第三試合はとてもではないがひどいものだった。上鳴が自身が放てる最大の放電で攻撃すると塩崎は上鳴に背を向けて自身の髪を伸ばして切り離し壁にした。切り離した髪は地面を潜って上鳴の体を拘束し決着がついたのだ。
塩崎茨、個性はツル。頭髪がツルになっており伸縮自在で切り離すこともできる。水と日光があればすぐに生えてくるのだ。
(いよいよ私の番。落ち着け、なにも勝つ手段は殴る蹴るだけじゃない。)
「ケント少女。」
背後からオールマイトが声をかけてくる。今はヒーローコスチュームではなく普通のスーツを着ている。
「オールマイト先生、どうしたんですか?」
「いやなに、あの訓練の程はどうかと聞いておきたくてね。」
「あれですか・・・あまり時間が取れなかったせいなのか出来ませんでした。わざわざ私のために時間を作ってくれたのにごめんなさい。」
ものにできなかったのは自分のせいだといって頭を下げるローレル。その様子を見て手を振りながらそんな事はないと慰めの言葉を送る。
「正直この期間で身につけても突貫工事。これから長いこと使っていく技術ならもっと時間をかけてものにしていくべきことだ。今回はもともと時間がなかったから仕方ないさ。君は人を傷つけてしまう事に誰よりも敏感だ。だからこそ言おう、全力で頑張りなさい。」
「はい!」
『さぁ第四試合だ!どんどんいくぞ!頂点目指して突っ走れ!THE中堅って感じ?ヒーロー科飯田天哉。vs.ここまで一番前を突っ走ってきたもはやすごい以外の言葉が出ない!同じくヒーロー科、ローレル ケント!』
声と同時にスタジアムに現れる二人を見て観客の歓声が上がる。大人数の時とは違い全員が注目するのは二人のみ。強いプレッシャーを感じながらも大きく深呼吸をしてリングへと上がる。お互いが正面に立ち、向かい合う。
『それじゃあ第四試合スタート!』
開始と同時に走り出す飯田。ローレルへと直前で向かってくるのではなく大きく回るようにして走る。飯田のエンジンは車と同じで短距離では速度がそこまで出ない。そのため最高速度が出るまで多少の距離を走る必要がある。
『まずは飯田!開始直後に走り出す。でも真っ直ぐつっこまねぇんだな!』
わざわざ相手が有利になるのを待つ必要はないためローレルは飯田の目の前へと移動して手を伸ばす。咄嗟の判断でその手を横へと避ける飯田はエンジンの勢いを使って蹴りを放つ。脇腹にクリーンヒットした蹴りだったがローレルに怯んだ様子はなく足を両手で掴むと場外へと放り投げる。
『ケントに蹴りが炸裂するが気にするそぶりを見せずに飯田を放り投げる!お前の腹の筋肉はどうなってるんだ!』
『個性だバカ。』
「まずい!レシプロバースト!」
脚を掴まれた時点で投げられることを察した飯田は空中で体の向きを整えてレシプロバーストを使う。足から出るエンジンの勢いを使って投げ飛ばされる力を殺し何とか地面に着地する。背後はすぐ場外で切り札であるレシプロバーストは使わされた。ならばこれ以上長引かせることはできないと判断してこのままレシプロバーストを使って飛び込む。
長時間の使用はできないと騎馬戦の時に言っていたため空へと逃げれば勝ちは確定する。だが騎馬戦同様それでは本当に勝ったと胸を張って言うことはできない。だから空へと逃げることはせず自分も脚を使って動く事にした。
『飯田が騎馬戦で見せたあの素早さを解禁!デメリットがあるように言っていたがこんな序盤でいいのか?!それに対してケント、望むところだと言わんばかりの高速移動!!速すぎて細かい動きが見えないぞ!!!』
目にも留まらぬ速さで動き回る二人に会場は目を見張るばかり。全員が二人の動きを目で追うために集中しているため歓声は少ない。
(殺せ・・・殺せ・・・)
「!!」
頭に響く殺せという声。普段であればその声がパフォーマンスに大きな影響を与えるのだが不思議と今聞こえている声は普段よりも弱々しく小さな声だった。
(そろそろ時間だ、このままだと動けなくなる!それなら!)
レシプロバーストを使った後のエンストが迫ってきている。だが止まればすぐにやられてしまうため動きながら短い時間で打開策を見つけなければならない。だから飯田は賭けに出た。このままでは負けてしまうため勝利を掴むためにできることをしなければいけない。
「トルクオーバー!レシプロ・フルバースト!」
無理やり上げていたトルクの回転数をさらに上げて速度を上げる。使えばすぐにエンストしてしまうためこの一瞬に勝負をかけてローレルへと蹴りを放つ。しかし
(これでも・・・届かないのか・・・)
飯田の蹴りはローレルの手によって受け止められる。足のからは煙が吹き出しエンストしたことを告げられた。ローレルは飯田の体を両手で掴み場外へと下ろした。
「飯田くん場外!ケントさん二回戦進出!」
「負けたよ。やはり俺はまだまだだな。」
「飯田くん、ここにいる生徒全員がそのまだまだの域なんだよ?」
地面に座っている飯田へと手を伸ばす。その手を握って間は立ち上がった。
「君もか?そうは思わないが・・・」
「私なんて多分下から数えたほうが早いくらいだよ。」
驚いた顔をした飯田に手を振ってリングを降りる。A組の席へと戻るとみんながおめでとうと声を貰った。飯田はまだ戻ってきていない。
「飯田くんの個性は車のようなものだと仮定して序盤のあの動きは自身の最善へと持っていくためには必要なことだった。狭い部屋の中で戦う事になった時だと同じような加速方法使えないからこれからはそこを踏まえるともしかしたらもっと凄い事になる。ケントさんはゼロからすぐにトップスピードに出られる点で見れば相手の意表もつけるし回避もできる。なにより頭の回転速度と反射神経がすごいから相手の動きを見てからでも対応できてしまう。スピードだけじゃなくてパワーも凄い点を考えると・・・」
緑谷はノートを持ってひたすら口と手を動かしていた。その様子を見てクラス全員が引いていた。集中しているせいか緑谷は気がついていないが。
適当に席へとつくと第五試合が始まった。対戦するのは芦戸と青山。開始の合図と同時に青山がレーザーを放つが芦戸はそれを華麗に回避。靴の裏に穴が開いているためそこから酸を噴出しスケートのように滑りながら移動していく。
青山の弱点、一秒以上射出し続けるとお腹を壊すという発言を聞いていた。なのであえて距離を開けて攻撃させお腹が崩れたその瞬間にベルトに酸を当ててレーザーを放てないようにする。青山の顎に一発アッパーが入ると青山は倒れ芦戸の勝利となった。
第六試合、常闇vs.八百万。こちらも開始と同時に常闇がダークシャドウを出して攻撃を仕掛ける。時間のかからない盾を作り攻撃を凌いでから武器を作ろうと考えていた八百万だが、ダークシャドウの鋭い攻撃により考えさせる余裕を与えてくれない。一度は手放してしまった盾も再度作り出し攻撃を防御する。
しかしなぜかダークシャドウの攻撃が止みその間に武器を作り出した八百万だったが、片足が場外に出ていた事に主審であるミッドナイトに言われて初めて気がついた。これにより勝利したのは常闇となった。
試合が始まる直前に緑谷がノートを持って席を立ち麗日の元へと向かって行った。爆豪と麗日の個性を見て対抗できる策を教えに行ったのだ。
第七試合、鉄鉄vs.切島。同じ個性で同じ性格で紹介文も同じとまたしても涙を流す切島。試合が開始すれば考えることは同じで真っ向勝負。鈍い音を響かせながらお互いに相手を殴り合う。最後にお互いの顔を同時に殴った事でダブルノックダウンとなった。結果は引き分けとなり目が覚めたら別の勝負で勝敗を決める事になるようだ。
第七試合が終わる頃には緑谷が飯田と一緒に戻ってきた。そして第八試合、爆豪勝己vs.麗日お茶子。見るからに有利と不利が見てわかるがそれで諦めていたらヒーローにはなれない。麗日はいかにして爆豪に個性を使うか、爆豪はいかにして近づけさせないように立ち回り倒すかが問われる。
開始と直後はこれも速攻。ここまで何度も見てきた戦略だ。爆豪の初撃はは大抵右の大振り。これを避けて懐に飛び込もうと考えていた。しかし爆豪の爆発が想像してきたよりも強力でそれは願わなかった。
体操服の上着を投げつけ爆豪の隙をついて背後から触れようとするが並外れた反応速度によってこれも防がれまう。正面から飛び込めば地を削りながら爆破され、煙に隠れながら飛び込んでもその反射神経によって爆破される。
何度も何度も飛び込んでは爆破されて距離が開く。体に傷ができてもそれに構うことはなく。周りはヤケを起こしているやバカだ、止めなくていいのかと言った声が所々聞こえてくる。
「おい!それでもヒーロー志望かよ!そんだけ実力差あるならさっさと場外にでも放り出せよ!女の子いたぶって遊んでんじゃねぇ!」
最初の叫び声から爆豪を批判する声が一部から聞こえるようになり始めたその時
『今遊んでるつったやつプロか?何年めだ?素面で言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ、帰って転職サイト見てろ。爆豪はここまで上がってきた相手の力を認めてるから警戒してんだろ。本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断もできねぇんだろが!』
相澤の声によりブーイングをしていた一部が静かになった。正論を言われたことで静かに座り直す。その様子を見て持ったマイクを台へと戻す。
「ありがとう爆豪くん、油断しないでくれて!」
そう言って手をあわせると上空から瓦礫が降り注ぎ始めた。姿勢を低くすることで爆豪の目線を下へと集中させ、その間に瓦礫を空へと浮かせていたのだ。降り注ぐ瓦礫は爆豪のみならず麗日にも当たる可能性があるため捨て身の戦法だ。爆豪へと触れるために走る麗日。迎撃、回避、そのどちらも必ず隙ができると踏んで。
だが爆豪は麗日のそんな策を乗り越えてしまった。それへと向けたてからは特大の爆破が放たれ空中の瓦礫を全て押し返してしまった。自身の体を個性で浮かせていた麗日はその爆破の余波で体が吹き飛ばされる。
今までの攻防、そして今できる最大限を破られたこと。肉体的、精神的なダメージを負いながらも立ち上がり爆豪へと手を伸ばす。爆豪もそれを認めて距離を詰めるために走り出すが、麗日はすでに限界を超えておりその場に倒れてしまった。立ち上がることのできない体でもなお爆豪へと向かっていく。
麗日の様子を見たミッドナイトが爆豪を手で制しながら麗日の顔を覗き込む。手や足に力はろくに入っておらず、目は視点が定まっていないのかどこを見ているのかわからない。そんな様子を見て行動不能と判断し爆豪の勝利となった。
次は緑谷だがその前に鉄哲と切島が目をしましたようで先に腕相撲で決着をつける事になるようだ。緑谷が先に控え室へと足を運ぶ。腕相撲が始まり数分後。鉄哲の腕には金属疲労が起こり力が一瞬緩んだその隙に切島が力を振り絞り勝利を掴んだ。
思っていたよりも早く終わったためローレルも控え室へと進む。ちょうど緑谷が控え室から出てきたところで激励の言葉を送って控え室へと入る。中には先ほど戦っていた麗日がおり目尻には涙が溜まっていた。
「ご、ごめんローちゃん!デクくんが言ったなら次はローちゃんだよね!すぐに出ていくよ!」
そう言ってローレルの横を通り抜けていこうとする麗日。だが今見せた涙がどういう意味なのかは先ほどの試合を見ていればすぐに分かった。
「麗日さん。」
「なに?わっ!」
ローレルは麗日の名前を呼ぶと片手で抱きしめる。少し、ほんの少しの力で抱きしめるが麗日からすれば少し苦しかったようだ。
「強すぎたらごめん。でもそんな顔をして控室は出て行かないほうがいいよ。泣きたいなら思いっきり泣いたほうがスッキリするからね。」
その言葉で離れようとしていた麗日の動きが止まる。
「私・・・私ね。実はお金が欲しくてヒーローを目指してるの・・・」
「意外だね。」
「父ちゃんと母ちゃんを楽にさせたくって・・・」
「立派だよ。」
「こんなんじゃヒーローに見てもらえない・・・」
「大丈夫。絶対麗日さんを見ている人がいる。」
「私、悔しい・・・」
「敗北は勝利の第一歩だよ。これから頑張ろうね。」
「わああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
胸の内にしまっていたものを全て吐き出し大きな声を上げて涙を流した。本当は悔しいと叫びたかった。だがヒーローを目指す上でそんな泣き言を言うべきではないと理性がブレーキをかけた。だが誰かに優しくされてしまえばそんな理性は半壊し崩れていった。
本当は思い切り抱きしめてあげたい。だが力がそれを許してはくれない。抱きしめているローレルと抱きしめられている麗日。この二人の力の感じ方は違うためそれを本当の意味で理解するときはおそらくこないだろう。
麗日の声は大きかったが、スタジアムにいる観客によってかき消され誰にも聞こえることはなかった。
誤字、脱字が多いです。申し訳ありません。