「物間!あんま煽んなよ!同じ土俵だぞ、それ!」
「ああそうだね、ヒーローらしくないし。それによく聞くもんね、恨みを買ってしまったヒーローがヴィランに仕返しされるって話。」
物間と呼ばれた生徒は自分をヒーローだと仮定し爆豪をヴィランと見立ててさらに煽る。つまりは自分がハチマキを奪ったから仕返しされると言いたいのだろう。爆豪は唸った後に爆発を一度起こした。その様子を見た霧島が落ち着かせるように声をかけ続ける。
「進め切島・・・俺は今、すこぶる冷静だ!!」
「頼むぞまじで!」
そうして爆豪チームは物間へと突撃していく。爆豪の癖である右の大振りが物真へと向かっていくが騎馬戦では正面の切島がローラー付きとは言え三人を引っ張っているため速度が出ない。そのため爆豪の攻撃は簡単に逸らされてしまった。すぐに振り返り再び攻撃しようとすると目の前には物真の手があり自分が毎日のように見ている爆発が目の前で起こった。
「へぇ〜すごい、いい個性だね。」
そう言って正面にいる切島の尖った髪を叩いた。
「爆豪!おめぇもただかぶりか?!」
切島には隣のクラスに性質がほとんど同じような個性がいた。全国からあつまる受験で様々な個性が使われる中、同じような個性が揃うことはとても珍しい。そして自分だけではなく目の前の物真は爆豪と同じ爆発を使ったことでまた同じ個性なのかと驚きの声を上げる。
「くそが!!!」
右手を突き出すのではなく横から顔面へと向けて爆発を起こす。今度は相手にバッチリ命中したことが感覚で分かった。
「ほんっといい個性だよ。僕の方がいいけどさ。」
煙が晴れたそこには左腕と右手を硬化させて爆豪の爆破を防いだ物真の姿。硬化している時の見た目から切島全く同じ個性だということがわかる。それを見てさらに焦る切島。自分と同じ個性が三人もいるのかと口に出すが
「ちげぇ。こいつ、コピーしやがった。」
「正解。ま、馬鹿でもわかるよね。」
爆豪によってそれは遮られた。物間 寧人、個性はコピー。触れた相手の個性を触れてから5分間は使い放題になる。しかし一度に複数の個性を使うことはできない。
物間の煽りに苛立ちを隠せない爆豪。すると2組の間を分断するように何かが噴出される。その隙に物真達は爆豪から離れていく。噴出が終わり追いかけようとするが切島の足が先ほど噴出された液体により地面に固定されしまっていた。急いで芦戸が足から酸を出して溶かし始める。
「あ、怒らないでね。煽ったのは君だろ?先生でなんて言ったっけ?えーっと恥ずかしいやつ・・・まぁいいや、お疲れ。」
最後まで煽りを忘れずにさっていく物間。その姿を爆豪は睨み続けていた。
『残り時間一分!轟、フィールドを凍らせてあっという間に1000万を奪取!かと思ってたよ五分前までは!緑谷、この狭い空間を5分間逃げ切っている。』
緑谷は轟の常に左がに立つようにして立ち回っていた。轟が氷を使うのは必ず左手や左足から。それならば右手右足からは使えないのではと考えてローレルの移動速度を活かして動き回っていた。轟の顔に大した変化は見られないが本人はとても苛ついていた。
「みんな、残り一分弱。この後俺は使えなくなる。頼んだぞ!しっかり捕まっていろ。取れよ、轟くん!トルクオーバー・レシプロバースト!」
その声と同時に普段の飯田からは信じられないような速度が出されるゼロから突然のトップギアが入った事により緑谷達には反応ができなかった。緑谷達には。
「しっかり捕まって!」
その速度に追いつかれないように緑谷達も加速した。飯田もなんとかローレルへと追いつこうと追いかけるが距離はなかなか縮まらない。ローレルは先ほど爆豪に爆破されても無傷の飛地面がくっついた靴を飯田へと飛ばす。足元へと飛ばされた事でそれに躓いてしまい倒れないように失速する飯田。
「くそ!ダメだったか!!」
動きが止まった事で飯田の口からは悔しげな言葉が漏れる。轟達と緑谷達は何が起こったのか理解をする前に動きが止まっていたため何もすることができなかった。
「なんだ、今のは。」
「トルクと回転数を無理やり上げ、爆発力を生んだのだ。反動でしばらくするとエンストするがな。クラスメイトにはまだ教えていない裏技のはずだった!」
誰にも教えていない初見の技をローレルに破られてしまった。緑谷達の機動力として働いておるのはローレルのため何かしたのが彼女でなければあの動きはありえない。刹那の時間を動いた二人だけの時間を誰も反応することができなかった。
『残り一分を切って現在いまだに緑谷がトップ!このまま一位をキープできるか?!』
「2位か、ちょっと出来過ぎかも。まぁキープに専念だ。」
爆豪からハチマキを奪った物間はスクリーンに表示されたポイントを見て満足していた。轟チームを除けば2位から5位はB組が独占していたのだ。当初の目的であったA組の勝利に近づいたのだ。そこへ背後から先ほどまでよく聞いていた切島の声が聞こえてくる。ため息を吐き煽りを入れようと振り向いた目の前には騎馬から飛び出した爆豪がいた。
「円場!」
「ガード!」
円場と呼ばれた生徒が口から息を吐くと爆豪の体が透明な球体によって囲われた。円場 硬成、個性は空気凝固。空気を固めて壁や足場にすることができる。
閉じ込められた爆豪は空気による壁を殴りつけている。自分の個性の耐久性に自信があるのか円場がザマァみろと言って爆豪から離れようとする。しかしこんなもので諦める爆豪ではなかった。全力で振りかぶった拳は空気の壁を容易に破壊し物間の首にかけているハチマキを鷲掴みにしてすぐにその場から離脱した。
瀬呂のテープにより騎馬へと戻った爆豪の手には二つのハチマキが握られており合計の点数は695ポイント。さきほど爆豪がとられたハチマキは665ポイントであるため爆豪チームが物真チームを抜いて三位へと上り詰めた。
残ったハチマキがあれば4位。このまま最後の一本を死守すれば勝ち残れると考えた物間はすぐに爆豪から離れていく。だが爆豪のチームそれでも物真を追いかけるのをやめない。
「さっきの俺単騎じゃ踏ん張りがきかねぇ!いけ!俺らのポイントも取り返して、1000万へ行け!」
爆豪の必ずトップになるというその強い気持ちに感化され切島、瀬呂、芦戸の心に火が灯る。瀬呂へと指示を出し物間がいる場所よりもさらに奥へとテープを伸ばす。
今度は芦戸に自分たちの正面に向かって弱めの溶解液を噴出させる。そして爆豪が後ろに向かって爆発を起こし一気に加速する。切島が踏んばり瀬呂が起動の修正を行い芦戸の溶解液で切島の足元を滑らせて一気に物真との間合いを詰める。
背後から迫ってくる爆豪チームに流石にやばいと感じたのか円場が空気凝固を使って壁を出そうとするが爆豪の爆破によりあっけなく破壊されてしまいそのまま物真のハチマキを奪った。
B組の作戦も悪いものではなかった。だが一つだけ懸念すべき点があるとすればトップを狙う爆豪とそうでない物間。二人の間にある気持ちの強さが大きな仇となってしまったと教師達は考えていた。
爆豪が物間からハチマキを奪ったことで三位へと上り詰めた。
「次!デクと轟んとこだ!」
すでに時間がなくなってており、レシプロバーストを使ったことによるエンストももう少しで起こってしまうため轟チームは出し惜しみすることなく緑谷達へと距離を詰める。
(このままじゃ轟くんの個性にやられる!みんなが想いを託してくれたんだ!なら僕がここで全力を出さないでいつ出せっていうんだ!)
騎手である緑谷は右腕にワン・フォー・オールを発動させ轟達へと近づく。その際緑谷の気迫に押されたのか無意識に左腕からは炎が出ていたがこの時は全員集中していて誰も気がつかなかった。ワン・フォー・オールで強化された腕を普通の腕で防げるはずもなく轟の左腕を弾く。この時右腕を弾かれたことで轟は初めて自分が自分の右側を使おうとしていたことに気がついた。
(痛むけど、壊れてない!)
そしてここでタイムアップの兆しを見せる。放送室にいるプレゼントマイクによるカウントダウンが始まった。それにより時間がもうないことを嫌でも痛感させられる。
「上鳴!」
「常闇くん!」
上鳴の放電をダークシャドウが防いだ時氷を突き破って爆豪チームが現れた。悠長に騎馬に乗っている時間がないと判断した爆豪は単身で空中から緑谷に奇襲をかける。八百万に作ってもらった武器を手に持って轟も緑谷へと攻撃をしてくる。両腕にワン・フォー・オールを発動させ迎撃しようと構える緑谷。麗日は個性を使い全員の体を軽くしローレルがいつでも動けるように足に力を込める。
三人の距離が近づき今にも衝突しようとするその瞬間
『TIME UP!!第二種目、騎馬戦終了!』
三人が接触する前にプレゼントマイクによる終了の合図がスタジアムに響いた。騎馬戦が終わったことで全員が騎馬を崩し持っていたハチマキを係員に渡す。集計はすぐに終了しさっそく結果発表へと移る。
『それじゃ早速上位三チーム見てみようか!一位!緑谷チーム!』
「うわああああああ!!!!!」
緑谷は感極まって大量の涙を流し膝を折った。常闇は腕を組んで微笑んでおり麗日とローレルはダークシャドウに抱きついていた。
『2位!爆豪チーム!』
「だああああああ!!!!」
芦戸が後少しだったと悔しがりそれを、瀬呂が結果オーライとフォローする。だが切島は爆豪の荒れる姿を見てげんなりとしていた。
『3位!轟チーム!』
「くそっ!」
最後まで1000万を取ることはできなかったがそれでも勝ったことで安心する八百万。飯田は最後のレシプロバーストの後動きが遅くなってしまったことに反省を感じており轟は悔しがった。ちなみに上鳴は脳がショートしてアホになっている。
『4位!鉄て・・・あれ?おい?!心操チーム?!いつの間に逆転してたんだよ!』
「お疲れさん。」
その声に同じチームにいた尾白が辺りを見渡す。まるで自分が今まで何をしていたのか覚えていなかったかのように。
『それじゃあ1時間ほど昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!』
プレゼントマイクの放送が終わりこれにて午前の部が終了した。スタジアムにいた観客も一度外へと出て昼食を取りにいくようだ。
『おいイレイザーヘッド、飯行こうぜ。』
『・・・寝る。』
『ヒュ〜。』
マイクのスイッチを切りわすれたのか最後にそんな二人のやりとりが聞こえた。
スタジアムの外へと出たA組の生徒はその結果に悔しがったり第二種目を突破した人に称賛を送ったりなどで余韻に浸っていた。
「飯田くん!あんなの持ってたなんてずるいよ。」
「ずるいとはなんだ。あれはただの誤った使用方だ。ケントくんには全く歯が立たなかったが。どうにも緑谷くんとは張り合いたくてな。」
「男のあれだなー!っていうかその緑谷くん・・・デクくんは何処だ?」
「ケントくんもいないぞ。もしかして先に食堂に行ったのか?」
スタジアムの外周にある関係者用の通路。そこに緑谷が轟に呼び出されていた。
「あの、話って何?」
いつまでも話始めない轟に対して緑谷が声をかけるがそれに対する返事はない。食堂が混み始めるともっともらしいことを言うが帰ってくるのは冷たい視線ばかり。
「気圧された。テメェの誓約を破っちまうほどによぉ。」
その言葉で轟が何を言っているのかを理解した緑谷。目に写るのは使っていればことが有利に働いたかもしれない轟の左腕。
「あの場にいた全員が感じていなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された。本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ。」
話が遠回りで轟が何を伝えたいのかいまいちわからない緑谷。
「お前に同様の何かを感じたって事だ。緑谷、お前・・・オールマイトの隠し子か何かか?」
轟が出した結論に緑谷は目を丸くした。てっきり自分がオールマイトの個性を譲渡されたことに関する話だと思ったからだ。体育祭の開会式が始まる前に言われたオールマイトに目をかけられているという言葉を思い出しその時はそういう考えでの発言だったのかと納得する。
「ち、ちがうよそれは。といってももし本当に隠し子だったらちがうっていうに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて!そもそも逆に聞くけどなんで僕なんかにそんな。」
あたふたしながら早口で弁解の言葉を並べる緑谷。だが轟に遮られ言葉の最後のそんなんじゃなくてという部分を突っ込まれ隠し子でなくとも何かしらの関係があることを確信されてしまう。それが真実であるが故に緑谷は否定せず目を逸らすことしかできなかった。
「俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ?万年No.2のヒーローだ。お前がNo. 1ヒーローの何かを持ってるなら、俺は尚更勝たなきゃいけねぇ。親父は極めて上昇志向の強いやつだ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが、それだけに生ける伝説オールマイトが目障りでしかたなかったらしい。自分ではオールマイトを超えられない親父は次の策に出た。」
「なんの話だよ轟くん。僕に・・・何を言いたいんだ?」
突然の身の上話に相変わらず遠回りな話し方。緑谷には驚きの言いたいことが本当にわからなかった。
「個性婚、知ってるよな?」
個性婚とは超常が起きてから第二第三世代間で問題になったもので自身の個性をより強化して子供に継がせるためだけに配偶者を選び、結婚を強いること。倫理観の欠落した前時代的発想と言われるようになり激しくバッシングされるようになった。
「実績と金だけはある男だ。親父は日はの親族を丸め込み母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。」
今の時代に個性婚など全くといっていいほど聞くことはない。ましてや自分ではオールマイトを超えられないからと息子に託したのだ。
「鬱陶しい、そんなクズの道具にはならねぇ。記憶の中の母はいつも泣いてる。お前の左側が醜いと、幅は俺に煮湯を浴びせた。ざっと話したが俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父の個性なんざなくたって・・・いや、使わず一番になる事で奴を完全否定する。」
轟の目には光を宿していなかった。自身の親への憎しみを持ち右側である氷のみを使って父親を完全否定する。お前などいなくともナンバーワンにはなれるのだと。一般家庭に生まれた緑谷には重く、完全に理解することができなかった。
「オールマイトとの繋がり、いえねぇなら別にいい。お前がオールマイトの何であろうと、俺は右だけでお前の上をいく。時間を取らせたな。」
環境が何もかもが違う中で轟に何を言えるだろうか。頭の中で必死に言葉を探しながらも轟を追いかけた。
「僕は!僕はずっと助けられてきた。さっきだってそうだ。僕は、誰かに助けられてここにいる。」
オールマイトとの出会い、映像で見た直談判をしている麗日、ジャンプスーツを買ってくれた母、生徒を守るためにヴィランに向かっていった相澤、水難ゾーンで協力した蛙吹と峰田、死柄木の手につかまれそうになっていたところを助けてくれた爆豪、1000万を持ちながらも協力してくれたローレル、そしてヒーローになれるという言葉。回数など数えきれない。それ程までに助けられてきた。
「笑って人を助ける最高のヒーロー。オールマイト、彼のようになりたい。そのためには一番になるために強くなきゃいけない。君に比べたら些細な動機かもしれない。でも、僕だって負けられない、僕を助けてくれた人たちに応えるためにも。さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも。僕も君に勝つ。」
振り返った轟と目があう。確かに短い時間だったが二人が感じたこの時間はとても長い様に感じていた。轟は何も言わずに校舎へと戻っていく。その様子を見ていた爆豪も姿をあらわすことなくその場を去って行った。