(急いで戻らないと!)
子供を預けたローレルは警察の声を聞こえないふりして先ほどの場所まで戻る。
(まだあいつが戦ってる、その筈なのに・・・どうして静かなの?)
攻めているにしろ守っているにしろ戦っていれば大きな音がなる。ドゥームズデイのパワーは凄まじく拳を振るうだけでビルが簡単に倒れてしまうほどなため全く音がないというのはおかしい。
(まさか・・・いや、そんなわけが。)
頭をよぎるのは最悪の光景。身近で誰かが死ぬと言う感覚がわからないためどうしてもその可能性を捨て去ってしまう。どこかで都合の良いよう考えてしまうのだ。
さっきまでいた場所に戻ればそこにはドゥームズデイが立っており、他には誰もいない。視線の先をじっと見るばかりで今立っている場所から動こうとしない。
その方向へと目を向けると仰向けになって倒れている男が一人。すぐにその場へと降り体を抱き上げる。まだ体は暖かく血なども流していなかったため生きていると思った。だが胸は一切動かず身動ぎ一つしない。
「嘘・・・」
心臓は停止しており呼吸は既にしていなかった。体がまだ暖かいのもつい先ほどまで生きていたことを教えてくれる名残でしかなく、今となってはただ冷たくなっていくのを待つだけだった。
自然と流れる涙。仲が良かったなんてこともなく、むしろ殺されかけた。しかし本人も譲れない思いというものを持っており一つの信念があったのだ。そう考えれば到底悪い人物だとは思えなかった。だが感じたことのない喪失感が心を覆い胸を締め付ける。
「ごめんね・・・私のせいで・・・」
生まれた直後に逃げたからか、それとも庇わせてしまったことか、何に対して謝っているのか自分でもわからなかった。ただ押し寄せる悲しみと後悔を吐き出してしまいたくなった。ローレルが謝ることではないのかもしれない、自己満足なのかもしれない、それでも謝らずにはいられなかった。
抱き上げた体を地面へと流してドゥームズデイのいる方向を向く。ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってくる。それに対抗するようにローレルもドゥームズデイへと歩き出す。
(命を奪うのはヒーローのする事じゃない。)
ヒーローたちが力を合わせればドゥームズデイは倒せるだろうか。
(ヒーローは目指せなくなるかしれない。それでも・・・)
ヴィランたちが触発されて暴れ出す可能性だって存在する。
(命を奪ってでも止める!!)
ドゥームズデイへと飛びその巨大な体に拳を打ち込む。地面に跡を残しながら後ろへと下がるのを耐え両手を合わせてハンマーを作り上から叩きつける。地面に叩きつけられそうになるのを我慢してそれでも止まらず、今度はドゥームズデイの体を持ち上げて空へと登る。
都市部では被害が大きいため被害がなさそうな場所へと運ぶためだ。しかし暴れるドゥームズデイの拳がまともに入り体を掴む手が緩む。その隙をついて体を掴むと思い切り拳を叩きつけ一気に地面へと落下していく。
地面に体をぶつけながら転がる。ビルへと衝突した事で勢いも収まり自由に動けるようになる。全身が痛むが今はそんなことを気にはしていられない。走ってくるドゥームズデイの姿を確認して急いでヒートビジョンを放つ。それと同時に向こうからも同じ赤い熱線が放たれぶつかり合った。相殺し合っているヒートビジョンだがドゥームズデイの方が威力が高く少しずつ押され始める。
「この!」
もはや疲れなど気にせず威力を最大限に上げて押し返すも、それでもドゥームズデイの熱線の方が威力が上のようで対して押し返せないでいる。
「がああああああああぁぁぁ!!!」
吠えたと同時に一気に威力が増しヒートビジョンを食らうローレル。再び体が吹き飛ばされる。背中を強打するが急いで起き上がり再び向かおうとするが、ドゥームズデイの周りに電気のようなものが走っているのが見える。
「・・・?」
疑問に思ったその直後、ドゥームズデイを中心に凄まじい爆発が起こり凄まじい衝撃が放たれ周囲を巻き込んでいく。その衝撃に吹き飛ばされないように地面に手をついて耐えようとしたが、先ほどのローレルが助けて報道ヘリがその衝撃波に飲み込まれようとしていた。
すぐにヘリへと飛び機体を下から持ち上げてその場から飛んで離れる。ヘリに乗っていた報道陣は突然のヘリの挙動に驚きパニックになっていた。迫ってくる衝撃はが今か今かと背後から追いかけてくるその様子を見て冷静になれるほど肝は座っていなかった。
ようやく衝撃も収まり辺りを見渡せば周りにあったビルは殆どがなくなっており世紀末のような光景が広がっていた。被害の及ばなかった場所へとヘリを下ろす。
「分かったでしょう、一歩間違えば死んでしまうと言うことを。今度こそすぐに逃げてくださいね。」
「でも・・・は、はい!」
ローレルのただならぬ様子に完全に萎縮してしまった報道陣達はどうにか言い訳をしようとしたがすぐに元気の良い返事をした。それを聞いて本当かと怪しみながらもすぐにドゥームズデイの元へと戻る。
もしさっき助けた少年のような逃げ遅れた人がいたとすればおそらくは無くなってしまっているだろう。助けられなかったことを嘆きそうになるが全部終わってからだと自分に言い聞かせた。
向かってくるドゥームズデイ、両者が拳を振りかぶり同時にそれを振り抜くと綺麗に二人とも食らう。衝撃同士がぶつかり合いあたりには再び爆発が起こる。しかし体力が限界に近いローレルが今の一撃を交わしたことであることに気がついた。
「向こうも・・・消耗を?」
明らかに拳のキレが悪くなっていた。分かりづらいが疲労とダメージは確実に蓄積されているのではないかと考えた。とはいえ向こうだけが消耗しているというわけではない。視界がぐらりと揺れ一瞬足から力が抜け体が揺れる。
ドゥームズデイはその隙を見逃さず距離を詰めると上から叩き潰すようにして拳を振り上げる。咄嗟に防御の態勢に入り攻撃を防いだ。しかしその次の下から蹴り上げるように伸びてくる足をもろに喰らってしまう。
鋭い痛みに襲われるが歯を食い縛り逆にドゥームズデイを殴り返す。形も何もない大振りの殴り合い。互角の戦いを繰り広げるもローレルは足をはらわれそこで生まれた小さな隙を突かれ足で地面に叩きつけられる。意識が飛び起きることができないローレルへと向けて右手の甲から伸びたトゲを突き刺そうと振りかぶろうとしたそんな矢先
「ケントさん!」
フルカウルを纏った緑谷が現れドゥームズデイの身体に拳を打ち込み、その反対側からは切島が蹴りをいれる。ローレルへと向いていたドゥームズデイは近くにいた緑谷へと狙いを定めて潰そうとするがそこに飯田が現れ緑谷を抱えてその場から離れる。そこに爆豪の爆破による目眩しを使い全員が無事に退がる。
「全然効いてねぇぞ。」
「やはりケントくんを助けて逃げよう。」
「っち!」
自分たちでは敵わない、そのためプロに任せて急いで逃げようとするが煙を払ってドゥームズデイが姿を表す。消耗をしていても緑谷たちの攻撃は効いていなかった。
「そう簡単に逃してはくれなそうだね。」
「ああ。全員気を付けろ、気を抜けば一瞬でやられるぞ。」
「俺に指図すんじゃねぇ!」
爆豪が爆破を使い目眩しと攻撃、緑谷と飯田がドゥームズデイの周りを走って撹乱、できた隙を切島が叩くと役割を分担しそれぞれが出来ることをしてどうにか好きを作ろうとしていた。そんな様子を朦朧とした意識の中でローレルは見ていた。意識が飛んでいつの間にかクラスメイト達が戦っていたため驚いた。
最初は四人の連携に戸惑ったドゥームズデイだったが少しずつ対処が追いつくようになると、逆に四人に危ない場面が訪れ始めるようになった。
(起きなきゃ・・・みんなが危ない・・・)
ドゥームズデイが緑谷に狙いを定め近くの車を投げつける。ドゥームズデイの拳が緑谷の体をかすり、それに動揺して態勢を崩してしまう。
「緑谷くん!」
飯田の呼ぶ声で状況の不味さが頭の中にクリアに入ってくる。その姿を見てローレルの意識は覚醒した。動かない体に鞭を打ち地面にしゃがみ全身に力を込めて全力で地面を蹴りドゥームズデイへと飛び出す。
(もっと早く!もっと、もっと・・・もっと!!)
今までにない速度でドゥームズデイへと向かっていくローレル。
「はあぁぁぁぁ!!」
わざと声を上げることで意識をこちらへと向けさせる。考えた通りドゥームズデイはこちらへと振り向くがそれもすでに遅く目の前にはすでにローレルの拳があった。
全力の速度を全て拳に乗せたパンチがドゥームズデイの顔面へと直撃する。その瞬間衝撃波が辺りを襲い煙が巻き起こる。
ドゥームズデイに捕まっていた二人も手が緩んだことで大事に至ることはなかった。
「どうなった?!」
「知るか!」
以降音はなく静寂が辺りを支配する。少しずつ晴れる煙の中で最初に目に映るのは地面に倒れているドゥームズデイ、そしてその近くで立っているローレルの姿だった。
「たお・・・した?」
「ああ、そうみたい・・・!」
緑谷の声に反応した飯田だったが言葉の途中で息を飲む。不思議に思い飯田の顔を覗き込むがその表情は変わらない。少し離れて立っている切島と爆豪の方を向くも、切島は飯田と同じ表情、爆豪は視線を外し手を握りしめている。不思議に思い視線の先であるローレルの方向へと目を向ける。そしてその光景を見てどうして三人の表情が嬉しそうでは無かったのかを理解した。
「う・・・そ・・・」
煙でよく見えなかったがローレルの背中には本来あるはずの無いトゲが生えており赤い液体が流れていた。ドゥームズデイのトゲが胸を貫いていたのだ。立っていたのではなくトゲが引っかかった状態で固定されているというのが正しい。
よろよろと歩きながらローレルへと近づいていく。視界は霞み頭がガンガンと鳴っていたが今の緑谷はそんなことを気にしていられる余裕はなかった。しかし引っかかりが外れたのかトゲが吹き抜かれ体が倒れようとする。そこを緑谷が受け止めゆっくりと地面へと寝かせる。
「そんな・・・」
ポッカリと開いた穴からは夥しい量の血が流れ誰が見ても致命傷であることがわかる。広がり血溜まりを見て緑谷は涙を流す。とめどなく涙は流れローレルの体へと落ちる。
「ごめん・・・ごめん・・・」
ローレルに必死に謝る緑谷。自分が地面に倒れてさえいなければ助けようと飛び込んでくることは無かった。自分がしっかりとしていればこんな傷を負うことは無かった。自分を責めて謝罪の言葉を口にし続ける。だがそこでローレルが緑谷の手を優しく握った。
「ケントさん!?」
それに対して大きな反応をしてしまう。ローレルの顔を見ると、すでに目は見えていないのかどこを写しているのかは分からない。だがゆっくりとした動作で首を横に振る。
『緑谷くんのせいじゃないよ。』
そう言っている気がした。もはや耳も聞こえているのかも怪しく、生きていることすら不思議な状態でなお緑谷の言葉に反応するその姿に再び涙を流した。
(近くで緑谷くんが泣いてる。ヒーローは人々に不安を与えないように最後まで立ってなきゃいけないんだっけ・・・ヒーロー失格だね。)
声を出すことができず薄れていく意識の中でそんなことを考えていた。いつの間にか近くに来ていた三人もその姿を見て顔を歪める。
「ケントくん!死なないでくれ!僕は君に伝えなきゃいけないことがあるんだ!」
「おめぇのことはさっきテレビで見た!でも誰もお前のことを否定するような奴なんかいねぇよ!だってこんなすげぇヒーローだったんだから!」
「クソ金髪!てめぇとはまだ決着ついてねぇんだ!こんなところでくたばりやがったかぶっ殺すぞ!!」
心からの叫びが聞こえたのかにこりと笑った後緑谷の手を握る力が緩み腕が地面へと落ちる。それを見て命の灯火が消えたことを理解してしまった。
「あ・・ああ・・・ああああああああ!!!」
この日、四人は初めて親しい人の死というものを感じることとなった。
こうして上野区にで起こった大事件、後の上野事件は二つの地点で大きな被害を出しながらも収束した。オールマイトはオール・フォー・ワンを倒し収容、ローレルはドゥームズデイと相討ちとなり世間には大きな衝撃を与えた。
特に雄英生がヴィランの命を奪ったという点で多くの批判がもたらされたが、戦闘時の映像が残されておりそれを見た多くの人物がそれに対してさらに反発する事となる。オールマイトとオール・フォー・ワンの戦い以上の被害を出すような相手をむしろよく止めてくれたと感謝する人たちが圧倒的だった。
それと同時に批判したことを全員が後悔した。命をかけてまで戦ってくれた相手に罵声を浴びせるなど人として間違っているという声が多くなり、すぐに批判していた声は小さくなっていった。
だが嬉しく思う人がいるのと同時に悲しむ人がいるのもまた事実。A組と教師陣は素直に讃えることができないでいた。褒める対象がすぐそばにいたのに、その声も姿も見ることができなくなってしまったから。
一人の少女が与えた影響は小さいものでは無かった。悲しむ者、後悔する者、涙を流す者、新たに決意する者。それぞれが別々の反応を見せる。
(もっともっと強くなるよ。胸を張って大丈夫だって言えるように。)
人の死を間近で感じ取った緑谷は新たな決意を持った。緑谷はワン・フォー・オールを受け継いでから100%を出してよくボロボロになっていた。下手をすればこうして倒れていたのは自分だったかもしれない。自分がしていれば全く気がつかなかったが誰かが自分を傷つける姿を見るのがどれだけ辛いのかをその身をもって理解した。
(僕は今までは運が良かっただけだ。下手をすればこうなっていたのは僕だったかもしれない。次からは気をつけるよ。)
ヒーローの定義というものは曖昧だ。人の数だけヒーロー像というものは変化する。しかしいつの世になってもヒーローの本質が自己犠牲であることに変わりはない。一人の少女が身を挺して脅威を止めたその姿はまさしくヒーローだった。
強くなろう、それがA組全体が共通して思ったことだった。これからは誰も失わないように、自分の手で守れるように。涙はすでに止まっており、代わりに全員が大きな一歩を歩むことになった。失うことの悲しみが皮肉にも全員を一歩成長させた。
「みんなで立派なヒーローになるよ。だから見てて、ケントさん。」
自分の思いを告げる緑谷。空の向こう側で何となくローレルが笑ったような気がした。
まだヴィラン連合は存在している。大きな障害がたくさん残っており辛い場面が度々訪れるかもしれない。それでも頑張って全員で乗り越えていこうと決意を新たにした緑谷だった。
これにて一応完結です。忙しくなり始めていつ更新できるか分からないのでここで終了します。打切り感半端ないですがお許しを。