とある地下研究所様々な機会が並びその全ては休むこと無く動作し続けていた。
「ほぼ完成か。ようやくじゃ。」
そう言って部屋の中央に立つポッドに手を当てる人物が一人。男は白衣を纏い歳を取っているせいか頭部に髪はなく、代わりと言ってはなんだが真っ白な髭が生えており、ゴーグルのような眼鏡をかけている。
人一人が入ってもまだ余裕があるほどの大きさを持つポッド。その中には液体が詰まっており光を浴びたポッドは水を反射して部屋を怪しく照らしている。
「本当に大変だったよ。お前を作るのにも時間がかかった。」
そう言って男が触れているポッドの中で揺れる影、それは人だった。男は人間を作っていたのだ。ポッドの中にある人物は金髪の髪を持った少女だった。水中で揺れる見事なブロンドの髪、シュッとした鼻にぷっくりと膨らんだ唇。それだけでも少女の顔が整っておりみたもの全てに美しいと言う感想を第一に抱かせる。
年は中学生ほどなのだが身長はポッドに立った男よりも高く、また、胸や腰のくびれ、足の長さをみてもただの中学生を超越しているため高校生を過ぎていていると言われても違和感はないだろう。
「よし、ではこいつの脳に悪意をインプットさせる。下手に正義感を持たれても叶わん。」
そう言って周りにいる白衣を着た研究員に声をかける。それから忙しなく研究員たちは動き回り位置につくと、先ほどの男がレバーを手に持ち少しずつ倒して行く。
「インプット開始、3%」
レバーさらに倒す。
「8%」
ここまでは順調と言った風ではあったが突如研究員達が慌て出す。
「ドクター!個体Sへのインプットが弱まっています。意識がない中で拒否を続けているようです。」
「出力を上げて押さえつけろ!」
出力を上げて脳をいじくりまわし続ける研究員達。少女の感情のない顔に悲痛さが浮かび上がる。
「17%!」
「いいぞ!そのまま・・・」
そう言いかけた時、外から大きな爆発音が聞こえてくる。すぐさまあたりは赤いランプが点灯しアラーム音が鳴り響く。
「何事だ!」
「ヒーローが突入してきたようです!ドクターすぐに逃げてください!」
「こいつを置いていけというのか、わしの最高傑作を!」
「ドクターが捕まってしまえば意味がありません!」
複数の研究員に体を押さえつけられながら扉へと連れて行かれは男は抵抗を続けるが老体であることと複数の人の前では虚しいだけであった。だが最後までその瞳は生者から離れることはなくその姿が見えなくなるまでじっと見つめ続けていた。心の中で必ず取り返すと誓いを立てながら。
最後までインプットをやめない研究員達はヒーローがここにくるまでの短い間になんとか終わらないかと考えながら作業を続けていた。しかしその執念も虚しく複数のヒーローが研究室へと突入してきた。
「ヒーローだ。抵抗はやめてもらおう。」
戦いが専門ではない研究者達は軒並み降参して地面に伏せた。少しでも抵抗を見せようとした職員もいたのだが個性を使おうにもなぜか発動しないまま取り押さえられた。
「HEY!イレイザーヘッド!余裕だったな!」
「そうだな、マイク。あとうるさい。」
突入してきたヒーローのうちの一人はイレイザー・ヘッドと呼ばれる男。見た目は長い黒髪に無精髭というくたびれた姿をしているがその個性は抹消。まだまだ相手の個性を消すという個性だった。これにより個性でしか戦う術を持たない研究者達は最も簡単に捕まった。
もう一人会話をしている相手はプレゼント・マイク。サングラスをかけ逆立った金髪をしているヒーローだ。個性はヴォイス、鼓膜を破壊する程の大声を発し、高低音も自由自在に操れる。 遠距離相手でも超音波による攻撃が可能だ。
二人は高校からの知り合いでイレイザーヘッドという名はプレゼントマイクがつけた名前でもある。
「さて、問題はあれだな。」
「こいつらは一体何をしてたんだ?こんな少女を水中に閉じ込めて。」
「分からん。そこにいる奴に聞け。」
他のヒーローがポッドから少女を助けようとした時、突然少女の目が見開かれ次の瞬間にはポッドが破壊される。その衝撃で近くにいたヒーローは吹き飛ばされてしまう。幸い数人が飛んだだけで大部分は無事だった。
破壊されたポッドからは液体が飛び出しヒーロー達の足元を濡らして行く。少女は衣服を一切身につけていないいわゆる生まれたままの姿をしておりその見た目もあってか直視できていない者までいる。
少女は裸足でポッドから抜け出すと周りにいる人物達を見渡したあと睨みつける。いかにも警戒してきますという雰囲気を感じ取ったヒーロー達はすぐに敵ではないことを伝える。
「俺たちは敵じゃない。だから警戒を解いてくれないか?」
自力でポッドを破壊できるのだから警戒を怠ることはない。全員ヒーローとしての期間が長いためその辺はしっかりと理解していた。ヒーロー達が自分に手を出さないことを少しずつ理解したのか睨み付けている瞳は柔らかくなって行く。それを見てヒーロー達も構えを解いた。
パァン!
しかしどこからか銃声がなりヒーロー全員がすぐに警戒態勢へと入る。少女は音と同時に手を胸の前まで移動させた。その手の中には弾丸が握られており先ほどの銃声に反応して掴み取ったことがわかる。
「あいつだ!」
ヒーローの一人が扉の方を指差しているため全員がその方向へと向く。立っていたのはここに来るまでに無力化してきた警備兵であり手には拳銃が握られており荒い息遣いをしている様子を見るとついさっき起きたばかりなのだろう。ヒーローの誰かを狙ったのだろうがまだ朦朧としているせいか手元が狂ったのだ。
「YEAAAAAAAAAAAH!!!」
すぐさまプレゼントマイクによる音波攻撃が警備兵を襲い気絶させる。誰にも怪我がなかったことに安心するヒーロー達だったが突如一人のヒーローが吹き飛ばされ壁に激突した。
先ほど吹き飛ばされたヒーローが立っていた場所を見ると少女が立っていた。それだけでその少女の攻撃を受けたこと全員が理解する。
(最悪だ、さっきの攻撃が彼女の警戒を強めてしまった。銃弾を手で掴むほどの反応速度、一体どんな個性してやがる。)
少女の目が光ったと思えばその少女は空中に浮き始め、次々にヒーローを吹き飛ばす。少女が凄まじい速度でヒーロー達に接近して殴り飛ばしているのだ。
「ミッドナイトさん!」
「任せなさい!」
イレイザーヘッドの掛け声に応えたのはミッドナイトという女性のヒーロー。その姿は上から下までSM嬢のような見た目をしており18 禁ヒーローを呼称するほど過激な格好をしている。だがその個性は睡り香という自身の匂いを嗅がせるだけで相手を眠らせるという強力な物。
二人の掛け声により周りのヒーロー達は口と鼻を覆うマスクを装着する。周囲にミッドナイトの臭いが充満します。そこまで広い部屋ではないため匂いが充満するのに時間はかからずマスクをつけていない少女はその香りを直に吸い込む。
「くしゅっ!」
だが少女は眠るどころかくしゃみをしただけですぐにヒーロー達へと襲いかかってくる。
(ミッドナイトさんの個性が効かない?!なら!)
イレイザーヘッドは自身の個性である抹消を発動した。すると髪は逆立ち揺れ始める。少女を自身の視界の中央に捉えて見るが
「どういうことだイレイザー!」
「分からん!」
少女の体は止まることはなく今でも動きながらヒーローと戦っている。
(個性が消えない・・・常時発動型か!)
イレイザーヘッドの個性は相手の個性を消すという強力な物だが、異形型のような常時個性が発動しているようなものには効果がない。彼女が今個性が消えていないということは見た目は変わらないが異形型のような常時発動している個性なのだ。
今度は少女がイレイザーヘッドへと突っ込んでくる。自身の個性が効かないような相手の対策として首に布を巻いている。この布は炭素繊維に特殊合金の銅線を編み込んだ捕縛に使う物だ。
この布を少女へと向かって飛ばし捕縛しようとする。しかし少女はスピードを殺すことなく空中で回避したやすく避け続ける。ヴィランではない、ましてやまだ子供を殴ることは戸惑われたがその考えは合理的ではないと捨て迎撃の手を休めない。
イレイザーヘッドは近接戦闘にも長けているため少女の攻撃も簡単には当たらない。素早い動きで回避と攻撃を織りなすがイレイザーヘッドの攻撃が命中しても少女が怯む様子はない。
「イレイザー!」
その声と同時に少女の体を赤い液体が襲いかかりイレイザーヘッドから引き離す。赤い液体が飛んできた方向にいるのはブラドキング。白い髪に筋肉質な体を持ち下顎から伸びた牙と左頬に十字の傷を持つヒーローだった。個性は操血、手首から血を飛ばし対象を捕縛することが可能。つまり今少女を襲った赤い液体というのはプラドの血だった。
少女は凝固した血によって拘束されているがどうにかして逃れられないかと暴れている。少しずつブラドの血が破壊されていき直に逃れられてしまうのは明白だった。
「お嬢ちゃん、もうおねんねよ。」
そう言ってミッドナイトが少女へと近づき少女の体を抱きしめて個性を発動する。先ほどとは違い直に匂いを嗅いだこと。また、先ほど匂いを嗅いだ時も効かなかったのではなく耐えていたというのが正しいため少し暴れた後に少女は大人しくなった。
動かなくなったことでミッドナイトも眠ったことを確信し少女を話す。そこには先ほど鋭い目つきで睨み付けていた少女の姿はなく年相応に眠る少女がいるだけだった。
「ほらあんた達何見てんの!さっきまでは仕方なかったけど今は違うでしょ!イレイザー、布貸しなさい!」
(俺のヒーロースーツは服の代わりですか。)
すぐにこちらをみていた男性陣に背中を向けるように声をかける。その声にハッとなら全員がすぐに背中を向ける。必死になっていたことで忘れていたが少女は先ほどまで全裸で戦っていたのだ。そのことを思い出し顔を赤くしながらも背中を向けるヒーロー達。その全員は紳士だった。
布に包まれた少女がミッドナイトに横抱きにして抱えられる。ヒーロー達のミッションはここにようやく終了となった。その後すぐに警察が突入してきて現場の確保が始まった。ヒーロー達はすぐに撤収し少女は病院へと送られた。
医者が見た少女の体に異常はなかったが安全のために病院に数日が入院することになった。少女はポッドから出た日から眠り続けているため事情を聞くことは叶わなかった。
ミッドナイトが一番少女の様子を見にきており、イレイザーヘッドとプレゼントマイクを連れてこられるように病室へときていた。
ちなみにブラドキングもたまにきているのだが今回は都合が合わなかった。決して除け者にされたわけではない。
普段は人などほとんどいないはずの病室だったが今日は他にも二人ほど病室にいた。
一人は金髪で長身の男性、体は痩せており栄養失調なのではないかと心配になる程だ。もう一人?はネズミが服を着て二足で立っていた。一体何を言っているのか分からないが事実ネズミが立っているのだ。
「校長!どうしてここに?」
「YES!ネズミなのか犬なのか熊なのか。かくしてその実態は、校長さ!僕もこの子が気になってね。」
校長と呼ばれる人物は服を着たネズミだった。名前は根津、天下の雄英高校の校長を務めている。
「私も気になって校長についてきてしまった。」
もう一人の長身の男の名前は八木俊典、その正体は平和の象徴と呼ばれる世界で一番のヒーローオールマイトだ。
イレイザーヘッド、プレゼントマイク、ミッドナイトの3人は二人に当時の状況を説明し少女についての説明を行った。
「空を飛ぶ、ヒーローを倒せるほどのパワー、銃弾にも対応できる反応速度、そしてそれが常時発動型。なるほどそれは凄まじい個性だね。」
「あの研究室を調べた所、どうやらこの少女はとある計画による物だったようです。」
「計画?」
ミッドナイトが二人に変わって説明に入る。その顔は悲痛に満ちており瞳には涙が浮かんでいる。
「・・・SRP。超人復元計画の成功個体です。彼女はヴィラン達によって生まれた過去の人間の復元体です。」
「まさか!人を生み出すだなんて!倫理に反してる!」
ベッド眠る少女の顔には計画にある超人という言葉が相応しいようには見えない。むしろどこにでもいる普通の少女だった。
「・・・そうだったんだね。」
根津が重い口調で口を開く。その顔にはいつもの笑顔はなくどこか影がさしているように見える。
「ん・・・」
ふいに眠っていた少女が体を起こし辺りを見渡している。その場にいた5人を見てすぐ睨みつけ警戒に入る。
「待って欲しいのさ!僕たちは君に危害を加えるようなことはしないのさ!」
根津が少女の前に移動し自分たちは敵ではなく味方であることを説明する。だが少女は根津の話はあまり聞いていない。それどころか根津の頭に手を伸ばし撫でている。
「柔らかい。」
「自慢の毛並みだからね!当然なのさ!」
幾度か頭を撫でると根津の体に手を伸ばし自分の膝に座らせて抱きしめた。その顔はとろけており幸せそうだ。その表情を見て全員が微笑ましいものを見た表情をする。
「話をしていいかい?」
根津の問いに少女は頷く。
「お前の名前は?」
「分かりません。」
「一番古い記憶は?」
「水槽で遊泳してました。」
今のやりとりだけで彼女に記憶がないことがわかった。
「僕はこの子を雄英で保護しようと思ってる。」
「校長!よろしいんですか!?」
「彼女はいわばパレット。まだ何色にも染まってない真っ白な状態だ。この子の戦闘能力は凄まじい。なら解放してヴィランに掴まるよりはこちらで匿ったほうが安全さ。」
今の世はヴィランが溢れている。通り過ぎた人がヴィランであったなど気が付かないだけであり得る話だ。であればヒーローが集まる場で匿う方が安全であると判断した。
「校長、それは本当に最善ですか?」
「ああ、これ以上ないってほどにね。」
「なら俺から言うことはありません。」
「校長とイレイザーがそう言うなら俺も文句はないぜ。」
イレイザーヘッド、本名相澤消太が根津に問いかけるがその答えに満足して賛同。プレゼントマイク、本名山田ひざしも賛同。
「私も言うことはありません。」
「私もです。」
さらに続いてオールマイトとミッドナイト、本名香山眠も一緒に賛同する。
「あとは本人の確認だけさ。君はどう思う?」
「私には行く場所が多分ない。お世話になります。」
根津から手を離した少女は頭を下げた。自分が誰なのか、ここが何処なのか、彼女には何一つ自分を識別するものは持っていなかった。
「こちらこそ。君にはいい人生を送って欲しいのさ。」
「でもどうして私にここまでしてくれるんですか?」
この場にいた5人は顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
「それは、私たちがヒーローだからさ。」
少女の見たヒーロー。その姿は強くそして優しかった。この光景を彼女はいつまでも忘れることはないだろう。
続くかは不明。余裕があったら書くかも。