春、出会いと別れの季節。今日この日は雄英高校の入学式だった。毎年入試の倍率は300倍と言われるほどの狭い門を潜り抜けた、選ばれた40人が雄英でヒーローとしての道を歩むことを許される。
そんな門の前で緑掛かったモサモサの髪、顔にはそばかすと地味な少年、緑谷出久は雄英高校を見上げていた。
(今日から僕は、ここに!行こう!)
そう言って校舎へと駆けていく。だが雄英の校舎はとても広く教室にたどり着くのも一苦労だった。
「1A・・・1A・・・広すぎる。あ、あった。」
1-Aという文字を見つけて自分の教室を見つける。だがそこには今まであまり見ないような扉だった。なぜなら
「扉でか!バリアフリーか?」
自分の何倍の大きさもある扉が教室のドアだったのだ。様々な個性が発現する中で身長が高くなるということは珍しいことではない。そのためどんな生徒や教師が来ても通れるように大きな扉を設置することになったのだ。
「あの受験者数から選ばれたエリート達・・・」
そこまで言って凶暴な幼なじみや、入試の時に注意された眼鏡の少年の顔を思い出した。だがすぐに忘れるように頭を振る。
「怖い人達・・・クラス違うとありがたい。」
そう言って扉をゆっくりと開くが、運命というのはかなり悪戯が好きなようだ。
「机に足をかけるな!」
「あぁん?」
「雄英の先輩方へ、机の制作者がたに申し訳ないと思わないか?」
「思わねぇよ!テメェどこ中だよ!」
(・・・ツートップ。)
顔から元気がなくなるのが自分でも分かった。願ったそばから裏切られたのだ、無理もない。
「ぼ・・・俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。」
「聡明?クソエリートじゃねぇか!ぶっ殺しがいありそうだな!」
「な!ぶっ殺しがい!ひどいな君本当にヒーロー志望か?」
「けっ!」
手をカクカクと動かしながら話すのは飯田天哉。そしてヒーローとは思えない話し方をしているのが爆豪勝己、こちらは緑谷の幼馴染みだ。
「君は。」
その声にクラスにいた全員が緑谷の方を向く。突然のことに焦った緑谷は口籠ったがそこに飯田がおはようと声をかけてくる。
「俺は私立聡明中学の・・・」
「聞いてたよ!っと僕は緑谷、よろしく飯田くん。」
手を大きく降り自己紹介をしながら近づいてくる飯田に思わず先ほどの自己紹介を聞いていた緑屋は遮ってしまった。おそらく彼はクラス全員に自己紹介をして回っていたのだろう。
「緑谷くん君はあの実技試験の構造に気付いていたんだな。」
「え?」
「俺は気付けなかった、君を見誤っていたよ。悔しいが君の方が上手だったようだ。」
また手をかくかくと動かしながら話す飯田。どうやらでの動作はつい動かしてしまう類なのかもしれない。
(ごめん気付いてなかったよ。)
自身に高い評価をしている飯田に緑谷は心の中で謝罪した。そして自分も実は気付いていなかったなど言えるはずもなかった。
「あ!そのモサモサ頭は!地味目の!」
(いい人だ!制服姿ヤッベェー!)
後ろから声をかけてきたのは麗日お茶子。赤い頬に茶色のショートボブをしており、入試の時に緑谷が正門で転びそうになっていたところを彼女の個性無重力によって助けてもらった。また実技試験の終わり側に空中から落下する緑谷を助けてもくれたのだ。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け。」
突如廊下から声が聞こえる。緑谷と飯田の視線の先には寝袋が置いてあり黒い髪をした男性が横になっている。その視線に釣られて麗日も振り返る。
「ここはヒーロー科だぞ。」
そう言って寝袋の中からウィダーを取り出し一気に飲み干す。
(((な、なんかいるー!)))
3人の心が一つになった初めての瞬間だった。
「はい静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。」
そう言って寝袋から出てきた男はヒーロースーツを着ており黒い長髪に首には布を巻いている。
(先生?ってことはプロヒーロー?でも見たことないぞこんなくたびれた人。)
緑谷は心の中でだいぶ失礼なことを考えていた。
「担任の相澤消太だ、よろしくね。」
「「「ええ!担任!」」」
そしてこれがクラスが初めて一つになった瞬間だった。
「早速だがこれグラウンドに出ろ。」
そう言って寝袋の中から青い体育着を取り出した。それを聞いた全員はえ?と言った風だったが担任の言うことだからと従うことにした。
(あれ?空いてる席が四つ?)
今教室で立っているのは緑谷、飯田、麗日の3人のみのため空席は三つなはずなのだが何故か4つ目の席が空いていた。
(もしかして遅刻?入学初日に?)
先ほどの先生の様子からこう言った遅刻などには厳しそうなことがわかるため遅れてきた人は大変そうだなと思った緑谷だった。
「「「個性把握テスト!?」」」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
訳もわからず渡された体育着に着替えてグラウンドへ出たがそこで何でもないかのように聞かされたのは今から個性把握テストを行うという事。
基本は青色で首から胸にかけてU、お腹から足にかけてAを彷彿とさせる白いラインが入っている。ちなみに評判はあまり良くない。
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。」
背を向けて話していた相澤は生徒達へと振り返り手に持っていた端末の画面を生徒達へと見せる。
「お前達も中学の頃からやっているだろう?個性使用禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録をとって平均を作り続けている、合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だな。実技入試成績のトップは爆豪だったな。中学の時ソフトボール投げ、何mだった?」
「67m。」
「んじゃ個性使ってやってみろ。」
その声に従ってボールを受け取りソフトボール投げを行うための円の中へと入る。
「円から出なきゃ何してもいい。はよ、思い切りな。」
「んじゃまぁ。」
そう言って爆豪はストレッチを始める。個性を使っての体力テストは初めてなのだが
(球威に爆風を乗せる。)
天才肌である爆豪の頭の中には自分の個性をどのように使ってボールを飛ばすことができるをしっかりと理解していた。
「死ねぇ!!」
(・・・死ね?)
恐ろしい掛け声に伴いその手からは大きな爆発が起こった。自身が考えていたようにボールを投げる瞬間に爆発を起こし遥か遠くまでボールを飛ばす。
「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段。」
そう言って相澤が生徒達に端末を見せる。その端末には705.2と写っており爆豪が個性を使用してボールを700mを超えて飛ばしたことがわかる。
「「「おおおーー!!!」」」
「705mってマジかよ。」
「なにこれ!面白そう!」
「個性思いっきり使えんだ!流石ヒーロー科!」
「面白そう、か。」
誰かの声に反応して相澤が同じ言葉を発する。その声を聞いて舞い上がった生徒たちは静かになる。
「ヒーローになるための3年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしとみなし除籍処分としよう。」
「「「はぁぁぁぁ!!??」」」
悪い笑みを浮かべながら相澤が述べた提案はにわかには信じがたい入学初日に聞かされるような話ではなかった。
(除籍処分って!?そんな、まずい!8種目も!?ワン・フォー・オールは100か0しか力を出せない、僕はまだ調整なんて・・・)
緑谷は自身の手を握りながらどうしようかと必死に考えていた。だがワン・フォー・オールを使いこなすことができない緑谷にはとてつもなく厳しい受難だった。
「生徒の移管は俺たちの自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ。」
紙をかき上げた相澤は生徒達に大きな試練を告げた。
「除籍って!入学初日ですよ!いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!」
「自然災害、大事故、そして身勝手なヴィランたち、いつどこから来るか分からない厄災、日本は理不尽に塗れている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから3年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。さらに向こうへ、Plus Ultraさ。全力で乗り越えてこい。」
麗日の抗議も相澤には受け流されむしろ教訓を出しにされた生徒たち。その顔は覚悟が決まっており全員がやる気に満ちた顔していた。
「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ。」
《第1種目:50m走》
席順で生徒が二人ずつ走り順番に記録を取っていく。緑谷と一緒に走るのは幼馴染みである爆豪。
『位置について、よーい、ドン!』
(個性を最大限使い、各記録の伸び代を見れば何が出来て、何が出来ないが浮き彫りになる。それは己を生かす創意工夫につながる。)
ゴール地点にいる記録用ロボットがスタートの合図を行う。クラウチングスタートの構えを行う緑谷は音と同時に走り出すが
「爆速!」
両手を後ろに回し連続で爆発を行う。その推進力で体は加速し地に足をつけずとも凄まじい勢いでゴールへと進んでいく。対して緑谷は調整のできないワン・フォー・オールを使用するわけにもいかないため普通に走るだけだった。
(あと7種目、きっとみんな個性を活かして普通じゃない記録を出してくる。対して僕は一度使えば体が壊れてしまう力。調整、調整、イメージはできても実践となると・・・)
以前師であるオールマイトに調整のコツを聞いたが「感覚だ!」と言われた。その時は流石だと思ったが今になって思えば特に参考にはならない。その時に出たイメージは卵が爆発しないイメージだった。それから入学までずっとイメージを続けてきたが結果はまだ出ていない。
《第2種目:握力》
(卵が爆発しないイメージ。)
頭の中で必死にイメージを続けて思い切り測定器を握る。その時、入試の時に自分 四肢が折れている姿を思い出してしまい萎縮してしまう。結果は56k。
《第3種目:立ち幅跳び》
他の生徒たちが普通ではありえない距離を飛ぶ中で緑谷は個性の調整ができず、結局ワン・フォー・オールを使うことなく普通に飛んだ。
《第4種目:反復横跳び》
一人の生徒が自分の頭からもぎ取ったぶどうのような球体を白線の両端に置くと高速で体が弾かれ残像が残るかのような速さで記録を伸ばしていく。
ここでも緑谷は記録を伸ばすことができなかった。
《第5種目:ボール投げ》
「えい!」
麗日が適当に投げたボールはその投げ方に反して落ちてくることはなく、空の彼方へと消えて行った。相澤が持っている端末に出ている結果は無限。
「「「無限?!」」」
「すっげぇ!無限が出たぞ!」
それを見た生徒たちは驚きの声を上げた。それを聞いた緑屋の心境は穏やかではなかった。なぜなら自分だけが飛び出た結果がないのだ。
(だめだこれ、すぐできるような簡単な話じゃない。みんな一つは大記録を出してるのに。残りはこれと持久走、上体起こし、長座体前屈。もう、あとがない。このままだと僕が最下位。)
離れた場所で飯田と爆豪が緑屋の話をしているのだが本人の耳にはその話は届かない。
(そろそろか。)
何も出来ずに雄英を除籍されてしまう。思い出すのは今朝母から送られた超かっこいいという言葉、そして憧れの存在から告げられたヒーローになれるという言葉。
(絶対なるんだ!)
自身の無力さに嘆きながらも今できる全力を出すことを決めた緑谷。大きく振りかぶりワン・フォー・オールを思い切り発動させてボールを投げた
「でぇ!」
だが記録は四十六m。オールマイトの全力を使ったのにもかかわらず。
「な、確かに使おうって。」
「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよお前のような奴も入学できてしまう。」
相澤の方を向くとその髪は逆立ち首に巻いていた布は空中に浮いていた。普段は布に隠れていたのか首には黄色いゴーグルがかけられている。
「個性を消した?あのゴーグル、そうか!を見ただけで人の個性を抹消する個性。抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」
「イレイザー?俺知らない。」
「聞いたことあるわ、アングラ系ヒーローよ。」
仕事に差し支えると言って本人はメディアへの露出を本人が嫌っているため世間にはあまり知られていない。
その様子を校舎の影から見ていたオールマイトは自分はメディアへの対応も行っているためイレイザーとは反対の位置にいる。他にも性格など色々なものが噛み合わさり馬が合わないと思っていた。
「見たとこ、個性が制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
「そ、そんなつもりは!」
反論しようとした緑谷だったが布が勝手に伸びてきて相澤のすぐ前まで引き寄せられる。
以前一人のヒーローが大災害の中千人を救った。同じ蛮勇でもお前は一人で一人を救ってでくの棒。お前の力ではヒーローになれない、そう相澤に言われてしまった。
「お前の個性は戻した。ボール投げは二回だ、とっとと済ませな。」
相澤の言葉が効いたのか緑谷は下を向いたまま再び円の中へと入った。
(ここでは性懲りもなく玉砕覚悟の全力か。はたまた萎縮し最下位に収まるか。どっちに転んでも見込みはない。)
自分の目に目薬をさしながら相澤は緑谷への評価を決めていた。既に相澤の中では緑谷の見込みはほぼないとまで思っている。
(力の調整、僕にはまだできない。この一投で出来る可能性に欠けるのか?オールマイトも言ってたのに、一朝一夕にはいかないって。だめだだめだ!それならただ全力で。)
そしてボールを投げる態勢へと入る。緑谷が何をしようとしているのかを大体理解した相澤は見込みなしと評価を確定させた。
(相澤先生の言うとおりだ。これまで通りならヒーローになんてなれやしない。僕は人より何倍も頑張らなきゃだめなんだ!だから、全力で!今僕に出来ることを!)
校舎の影で見ていたオールマイトはおいおいマジかと思わず声を漏らしてしまった。
ワン・フォー・オールは発動していない。このままいけば先ほどと何も変わらない。だから緑谷は考え方を変えて腕ではなくボールが指先から離れる瞬間。このわずかな時間に一本の指にワン・フォー・オールを発動させた。
(SMAAAAASH!!!)
一投目とは違い風を巻き上げながらボールは遥か遠くへと飛んでいく。
(あの痛み、程じゃない。)
右手の人差し指一本のみが腫れ上がってしまったが四肢が爆発した入試に比べれば耐えられないわけではない。記録は705.3。
「先生・・・まだ、動けます!」
痛みに耐えながら、震えながら、緑谷は自分がまだ動けることを告げた。一人を助けてでくの坊、自分はそうではないのだと。
(心配してきちゃったけど、なんだよ少年。力の調整はまだ出来ない、行動不能になるわけにもいかない。ならばと、ボールを押し出す最後の力。指先にのみワン・フォー・オールを発動させた。最小限の負傷で最小限の力を。なんだよ少年!かっこいいじゃないか!)
平和の象徴の後継者は、ヒーローになろうと足掻き始めていた。
誤字、脱字が多くてすみません。