個性[超人]   作:2NN

36 / 40
スカウト

『やぁケントくん。初めましてだね。僕の名前はオール・フォー・ワン。』

 

 画面越しではあるものの、確かに感じる威圧感。ローレルはそれをひしひしと感じていた。

 

 

 

 ローレルが拘束されてから翌日、黒霧は言葉の通り食事を持ってきた。ヴィランから出されるものを食べるのはどうかと思い口にすることはなかったが。黒霧もその反応に困り果て結局食事を持ってそのまま帰っていった。

 

 その際にトイレに行きたい場合はどうすればいいのかと聞けばクリプトナイトを持った見張りをつけるとの事でやはり一人にしてくれる時間はないようだ。その見張りとしてきたのはマグネ。見た目は男でも中身は乙女とのこと。

 

「私が見張っててあげるから早く用事を済ませちゃいなさい?」

 

 そう言ってトイレのすぐ前で待機される。正直死ぬほど嫌だったが今の境遇を考えれば反抗するのは愚策なため素直に従う。そうして迎えたヴィラン連合との対面。正面に立つのは死柄木弔、左右には開闢行動隊で動いていたメンバー。

 

「さて、落ち着いたところでお前に話だ。俺の仲間になる気はないか?」

 

「ごめんなさい。」

 

 考える余地なく否定を告げる。その答えが最初からわかっていたかのような反応をするメンバーたち。

 

「だと思った。少し待ってろ。」

 

 そう言って黒霧がワープを使って部屋からいなくなるとワープゲートを繋げたままモニターを運んできた。

 

『やぁケントくん。初めましてだね。僕の名前はオール・フォー・ワン。』

 

「オール・フォー・ワン?名前?」

 

『名前さ。今は僕のことはいいんだ。君の活躍は聞いている。強化された能無を倒せるほどの実力ともなればただ殺すだけでは惜しい。』

 

 モニター越しに聞こえる声からは素直な称賛のようにも聞こえるが、ヴィランが考えることなどヒーローを目指す物語ってにとって真の意味で理解する時はこない。

 

『君の考えていることは大体わかるよ。そしてその考えは概ね正しい。何せヒーローはヴィランたちの悪の部分しか見ない。なぜそこにたどり着いつしまったのかと言う過程を見ようとしないのさ。つまり真の意味でヒーローは存在しないと言うことだ。』

 

「そんなことない。街の人を救うと同時にヴィランの心を救う、それが真のヒーローだって言ってた。私は助けられたヒーローに救われた。」

 

『ならどうしてヴィランは増え続けている?』

 

 その問いに口がこもってしまう。分かっている、そんなヒーローなど極一部だということは。それでも全くいないという言い方に納得できず反論をしてしまう。

 

『だから僕たちはこの社会を壊すのさ。ヴィラン連合は社会全体に問う。ヒーローとは、正義とは何かを。ここにいる弔の仲間たちも全員少なからず暗い一面を持ってる。それは全て凝り固まった社会の常識という枷によって蝕まれてきたものだよ。』

 

 ヴィランになりたくてなったわけではないものだっている。生活に困り生きるために仕方がなく法を犯すという、なまじ力がある為に起こしてしまう間違いなど当たり前のことだ。

 

 見た目、思考、行動。どれか一つ常識から外れてしまえば瞬く間にきみ悪がられてしまう。そんな人たちをこの社会から解放するということを言っている。

 

『君も感じているんじゃないかい?他人とは違う明らかにオーバースペックなその力を。自分は化け物なんじゃないかって。』

 

 思い出すのは林間合宿で言われた言葉

 

『おめぇ化け物だよほんと・・・』

 

 言われた時は少し傷ついたがすぐにそのことは忘れたと思っていた。だが今言われてすぐにこの時のことを思い出したのは心のどこかで気にしていた殻なのかもしれない。

 

『君は人を傷つけることを恐れている。それはルールで決まっていることだから。ルールを守るために自分を殺さなきゃいけないというのはとても辛いことだ。君もそうは思わないか?なぜ大多数のために少数を殺さなければいけないのかと。』

 

 尽く当てられている自分の心の内側に寒気を覚えた。一体相手はどこまで自分のことを知っているのか、なぜ当然のように知っているのか。そんな疑問が尽きない。

 

『ヒーローを育てるという名目で生徒を教育する雄英は君たちを守ると言っておきながらこの体たらく。信用なんてものはすぐなくなる。今夜あたりにでも会見が開かれると思うよう?』

 

「そうさせたのはあなたたちでしょ。それに私がここにいるのは私自身が弱かったから。そこに雄英は関係ない。」

 

『いいや、あるよ。君がどう思っていようと世間がそれを認めない。それに僕たちはきっかけを与えただけさ。それを周りの人間がなんと思うかは別の問題だよ。事実今インターネット上では多くの批判の声が雄英にかけられている。結果が物語っているのさ。』

 

「・・・」

 

 ローレルは下を向き何も言葉を発しない。その姿を見て好機と思ったのかさらに言葉を並べていく。

 

『この社会が本当に正しいのかを一人一人よく考えさせる必要がある。その点君は以前からよく考えていただろう。僕たちなら君を解放してあげられる。自由にしてあげられる!だからこちらへときてみないか?君のいるべき場所はそっちじゃない。』

 

 姿は見えない。モニターにはNo signalの文字だけで音声のみが聞こえている。しかしそれでもモニター越しに手を伸ばしているようなそんな気がした。

 

 周りの人たちは声を出す事なく話を聞き入っている。誰しもが成功を信じて疑ってはいない。実際オール・フォー・ワンの話術は凄まじく、相手の弱い部分を的確につく事で人言葉のみで自由に操ることができる。

 

 長年生きてきた経験か、それとも天性の才能かは不明。しかしその話術にはとてつもない力がこもっており実際今まで多くの人たちを操ってきた。その実績があれば疑うものなどほとんどいないだろう。

 

 それを受け入れている相手でなければ。

 

「あなたと話してよくわかった、どうしてヴィランが減らないのかってことが。ヒーローを目指す事に対して悩んだことはある。でも不自由だなんて考えたことなんてない。解放?自由?場所?そんなの関係ない。私は既にとても幸せだったよ。」

 

 オール・フォー・ワンはミスなどしていない。むしろ思惑通りとまで思っていたほどだ。予想外だったのはローレルがただ単に自分自身を受け入れたというだけの話だった。普段から聞こえるあの声も初めて目覚めた時に頭に入ってきたからいつまでも聞こえていると思っていた。

 

 しかしいつまでも聞こえていたのは自分の覚悟が足りなかったからだと理解した。自分の気持ちに蓋をして分かっているつもりになっていた。ヒーローを目指す、この覚悟ができた直後は声が収まっていた。だが何気なく言われた化け物という言葉によって再び綻びが生じてしまっていた。

 

「私はヒーローになる。それは変わらない。でもそれを再確認できた、そこだけは感謝してあげてもいいよ。」

 

 会話の中で生まれた覚悟がオール・フォー・ワンを上回った。ただそれだけのことだった。

 

『フッフッフッ・・・ハッハッハッハッ!!君はなかなか面白いね!そう言われると・・・本気で僕の色に染めたくなってくるよ。』

 

 突如低くなった声にその場にいた全員の背筋に汗が流れる。普段から声を聞いている死柄木でさえ若干体が震えているようにも見える。中には倒れている者まで。だがローレルはその声に怯むことも、目を背けることもなく真っ直ぐどモニターみ睨み続ける。

 

『良いね良いね!最高だ!本当に最初に君を手放したことが惜しいよ!!いや、こう成長できたのは外にいたからかな?だとすれば予定調和もいいところだ!ドクター!』

 

『やっとワシの出番か。お前をここに連れてくるのもだいぶ時間がかかったが今ようやくワシの目的を果たすことができるわい。黒霧。』

 

「了解しました。」

 

 渋めの声から突然お年寄りの声がが流れ始める。その声がローレルには聞き覚えがあった。ポッドから脱出するほんの少し前に痛む頭の合間から聞こえてきた声。

 

「もしかしてあなたは・・・」

 

「察しがいいな。お前は作ったのはワシじゃ。」

 

 自分が生まれたのがヴィラン連合のおかげとはいったいどういう皮肉か。そんなことを考えていると黒霧がヘルメットのようなものを持っておりそれをローレルへとかぶせて落ちないようにしっかりと止める。

 

『お前にはもう一度悪意を流させてもらう。あの時はお前が壊れないように徐々にパワーを上げていったが今回はその必要がないからな。』

 

 その声の直後頭に電流のようなものが流れ始める。ただの電気であれば耐えることなど簡単だった。しかし今流れてきているのは脳内に直接流れているもの。久しぶりに感じる自分が自分ではなくなっていくという感覚に恐怖を感じてしまう。

 

「クッ・・・こんなの・・・」

 

『ほう?やはり精神的だけでなく能力的にも成長しているようだな。ならばパワーを最大にしても問題ないな。』

 

「ぐああぁぁぁ!!!」

 

 今まで感じたことのないような痛みが頭へと流れ込んでくる。時折飛んでしまいそうな意識が痛みによって無理やり引き戻される。

 

(自分をしっかり持たなきゃだめだ!!油断したら一気に持っていかれる!しっかり耐えろ!!)

 

『その元気がいつまで続くか見ものじゃわい。』

 

「話は終わったな。戻るぞ。」

 

「にしても先生の話が通じないとはお見それしまたね。」

 

「信念を持つ相手だったってだけだ。」

 

 そう言って部屋を出ていくヴィラン連合。名無しの自称弟は一度ローレルを見た後に微妙な顔をした後すぐに部屋を出て行ってしまった。取り残されて部屋の中で聞こえるのは電気が流れる音とローレルの声のみだった。

 

 

 

 そしてその日の夜、予想通り雄英高校の会見が行われた。その場にいるのは根津、イレイザーヘッド、そしてヴラドキングの三人。

 

『雄英高校は今年に入って四回、生徒がヴィランと接触していますが、今回生徒に被害が出るまで各ご家庭にはどのような説明をされていたのか、また具体的にどのような対策を行ってきたのかお聞かせください。』

 

「見ろよこれ。前者は知らないけど後者に関しては知ってるはずだろ?わざわざこんなこと聞かなくていいはずなのにだな。間抜けすぎて笑えてくる。」

 

 結果見ていない大衆はその答えに批判的になってしまうのは仕方がないことだろう。事実セキュリティの強化は行われていたがそんなことなど知らないのだから。テレビを見ていた死柄木は爆豪へと向き直る。

 

「不思議なもんだよなぁ。なぜヒーローが責められる?奴らは少し対応がずれてただけだ。守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つはある。お前らは完璧でいろって?現代ヒーローっていうのは堅苦しいな、爆豪くんよ。」

 

 守るという行為に対価が発生した時点でヒーローではない。ならばヒーロー、正義、それらは一体なのなのか?この社会は正しいのか?それらを考えさせるのがヴィラン連合の目的であると。

 

「俺たちは勝つつもりだ。君も勝つの好きだろう?荼毘、拘束外せ。」

 

「は?暴れるぞ?こいつ。」

 

「いいんだよ対等に扱わなきゃな、スカウトだぞ?それにこの状況で暴れて勝てるかどうか、わからないような男じゃないだろう?雄英生。」

 

 それを聞いて荼毘はトゥワイスに外すように指示を出す。指名されたトゥワイスも言葉が反転しないほどに嫌だったようで一度拒否をするも荼毘の様子が変わらないことから諦めて素直に拘束を外す。

 

 しかし死柄木の考えとは裏腹に拘束が外れた瞬間爆豪はトゥワイスを蹴り飛ばし死柄木に向かって爆破を放った。

 

「黙って聞いてりゃだらだらよ。馬鹿は要約できねぇから話がなげぇ。要は嫌がらせしてぇから仲間になってくださいだろ?無駄だよ。」

 

 そう言って思い出すのは己が幼かった頃にテレビで見たオールマイトとヴィランの戦い。どんな危機的状況でも最後には必ず勝つその姿を。

 

「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこはもう曲がらねぇ。」

 

 どうやら爆豪を懐柔するのは十数年ほど遅かったようだ。爆豪の心にはオールマイトへの憧れしかなく、他のことなど全くと言っていいほど入ってなどこなかった。

 

『雄英高に優秀な成績で入学。体育祭優勝。しかし決勝で見せた粗暴さや表彰式に至るまでの態度など精神面での不安定さも散見されています。もしそこに目をつけた上での拉致だとしたら、言葉巧みに彼を懐柔し悪の道に染まってしまったら、未来があるという根拠をお聞かせください。』

 

『爆豪勝己の粗暴な行動については、教育者である私の不得の致すところです。ただ体育祭の一連の行動が彼の理想の強さに起因しています。誰よりもトップヒーローを求めてもがいている。あれを見て隙と捉えたなら、ヴィランは浅はかであると考えます。』

 

『ではもう一人の生徒であるローレルケントという生徒に関してはどうでしょう。体育祭では準優勝をした彼女には精神面は安定しているようでしたがそのままヴィランの手に落ちるという可能性は?また連れ去られた根拠も知っていることがあればお話をお聞かせください。』

 

『ローレルケントが連れ去られた理由はお話ししかねます。ですがこちらもまたヒーローを志す優秀な人物であることは確かです。それに我々もただ手を拱いているというわけではありません。』

 

 テレビから聞こえる声を聞いて爆豪は笑みを浮かべる。

 

「言ってくれるね雄英も先生も。そういうこったクソカス連合。」

 

 あの規模の襲撃をかけておいて拉致されたのは爆豪とローレルのみ。仲間になれというスカウトも概ね相澤の予想通り。自分はヴィラン連合にとっての重要人物であれば殺される可能性は低い。考えが変わらないうちにローレルを探し出し脱出を図るというのが爆豪の考えだった。

 

「言っとくけど俺はまだ戦闘許可取れてねぇぞ!」

 

 周りのメンツが騒ぐ中死 攻撃された死柄木は冷静だった。周りを鎮めて外れたマスクを再び装着する。

 

「こいつは大切なコマだ。出来れば少し耳を傾けて欲しかった。君とは分かり合えると思ってた。」

 

「分り合うだ?ねぇわ!」

 

「仕方ない。ヒーロー達も俺らの調査を進めていると言っていた。悠長に説得などしていられない。先生、力をかせ。」

 

 そう言ってモニターへと声をかける死柄木だった。

 

「先生?てめぇがボスじゃねぇのかよ。」

 

 死柄木が先生と呼ぶ人物がいるという事実に爆豪はその裏に誰かがいると察した。

 

「黒霧、コンプレスまた眠らせておけ。」

 

「ここまで話を聞かないなんてな。逆に感心するぜ。」

 

「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」

 

 強気の姿勢を崩さずに反抗し頭の中では冷静に思考する。個性を使いたいがワープが邪魔で最大火力が出せない。隙を作ってローレルを探しにいく時間を稼ぐことが出来ないかと。そんな緊迫したこの空間の時間を一瞬だけ扉のをノックする音が止めた。

 

「どうも、ピザーラ上野店です。」

 

 その声に誰しもが動けないでいた。こんなタイミングで来客が、それもピザが来るなど誰も予想していないからだ。

 

「SMASH!!」

 

 しかしその直後壁が破壊されオールマイトが突入してきた。すぐに死柄木が黒霧にワープゲートを出せと指示を出し逃げる準備をする。しかし開けた穴からヒーロー、シンリンカムイが現れ枝のような腕がヴィラン達に絡みつき体を拘束する。

 

 炎を操る荼毘が体に絡み付いた木をよらそうと個性を使おうとするがそこへグラントリノが足裏から出るジェット噴射を使い突入しダビの頭を決定式を飛ばす。

 

「もう逃げられんぞヴィラン連合、何故って?我々が来た!!」

 

 

 

 




 修正の報告いつも本当に助かっています。細かい部分の他にもキャラクターの名前を間違うのは思わず笑ってしまうほどひどいと思いました。報告をくれた方、またそれでも読んでくださっている皆様にも感謝と同時に謝罪をいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。