めだかボックスRTA_十三組チャート   作:三白めめ

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完走後は初投稿です。


おまけ
「愛は故意に決まっている」


どことも知れぬ教室で一人、教卓に腰かけてセーラー服の少女が佇んでいる。

 

「と、まあこうしてフラスコ計画を壊滅させためだかちゃん一行だったけれども、ここで新たな敵と遭遇する。球磨川禊。混沌より這い寄るマイナスの彼はめだかちゃんたちの前に立ちふさがることになる……のだけど、それは少し置いておこう。その前に少し過去回想でもしておこうか。今回のフラスコ計画の阻止における最大の舞台装置。幌泉もとめの無かったことにされた初恋と失恋の話だ」

 後ろの黒板に文字と丁寧にデフォルメ化されたイラストを描きながら、淡々と説明していく。いつの間にか顔には眼鏡を掛けていた。

 一拍。教卓の上に座り直すが、スカートも髪も重力に逆らい浮き上がらない。姿勢を正して一言。

「幌泉さんを見るときも、未来を明るくして、現実から切り離して見てね。安心院さんとの約束だぜ」

 

 

 

 

 中学一年生、幌泉もとめは凪いでいた。窓の外を眺めて考える。『人生は劇的だ。』なんて人は言うが、自分ほどそれに同意している人間はいないだろうと自負していた。

 日常の中でああ、これは伏線だなというものがすぐに理解できたし、多少のアドリブがあろうとも話の大筋は変わらない。それはまるで劇のよう(劇的)だ。まあ、大筋は変わらなくとも本筋は変えられるのだから、どちらかといえばゲームのそれなのだが。

 

 離宮(はなれみや)中学での幌泉はそんな世界観を既に確立し終えていて、誰かを動かすということに慣れきっていた。生徒会長の幌泉もとめは、完全な理想の統治者であり、未来を見通す異常な程の異常(アブノーマル)だった。

 

 そんなある日、一つ上の学年に一人、転校してきた先輩がいると聞いた。

 その先輩のせいで自分の予知が外れないようにするために早めに会いに行こうと思い立ち、昼食のときにその教室へ向かった。階段を上がって二年生の教室の前に着く。

 教室の外からいつものように新しく統治下に加わった彼を見定めて、気づいた。

 

 

 一目惚れだった。どう働きかけたとしても彼は全くその在り方が変わらない『絶対』の存在。予知はそう示した。

 自分の思い通りにならないという動揺と感動。幌泉もとめが自我を得てから初めて抱いたその感情は、彼女自身の心を瞬く間に埋め尽くした。

 

「好きです。結婚も視野に入れて付き合ってください」

 

 すぐさま彼の席へ向かい、いつものように間延びした語尾もかなぐり捨て、率直に想いを伝える。今までの無機質な表情とは違う、顔を赤くしたただの少女。

 そんな彼女に、転校生である蝶ヶ崎蛾々丸が取った行動は単純だった。

 

 頭部に向けての回し蹴り。

 

 自分に向けて見定めようなどと明らかに上からの目線を向けてきたという理由は、彼の凶行には十分な動機だった。

 

「偉そうな奴ってのは、誰に何されてもしょうがないですよねえ」

 

 蝶ヶ崎は服を払い、壊れた机の破片や埃を落とす。

 

「そもそも、いきなり告白されても私は貴女のことを何も知らないわけでして。今回は縁がなかったということで、お断りさせていただきます」

 

「じゃあ、お互いのことをもっとよく知れば答えは変わるかもしれないってことですよね。センパイ」

 

 幌泉はなんともなかったかのように立ち上がる。視界はぼやけているし、意識ははっきりとしていない。それに察していた通り、蝶ヶ崎の意思を変えることは不可能に近いだろう。いつもの幌泉なら諦めていた。けれど、初めて知った感情()だけは、諦めようとは思えなかった。

 その次の日から幌泉がしたことは、とても単純なことだった。授業以外、帰宅するまでのできるだけ多くの時間を蝶ヶ崎とともに過ごした。生徒会長は辞任し、その時間も蝶ヶ崎をよく知るために使った。蝶ヶ崎が帰ってからは彼の情報収集をする。喜んでくれるかと弁当を作ったりもした。

 

「センパイ、バイク持ってたんですねー。いいですよね。バイク」

「お弁当作ってみたんですよー。センパイは山派ですからあんまり魚は入れなかったんですけど、どうですかねぇ?」

「センパイ、私を無視してあの女と話すのは何なんですかー。そんなに胸がおっきい方がいーんですかぁ?やっぱりおっぱいが、母性が足りないんでしょうか?」

 

 最初は当然鬱陶しく思っていた蝶ヶ崎だったが、特にこれといった実害もなく会話をするだけだと分かったし、それ以上の何かあったとしても自らのマイナスがあれば問題ないと思い、ただ放置するようになった。鬱陶しいのは変わらないが、そもそも四六時中一緒にいるわけではないのだから、そこは仕方なく妥協することにした。まあ、そうして生まれた苛立ちといったなにもかもは近くにいたどこかの誰かに押し付けたが。

 

 

 彼女の異常な執念に、『観全犯罪(バッドストリップ)』はここに来てマイナス成長を遂げていた。未来を任意に予知する能力から、たった一人の生活を常に予知するものへ。今の彼女に物事を思い通りに動かす神の一手など打てない。ただ、それがこの事象には最悪の方向へ作用していた。

 

 蝶ヶ崎蛾々丸の『不慮の事故(エンカウンター)』は確かに理不尽なスキルだ。が、それは自分のものを相手に押し付けるというだけであり、陰口のように自分に直接なにかされたのでなければどうにも出来ない。ある意味では無害で安全な能力とも言える。

 そして状況から予測するだけの『観全犯罪』はこのマイナスを使っても他人に対象を押し付けることが出来ない。つまり蝶ヶ崎蛾々丸の行動は逐一幌泉もとめに実質的に監視されているということで。

 

「くそ!本っ…当にムカつくぜ!一々一々俺について回りやがってよお!」

 

 一挙手一投足を把握されているという常人ですら耐えられないそれを、何事も他人に押し付けてきた蝶ヶ崎が耐えられるはずもなく。蝶ヶ崎を常にキレさせ、理性を失わさせるには十二分の効果があった。

 

 悪意があるならまだよかった。そういう手合いとは散々出会ってきたし、それらは最終的には『不慮の事故』によって再起不能になると分かりきっているのだから。

 

 だが、恋心を以て自分と対峙するなどいうことは一度も経験したことのないので行動が読み切れないうえ、その相手は自分になにもしてこないので『不慮の事故』の使いようがない。ここに至って蝶ヶ崎は、自分が想像より遥かに最悪の選択肢を選んでいたと理解し、珍しく後悔した。

 

「お前、マジでなんなんだよおおおおおっ!!本っ当にしつこいにもほどがあるだろ!こんなに苛ついたのは生まれて初めてだ!」

「ですから不慮の事故なんかじゃないですよ。愛は故意()に決まっているじゃないですか。何度も言っている通り、センパイのことが好きなんです」

「……やっぱり分かり合えねーぜ」

 

 結果としてこのマイナス同士の争いは、学校中を巻き込んだ末に蝶ヶ崎蛾ヶ丸が自分の主義全てに反しながらも幌泉もとめを再起不能にし、蝶ヶ崎蛾ヶ丸にとって最も屈辱的な勝利となった。

 

 その後蝶ヶ崎と入れ違いで転校してきた球磨川がその戦いの記憶を傷ごとなかったことにし、過負荷となっていた『観全犯罪』はアブノーマルへと戻った。球磨川が転校してきた当然の帰結として離宮中学は廃校となったが、それは些細なことだろう。

 

 

 ただ、このときの球磨川には知る由もなかったが、いくら『大嘘憑き(オールフィクション)』でも成長そのものを無かったことには出来ない。ちっぽけではあるが、その残滓は存在する。故に、三年後。

 

『僕達が新生徒会だよ』

 そうして壇上に並んでリコールを叩きつけた新生徒会のメンバーの一人、片眼鏡を掛けた先輩に、彼女は再び、初めての恋をした。




終盤に球磨川先輩が言っていたことの説明回でした。続きは書けたら投稿するので不定期更新になりますが、レギュレーションは完走しているので完結です。
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