「二人まだ始まっとらん?」
「ん?うら・・・うわぁ!」
A組の席へと戻ってきた麗日の顔を見て飯田はとても驚いた。目元が腫れていたからだ。それを見て悔しかったんだろうと思った飯田は慰めの言葉を送るが途中で常闇に遮られこれからの試合を糧にするべきと正論で返され黙った。
『お待たせしましたEvery body!二回戦第一試合はビッグマッチだ!!一回戦の圧勝で観客を文字通り凍りつかせた男!ヒーロー科轟焦凍!はたやこっちは冷や冷やでの一回戦突破!今度はどんな戦いを見せてくれるのか?!ヒーロー科緑谷出久!』
「きたな。」
「轟くん。」
『緑谷vs.轟!』
二人の姿勢が下がりいつでも動ける準備をする。観客たちも開始の合図が待ち遠しいのか全員の目が二人に釘付けとなる。
『スタート!!』
開始の合図とともに轟の足元から氷が伸びて緑谷へと向かってくる。対象に緑谷はデコピンの要領でスマッシュを放ち氷を砕いてそれを防いだ。二人とも開始前から速攻をかけることを決めていたためこうなることはお互いわかっていた。スマッシュを放った指は赤く腫れておりうまく力を入れることができないでいる。次に使うのは厳しいだろう。
二発目の氷も別の指を使って吹き飛ばす。轟の個性は情報が少ないため戦いの中でそれを見つけていくしかないと考えた緑谷は頭の中で分析を始める。
轟の背後には氷がありスマッシュによる風で飛ばされないように出したものと考えれば腕全てを犠牲にしていても対応された可能性がある。故に初撃は指で正解だったと結論づける。だが使える指の本数には限りがあるためそれまでには決着をつけなければならない。
A組の席では切島が戻ってきており個性についての話をしていた。爆豪と轟の二人は品位を攻撃をタイムラグなしでポンポン撃てると言われてそんなわけがないと反論する爆豪。
「筋肉酷使すりゃ筋繊維がきれるし走り続けりゃ息ぎれる。個性だって身体機能、奴らにも何らかの限度があるはずだろ。」
爆豪と同じようなことが頭に浮かんだ轟は緑谷がこちらの個性の限度を見極めようとしているという考えへと辿り着いた。
「耐久戦か。すぐ終わらせてやるよ。」
緑谷へと氷を放ちそれを迎撃される。しかし今度の轟はすぐに走り出し緑谷との距離を詰めに走る。緑谷の頭上へと氷を伸ばしその上を走り抜ける轟。右手は親指以外が全滅したため今度は左手の指を使ってスマッシュを放ち氷を破壊する。だが氷の上に轟はすでにおらず空中から攻撃を仕掛けてくる。
その場を飛んで回避するがすぐに氷を伸ばして追撃を行ってくる。回避行動中で空中にいるためそれを回避することはできず右足が凍り始めてしまう。左手の指を使って破壊しようとするがそれを見越してすでに背後に氷を用意されていた。このままではジリ貧なためここで一気に勝負をかけるために指ではなく左腕を使うことにした。
今まで以上の威力の代償として振るった拳。その威力に押されて轟の体は場外へと向かっていくが背後に氷を出し続けて勢いを殺していく。
「なんだよ、守って逃げるだけで随分ボロボロじゃねぇか。」
その声につられて轟を見るとここであることに気がついた。轟の右腕が震えていることに。それを見て緑谷の頭に轟の個性のデメリットが思い浮かんだ。だがそれに気がつくのが遅かった。両手の指はボロボロ、左手に関しては肘まで使えない。そんな姿を見てと止めを刺すために氷結を伸ばす。
すでに手が使えないと油断していた轟は突然氷が吹き飛んだことで対応が遅れてしまった。背後に氷を出して後ろに下がる体をどうにか止めることができたがあと少しでも遅ければそのまま場外へと出てしまうところだった。
緑谷を見てみればすでにダメになっている右手の指をさらに酷使してスマッシュを撃っていた。赤かった指は紫へと変色しさらにひどい怪我へとなっていた。
「僕はまだ、君に傷一つつけられていないぞ!全力でかかってこい!!」
緑谷の魂の叫びに苛つきを覚えて轟は突撃を始める。しかし明らかに動きが鈍っており速度が出ていない。十分にに距離を詰めた状態で右足が上がった瞬間緑谷は姿勢を低くし右手を引く。
「イメージ、電子レンジの。爆発しない、しない、しない、しない!」
右腕にワン・フォー・オールを発動させてと轟の腹へと強烈な一撃を与える。その際にわずかに触れていた左腕が凍らされてしまうが体をふっとんだことで最低限の被害で済んだ。腕全体が壊れることはなかったが指が全て使えなくなってしまった。
そこからは自分の指の被害など顧みず変色してた指を酷使して轟との攻防が始まる。
「どうしてそこまで・・・」
自分の体を痛めつけながらも戦い続ける緑谷はが轟には分からなかった。
「なりたいんだ笑って答えられるヒーローに!」
過去の記憶を一瞬フラッシュバックし動きが止まる轟。そこへ頭突きをしてダメージを与える。
「だから!全力でやってんだみんな!君の境遇も決心も僕なんかに測り知れるものじゃない。でも、全力も出さないで一番になって完全否定なんでふざけるなって今は思ってる!」
右腕のワン・フォー・オールを使ってさらに追撃。
思い出されるのは自分の右側が醜いという母の言葉。電話で自分の親へと相談していたところに目を覚ました轟がそれを見ていた。醜いという言葉を聞いて思わず声をかけた。振り返った母親は見てしまった。体の半分である左半身、赤い髪を。
「俺はこいつを・・・親父の・・・力を・・・」
「君の!力じゃないか!!」
ヒーローにはなりたいんでしょ?良いのよ、お前は。血に囚われることなんかない。なりたい自分になって良いんだよ。
昔自分の母に言われた言葉を思い出した。それにより轟の体からは炎が吹き出し始めた。戦闘では絶対に使わないと言っていた炎を。
「勝ちてぇくせに・・・ちくしょう・・・敵に塩を送るなんてどっちがふざけてるって話だ。俺だって、ヒーローに!」
「焦凍おおお!!やっと己を受け入れたか!そうか、いいぞ!ここからがお前の始まり!俺の血を持って俺を超えて行き、俺の野望をお前が果たせ!!!」
『エンデヴァーさん急に激励・・・か?親バカなのね。』
二人はその声を無視して本当に意味で全力を使おうとする。それを見かねたセメントスとミッドナイトが個性を使う。
足元から伸びた氷が緑谷を襲うがワン・フォー・オールを使ってそれを飛び回避しそのまま轟へと突撃する。リング全体が氷が覆われるがすぐに炎を出して氷を溶かす。
「緑谷・・・ありがとな・・・」
瞬間ふたりの間にセメントスが作った壁が何枚も用意されるがその全てを吹き飛ばす大爆発が起こった。今まで起きた何よりも凄まじい風に全員がまともに前を向けないでいる。
『お前のクラスなんなの・・・』
『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ。』
『それでこの爆風って、どんだけ高熱だよ!ったくなんも見えねぇ!おいこれ勝負はどうなってんだ?!』
ようやく風が収まり煙が晴れると壁際に背を預けながら気を失いなっている緑谷とリングに立っている轟の姿。
「緑谷くん場外・・・轟くん三回戦進出!」
ミッドナイトの声がスタジアムに響いた。煙によって見えていない人もいたがその声により大きな歓声が上がる。
すぐに緑谷はリカバリーガールによる出張保健所へと搬送された。控え室で待機している選手は本来はプレゼントマイクによる実況でしか状況を確認できないがローレルは耳と目を使ってその戦いをしっかりと見ており緑谷が負けたことも知っていた。
(緑谷くんは負けたか。あんな戦い方してたらヒーローになってもすぐダメになる。後でしっかり言っとかなきゃ。)
『ステージがほとんどダメになったからこれから補修作業だ!その間は休憩しててくれ!少々お待ちおお!!!』
「あれ?」
これから試合だと思って気合を入れていたところに休憩時間が来てしまった。この気合はどこに持っていけばいいのか、振り上げた拳の行き場所を失った気分だった。
補修作業も終了し二回戦が開始される。ローレルvs.塩崎。ツルを伸ばして体を拘束しにかかるが一瞬で背後をとられた塩崎はそのまま体を持ち上げられ場外へと追い出されてしまった。
芦戸vs.常闇。距離を詰めてくるダークシャドウに対して両手から酸を投げつけるが簡単に回避され体を押し出されて場外となった。
短い時間で試合が終わっていくためもう控え室へと移動しなければならない。少し早いとは思ったがローレルは席を立って控え室へと向かうとその姿を見たクラスメイトたちから応援の声をもらう。全員にピースサインをして通路を歩いて行くと治療を終えたのか緑谷が歩いていた。そばには骸骨のように痩せ細った背の高い男性もいた。
「緑谷くん、治療終わったんだね。大丈夫?」
「け、ケントさん!どどどどうしてここに?!」
一緒にいた骸骨のような男とはトゥルーフォームのオールマイト。その姿を見られて驚きどもった緑谷。
「どうしてって・・・もうすぐ試合だから。」
「ああそっか。残りの試合も頑張ってね。」
「うん。そっちの人は・・・ん?」
トゥルーフォームのオールマイトをじっと見つめる。オールマイトはたらりと汗を流しながらどうしたのかと聞く。一応知らない間柄の体で。
「あなたはオールマイト先生ですか?」
「な、何言ってるのさケントさん。オールマイトとは全然似てないじゃん。」
緑谷がオールマイトを指差しながらむきむきな体と今の貧相な体を比べた発言をする。それを聞いて心の中で傷ついていたオーラマイトだが今は空を一切表情には出さない。
「私には透視能力があるって前に言ったよね。一度興味本位でオールマイトの体を見たことがあったんだけどその時は驚いたよ。だって胃がないんだもん。」
その言葉に胸がどきりと弾む。オールマイトは呼吸器官の半壊と胃の全摘出を行なっているため胃がないというのは本当のことだった。
「世の中に胃がない人なんてそうそういるもんじゃない。傷跡も全く同じものだったしそれに見た目も、顔とかは違うけど髪はそうじゃない。その垂れた髪も上に上げたらオールマイトなんじゃない?」
ここまで当てられてはごまかすことはできない。そう思ったオールマイトは自らその通りだと肯定しマッスルフォームへと変身する。
「このことは内密にしてほしい。平和の象徴が弱ってるなんて事実を知られれば今の社会がどうなるかわからないからね。」
「勿論です。誰にも言いませんから。それと緑谷くん。」
「はい!」
流石にワン・フォー・オールについてのことは言わなかったが個性が弱ってきていると説明することで納得してもらった。緑谷は突然声をかけられたことでつい大きな声を出してしまった。オールマイトについて何言われるのだろうかと身構える。
「オールマイトについては別にいい。それよりもさっきの試合。あれは何?」
最初の発言で安心した緑谷だったが今の自分にはさらに厳しい内容が告げられる。
「戦う手段がなかったのなら仕方ないよ。緑谷くんも優勝目指してるんだもんね。だからさっきの試合については何も言わない。でもこれからもああやって戦うのは絶対にダメ。同じようにしてたら必ず体を壊して動けなくなる。それなら今ここでヒーローになるのをやめたほうがいい。」
「!!」
ローレルからの厳しい言葉が緑谷の胸に突き刺さる。言っていることは全て正しい。リカバリーガールにも同じことを言われた。相澤にもいつまでもできないじゃ通用しないと言われている。だから何も言い返すことができずむしろ納得までしてしまった。
「厳しいこと言ってごめん。」
何も言わずに下を向いている緑谷を見て言いすぎたと反省して謝罪をする。そのままローレルは二人の横を通り過ぎて控え室へと向かっていく。
「休憩だってよ。俺ちょっとトイレに行ってくるわ。」
「おう。遅くなりすぎんなよ。」
時間は若干遡り緑谷と轟の戦いが終わりステージが補修作業へと入った頃、短い時間だが休憩が入ることになった。
観客席に座っていた一人のヒーローが用を足しにいくべくその席を立った。全身が白いコスチュームに覆われており露出している部分が全く無く、外からでは中に本人が入っているのか分かりづらいものだ。
男性用の個室へと入りコスチュームを脱ごうとした瞬間そのヒーローの体がワープゲートへと飲み込まれその場から消えた。
しばらくすると再びそのヒーローがゲートから出てきた。しかしその手には先ほどまでは持っていなかった白い拳銃が握られている。
「侵入成功。それじゃあこれを試すか。最高の舞台ってとこで。」
コスチュームの中に入る人物の顔は悪意に満ちていた。