織田信奈の野望IF「金は天下の回り物っ!」   作:Takenoko is God

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第08話 織田信奈

尾張・清州城

 

 

小笠原金槻がこの時代に来てから半月少々、この間に尾張の情勢は大きな変化を見せていた。

鳴海城を落とした今川・松平の兵が一時的に本国へ引いたのだ。鳴海には今川義元の側近で猛将として名の知れた岡部元信が居座っているため反転攻勢には出られないが、織田信奈はひとまず危機を脱したのだった。撤退の理由は田植えだと考えられた。

戦国時代は多くの兵が半士半農であり、それは織田家・今川家共に同じであった。

季節は丁度4月を迎えた所であり、太平洋側で温暖な尾張や駿河は二毛作を行なっていることもあって早めの田植えが始まる時期である。

多くの兵を出していた今川家はここで田植えをしておかないと次の秋に飢えるとこになるので、織田家併呑を目前にしながらもやむを得ずの撤退であった。

 

そしてこの隙に織田信奈は尾張の統一を図るため、清州や末森に兵を出していた。

結果、清州や犬山は織田信奈の支配下となり、織田家中の敵対構図は末森城に居座る織田信勝の勢力のみとなっていた。

そして織田信奈自身も居城を那古野から清州へと移していたのだった。

織田信奈の拡大した領地にはもちろん尾張である玉ノ井も含まれていた。

 

 

 

「長秀でございます。姫はおられますか?」

 

「あら万千代じゃない。今日は特に呼び出しはしてなかったはずだけど。」

 

清州城本丸にて、私は万千代の来訪を受けていた。

本来であれば今日は何もなかったはずだけど、遊びに来たという顔でもなさそうだ。

 

「姫、先日の鳴海からの撤退戦の際に現れた謎の男の話を覚えておられますでしょうか?」

 

「ああ、確か南蛮のような装いに眼鏡って言われてたのだっけ。それがどうかしたの?」

 

「覚えておいででしたか、70点。あの後少し気になる噂を津島で耳にしましたので、その男のことを探っておりました。

先ほどその報告が上がってきたのですが・・・」

 

「わざわざ万千代も細かいことを気にするわね、まぁいいわ。私にもその報告見せて頂戴。」

 

「はい、こちらになります。」

「ありがと。ええっと・・・小笠原金槻?聞いたことない名前ね。」

 

「はい、あくまで予想ですが名前からして信濃の小笠原氏が武田家に滅ぼされた際に落ち延びてきた将かと思われます。

今は浪人ではありますが、玉ノ井の川並衆という国人衆の頭領を務めているということがわかりました。」

 

「ふーん・・・。でもこれだけじゃあそこまで怪しい話じゃないと思うんだけど?確かに南蛮の装いをして合戦場に出てきてすぐに逃げ去った行動は意味が分からないけれど、落ち延びてくる動機も理由もちゃんとあるし。」

 

「はい、そこまでであれば何も報告することはなかったのですが・・・姫、次の紙を開いてください。」

 

そう促され紙をめくる、そこには【玉ノ井湊計画立案書】という文字が書かれていた。

無言で更にめくる。

 

 

 

 

「これは・・・マズいわね。」

 

ひとしきり読み終えてそう感想を漏らす。

 

「はい、現在の当家の状況を考えると、この計画は20点です。

それに家内を纏めるための出兵があったため計画の存在に気付くのが遅れてしまいました、今から押さえにかかるには話が大きくなりすぎています。」

 

「まず場所が良くないわ、玉ノ井というと清州の北で美濃との国境線。

私たちは美濃の蝮と今はまだ敵対状態、容易に美濃の手の者が素通りできる状況を作ってしまうことになる。」

 

「そうなのです、しかし彼らはあくまで商用の湊として開発をしております。この場合楽市楽座を敷いている当家ではそう易々とこの計画を取りつぶすという訳には・・・」

 

「ええ、そんなことしちゃうと折角集まってきた商人が逃げ出してしまうわ。とは言えこれは何かしら手を打つ必要があるわね・・・」

 

他にもマズい点はある。

場所もそうだが、この計画には木曽川の美濃側岸の計画も入っている。この計画は蝮に前線基地を作られるに等しいものだ。

現に美濃側の開発は道三の側近が行うということになっている。

更にこの地は尾張とは言えつい先日信奈が抑えたばかりの地域、民心が離れるようなことはできない。

国人衆を敵に回すと統治にとって良いことはない、道三が嬉々として乗り込んで来るのが目に浮かぶ。

 

「よし、助かったわ万千代。早速で悪いけど先日言っていた道三との同盟の件、急ぎ手配を進めて頂戴。

この湊が仕上がったら道三まで尾張を狙ってくるわ。そうなったら織田家は終わりよ。」

 

「心得ております。しかし当家には斎藤道三と繋がりがある人物がおらずかなり難航するかと・・・10点です。」

 

「本当に崖っぷちね・・・。何か逆転の一手みたいなのは落ちてないかしら?」

 

「姫、そんなものがあれば苦労はしません。しかしこの玉ノ井計画、上手く使えばこちらにとっても利が生まれるかもしれません。この小笠原金槻とやらの考え次第にはなりますが・・・。」

 

「そうね、楽市楽座政策を利用して稼ごうとしているんだから私たちも利用してやりましょう。この計画書を読んだところだと、近々計画の説明会を開くみたいだから、それに潜り込んでこの浪人が考えていることを探ってみるわ。」

 

「姫単身ですか?危険です!」

 

「危険なのは承知よ。どっちにしろこの状況の中清州でふんぞり返ってるのは座して死を待つようなものでしょ。大丈夫、犬千代を護衛に連れて行くわ。」

 

「やむを得ませんか、30点です・・・」

 

万千代が軒並み低い点数なのが今の織田家の状況を物語っている。今は状況もマズいが人材も足りていないのだ。

私自身がこの浪人に少し引っかかる所があったこともあり、清州の商人の娘「吉」として犬千代と共に直接この謎多き浪人に探りを入れることとなった。

 

 

 

時は進み会議当日

私は側近の小姓、前田犬千代と共に清州から玉ノ井へ変装し外出していた。

聞いていた玉ノ井の集落に到着するや否や驚かされた。既に多くの行商人や豪商たちは会場が開くのを今や遅しと列をなして待機していたのだ。中には幼少期からよく世話になっていた津島の面々も見える。これでは変装の意味がない。早速納屋衆の頭領に声をかけられてしまった。

 

「おや、あなた様は・・・まさか信奈姫ではありませぬか!」

 

「ちょっと!声が大きいわよ。一応見ての通りお忍びだから、私のことは今回の会議の主催には知られないように、お願いね。」

 

「はぁ、それは構いませぬが・・・。それにしても信奈様、ますます大きく美しくなられましたなぁ。」

 

「んもう、お世辞はいらないわよ。ところでこの会議、どれくらいの人が来てるの?」

 

「そうですなぁ、ざっと二百は越えましょうな。見知った所で言えば伊勢や今浜、井ノ口に清州、遠い所では京や三河からも商人が来ております。」

 

「思っていたより多いし広いわね・・・。」

 

「それはもう、近頃では珍しい大規模な湊の計画ですからな。

げに恐ろしいのはこの計画を練ったのがただの一人の浪人という所でございますれば、早いうちに大船に乗ろうと各地の商人も必死なのでございます。

それもこれも、信奈姫が楽市楽座を敷いているからこそ。

我々はそれで食べていけております、感謝いたしますぞ。」

 

「だから、褒めても何も出ないわよ。

それに今回の開発の件、楽市楽座のせいもあるけど織田家は情報が入るのが遅れちゃったのよ。だから確認も兼ねて直接来たって訳。

そういうことだからあんまり主催側に私の事を気取られたくないのよ。

一応私は清州の商人の娘ってことになってるから、丁度いいからあんた達に紛れさせてもらうわよ。」

 

ひとまず津島の顔見知りに口止めを済ませて同じ列に並ぶ。屋敷の門が開いたのはそのすぐ後であった。名簿に「清州・行商・吉」とだけ書いて潜入成功。幸い受付の川並衆に怪しまれることはなかったようね・・・。

 

 

 

 

それから一刻ほどして

「えーお集りの皆様方、この度は玉ノ井湊の運用開始を記念した集会にお集まりいただき、厚く御礼申し上げます。

今回の計画の立案と指揮をしております。川並衆頭領、小笠原金槻と申します。以後お見知りおきの程よろしくお願いいたします。」

 

「同じく玉ノ井湊の美濃側の開発を任されております、斎藤家領主斎藤道三様が直参、明智十兵衛光秀と申しますです。」

 

という主催の口上から会議が始まった。私は小笠原金槻という浪人をまじまじと見つめていた。

 

報告にあった通り、かなりの体格であったが見たところ筋肉はそれほどついていない。

あれほどの体格にして文官だったのだろうか、小笠原氏は勿体ないことをしてるわね。

年は同じくらいだろうか、あと特徴と言えば髪型だがこれも至って普通だ。

目立つのは少し色の入った硝子を付けた眼鏡だ。確かにこの特徴は間違いようがない。

服は小笠原の家紋である三階菱が入った至って普通の装束。まぁこれは着替えれば変わるものだから特に変な所はない。

 

その後も小笠原金槻の特徴が無いかと眺めていると、ふと目が合った。慌てて顔を背ける。

 

「・・・姫さま。それは逆に目立つ」

 

ここまで無言を貫いていた犬千代にそう指摘される。確かに、少し焦っちゃったわね・・・。

 

 

気を取り直して、続いてもう一人の明智十兵衛という姫武将にも視点を向ける。

こちらは斎藤家の家臣だが、同性の私から見てもかなり可愛い、そして言葉の節々や仕草から人格者であり、道三に信頼されていることが理解できる。

ぜひともうちに欲しい人物だ。

 

「・・・っと、今日は引抜に来た訳じゃないわね。それにしてもこの2人、大物になりそうな気がするわ。」

 

「・・・姫さま、人材集めが趣味なのは良いけど目的を見失ってる。」

 

ほんと、良い人材を見ると欲しくなっちゃうのは私の悪い癖だとつくづく思う。

 

 

そうこうしているうちに、玉ノ井から最初の商船が津島に向けて出港していった。

 

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