴史ではこの横にいる女の子が織田信長を殺すことになり、そして彼女を秀吉の代わりに俺が殺すことになる。
どういった経緯でこの悲劇に至ったのかは謎に包まれているが、
その状況に至った時に俺は彼女を殺せないと思う。
ならば、初めから全く違う歴史を辿ればどうなるか?
本能寺は発生しないのではないか?
全ては仮定に過ぎないが、俺は純粋にIFのその先を見てみたいという動機から、歴史を無視してやりたいようにやるという覚悟を固めたのであった。
そこに、人が誰しも持ちうる淡い想いが込められていることを、俺自身が気付くのは遠い未来の話であった。
近江から米の買い出し班の川並衆が到着したため光秀に現場を任せ一時屋敷に引き上げ、一つ目の仕事を終わらせて戻って来る頃には、既に受付前には行列が出来つつあった。
それから一刻ほどして・・・
「えーお集りの皆様方、この度は玉ノ井湊の運用開始を記念した集会にお集まりいただき、厚く御礼申し上げます。
今回の計画の立案と指揮をしております川並衆頭領、小笠原金槻と申します。
以後お見知りおきの程よろしくお願いいたします。」
「同じく玉ノ井湊の美濃側の開発を任されております、斎藤家領主斎藤道三様が直参、明智十兵衛光秀と申しますです。」
と互いに口上を述べて会議が始まった。
会議自体はスムーズに進行した、まずはセレモニーとして井ノ口から運んだ物資をここで船に積み、川並衆が運航する記念すべき最初の商船の出航を見送った。これは光秀が提案してくれたものである。
津島までの航路という非常に短い距離だが、それでも牛に比べれば川を渡る必要がなく半日程度の時間短縮になる。
今回の会議には津島の商人も多くが参加しているためアピールとしては最高のものとなった。
その後設営した陣幕にて、共有地や運営方針についての会議を行った。
会合衆や正徳寺、萩原宿と協調してこの地域の運営を行っていることを確認し、それぞれの地域から代表を出して「協同組合」を作り、そこが地域の管理運営や収益の分配を行うという形で決着した。
協同組合の代表は、組合に加入している組織から1人が年ごとに交代で務めるように定め、今後細かな組織体系作りを進めるということでまとめた。
今はあらかた共同で決める必要があることの採決を終え、土地の振り分けを行う前に自由に土地を見て回ってもらっているところだ。ついでにお昼休憩も兼ねている。
俺は五右衛門、前野某、明智光秀と共にで素麺を啜っていた。
「・・・それにしても、予想以上の集まりですな親分。」
「小笠原氏、明智氏、ここまではうまくいっちぇるでごじゃる。」
「ああ、後は区割りした土地を競ってもらって、大工と建築の相談を進めれば終わりだな。」
「本当にうまくいったです。これで十兵衛も小姓から晴れて土地持ちになれるですう。代官、郡代、下手したら城持ちも夢じゃないですう!」
若干光秀はオーバーだが、玉ノ井湊計画はこれで一つの区切りとなる。あとは放っておいても勝手に成長してくれるだろう。
これで織田家仕官の準備は整った。明日には清州に登って門を叩くことになる、新たな戦いの始まりに俺も気持ちが若干昂っていた。
「そういや五右衛門、受付で書いて貰った名簿はあるか?今後の参考までにどこからどれだけ来ているのか参考資料を作りたいんだ。」
「御意。こちらでござる。」
そう言って俺は素麺を味わいながらリストをめくり始めた。清州、津島、井ノ口、伊勢、今浜、妻籠などの地名と行商、納屋、問屋などの職業、最後に名前を書いて貰っただけの簡単なものだ。
リストの中にあった「清州・行商・吉」という名前を見て俺は何も考えずに清州の正の字に棒を一本書き足した。