私が初めて目が覚めた場所は水の中。どこからか流れてくる不快な意識が自分自身を書き換えてしまうんじゃないかって不安を覚えた。抵抗すればそれはより強く侵入してきて私を喰らっていく。
やがて部屋が赤い光によって点滅したかと思ったら白衣を着た老人は部屋から去り、代わりに色とりどりの服装をした人たち、ヒーローが中へと入ってきた。そこで私の頭に流れてくる意識は途絶えた。流れてきたときは痛くて、苦しくて、それでいてとても怖かった。でもおかげで私の意識は覚醒した、皮肉なことにね。
私はすぐにこの場から逃げ出したくてすぐにポッドから脱出した。これ以上私というものを消されないように。体から溢れる力で無理やりポッドを破壊して研究室へと降り立った。ヒーローたちは敵ではないと必死な面持ちで説得をしてくる。その表情から嘘ではないような気がして私は警戒を解き始めた。
でもその後ろから武装した人がこちらに向かって銃を発砲してきた。弾丸は真っ直ぐこちらへと飛んできたから自分に当たる前に掴み取った。すぐに男は大きな声によって気絶させられる。ヒーローはおそらくこれですぐに脱出する予定だったと思う。けど私はそのとき混乱していて誰が本当の味方なのか分かっていなかった。
だから必死になってヒーロー達を気絶させようと暴れた、この場から逃げ出すために。捕まればまた同じことをされてしまうと思った。暴れている最中に頭の中には終始声が聞こえてきた。殺せ、ヒーローは皆殺しだ、邪魔をする奴は全て消すという声が。戦う事を意識すればするほどその声は深く頭に響き渡り、気を抜けば一気にその声に流されてしまいそうになる。必死に抵抗は続けた事で私の手によって死んだ人は幸いいなかった。その声は私が意識を失う直前まで、同じような言葉がループしていた。
結果的にヒーロー達の連携によって私は眠らされ目が覚めたら病院のベッドの上。いつの間にか頭の中で響いていた声は聞こえなくなっていた。病室には研究室にいた人やいなかった人がいて私への質問の答えに耳を傾ける。
ネズミのような見た目をした人が私を保護してくれると言ってくれた。私自身はヴィランと呼ばれる悪人達の仲間ではないことはわかっているがそれを証明するものが何もない。それでも信じて幸せになってほしいと言ってくれた。打算もあったのかもしれないけど何もない私を助けてくれた人たちに私は聞いた。
『どうして私にここまでしてくれるんですか?』
それを聞いたヒーロー達は一度顔を見合わせた後
『私たちが、ヒーローだから。』
そう答えてくれた。
その姿がカッコ良くて、美しくて、憧れた。雄英という場所についてからは自分の住む家をくれた。知識も教えてくれた。力の使い方も教えてくれた。だから気がついてしまった。私の力は強すぎると。建前上試験なしで入学させるのはいけないと入試の時と同じロボット演習を行った。入試の時とは参加者の人数が違うため全く同じではなかったけど。
それでも圧倒的な強さを見せた私は恐怖の目が混じっていることを感じてしまった。壊すことしかできない私に何故ヒーローが出来るのか。この手では人を救うことはできない。軽くものを握っただけで握り潰してしまう手では救助者の手を取ることも、不安になる人を抱きしめてあげることもできない。だから自分はヒーローにはならないとそう思ってしまった。
自分のことだからと研究所で自分の身に何が起きていたのかを聞いた。[超人復元計画]文字通り過去にいた超人のDNAを使って現代に復元させる計画。私はその成功例だった。資料には名前の部分が読めなくなっていたがケントとボールペンで走り書き記されていた。だから私は自分の名前にケントをつけることにした。
ケントという文字の近くには写真がついており黒い髪の男性が写っていた。私の髪は金髪、それどころか性別も違って女。本当に同じDNAから生まれたかと思うほどだった。私はコピー、復元元の男性と同じ人で違う人。しかも見た目に関しては全く、だから私は一体誰なのかと疑問を抱くようになった。
入学するまで訓練を続けてきたけど続ければ続けるほどこの力が嫌になる。ヒーロー科に入るのであればヒーローを目指すのが道理だ。そうでなければ入学できなかった人に失礼だから。学校側としては免許を取ることで身を守ることが出来るようにとのこと。救助を中心にすると言う考えもあるが結局は現場に出るなら戦う必要がある場面がかならず出てくる。そんなところに戦いたくないなんて言う私がいても何も役に立たない。
こんな自分が誰なのかも分からないような臆病者が本当にここにいてもいいのだろうか。その答えはいまだに出ないまま。
USJの入り口にいたはずなのだがモヤを通ったらどこか別の場所へと飛ばされていた。ヴィランたちが軽い足取り何度も雄英が来ているのはこの個性だなと確信を得る。ローレルが飛ばされた場所は遭難ゾーン。猛吹雪の氷山をイメージしており基本的にいつも吹雪が吹き荒れている。USJのドーム内の中ではなくそのすぐ隣にある施設で中から渡り通路が通っている。
(寒くはないけど動きづらい。私だけ名指してここに飛ばされた上に歓迎するなんて言われたし気を付けよう。)
黒霧というモヤはヴィラン連合はあなたを歓迎すると言っていた。勿論玄関で出迎えて盛大にパーティをしてくれるなんて事はないだろう。となるとむこうはローレルという個人に対して何か思惑があると言う事だ。
吹雪で周りが見えないため赤外線を見ることができる瞳を使って熱源反応を探す。生きていればかならず体温があるため周りが冷え切っている中では簡単に見つけることができた。その反応がある場所へと雪を踏みしめながら進んでいく。
近づけば近づくほど体は大きくなることからとてもガタイのいい人物がそこにいることが分かった。赤外線から普通の視界へと戻すとそこには全身真っ黒の筋肉質な体を持った大柄な人影、能無がそこにいた。
(あいつらはこれを私にぶつけたかったんだ。データを取るとか言ってたし私を連れて行くとも言ってたから多分間違いない。)
ローレルをじっと見つめる視線は感情がこもっておらずまるで人形のような印象を抱かせる。ここに近寄ってくるまでほとんど動いていなかった能無だが、突然その大きな腕を振り上げてローレル目掛けて振り下ろす。警戒は怠っていなかったがそのあまりの早さに避ける事は間に合わず咄嗟に腕をクロスしてガードする。吹き飛ばされた体は雪の上を滑りローレルの体が通った道を作った。
(結構痛い。大振りはまともに食らったらちょっとヤバいかも。)
仰向けに倒れている体を立ち上がろうと起こすと目の前にはすでに能無が来ておりその太い腕が目の前まで降りてきていた。すぐにその場から転がり拳を避ける。拳は大きな音を鳴らしながら地面を貫き雪が大きく飛び散った。おそらく逃げても追ってくると踏んだローレルは目の前の能無と戦うことを決めた。
『殺せ!あいつは敵だ、殺そうとしてくる相手に甘くなる必要はない!殺せ!』
「うう・・・ダメ・・・」
ローレルがヒーラーを目指さないでいる理由の一つ、戦おうとするたびに頭に響いてくる謎の声。その声はかならず人を殺せと自分に語りかけてくる。何故こんな声がするのかは自分でも分からないが痛む頭を無視してローレル能無へと飛び込んだ。全速力で飛ぶと下手すると殺してしまう可能性があるため速度は抑えた。それでもかなり早いが。
しかし能無は飛び込んできたローレルの腕を掴み、その勢いを使って思い切り地面に叩きつけた。二度三度と連続で地面に叩きつけられるローレル、視界はぐるぐると周り自分が今何をされているのかわからなかった。救いがあるとすればそれが雪の上であり頼りないがクッションの代わりになってくれたこと。
最後にローレルの体は山の一角へと思い切り投げられる。思考が定まっていない中で空中で制御できず体を強打する。そこでようやく意識を取り戻し吹き飛ぶ体を空中で静止させる。能無がジャンプしながらローレルへと迫ってきているのが見える。
空中で自在に動けるローレルとジャンプして追ってきた能無では勿論相手になる事はなかった。先程のやり取りだけで目の前の相手は油断できる相手ではない事を察したため隙だらけの体を思い切り殴りつける。能無にはそれに抗う手段はなく殴られた体は勢いよく飛ばされていく。
「まだ!」
ローレルは飛んでいく能無を追いかける。いまだに飛ばされている能無の体へと追いつき追い討ちをかけるように殴り再び飛ばす。さらに加速し能無の体を掴むと今度は急降下しその体を思い切り地面に叩きつける。それでも能無はいまだに動き続ける。
『殺せ!止めをさせ!息の根を止めろ!」
再び頭に流れてくる声、ローレルの目は赤く光だし今にもヒートビジョンを放ちそうになる。
(ダメ!いくらヴィランでもヒーローが人を殺していい理由なんて無いって相澤先生が言ってた!)
だが自分の意識とは別に体は頭に響く声の通りに動いてしまう。どうにかヒートビジョンを放たないように抗う。その隙を能無が見逃す事はなくローレルの体を両手で掴み締め上げる。
(死んでもいいのか?殺せ!殺せ!殺せ!!)
「ああああああ!!!!」
ついにはヒートビジョンがローレルの目から放たれる。だがその熱線は能無の腕を切断するだけに止まりローレルの体は解放された。
「はぁ・・・はぁ・・・あぶな・・・かった。」
あと少しで人を殺してしまうところだった。やはりこの力は容易に人を殺してしまう可能性がある。自分はやはりヒーローにはなれない。能無の腕を切断した事だって本当はかなり危ない事なのだ。切断面が焼けているため出血多量で死ぬ事はないが批判は必ずされ資格を取っても剥奪されてしまう可能性がある。
ローレルが考えに浸っていると能無のいる方向からミチミチという気持ちの悪い音が聞こえてきた。今度はなんだと思いそちらを向くと体の肉が徐々に膨れ上がってきていた。立ち上がった能無の腕は再生を始めていた。正直にいえば能無が再生してくれたことで少しばかり安心した。
「・・・本当に最高だよ。」
両者が同時に近寄り両者の右拳がぶつかる。この遭難ゾーンは氷山をイメージしていることから周りは猛吹雪が吹いている。拳同士がぶつかった衝撃により一時的に吹雪そのものを吹き飛ばした。今度は体の中心を軸に時計回りに回転させ左のフックを両者同時に放つ。能無の脇腹とローレルの右肩にそれぞれ当たり二人の体を勢いよく吹き飛ばす。
空を飛べるローレルは空中で静止し能無の飛んでいった方角へと向かう。地面に倒れている能無を掴み地面に体を強く押し付けながら高速で飛ぶ。ヒーローらしい戦い方ではないが相手を倒すためだから許してと誰に言ってるわけでもない言い訳を頭の中に浮かべる。近くにある山へと近づき掴んでいた能無を持ち上げて投げつける。
「能無の型とれちゃった。」
山にめり込んだ能無の体がずるりと地に倒れる。そこには綺麗に跡を残した能無の型が残っていた。もしかすると後にこの事件が雄英の歴史に残ってこの型がその時の後だって説明される日が来るかもしれない。だが立ち上がった能無は山を一発殴ると再びこちらへと走りながら向かってくる。その時能無の型は綺麗に砕け散ってしまった。
「いい加減倒れろっての。」
高速で近過ぎつつも能無のギリギリ手が届かない範囲で止まる。動きに合わせてカウンターを決めようとした能無の手は空振りし大きな隙を作った。ローレルは片足を軸に体を回転させ蹴りを放つ。綺麗に顔に当たるも能無に怯む様子はなかった。蹴られた瞬間に顔をずらして勢いを軽減したため吹き飛ばされず立ったままでいる能無
再び手が伸びてローレルのブロンドヘアーを掴む。そのまま持ち上げられ全体重が髪へとかかり顔を歪める。どうにかは能無の手を離そうとももがくが髪を掴まれている手とは反対の手がローレルの腹へと突き刺さる。
「かはっ!」
数発殴られた後地面に放り出される。起き上がろうとするがうまく力が入らないでいる中、近くにある岩を持ち上げた能無はローレルへと近寄るとその岩を思い切り叩きつけた。叩きつけた岩は割れ綺麗に二つに分かれた。
「けほっ!けほっ!」
岩に叩きつけられたローレルは口元を押さえて咳き込んだことで手に暖かいものが付着したことに気がついた。なんとなく察しがついたがその手を見てみると察していた通り赤い液体が付着していた。状況と色と匂いによって自分が血を吐いたのを自覚する。頭を小さく左右に振った後立ち上がり、口元を拭って血を拭き取ったローレルはファイティングポーズをとる。
(まだ死ねない、助けてくれたヒーローのみんなにまだ何も返してない。だからこんなところで負けられない。)
頭の中に響く殺せという声は消えず、強い痛みも治らない。それでもなんとか戦えているためこのまま戦闘を続行することを選んだ。能無もそれを見て答えるかのようにファイティングポーズをとる。能無がゆっくりと構えたまま近づいてくる。距離はとても近く手を伸ばせば相手の体へと拳が届く距離。
最初に動いたのは能無だった。その太い腕から繰り出される高速のパンチをしゃがむことで回避し逆に腹を目掛けて拳を打つ。しかしその拳は能無が打った手とは反対の手で防がれる。そのまま掴まれる前に急いで腕を引く。
今度は足元を狙っているのか払いにきたためその場を飛び逆に能無の頭を蹴り付けて地面に倒す。無防備な背中に大振りで力を込めて拳を振り下ろす。遭難ゾーン全体に響くような大きな揺れが起こったためその威力は言わずと知れるだろう。
それでも能無は立ち上がる。顔には相変わらず表情に変化はなく本当き痛覚があるのかさえ怪しくなってくる。
(もしかして打撃とかを無効にでもする個性を持ってる。だとすると普通に殴る蹴るじゃ倒せないか。)
普通であればすでに致命傷どころか人生数回はやり直している程の攻撃を受け続けている能無。それでもけろっとしているのはダメージが入っていないせいか。怪我は再生能力によって治っているため本当に殺すしか手段がないように思える。それでも相手を殺すという選択肢を取らない。ヒーローになれると言ってくれた先生たちに、何より根津に申し訳ないから。
「上等だよ。私とあんた、どっちが先に力尽きるかやってやろうじゃん。とことん付き合ってあげるよ。」
雪山での戦いはまだ終わらない。
誤字、脱字が大変多いです。申し訳ありません。