だがこれは幻影旅団による策略なのだ、彼らは蹂躙されたフリをしておびき寄せていたに過ぎない。素早く態勢をリカバリーすることなど容易いものだ。
しかし彼らが見た物は、狂気すら感じる念能力だった。
あれほどまでに高めた念は、本当に必要なのであろうか?
問われればBF団は答えたであろう。
『求め続ける事にこそ価値がある』
●逆転、あるいは……
ビッグバン・インパクトにより砕け散り、舞い上がる土砂。
その中でアタッシュケースの一部が、ナニカによって巻き上げられていく。幻影旅団のメンバーも似たような形で地面や岩壁に留まっていた。
「やったか? この高さから放り上げられたら連中だって……」
そう言いながらメンバーの一人が腕を回していた。
なに遊んでいるんだとは誰も言わない。それが強化系能力者である彼が持つ、判り易い条件なのだから。
自分達が同じ条件でもなんとかなるだろう。
だからこそ、この場所を万が一の逃走経路にしたし、当然無事だと判断して待ち構えているのだ。
「
「ハッ! だろうと思ったよ」
あの念獣が浮遊する篭手の力なのか、元に近い位置に浮かんでいる。
そこへ向けて鞭が伸び、セルバンテスが脱出を成功させたようだ。腕を回していた仲間は、先ほど殴り倒された仕返しをしようと獰猛な笑顔を浮かべていた。
ではもう一人は?
そう思った時、ありえない光景を目の当たりにしてしまった。
「嘘だろ……。あいつ、壁を走ってやがる」
「どんだけー? てか鹿かよ……」
最初はポンポンと壁を蹴っていたヒィッツカラルドだが、やがて態勢を立て直して壁面を疾走。
それも綺麗な壁などではない。断崖絶壁に相応しいゴツゴツとした岩場の壁を、斜め下に向かって走っていたのだ。
「でも、やっぱり間違いないね。あいつは行動の連続性が……って、どこに行くのさフェイタン!?」
「あいつ笑いやがった……! ブチ殺すに決まってるだろうが!!」
シャルナークが止めるのも有らばこそ、フェイタンは念で作られた糸から抜け出した。
自身も落下を始めると壁を蹴りながら態勢を整えていく。そして最後の最後で猛烈なオーラを発揮し、ありえない力で壁を抉ると態勢を強制的に整えたのだ。
掴んだ場所から指を離し、油断なく態勢を入れ替えるとそいつが待っていた。
「もしかしてハンターでも目指しているのかね?
「そんなものはクソ食らえだ。てめえはオレを舐めた。他に理由は要らねえ」
よくハンターでシングルだのダブルだのを能力者の指標にしている者が居る。
しかし、この二人はそんな者には興味はなかった。共に『何がハンターだ、オレの方が強ぇえ!』と思っており、そもそもラベルに興味などない。
だが我慢ならない物を挙げるとすれば舐められることだ。
ヒィッツカラルドとしては十傑衆を罠にかけ、出し抜いたと思われたら腹が立つから優雅に降下して見せた。もし誰も追って来なければ、その所作ため込んだオーラで上を真っ二つに切り割いてやるつもりだった。
それはフェイタンも同様だ。
『勝てないから逃げるんだろう?』とか『お前にはできないだろう?』と言われたような気がして、腹が立ったというだけだ。
「勝てる気で居るのかね? 時間潰しをするよりは、君の仲間を皆殺しにしておきたいのだがね」
「黙れ」
フェイタンはフードに指を掛けると一息に脱ぎ去った。
脱ぎ捨てたフードはバサリではなく、ドサリと鈍い音がした。それほどまでにフードの中には色々と仕込んでいたのだ。
そして軽快なステップでシャドーボクシングを始める。
今から戦うというのにその姿は滑稽。
だがしかし、体の中から滲み出る圧倒的なオーラを抜きにすればの話だ。
拳を振るうだけで天が割れ、舞散る埃がその様子を伝えるほどだ。踏み出せば足元の土砂が吹き飛ぶことで、大地が割れる程の威力を教えてくれた。
「変化系か。剣なし、お互い素手と言うのも良いね。少しギアを上げていこうか」
「黙れと言ったぞ、三下ぁ!」
怒りを暴力に変える能力、これこそがフェイタンひとつ目の発。
フェイントを多用し隙を突くトリッキーな軽戦士。その暗殺者めいた外面は偽りであり彼の本質は狂戦士だった。軽装のはずの一撃が、怒り共に爆発的な火力を持つのだ。
「ククク。十傑衆を三下呼ばわりとは。Aランク以上の能力者だと分類でもしてあげようか? お嬢ちゃん」
(っ腕を隠して……。クソが! どっちだ!?)
挑発に対して挑発返し。
そしてヒィッツカラルドは両手を背中で組んだ。
腕を隠すこということはフェイントか?
フェイタンは左右を判断するのではなく、自ら動くことでその選択肢を除外した。
残像すら生じる高速で相手の右から迫り、腕を狙った一撃。
防がねば肋骨を粉砕するコースを選び、自身の目は奴の左側を凝視しておく。
それに対して繰り出されたのは右肘。
最低限の動きで攻撃を留め、ゆっくりと左手を突き出したのである。ピっという軽い音に対しても油断せず、咄嗟に回避したのだが……。
「ぐう……? 馬鹿な。回避したはず」
「覚えておくと良い。同じ技だけれど、同じ撃ち方だと思うからそうなる。初速と弾着が違うんだ……このくらいね」
気が付けばフェイタンの脇腹が斬られていた。
ヒィッツカラルドが親指と人差し指を軽く広げて、僅かな差だと説明していた。どうやら速度特化の撃ち方らしいが、
「クソが。本気になりやがったってことか」
「ギアを上げていくといったろう? 私が敵を前に慢心する馬鹿だとでも思ったのかね?」
念の質そのものは追いつける算段が付いた。
だが戦いはそこからだ。同じ土俵に立つ『敵』ならば、ヒィッツカラルドが手を抜く必要はない。これまでが嬲り殺しにするだけの
「敵か……。敵ならば、殺さなきやなあ!!」
そういってフェイタンは笑う。
これほどまでに強い相手が彼を『敵』として認めたからか?
否、フェイタンは別にバトル・ジャンキーの類ではない。
自分の腕前が上がったこと、強さが自覚できたことなど
(殺れる。強いだけの相手なら、ぶっ殺してやれる)
旅団の仲間はスッキリした奴が多いので普段は合わせている。
だが決してフェイタンはそういう性格をしてはいない。溜め込まないし・後に引きずらないからクールに見えるだけで……彼自身は恨みや怒りに左右される性格をしていた。
「死ね!」
「できもしないことは口にしない方が良いと言わなかったかな?」
先ほどと同じように右側から攻め立てる。
同じように肘でブロックされるが、オーラを瞬間的に爆発させて威力を底上げした。無手で戦うのは、オーラの攻防移動よりも速い火力上昇にあった。こうなればもはや剣など重りに過ぎない。
剣よりも強力な肘打ちが、奴の肘骨を砕きに掛かる!
例えそれを受け止めたとしても、もう片方の手で殴り倒してしまえば良い! 彼の発は怒りを筋力や脚力に変えることで、パワーとスピードを両立させていた。
「さっきの焼き直しと思ったか! 死ぃぃ……」
「考えることはお互い様だ。もう一枚くらい手を加えたまえよ」
肘を起点に動こうとしたところまでは同じ。
素早いオーラの移動でヒィッツカラルドへのダメージは軽減され、驚くべきことに掌底がフェイタンの手の平にぶつかって小気味よい音を立てる。
憎らしい敵との間に強制ハイタッチ。
吐き気を催す気色悪さだが、それは決して気分の問題だけではないだろう。走り抜ける衝撃波がフェイタンの体を揺さぶった。おかげでこちらの追撃はカスっただけで大してダメージを与えられていない。
「惜しいね。君が女の子だったらとっくに口説いているんだが」
「ぬかせ。その時はひんむいて布団の中だろうがこのゲス野郎!」
ベっと血を吐き出しながら正面から拳を連続で叩き込む。
それも左右に分身とおも思えるようなステップを残し、方向性を誤魔化しながら攻め立てた。もっとも踏み込んだに一撃にオーラをたらふく載せていく。
腕だけでは止められないと見たのか、肘と膝を組み合わせたブロックで止められてしまう。上乗せしたはずの火力に匹敵するほどのオーラが瞬時に生成(精製)されている。
「そろそろ終わりにしようか。上の連中も始末したいからね」
ヒィッツカラルドの方は血を吐き出すのではなく、優美にハンカチで口元を拭っている。
強い。今の段階で奴が強いのは仕方ない。念の強さは追いついても、使い方や戦闘経験までは追いつけてないからだ。
だが、倒せないわけではない。
念能力者の戦いにおいて、重要なのは強さではないのだから。
「……ふん。ご自慢の念獣を潰されて焦ってるんじゃないのか?」
バラバラと篭手や鎧に使っている素材が落ちて来た。
おそらくは旅団の誰かがセルバンテスを倒したか、念獣だけでも破壊したのだろう。
「焦る? 私が? 試作品に過ぎないGRⅡを潰された程度で? ……ふ、は、ハハハハ!! ああ実に面白い冗談だ」
傑作だとばかりにヒィッツカラルドは大笑いした。
これだけ実力差を見せつけられて、大した強がりだと下卑た笑顔を浮かべる。
それはやがてサディスティックな笑顔に変わり、鳥が翼を広げるように両手を見せつける。あるいは指揮者が音楽を奏でるように楽団へ指示を出すかのようだ。
「別にGRⅡが壊されようが、セルバンテスが死のうが構わないよ。我らが全てはビッグファイアの為にある」
「馬鹿みてえなもんをありがたがりやがって。
あえて挑発しながらフェイタンは突っ込んだ。
手は拳として固めているが、中指を立てていてもおかしくはない。
それに対してヒィッツカラルドの動きは優美で、そして最低限の動きだった。
スローモーにすら感じる動きで、両手の指がパチン・パチンと甲高い音を立てる。
緩やかな動きゆえに、指先の差が明確に判るのが不気味だ。
右手はよくあるフィンガースナップだが、左手は少し違う。弾指と呼ばれる所作で音を立てたのである。違う鳴らし方なのに同じ音を出しているのが小気味よい。
右からは凄まじい切れ味の真空波が発生し、左からは僅かに遅れていながら右を凌駕する速度で放たれている。袈裟懸けに切り裂く一撃に、逆袈裟の一撃が追い付いて軌道を大きく変えた。それも……フェイタンが回避した方向にである!
「……右手っ!」
「おっ。咄嗟に首は庇ったのか。少々大人げなかったかな? まあ、これにて閉幕と……?」
膨大なオーラを集中させた右手でフェイタンは真空波を殴りつけた。
それなのに相殺どころか、首を守るので精一杯。右手は切り落とされ掛けブランと垂れ下がり、体の方もボロボロであった。だからこそ……。
だからこそ、それがヒィッツカラルドの『敗因』となったのである。
血だまりのなかでフェイタンは顔をあげて、こう呟いた。
「
流れ出た血が針となって射出され、刺さった場所から流れ出る血がさらに針となって周囲を覆う。憎しみが憎しみを呼び、谷底どころか断崖の淵まで覆うほど、無数の針が居る者全てを傷つけた……。
●北辰は今、ここに輝きたり
その様子を彼方から見つめる複数の影があった。
一つは撤退したセルバンテス。そして協力して念獣を作り上げた能力者たちである。
「あれで良かったのですか?」
「GRⅡだけではなくヒィッツカラルド様まで……」
「構いません。外世界、真実、力。求め続ける事にこそ価値がある」
能力者たちが驚くのも当然だろう。
作り上げた念獣が破れたのみならず、無敵を誇った十傑衆までもが!
「全てはシナリオ通り。問題ありませんともそう……すべては」
「全てが我らがビッグファイアの為に!」
セルバンテス……いや、この場ではミスター陳というべきか。
アタッシュケースの中から緋の眼を取り出し、眩しそうに眺める。
「データは?」
「順調です。イレギュラーはありましたが、奴らからも観測できました」
「特定ベクトルに向けた精神力の深度が計測できました」
『万能執事』ミスター陳としての彼は計画遂行のために行動していた。
「よろしい。これでGR計画は第二段階を越えました」
「おめでとうございます! これでBF団の戦力にも磨きが……?」
陳は戦力と言う言葉を聞いて、僅かに首を傾げた。
どうしてそのような愚かなことを言うのだろうと思い、真意を告げていなかった事を思い出す。
「ああ。戦力などどうでもよろしい。GR計画の初期段階は外来種の精神的・肉体的な汚染から我々をブロックするための物。その為の精神ベクトル、そのための精神深度。そのための死後強まる念なのです」
あまり知られていないが、過去人類は外の世界に赴いたことがある。
手痛い敗北を喫したどころか、そもそも戦いにすらなっていないのだ。ある物は戦いに敗れたが、ある者は汚染される仲間たちを見て心が折れた。同士討ちなど実に可愛らしいものである。
中には外世界の道に触れ、強化した者も居るがモノに成り果てた。
だがGR計画が着実に進行することで、その心配がなくなるのだ!
「いつやって来るとも知れない外来種に、怯えることない夜を。
やがて赴く新世界へ希望を抱いで眠れる、美しい夜を!
それは幻ではない! 全ては我らがビッグファイアの為に!」
という訳で旅団の反撃回です。
フェイタン負けてる? そこに至る流れで相手のサド気質を理解して
挑発しながら致命傷は避けて、最後の反撃に出たので実質勝利です。
正確にはカウンターを考慮せずにイビリ倒したヒィッツが、一人で負けただけとも言いますが。
描写する旅団メンバーでシャルナーク・フランクリン・コルトピ……。
そして最後にフェイタンなのはクロス作品双方の矛盾なくするためです。
Gロボにおけるテレポート災害回ですが、そんな再現できないので
ビッグバン・インパクトに変えて、そのまま別の技につながる流れ。
ヒィッツカラルドに関しては漫画版・アニメ版・その原稿で扱いが違い
中条長官との一騎打ちをイメージした戦いに変更しております。
●フェイタンの言葉と、二種の発
・いつもの調子 = キャラ作り
・謎言語 = 変化率を上げるために思い付いた
・本音 = 単純にブチ切れて、キャラ作りを忘れるだけ
と解釈しております。
謎言語で喋るのはどう再現して良いのか悩むので、仕方ないですね。
アルファベットになおして逆から呼んでも良いのですが、面倒ですし。
発:
『怒りの日』:読み方はアングリー・ムーブ
感情がそのまま乗る強化系と違って、憤怒の感情のみを変換。
絞っている代わりに、脚力・腕力への変換が速い。
『はげ山の一夜』読みはブラッドラスト
暗器の針としての使い方、流れ出る血潮の流用。
地水火風なり木火土金水の応用があると仮定して、そのバリエーション。
Gロボの追魂奪命剣という技をそれらしく再現した物ともいえる。
●GR計画
これは三段階で予定されている。
第一段階は、外世界でも通じる戦力を用意すること。
別に念獣である必要もなく、念の教育システムの確立だろうが、組織則りでも何でも良い。
第二段階は、外世界での汚染を避けること。
戦力を用意しても乗っ取られたら意味がない。同士討ちを警戒して雑魚を連れて行くことにはもっと意味がない。やるなら外世界で生活できるだけの戦力を用意することに意味があり、外のデータを得るだけなどBF団の目標ではないのだ。
第三段階は、いうまでもなくビッグファイア様。
しかしこれがどういう意味なのかはいまだ不明。
「どういうことだ。まったく判らんぞアルベルト?」と言われてもアルベルトは居ないので答えようはない。以下次号を待たれたし。