林間合宿3日目、昨日に引き続きハードな訓練が開始した。これからの残り日数も早朝に目覚めなければいけないと実感した生徒たちは、自然と早寝早起きとなるため最高のコンディションで訓練に臨むことができていた。
「補修組、動き止まってるぞ。」
切島、芦戸、瀬呂、上鳴、砂藤以外は。昨夜は夜中の2時まで補修をしていたため必然的に他の生徒たちよりも睡眠時間が削られてしまう。そのため五人とも体力が完全に回復しておらず常に眠気と闘っている状態なのだ。その補修組と同じ、もしくはそれ以上に寝ていない相澤はさすがとしか言いようがない。
「お前らもダラダラやるな。何をするにも原点を常に忘れるな、向上ってのはそういうもんだ。」
(原点・・・か・・・)
その話を聞いていたローレルは自分が研究所から助けられた時のことを思い出していた。あの時に助けられた光景を未だ忘れることはなく、途中遅れはあったものの今はそこを目指している。
(私も誰かを助けられるヒーローに。)
そしてひたすらブロックを殴る時間が過ぎていく。あまりにうまくいかなすぎてこ方法は本当に適切なの疑ってしまう。そこへ相澤が近寄ってきていた。
「ケント、まだ成功はなしか?」
「はい、すみません。」
生徒達の現状を自分の目で見て回ており、他の生徒を見終わり最後にローレルの元へとやってきたのだ。現状を聞けばまだ出来ないと申し訳なさそうにするローレル。
「ハァ・・・仕方がない、荒治療を試してみるか。」
「?何をするんですか?」
「こうするんだ。」
そう言ってブロックの背後に立つ相澤。それを見てなんとなく何を言いたいのか理解したが一応の確認のために聞いてみることにした。
「何してるんですか?」
「簡単だ、この状態でブロックを攻撃しろ。少しでも調整を失敗して強く打てば俺が吹き飛ぶ。言いたいことはわかるな?」
人を前にして潜在的にでも調整ができれば後はその感覚を覚えて反復するのみ。相澤が言いたいことはそういうことだったが当然そんなことできるはずもない。
「先生に被害がないように・・・ですね。でも私まだ一度も調整が出来てないんですよ?!」
「だから荒治療なんだ。良いからやれ、手を抜くなよ。」
そう言って相澤は手をポケットに入れたまま動こうとしない。ローレルがブロックを打つまでずっとその場にいる気なのだ。頭の中でぐるぐると考えが流れていく。
そんな事をして良いのか、だがしなければ相澤は動こうとしない、そしていつまでも制御できない自分ではいたくはない。様々な思いが巡りちらりと相澤の顔を見ればその顔には覚悟のようなものがありじっとローレルのことを見ていた。
「分かりました、やります。」
そう言ってブロックの前へと立つ。威力が弱ければヒビすら入らず、強すぎれば簡単に吹き飛んでしまう。人を攻撃しても大丈夫な、それでいてダメージを与えられるギリギリのラインを意識しながら拳を振り抜いた。
(そういえばオールマイトは言ってた、笑って乗り越えてみたらどうだって!)
ローレルは自然と笑っているときとは違う少し不自然ながらも、それでも無理に笑顔を作った。なんとなく力がもらえる、そんな気がした。めり込んだ拳から広がった衝撃は少しずつブロック全体へと広がっていく。
(威力はいい感じに抑えられた。相澤先生に被害はない。しかもひびが入ってる!もしかしてこれは!)
音を鳴らして亀裂が走り触り心地が良かったブロックがたちまちひびだらけに変化し、それ以降の変化は訪れることはなかった。すなわちブロック全体は崩れる事なくひびだらけのオールマイトが手本を見せたときと同じ状態となった。
「合格だ、よくやったな。」
「ーーー!!はい!!」
はじめての成功に感極まりつい大きな声で返事をしてしまうが、そんな様子を見た相澤は乱暴に頭を撫でてその場を後にした。
「この感じを忘れないうちにどんどんやろう!」
一度成功してしまえば大体の感覚が掴めたのか少しずつ成功する回数が増えていった。昼休憩を除けば夕暮れ時までほぼぶっ通しで訓練を継続していた。成功率は未だに三割程度だがローレルからすれば大きな一歩を歩むことができた。
今晩の献立は肉じゃがだった。爆豪が意外にも包丁の扱いがうまいという話はさておき近くに洸汰がいない事をローレルは気にしていた。緑谷の様子を遠目から見れば轟と何か話しており同じ事を考えていると予想できた。
「ローレルちゃん、何か浮かないしてるけどどうしたの?」
「あ、ごめん。何でもないよ。梅雨ちゃんのほうは終わった?」
「終わったわ、私家でも料理するもの。」
つい考え事に耽ってしまい手が止まってしまっているところに心配した蛙吹に声をかけられて我へと戻った。
「君たち!手が止まってるぞ!最高の肉じゃがを作るんだ!」
手が止まっていたところに飯田の声が響き渡り自分が言われたのかと思い少し焦ったローレルだったが、飯田が行ったのは轟と緑谷のことだったらしくすこし安心した。
「何か悩んでるなら相談に乗るわよ。」
「有難う梅雨ちゃん。どうしてもダメだったらその時に相談するね。」
「ケロケロ。」
そうしてできた肉じゃがを全員で堪能しつつ片付けも終えで漸く本日のメインイベントがやってきた。
「さて、腹も膨れた。皿も洗った。お次は?」
「肝を試す時間だ!」
「「「「試して〜!!」」」」
楽しそうにしている者もいれば気が滅入る者もおり気合を入れる者など生徒達の反応は様々だった。
「補修組はこれから俺と授業だ。日中の訓練が疎かになってたのでこっちで取り返す。」
「嘘だろー!!」
相澤に捕縛布で拘束された五人は悲鳴を上げてそのまま相澤に引き摺られていった。
片方のクラスが2人1組で指定されたコースを3分空けて歩く、その間にもう一つのクラスが脅かし要因として各場所に散らばる。個性の使用に制限を設けず、逆に個性を使ってより多くの生徒を脅かした方の勝ちとなる。なお直接触れるのは禁止。
パートナーを決めるのはくじとなった。本来の人数では二十一人で一人余ることになっていたが5人が補修に流れたため偶数となり誰一人として余ることはなくなった。ローレルが引いたくじでパートナーになったのは緑谷。
「緑谷くん、よろしくね。」
「ケケケケントサンコチラコソヨロシクオネガイシマススス!!?」
「どうしたの?」
緑谷がロボットのような口調になっているのはローレルの格好。シハーフパンツに胸元が開いたタンクトップと他より肌色が多く女子のこう言った姿に耐性の無い緑谷にはすこしばかり刺激が強かった。昨日はパーカーを着ていたが意外にも暖かかったため必要ないと思い今日は着ていない。
離れた場所で峰田が緑谷と、八百万のパートナーになった青山にくじを交換してほしいと頼み込んでくる。しかし峰田にこのくじを渡せばろくなことにならないと知っている2人は頭を縦に振ることはなかった。
多少の準備期間が終わり最初の組が森へとはいる。緑谷とローレルの2人は8組目なため順番は一番最後だった。
「緑谷くん怖いの平気?」
「ボクハタブンヘイキダトオモイマスハイ。」
「・・・本当に大丈夫?」
未だに機械と化した緑谷との会話はぎこちないがそれでも話していればすこしずつ慣れてきたのか普段通りの喋り方へと戻っていった。
「今日も洸汰くんいなかったね。」
「うん。多分今日も秘密基地かな?昨日行ったら出てけって言われちゃったから行けなかったけど。」
「轟くんが赤の他人に正論言われてもイラつくだけ、言葉には行動が伴うんじゃないかって言ってた。今の僕には洸汰くんに言ってあげられる言葉がなくて。」
「そっか・・・でもどうにかしてあげたいって思ってるんでしょ?」
「うん。」
洸汰の両親はヒーローをしていたがヴィランに殺されてしまった。周りの人はそれを立派だったと褒めるだけで誰も洸汰の気持ちについて話をする人なんていなかった。そんなこともありヒーロー達に嫌悪感を抱いている。
本当は洸汰もヒーローに憧れていたのかもしれない。だが環境が洸汰を変えてしまった。子供が周りの人間のみならず自分の親まで否定するのはとても悲しいことだと思い緑谷はどうにか助けてあげられないかを考えていた。
だが自分とは環境がまるで違うためそんな洸汰にかけられる言葉を見つけることができず、昨日は取り留めのないことばかりを語ってしまった。オールマイトだったらなんていうだろうか、そう考えていたものの轟にプライベートにズカズカと侵入し過ぎだと先ほど注意された。
そのためまずはすこしずつ歩み寄っていくべきだと思いすぐに行動を起こすのはやめた。いくらしつこく行っても追い返されてしまうならすこしずつ理解してもらう他はないと信じて。
「それじゃあ5組目!GO!」
何組がすでに森へと姿を消していく中5組目である麗日と蛙吹の番がやってきた。森からは休む間もなく悲鳴が聞こえてきており森で一体何が起こっているのかすこし不安になる緑谷。
「流石に悲鳴聞いてちょっと怖くなった?」
「さ、流石にね。ケントさんは大丈夫そうだね?」
「怖いっていうより肝試しって何するのか気になるんだ!だからどっちかっていうと楽しみかな?」
(楽しみか、何だかケントさんらし・・・気になる?肝試ししたことないのかな?そういえばプールもはじめてみたいな反応をしてた気がする。個性の都合で色々体験できなかったのかな?・・・考えすぎだよね。)
緑谷はローレルの口から出た些細な言葉を聞き逃さなかった。本人は自分に関する話をあまりしないように言われているため常に気を付けているのだがふとした拍子に意識外で出てしまう言葉はどうしようもない。
事実今の失言を本人は気がついていない。だが実は気が付かなくても良かったのかもしれない。下手に気がついて反応すると相手に気付かれてしまうからだ。緑谷はローレルのあまり変わらない態度を見て自分の考えすぎだなと思いその考えを捨てた。
5組目が出発してから2分が経ちそろそろ次の組かと思いきや突如何かがこげるような匂いが臭いだす。遠くでは黒い煙が上がっており遠くで山火事が起きてるのではと警戒に入る。
「な、なに?!」
ピクシーボブが声を上げるとその体が突然何かに引き寄せられるかなように吸われていく。全員がその方向を向くと見覚えのない二人組がいた。
「飼い猫ちゃんは邪魔ね。」
二人組の男で片方は布に包まれた棒のようなものを持っており、足元には頭を殴られたのかとを流しながらダウンしているピクシーボブ。それを見て全員は気がついてしまった。
「な、何で?!万全を期したはずじゃあ・・・何でヴィランがいるんだよぉ!?」
「ピクシーボブ!」
倒れているピクシーボブを助けようと緑谷が走ろうとするが生徒をヴィランに襲わせるわけにはいかないとマンダレイと虎が緑谷の前に出て壁となる。マンダレイが小さく呟いたヤバいという言葉。緑谷とその隣にいたローレルはマンダレイの表情を見てなにがヤバいのかを瞬時に理解した。
((洸汰くん!!))
『みんな!ヴィラン二名襲来!他にも複数いる可能性あり、動ける者は直ちに施設へ。接触しても決して戦闘せず撤退を!』
マンダレイによるテレパスによって私有地全体にいる人の脳内に指示が飛ぶ。
「ご機嫌よう雄英生、我らはヴィラン連合開闢行動隊。」
「ヴィラン連合?!」
トカゲのような見た目をした男が軽い口調でスピナーと名乗りながら背中にあった剣を手に取り構える。手に取った普通の剣とは違い様々な武器がくっついたかのようなゴチャゴチャした代物だった。
「この子の頭、潰しちゃおうかしら?どうかしら?」
「待て落ち着けマグ姉。まずは生殺は全てステインの主張にそうか否か。」
マグ姉と呼ばれる人物はカジュアルな格好に夜なのにも関わらずサングラスをかけた男。口調は女性なため俗に言うおかまというものだ。
ピクシーボブがやられたことに腹を立てる虎にマンダレイが生徒達に避難するように指示を出して二人でここを押さえるために構える。
「承知しました、行こう!」
だがローレルはマンダレイの表情を見て明らかに洸汰のことを気にしているのが見て取れる。緑谷も同じ事を考えていたのか飯田に先に行くように言うと今度はマンダレイのことを呼ぶ。
「僕たち、知ってます!」
その言葉を残して二人は洸汰の場所へと向かった。ローレルが緑谷の手を取って秘密基地へと飛んでいく。そこには洸汰がローブを羽織った何者かに追い詰められている様子が目に移った。
「緑谷くん!いくよ!」
「お願い!」
「お前のその帽子、中々かっこいいじゃねぇか。俺のこのダセェマスクと交換してくれねぇか?」
洸汰は恐怖を感じてすぐにその場から駆け出したが、男は個性を使って小唄の目の前まで一瞬で回り込む。その際にマスクを投げ捨てており男の顔を見てしまった。
洸汰にはその男の顔に見覚えがあった。両親が亡くなった時に見ていたニュースにその男の顔がテレビで放送されていたから。男の名前はマスキュラー、かつて洸汰の両親の命を奪ってヴィランだった。
マスキュラーの拳には筋繊維が巻きつおており、通常よりも腕が太くなると同時にパワーが上がっている。そんな振りかぶられた極太の腕が洸汰へと迫る。逃げても殺される、洸汰はその想いによって逃げることすらできずにいた。
しかし当たる直前に洸汰の体は緑谷によって抱き抱えられ難を逃れた。ローレルによって投げられた緑谷の体はマスキュラーの振り下ろす拳よりも早く洸汰を助け出すことに成功したのだ。
マスキュラーの視線は突然現れた緑谷へと向いたため空中から迫るローレルの存在を認識できずにいた。訓練によってある程度制御できるようになったパワーでマスキュラーを殴り壁へと激突させる。
「何で・・・」
「君を、助けに来た。」
洸汰を安心させるために笑顔を浮かべてそう言う。すると先ほどまでの恐怖の反動か、それとも安心から来るものか洸汰は大量の涙を流した。
「すぐにここから逃げよう。」
「そうはさせねぇぞ。」
この場から離れようとするといつのにか立ち上がっていたマスキュラーがローレルへと銃を向けていた。
「ヴィラン連合もそういうの使うんだね。見てくれ通り近距離で戦うものだと思ってた。」
「俺もその予定だったんだがな、お前ローレル ケントだろ?」
「だったら?」
「こうする。」
ローレルへと向けていた銃口が洸汰へとへと向き大きな音を鳴らして発砲する。緑谷が再び洸汰を抱き抱えてその場から跳ぼうとするが、それよりも早くローレルが弾丸を掴むことでそれを阻止する。
「銃は効かない・・・!」
マスキュラーへと傾向を兼ねて弾丸を見せる。遠距離を封殺できれば緑谷が洸汰を抱えてこの場から逃げられると考えていたローレル。だがマスキュラーの顔には焦りなど見られず、むしろニヤニヤと笑っていた。
そして次の瞬間手に持っていた弾丸から緑色の煙が発生した。最初は煙幕かと思ったがそれにしては煙の量が少ない。では何だと考えていると突如ローレルの体から力が抜け立っていることすらできなくなってしまった。
「ケントさん!?どうかしたの!?」
突然倒れたケントに緑谷は同様を隠せない。ひたすらローレルを呼ぶが帰ってくるのは弱々しい返事のみ。
「はっはっはっは!本当に効くんだなこれ!」
「お前!ケントさんに何をした!」
「知りたいか?こいつは今弱体化してるのさ。普通の一般人並みにな!」
「がはっ!」
そう言ってローレルの体をサッカーボールかのように蹴るとその体は抵抗することなく宙へと浮いた。顔には今まで見たこともない苦痛の表情を浮かんでいる。
「あの時と・・・同じ・・・」
思い出すのは体育祭での決勝戦。突然全身の力が抜けてしまい爆豪の攻撃をくらって場外へと出て敗北した。その時に感じた脱力感と全く同じ感覚。これによりすぐにヴィラン連合によるものだと言う考えに行き着いた。
「二人とも・・・逃げて・・・」
(相手は増強系。さっき洸汰くんを助けた時に携帯地面に落としちゃったけど壊れてたら応援は呼べない。緑谷くんは洸汰くんを連れてこの場から逃げられる?分からない、でも戦わせるよりは施設に向かう方がまだ望みはある!)
自分は動けない。単純な増強同時の個性を扱う中で、緑谷では目の前のヴィランを倒せるか分からない。そもそもマンダレイによって戦闘は避けるように言われている。だからと言って逃げ切れるかも不明。だとすれば目の前のヴィランを倒す必要がある。
「そうはいかないよ、君を置いて逃げられない。大丈夫、必ず助ける!」
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