ヒーロー達がヴィラン連合の隠れ家を襲撃している中、ローレルはずっと放置されていた。頭にヘルメットをかぶされながら。
「ぐ・・・」
今までずっと耐えてはいたが消耗は少なくない。痛みも少しずつ慣れてきてはいるもののそれを補って余るほど体力は失われている。
そんな中突然自分の周りに泥のようなものが現れ始める。痛みに耐えながらそれがなんなのか見ているとローレルの体は泥に覆われていきその場から姿を消した。
気がつけばどこかの住宅街。頭のヘルメットも外れており痛みが流れてくることはないが、それでも今は頭がガンガン鳴っていてとても動ける状態ではなかった。
周りにはヴィラン連合と爆豪、そしてスーツを着たゴツいマスクのみ。オール・フォー・ワンだ。爆豪はローレルへと声をかけているがローレルの耳には何を言っているのが聞こえてはいなかった。
「また失敗したね弔。でも決してめげてはいけないよ?またやり直せばいい。こうしてまた仲間を取り戻した、この子もね。君が大切なコマだと考え判断したからだ。いくらでもやり直せる。そのために僕がいるんだよ、すべては君のためにある。」
そう言って死柄木へと手を伸ばす。あの日、自分が全てに絶望した時に手を差し伸べてくれた時と同じ光景を死柄木は見た。
同じ場所で八百万の発信器を持って緑谷、轟、飯田、切島、八百万が恐怖に耐えていた。死柄木が先生と呼ぶ人物、オール・フォー・ワンは能無を取り押さえにきたヒーローを一撃で吹き飛ばしたのだ。その圧倒的な力とカリスマ性、男が放つ威圧感に押されて動けないでいた。
ここで動けなければ今までと変わらない、その思いで頭の中で必死に考えるが打開策が出てくることはない。緑谷が塀を乗り越えて爆豪の元へと動こうとしたが飯田によって服を掴まれ止められた。
飯田と八百万は緑谷、轟、切島のお目付役としての同行だったため今止めなければここにきた意味がない。今度は自分が守るという思いでこの場に立っている。
「やはり来てるな。」
オール・フォー・ワンがそう口にすると、緑谷達は自分たちの存在がバレたのかと思い心臓が飛び跳ねる思いをした。しかし実際はそうではなく、空中から猛スピードで落下してくるオールマイトへの言葉だった。
「すべてを返してもらうぞ!オール・フォー・ワン!」
「また僕を殺すか、オールマイト!」
オールマイトのパワーを正面から受け止めるオール・フォー・ワン。地面はその衝撃に耐えられずに少しずつ陥没してしまい、周りにいるヴィランや爆豪、ローレルは吹き飛ばされてしまう。
オールマイトは体の衰え、オール・フォー・ワンは頭にかぶった大きなマスク。本当のところはお互いの体は、以前戦った時よりも大きく弱っている。
「六年前と同じ過ちは犯さん。爆豪少年とケント少女を取り返す、そして貴様を今度こそ刑務所にぶち込む。貴様の操るヴィラン連合もろとも!」
その声でオールマイトは勢いよく飛び込んでいく。しかしオール・フォー・ワンが手をかざすと腕が膨れ上がり空気砲の要領でオールマイトを吹き飛ばしていく。
二人が戦っている間に爆豪は煙に紛れてローレルの元へと向かっていた。最初にこの場所に爆豪が現れてから全員の位置は把握しており吹き飛ばされた時も大体の方向は見ている。
足元に注意しつつも急いで進んでいくと瓦礫の上でうつ伏せに倒れているローレルはの姿を発見する。
「おいクソ金髪!起きろ!」
「・・・爆豪・・・くん・・・」
体を起こせば胸が規則的に動いているため呼吸はしているが、その表情はぐったりしているのがわかる。自分の爆発が効いたり効かなかったりとよく分からないローレルだが、ここまでぐったりしているところなど見たことがなかった。
「ここは逃げろ弔、その子たちを連れて。黒霧、彼らを逃すんだ。」
そう言ってオール・フォー・ワンは指先を伸ばし黒霧の体へと突き刺す。すると気絶しているはずの黒霧の体はからはモヤが漏れ始めワープゲートが現れる。オール・フォー・ワンが持つ数多くの個性の中の一つである個性強制発動だ。
「常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ!」
「逃さん!」
空中に飛び上がり自分の背後へと拳を振るいその勢いでオール・フォー・ワンへと飛び込む。再びぶつかる両者の姿を死柄木は見ていることしかできなかった。
「行こう死柄木!あのパイプ管が、オールマイトを食い止めてる間にコマもってよ!」
コンプレスの声でヴィラン連合全員の意識が爆豪とローレルへと向く。自分一人でも厳しい状況の中での足手まといがいるのだ。余裕などあるはずもない。
「めんどくせぇ!」
一人でいたのなら自由に動き回ることで個性の発動を抑えながらある程度の時間なら耐えられる。しかし自分一人動き回るだけではローレルが捕まってしまうため惜しむことなく爆破を使用する。
(こいつら、さっきとは違って今度は容赦なく捕まえてきやがる!とにかくクソ仮面、あいつだけは近寄らせるわけにはいかねぇ。)
トゥワイスのメジャーが煙の中から現れ襲いかかってくるがそれ以外には脅威らしい脅威はない。ならば無理をすれば何かしらの手を考える時間は稼げると判断し爆破を続ける。
オールマイトも爆豪を助けるために向かうがそれをオール・フォー・ワンが許さない。時には動きを封じ、時には吹き飛ばし爆豪が捕まるまで妨害を続ける。
オールマイト自身も近くにいる爆豪とローレルの身を案じて最大威力を出せないでいた。爆豪もそれを理解している。だからすぐにどうにかできないかと考え続けている。
「爆豪くん・・・逃げて・・・」
「うっせぇ黙ってろ!俺はヒーロー志望なんだよ!今のてめぇを置いて逃げたらヒーローなんて名乗れねぇ!」
爆破を続けながらローレルを守るようにして戦う爆豪。戦って勝つのが爆豪のヒーロー像だったが、この時初めて誰かを守るという意識があった。そのことを本人は気がついていない。
そんな時、突然一部の壁が破壊される。そちらへと目を向ければ緑谷、飯田、切島の三人だった。助けにでも来たのかとその場にいた全員が思ったが、突如彼らの足元から氷が空へと向かって生成される。
氷を足場にして空中に飛んだ三人は戦場の真上を飛んでいく。オール・フォー・ワンがそれを妨害しようと指先を伸ばすがオールマイトがさらにそれを防ぎ生徒達を守る。先ほどまでとは全く逆の行動とも言えた。
「来い!!」
切島の声が戦場全体に響いた。死柄木がすぐに爆豪へと手を伸ばすが、動き出すのは爆豪の方が早かった。
「てめぇ離すんじゃねぇぞ!!」
地面に伏しているローレルを担ぎ爆破を使って空中へと飛んだ。向かう先は切島が伸ばした手。入学してから対等な関係を続けていた切島の声だったからなのか、爆豪は素直に伸ばされた手を掴んだ。
「馬鹿かよ。」
それを見てヴィラン連合もただでは返さない。マグネの個性である磁力を使って追いかけようと画策する。自身のの半径四、五メートルの人物に磁力を与える。自分には無理だが全身か一部か、またその力の調整も可能となる。
スピナーとコンプレスが体を合わせて二人に磁力を付与するとスピナーの体に反発してコンプレスの体が勢いよく空へと飛んでいく。人を捉えるにはもってこいのコンプレスが五人に迫るがオール・フォー・ワンにやられたMt.レディが目を覚ましており体を巨大化させて身を挺してコンプレスを撃ち落とした。
コンプレスが失敗したがまだ間に合うと二人目を飛ばそうとするが、突然現れた高速で動く何かによって全員の顔が蹴られる。その人物はグラントリノ、緑谷の職場体験先でありオールマイトの師匠にあたる人物だった。
「なぁあいつ緑谷!ほんとますますお前に似てきとる、悪い方向に!」
「しかし情けないことにこれで心置きなくお前を倒せる!オール・フォー・ワン!」
オールマイトとグラントリノが背中合わせで戦っている中脱出した四人はすでに地面へと着地しており全員無事に脱出することができていた。
「ケントくん!大丈夫か?!一体どうしたんだ!」
「クソ金髪はあそこに連れてこられた時からこうだった。それまで何かされてたな。」
「私は大丈夫・・・」
「そうは見えねぇって!」
爆豪の背から降ろされ地面に仰向けに寝かされるローレル。服装に傷や汚れなどはなく林間合宿の時の服装のまま。どこかしらに傷があってもおかしくはないのだが、気が緩んでか誰も気がつくことはなかった。
「とにかく無事でよかった。急いでここから離れ・・・」
「そうはさせない。」
「「「!!!」」」
突如現れた男が緑谷の言葉を遮った。声のする方を向くと空中から五人を見ている身長の高い黒髪の男。切島、爆豪はその人物を見たことがあった。
「おめぇケントの弟じゃねぇか!」
切島がその男に近づこうとすると爆豪によって止められる。
「てめぇこいつをどうするつもりだ。」
「勿論殺す。」
その言葉に戦慄が走る。弟という存在がいることは林間合宿に向かう途中のバスで聞いていた。実際にあったことのある切島と爆豪がそういうのなら間違いはない。だがその弟がその姉を殺しにきたなどそう信じられることではない。
「どうして!君のお姉さんじゃないか!」
「DNAで見れば繋がりはある。本当のところは弟というのも怪しいところだがな。」
そう言って男は近づいてくる。切島が庇うように立ち全身を硬化して構えるが、男の拳が切島へと当たるとその場から切島の姿が消えた。その直後緑谷、爆豪、飯田の背後から大きな音が聞こえてくる。振り返れば瓦礫の中で意識を失い気絶している切島の姿だった。
(何にも見えなかった・・・)
「見たところ硬くなってたようだから少し強めに殴った。おそらく死んでない。」
そう言ってローレルの元へと歩く。その管誰しもが動けないでいた。圧倒的な恐怖を先ほど感じて動けなかった。今度はそれを間近で体験しているためか体が震えてしまっている。
(また、動けないのか?!怖くて何も出来ないのか?!僕の個性は人を救うためにものじゃないか?!)
倒れているローレルへと手を伸ばしつかもうとするがその腕を緑谷が掴む。恐怖に怯え震えながらも男の腕を掴み連れて行くのを阻止しようとしたのだ。
「私は大丈夫。」
だが男は簡単に緑谷の腕を外す。ローレルが短い言葉を残しそのまま頭を掴んで思い切り空へと投げつけられる。痛みも引き始めようやく動けそうと思っていたところで突然空中に身を投げ出される。口も回るようになり体も自由に動くようにはなった。あれ以上続けられればどうなってたかは不明だが。空中で静止すれば男はすぐに追いついてくる。
「・・・私はできれば戦いたくなーなんて。」
「お前にはなくても俺にはある。」
そう言って男の目は赤く光始め、それを見たローレルの瞳も赤く光る。お互いの目からは同時にヒートビジョンが放たれぶつかり合う。
「っち!」
ローレルがわずかに押しており、男は舌打ちをしてヒートビジョンを打ち消す。飛び込んでくる男の拳を受け止めながらもどうにか話で解決できないかを模索する。
「あなたの価値を証明する、確かそう言ってたね。それは誰に?」
「・・・生まれた直後にドクターと名乗る人物が俺を見て言った。劣化、下位互換だと。先に作られたお前の方が優秀だった。しかしお前は保護され連れて行かれ、お前を捉えるために俺は生み出された。奴は完成した直後の出来栄えしか見ていない。いつも俺はお前よりも下だと言われ続けた。だからそれを覆す!」
ローレルに掴まれていた腕とは反対の手で引き剥がすと思い切り顔面を殴りつける。怯みはしたもののローレルもすぐに顔面を殴り返し反撃する。
「価値の証明は確かに必要だと思う。でもそれは私を殺すことでしか証明できないの?そのドクター一人を見返せればそれでいいの?」
「うるさい!」
男はローレルの腕のを掴むとジャイアントスイングの容量で回転し放り投げる。地面へと叩きつけられる。そこへ落下してきた男がローレルの上へとのしかかり殴りつける。
「お前は恵まれてたんだよ!俺とは違ってな!」
馬乗りになった男をどかすため脇腹を殴って吹き飛ばす。落下した場所は先ほどまで爆豪と共にいた住宅街の近くで、爆音が鳴り響いている。
(オールマイト・・・)
ローレルと爆豪を救助が始まってからそこそこの時間が経過している。そうでなくとも作戦会議などがあれば余計に時間を要しているはずなのだ。下手すればすでに活動限界一歩手前までまきている可能性がある。
(どうか無事で・・・でも今は!)
瓦礫の中きら勢いよく飛び出してくる男の拳を掴み、自分の拳を男へと放つがそれも掴まれる。腰を落として押され負けないように体全体で押し返す。男の言っていたことが本当なのであれば純粋なパワーやスピードはローレルの方が優れていることになる。ならば負けはしない、そう思っていた。
しかし男は地に足をつけて踏ん張るローレルとは違い空中からのし掛かるようにして押してきた。その重さに地面が耐えきれずに陥没していく。足をつけるのをやめて押し返そうとすると少しずつ男の体を押し上げていく。やはり純粋な能力で言えば負けることはない。
お互いの力のぶつかり合いが起こっている中で男は突然力を抜いた。突然力が抜けたことにより空中へと飛び出してしまう。その勢いを利用して空中へ投げつけ追いかけて空中で殴りさらに空へと飛ばす。
「俺だって奴らに従いたくはない!だがそれが出来ないからこうしてるんだ!あの場からすぐに逃げ出せたお前が羨ましいと思ってるよ!」
空中で静止し向かってくる男をじっと見つめる。目の前で停止する男の顔は悲痛に染まっておりその表情で本当はやりたくなんてないというのがすぐに分かった。
(これだけの力があれば逆らうことだってできるはず。どうして従う必要が?)
「疑問に思ってるなら?どうして従ってるのか。」
「!・・・まぁ、ね。」
「そんな顔をしてれば誰でもわかる。」
的確に当てられたことにとても驚いたローレル。そんな顔と言われるのはつまり目の前の男と同じようにローレルも顔に出やすいのかもしれない。今まで言われたことなどなかったが。
「・・・俺の体にはクリプトナイトが埋め込まれている。」
「そんな!」
「本当だ。今は完璧に遮断されていて影響はないがオール・フォー・ワンの合図一つでその外装は崩れ剥き出しになる。あとは分かるな?」
言わなくてもその先は嫌でも分かる。同じようにして作られたのであればもしかして自分にもあるのかと考えた。
「ああ、ちなみにお前の体内にはないらしい。お前が逃げたからこれを追加した、そう言っていた。」
つまり自分が連れ出されたから目の前の男、自称弟は従わされている。そこに自分の存在価値の証明を重ねることで目的を合わせようとしていたのだ。
「私のせいで・・・?」
「お前はいいよな、助けてもらえたんだ。だが俺は違う。誰も助けになんてきてくれなかった。壊されても文句はないだろ?」
(私は助けられた。でもこの人は誰も助けてくれなかった。きっと助けて欲しかったんだ。)
手を握り締め怒りを抑える。何も知らなかった、何も出来なかった。ヒーローになると言っておいて自分と同じ境遇の者を助けることすら出来ない。そんな相手の言葉をどうして聞くことができるだろうか。
「戦うしか、ないの?」
「ああ。せめてオール・フォー・ワンがいなければな。」
「死ぬことはないから?」
「そうだ。別に自分の存在価値の証明がそんな狭いことでしかできないなんて思ってない。だが死なずに目標を達成する、今取れる選択肢がこれしかないってだけだ。」
その言葉を聞いてローレルはまたしても驚いた。存在価値の証明する方法にこだわりがないというところに。それはつまり命の危険さえなければ今戦う必要はないということ。
「なら、オール・フォー・ワンを倒せれば良いんだね。」
「なに?」
オール・フォー・ワンがやはり全ての元凶。ならばそこを止めれば解決される。オールマイトが今戦っているが負けるとは微塵も感じてはいない。
「あいつがいなければ君は自由になれる。なら君は絶対に助かる。」
「無理だ、あいつは社会が産んだモンスターだ。誰も敵わない。」
「一人だけいるでしょ?そのモンスターに挑む英雄が。」
「・・・オールマイトか。なるほど、それもあるかもしれないな。」
男は睨んでいた瞳を閉じて構えを解いた。それはつまり戦う意思はないことを示す。
「信じて、良いんだな。」
「勿論。No. 1だからね。」
ローレルがオールマイトを信じ、その二人を男は信じた。こうして二人が争うことはなくなった。
星明かりに照らされながら二人は街を見下ろした。片方はオールマイトの勝利を信じて、片方は元凶が潰れることを願って。思いに違いはあれど願いは同じだった。
だが地上からそれをじっと見つめる怪物がいる事に二人は気付いていなかった。
誤字、脱字が多いです。申し訳ありません。あと少し忙しくなるので少しの間投稿できなくなります。ご容赦ください。