リモートでくるメリーさん   作:仕事以外引きこもり中

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この物語はフィクションです。

少しでも家にいるときの暇つぶしになればと思います。

また作者はIT関係は全くの無知です。間違っている知識も多いと思いますがそこはスルーして貰えると助かります。


プロローグ

「あぁ……糞、なんだよこの糞コードに関数……さっぱり分かんねぇ。三年前の俺はよくこんな訳の分からんもの書けたな」

 

ガシガシと頭を強く掻きながら、目の前のノートパソコンに移る何百行と書かれた文字列を目で追う。よく分からん英単語モドキの文章と、これまたよく分からん数式のようなものをとりあえずは読んでみるが、その理解はさっぱりだった。

 

手元にある分厚い黒い鈍器のような本には「サルでもわかるJava」という文字列。物は試しにコードを開く前に読んではみたものの三行も経たずして猛烈な睡魔に襲われたため即封印した。表紙を開けて三秒で人類からサル以下に降格を果たした人間は地球広しと言えど俺くらいなものだろう。きっと著者もびっくりのレコードタイムに違いない。

 

昔から決して利口ではないと思っていたがどうやら俺の頭脳はサル以下なようだ。

 

「だぁああああああ! さっぱり分からん。もう、いいタバコでも吸うか」

 

机の片隅に常備してある緑のパッケージの箱と、ライター、そして缶タイプの灰皿を取り出すと気晴らしがてらにベランダへと出る。

 

朝一でカーテンを開けていたためすでに知っていたが、今日はとても天気がいい。空を見上げればこれでもかと言うほどの青空。水の入ったバケツに絵の具の青をこれでもかというほど溶かし、それを画用紙にぶちまけた様な空模様だった。視界の端に申し訳なさそうに映る丸く小さな雲以外にどこにも雲は見当たらない。綺麗に澄んだ春の空はどこまでも高く感じられた。

 

そんな春の空を見ながら、ソフトパッケージからタバコを一本取り出す。そして、ライターの腹でタバコを数回叩き、端を絞ると小さく息を吸い込みながら火をつける。そして、一口。

 

口から吐き出された紫煙が空へと昇り、独特の匂いが辺りに漂い、春風に乗ってどこかに消えた。

 

少し視界を左にやれば、電線にとまっていた雀たちがチュンチュンと呑気に鳴いていた。何ともこの世は“平和”である。

 

――平和……平和ねえ。日常が失われてから、いつも通りの日々の有難みを思い出すなんて、皮肉にもほどがあるな……。

 

そう、世界は確かに平和に見える。空は相変わらず青いし、雀は呑気に鳴いている。近所の野良猫はふてぶてしい態度で道を散歩しているし、ボロアパートの壁のヒビは消えたりしていない。

 

でも、確かに俺たちはいつものあたり前を失いかけつつある。

 

タバコを咥えたまま、スマートフォンを操作し、ニュースサイトのトップページを開く。するとそのページの一番上、一番目立つ位置に、三つの数字が記入されいた。その数字の上には、感染者数、回復者数、そして死者数の文字。

 

始まりが何がだったのか、それは誰にも今のところは分かっていない。しかし、約半年前、どこからか発生した未知のウイルスは日本を、世界を蝕んでいった。世界各国で多くの犠牲を生んだ。世界のあらゆる都市はロックダウンし、人々は見えない敵に怯え、そして勇敢に立ち向かった。

 

 

もちろん、日本でも多くの被害が出た。感染の拡大速度、そして、被害を重く見た政府がその重い腰を上げ「緊急事態宣言」を出したのが三日前。その結果多くの会社が対策に追われ、多くの人たちの暮らしが変わった。俺が務める会社も事態を重く見、全社員を在宅勤務に切り替えた。

 

元々はシステムエンジニアの会社だ。ほとんどの部門はある程度在宅勤務ができる。しかしながら出来ない部署ももちろん存在する。そう、俺が所属する部門だ。客先に行って仕事をする俺たちの部門はテレワークなんぞできっこない。

 

しかし現状自宅待機をするしかない。そんな俺に会社が与えた使命は数年前、新人研修で作った社内システムの改善だった。たしかに俺は数年前の新入社員研修で一つの機能を作ったが、配属後システムどころか、コードすら触る機会がなかった。配属されてから二か月でJavaだのCだのPythonだのは記憶の片隅にすら存在していないありさまだ。

 

もちろん、今日の朝課長からのメールでその指示があってから色々と思い出そうと悪戦苦闘したのだが、俺のさび付いた海馬はさっぱり当てにならず、少しどころか欠片も思い出せないありさまだった。

 

――ってか、もう11時かよ……。さすがに時間を無駄に使うのは不味い。しょうがない、あの鈍器を解読するか。

 

タバコを吸っても何も進展するわけもない。ここは腹をくくり、サルに挑戦するしかない。灰皿に吸殻を入れて、さていざ、解読だ――と思ったその時、普段業務で業務で使っているPCではなく使用のデスクトップのモニターが明るくなっていることに気が付いた。

 

――あれ? なんか画面ついてるな。

 

不思議に思いモニターを見てみると新着メールを知らせるアイコンがデスクトップに表示されていた。

 

――ん? なんだ、これ。

 

気になってメールアプリを開いてみれば受信メールBOXに一件の新着メール。

 

件名 私、メリーさん

 

――ん? ウイルスか? いやそれにしては添付ファイルもないし、ウィルスバスターもファイアウォールも問題なく動いている。じゃあ、迷惑メールか?

 

件名の欄にはかの都市伝説で有名セリフが書かれていた。間違いなくどこかの馬鹿が暇つぶしのために作ったであろう件名。普通なら開かずに消去するのだが、慣れないデスクワークでイライラしていたのか、それとも日常が変わっていくことに不安があったのか、それは今となっては分からないが普段なら絶対にしないであろう宛先不明のメールを開くという行為をこの時の俺はしてしまった。これがいいか悪いか、それは未だに分からない。

 

『件名 私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、東京にいるの』

 

――なんだ、これ……。

 

メールを開いて出た率直の感想がこれだった。いや、普通の感性をもっている人なら俺と同じ反応になるだろう。なんて言ってもメール本文までも、あの都市伝説を思い出させるそれなのだから。

 

――いたずらにしても、なかなか面白いな。どうせフリーのメールアドレスだ。どこかに出回っても問題ない。どういう反応になるか、ものは試しで返信してみるか。

 

『to [email protected]

 

件名 Re:私、メリーさん

 

本文  メリーさんって電話で連絡がくるものだと思っていたのですが違うのですか?』

 

 

送信ボタンを押して数秒後返信が返ってきた。

 

――おぉ、もう返っていたのかよ……。さて返事はっと。

 

 

『件名 Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  私、メリーさん。今、変わらず東京にいるわ。

本当だったから電話して貴方に直接会いたいのだけど、それは出来ないのよ。』

 

朝入れた冷めたブラックコーヒーを片手にメールを返信する。

 

『To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文 出来ないとはどういうことですか? 電話番号が分からないとか、俺がどこにいるのか分からないとか?』

 

『件名 Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  ち、違うわよ! 馬鹿にしないで頂戴! どこかの馬の骨かも分からないポンコツメリーと私のようなエリートメリーを一緒にしないで頂戴! 貴方の電話番号も、貴方の現在地もお見通しよ!

 

あっ、ついでに今品川にいるわ!』

 

――なんだこいつ結構面白いな。

 

現在地よりもメールの返信にこだわり出した見えないメールの主について考える。もちろん、俺はこのメールの主がメリーさん本人だなんて微塵も思ってはいない。しかし、このメールの相手が悪い奴ではないだろうという確信は持てる。数通メールしただけだが、そんな感覚を俺に抱かせるには十分だった。

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  じゃあ何でメールなの?

やっぱり、口では言いつつポンコツなんじゃ?』

 

返信は刹那に返ってきた。

 

 

『件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  は、はぁ? よりにもよって私をポンコツ扱いしたわね。後で、覚えて起きなさいよ。本当に私エリートなんだからねっ!』

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  なぜ電話じゃなくてメールで連絡なのかの質問の回答になってないですよ。

 

あと、今どこにいるか書かれてないよ。』

 

『件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  ぐぬぬぬぬ……。絶対アンタ私のことを馬鹿にしているでしょ……あとでギャフンと言わせてあげるわ!

そして、電話でなくメールで連絡した理由だけど……………上からテレワーク言いつけられたのよ。クレームが結構入ったらしくて……

 

あと、ついでに今は新横浜にいるわ』

 

――なんだよ都市伝説がテレワークって。それにメリーさん新幹線移動かよ。

 

在宅勤務になり人と話す機会が減ったせいか思わず画面に突っ込んでしまった。しかし、なかなか考えられた設定だとどこか尊敬の念を覚える。どうやらメールの相手はどこかの作家か誰からしい。

 

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  は? テレワーク?』

 

 

『件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  そうよ。今、大変な世の中じゃない。三日前に緊急事態宣言が出された後もウチは一応普通に動いていたの……。

 

でも、クレームが多くて……。

 

口裂け女なんてマスクをとった瞬間に「感染させる気か」とか、言われて警察に通報されるし、私も電話したら「それは不要不急の外出ではないですよね。ではやめてください」だの、「こんなご時世に会いに来るなんてどういうこと!? 私を感染者にしたいの!?」とかあーだこーだ言われて電話を切られる始末よ。

 

口裂け女なんてマスクをとった後が本番だというのに、マスクを取ることを許してもらえないのよ。これじゃあただの美人なお姉さんじゃない!?

 

私もとうとう電話番号がネットに挙げられて不要不急の外出をしている糞野郎だのバイオテロリストなんて書かれて、誰も電話を取ってくれないから商売あがったりで……。

 

花子なんて、休校に次ぐ休校ですっかり拗ねてふて寝してるわ。今年から中学校に行くんだって一番新年度を楽しみにしてたから、その落ち込みぶりは見てるこちらも少し応えるわ。早く元気に登校させたいだけどこればっかりはどうしようもないしね。

 

あぁ、一応最後に伝えておくと今はまだ新横浜よ』

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  うわーそれはお互いに大変ですね……ご心中お察しします。』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 えぇ、でも彼らの意見だってわかるわ。私もこんなご時世にface to faceで会うこと自体がおかしいと思ってたし……。もしも感染したら労災は降りるのかってウチの総務部にと言わせたら感染経路が確定できないため、労災認定は厳しいです、とか回答返ってきたし。

 

あ、今は名古屋にいるわ。名古屋駅人少ないわね。こんな人が少ない名古屋駅は初めてよ』

 

どうやら設定では都市伝説界隈にも会社のようなものがあるらしい。そしてその会社とはこちらの会社と同じくなんとも世知辛いもののようだ。

 

――それにしても、やけに移動が速いな……。

 

先ほど新横浜にいたと書いてあったメールから最新のメールまでタイムラグはおよそ5分。新幹線を使うどころかリニアを使っても無理な速度だ。

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  ウチの会社も感染して入院したら有休消化の指示でたよ。どこも世知辛いね。

 

それよりも、移動スピードが異常に早いけど、どうやって移動しているの?

 

あと、名古屋には詳しいの?』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  私、メリーさん。今、京都にいるの。

 

移動っていうか今日からテレワークだから基本的にリモートで各々のコンピューターに接続して飛んでいるイメージね。まぁ正確に言うと違うのだけど特許の関係で言えないわ。コンプライアンス違反になってしまうし……。

 

もちろん、貴方の端末に一瞬で飛ぶことも出来るのだけど、それじゃあメリーさんとして味気ないじゃない。だから、オリジナルの都市伝説にのっとって離れた場所から徐々に移動している感覚を出そうと思ったのだけど……どうかしら?

 

貴方がテレワークになって初めてのターゲットだから、そのあたりのことはまだまだ手探りなのよね。もしよければ後で意見をもらえると助かるわ。

 

それと、名古屋についてだけど、昔中部地区を担当していたことがあるから結構詳しいわ』

 

もうここまで来ると彼女が本物だろうが偽物だろうがどっちでもよくなってきた。どちらにしろこのメールの相手は俺と話の合う奴だろうし、悪い奴ではないだろう。もしも、本物でもそれはそれでテレワークで疲れた時のいい話(メール)相手になってそれはそれで重宝しそうだ。

 

ようするに俺はこの時点で相手のことを顔も知らない友達と再認識したのだった。

 

――それにしてもリモートで接続してるとか、中々ハイテクだな。メリーさん。

 

冷蔵庫にあった昼食のサンドイッチを頬張りながら、コーヒー一口。そして、再びメールを打つ。

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  端末間で移動するか、結構すごいことやってるね。

 

それに今京都か……あと何回くらいのメールでここに来る予定?

 

あと俺なんかの意見でよければ、何時でも聞かせてあげるよ。参考になればいいけどさ。

 

名古屋詳しいんだね。俺、来年名古屋に転勤になるかもしれないからその時は色々と教えてほしい

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文  私、メリーさん。今、新大阪にいるわ。

 

端末間の移動といえばそうなんだけど実際にはもっとすごい技術なのよ。貴方が見た時の驚いた顔が楽しみよ。

 

一応、ここから〇〇電車の××線沿線沿いに一度飛んで、そこから貴方の最寄りの駅付近に飛んでその次にどこか貴方の近所の端末に飛んで、その次にゴールっていう流れよ。だから、あと四回ね。

 

いえいえ、ターゲットからの意見は嬉しいし有意義だわ。ぜひお願いするわね!

 

名古屋なら任せなさい。この騒動が収束したら完全で完璧な案内をしてあげるわ!』

 

――まじか、本当にここがどこだか分ってるのか。

 

メールを見て今日一番の驚きを感じる。彼女が指定したルートは奇しくも新大阪から我が家までのルートだったからだ。どうやら、メリーさんなるものは本当に俺の住所を知っているらしい。

 

――まぁ別にいいか。

 

俺からすれば顔も知らない友人が未知の手段で会いに来るだけだし、特段慌てるようなことはない。

本人も言っていたうように流石に面と向かって話すわけでもないし。それなら色々と大丈夫だろう。

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  本当に俺の家の場所分かってたんだ……疑ってごめん。

それよりもメリーさんもウイルスに感染したりするの?』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、〇×駅前の牛丼屋のバックヤードにあるPCのCの直下にいるの。

 

今頃認めたって遅いわよ。さっきの恨みは絶対晴らすからね!

 

今は猫やトラだって感染する時代よ。私や、花子だって感染するかもしれないじゃない。もし、感染して発症したとしても検査なんて絶対後回しにされるだろうし、もう自己防衛するしかないの!』

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  まぁ、そう怒らないでよ。それよりも牛丼かぁ……なんだか食べたくなってきたな』

 

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、6丁目にある山田のおじいちゃんのPCにお邪魔しているわ。Windows2000なんて未だにあったのね。骨董品だと思っていたわ。

 

それにセキュリティがガバガバじゃない、これ!?

 

ちょっと応急手当するから待ってて!

 

あと、今日の夕飯は牛丼にしましょ』

 

どうやらメリーさんはとうとう俺の住む町に上陸したらしい。

 

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  俺もWindows2000とかガキの時に見たくらいだな……。

 

それよりも牛丼ってメリーさんが作ってくれるの?』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、6丁目にある山田のおじいちゃんのPCにお邪魔しているわ。

 

応急手当の最中よ。ホワイトハッカーの資格を持つ私の手でもこれは少し時間がかかりそうね。

 

私が作ってもいいのだけど、今回は実体ないし、この騒動が終わったあとね、今回は〇ーバーイー〇を使うわ』

 

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  〇ーバーイー〇ってメリーさんすごい世間慣れしてるのね……。

 

それにしても、ホワイトハッカーの資格までもってるのか……』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、6丁目にある山田のおじいちゃんのPCにお邪魔しているわ。

 

応急手当無事に終了したわよ。まぁ、OSもOSなんで本当にないよりかはましな程度だけど……。

 

ホワイトハッカーの資格ももちろん、人間界用とこちら側用で二つもちよ! 中々いないんだからね、二つ持ちって! どう? 見直した?

 

あと、牛丼に関してだけどもう注文しておいたわ。19時に家に来るわよ。

 

あぁ、お金は心配しないで、接待費で落とすから!』

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  なんか何から何までありがとう。山田のおじいちゃんは知り合いだから今度会った時にでもPC買い替えるように言っておくよ』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 私、メリーさん。今、三丁目のコンビニのWi-Fiにつながれている小学生のゲーム機の中にいるわ。

山田のおじいちゃんのPCは買い替えるのが正解ね。その時は私のおすすめを紹介するわ。

 

って、痛っ! ちょっと、このがきんちょ! つつくのやめなさい! いたっ! 痛いって言ってるでしょ! こら!』

 

三丁目のコンビニといえば我が家から目と鼻の先にある店だ。どうやらメリーさんはすぐそこまで来ているようだ。

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  三丁目のコンビニといえば目の前だけど次ここまで来るの?

 

あと、色々と大丈夫?』

 

『 件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

送信者 [email protected]

 

本文 ぜぇぜぇ、私、メリーさん。今、三丁目のコンビニの店員のスマホにいるの。

 

ぜぇぜぇ……あのがきんちょ共よってたかって私のことをタッチペンでつつきまわりやがって……おかげで計画が少しずれたじゃない。

 

ぜ、絶対こんど会ったら泣かしてやる!

 

ごめん少し計画がずれて遅くなったけど次のメールでお邪魔させてもらうわ』

 

『 To [email protected]

 

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:私、メリーさん

 

本文  そう、気を付けてね』

 

 

短くそう返信を送り、メールを待つ。

 

窓の外は相変わらずの快晴を体現したような空が広がり、ハトが数羽空を横切って行った。冷めたコーヒーはすでに飲み干してあり、サンドイッチも胃の中に消えた。

 

メールの返信が来たのは最後のメールを送った後どれほど経ったころだろう。それは数秒だった知れないし、数十秒だったかもしれない。もしくは数分だったかもしれない。とりあえず、一呼吸ののち最後のメールが届いた。

 

件名は見慣れたあの件名。

 

――さて、鬼が出るか蛇が出るか……いや、これから出てくるのはメリーさんか。

 

少しばかり緊張した面持ちで件名をクリックした――――

 

――――その刹那。

 

急にメールのソフトが落ち、画面が変わる。

 

文字通り親の顔をより見た見慣れた画面は確かに俺のPCのデスクトップだった。しかし、いつもの見慣れた画面とは明らかに違う部分があった。

 

画面の半分ほどに移るその姿は明らかに人の上半身そのもの、陶器のように透き通った白い肌に画面越しにもわかるさらりとした金髪、そして今日の春ゾラの用に澄んだ大きく青い瞳。下手な女優よりも、美しい姿をした齢17,8程度の少女が一人、画面の中に確かにいた。

 

ぱちくりと黒ドレスに身を包んだ少女は瞬きする。

 

そして、未だに間抜け顔で画面を見ていた俺にまるで悪戯が成功した子供の用に無邪気な

笑みを見せるとその口を開いた。

 

ミュートにしていたはずのPCから彼女の口の動きに合わせるかのように音声が出た。

 

『私、メリーさん。今、貴方のPCのデスクトップにいるの』

 

そして、続けるようにして、

 

『どう、驚いたでしょ? 怖かったでしょ?』

 

どこか誇らしげに胸を張った。

 

「なぁ、これって俺の声もそっちに聞こえているのか?」

 

予定外の出来事に俺はこんなことしか言えなかった。

 

『ええ、もちろんよ! 音声でもばっちり会話可能よ! どう? 驚いた? 恐怖した?』

 

未だに俺の考えるべきことは多くある。そりゃ目の前出来事が非現実的だ。しかし、今話すべき言葉すぐに用意できた。

 

「確かに、驚いたが。怖くはないな」

 

『えー何でよ? メリーさんだよ、私! あのメリーさんが来たのよ! 普通怖がるものじゃない?』

 

どこか不満げに頬を膨らませる彼女はまるで人間のように見えた。

 

そんな時だった。バイブ音とともに携帯が着信を知らせた。会社用の携帯の画面をみて冷や汗が流れる。

 

――やばい、一向に今日の作業終わってない。それどころか報告もまだじゃないか……。

 

着信の相手は課長。本日の成果は未だに白紙……。

 

――俺はメリーさんより課長の方が怖いよ……。

 

そんなことも言えるわけもなく、俺はひたすら言い訳を探した。

 

こうして俺とメリーさんは春という出会い相応しいはずだった季節に、春空とは一切関係のない物語の始まりには相応しくないボロアパートの一室で出会った。

 

そう、この物語は数奇な運命に翻弄された結果始まった物語だ。

 

 

 

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