忘れ去られた者たちが住まう理想の地『幻想郷』。妖精・妖怪・神霊・仙人。様々な種族が住まうこの地に生きる1人の人間。これは、彼が巻き込まれる騒動を綴った物語。
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草木も眠る丑三つ時。この時分になれば、普段身を潜める悪鬼羅刹が悠々と闊歩しだす。人間と妖怪。どちらが力において上位に立つか、言うまでもないだろう。そんな危険な状態にある人里を、一人の男の足音が響いていた。頭に編笠を被り、着物を纏う中肉中背の青年。背中には竹かごを背負い込み、腰には一振の刀を下げている。顔つきは陰ってあまり判別できないが、このような時間に出歩くという傍から見れば愚かしい行動をとるこの青年は、月明かりが照らす仄暗い人っ子一人居ない街道を歩き続ける。しばらく進むうちに、青年の目の前に複数の影が飛び出してきた。
「ギシシシシシッッ!!ニンゲン!!ニンゲン!!」
ヒョロっとした棒キレのような細い手足に突き出た腹。所謂、餓鬼と呼ばれる下級妖怪である。妖怪の中では弱い部類に入るものではあるが、何の力もない人間にとって彼等は十分に恐怖する対象である。
「ギシシシシシッッ!!ニンゲン、ナニシテル!」
下卑た笑みを浮かべ、青年へと問いかける餓鬼。それに対し、青年は怯えるような素振りもなく答える。
「いえ、商売に必要な品を取りに行っていたところ思ったよりも時間がかかってしまい、このような時間になってしまいまして」
「ニンゲン!!オレタチ、ハラヘッテル!!ナニカヨコセ!!」
「申し訳ないのですが、食べられるものを何も持っていないのです。」
「ギシシシシシ!!ナラ、オマエノニク、クウ!!」
青年が食べ物を何も持っていないと知るや、餓鬼達は青年へと襲いかかった。
「はあ。あまり荒事は好きでは無いのですが、致し方ありません。」
そう呟いた青年は、刀に手をかけて餓鬼の方へ歩いて行く。
その直後、餓鬼達の首が一斉に宙へ舞った。
ドチャリ、と首が落ちる音が響く。
「ふう。やはり夜分遅くに出歩くのは行けませんね。次はもう少し早く帰れるようにしなければ」
刀を鞘へと戻し、独り言ちると青年は家路をまたゆったりと歩き出した。
街道をしばらく行くと、立派な屋敷が見えてくる。ここが青年の家宅である。竹で編まれた柵から桜の枝がはみ出し、美しい花が月明かりに照らされている。
それを横目に門を抜け、屋敷の玄関の引き戸を開ける。
「ただいま」
誰も居ない一人暮らしの屋敷に呟き、背負っていた竹かごをヨイショと下ろす。さて、ここから何をしたものかと考えていた青年の前に突如一人の女性が現れる。
「夜分遅くに失礼しますわ。何でも屋さん?」
「おや、珍しいお客様だ。お久しぶりですね、紫様」
彼女の名は『八雲 紫』。この幻想郷の最古参の妖怪にして青年のお得意さんの一人である。
「で、今回はどういったご用件で?」
「近々、吸血鬼が異変を起こすのだけど」
「吸血鬼と言うと、あの真っ赤な館の?」
「ええ、その異変の解決を貴方に手伝って頂きたいの」
「手伝い?私が解決するのではなく?」
「今回は霊夢が解決に動くのよね」
「成程、しかし彼女一人でも簡単なのでは?」
この幻想郷を守護する博麗の巫女。その当代である『博麗霊夢』。彼女は歴代でもかなり優秀な能力を持つ巫女であった。尚、面倒くさがりなのが偶に傷であるが。そんな彼女が動くのならば青年の力は必要ないはずなのだが。
「今回貴方に手伝って貰いたいのは紅魔館の地下にいる少女を救うことなの」
「救う?これまたどういうことです?」
「詳しくは言えないの。これは貴方にしかできそうも無いのです。依頼、受けていただけるかしら」
「分かりました。お得意様の依頼とあれば断る訳にも行きません。久しぶりに霊夢の顔も見ておきたいですし、協力させていただきます」
「流石、幻想郷の何でも屋さんね。そうそう、橙が貴方に遊んで欲しいって言ってたから、また遊びに来てちょうだいね」
「分かりました。また近いうちに伺います。それでは」
「ええ、おやすみなさい『無月 真良』さん」
そう言うと、幻想郷の大賢者様はウインクをしてスキマ─彼女の操る空間の裂け目である─へと消えていった。
翌日。真良は長い階段を登っていた。目的地は、博麗の巫女が住まう博麗神社。階段を登り終えると、真良は賽銭箱へ500円を入れ、一礼する。すると……
「お賽銭!!」
小銭の音を聞きつけたのか、巫女がどこからともなく飛び出してくる。
「あら、真良じゃない!あんたがお賽銭入れてくれたの!?」
「久しぶり、霊夢。………その反応を見るに、最近お賽銭は……」
「ええ……無かったわ。あともう少しで餓死するところだったわよ」
この博麗神社、道中が大変なのと、妖怪たちが大勢居る森を通らねばならないというのもあって参拝客が滅多に現れないのである。尤も、妖怪たちが集まるようになったのは霊夢が博麗の巫女になった時からだが。結果、霊夢は賽銭から収入が得られない為、妖怪たち退治をして日々の収入を稼いでいるのだが……。
「いやー、あんたが来てくれなかったらどうなってたか。さ、上がって上がって。お茶くらいなら出すわ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
それから、しばらく二人は他愛もない話をしながら時間を潰していた。すると、そこへ何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「おーい、霊夢ー!!遊びに来てやったぜー!!」
「魔理沙、あんた何しに来たのよ」
その声の正体たる、黒い三角帽子に長い金髪、黒い服にエプロンをつけた少女『霧雨魔理沙』。魔法使いで、霊夢とよくつるむ仲である。
「なんだよ、折角遊びに来てやったのに……お、真良!!お前もここに来てたのか!!」
「久しぶり、魔理沙。元気にしてた?」
「おう、見ての通り、めちゃくちゃ元気だぜ!」
「で?用が無いなら帰ってくれない?」
「霊夢が寂しい思いをしてないか心配して来てやったんだぜ?」
「するか!!」
「そうそう、真良!!久しぶりに勝負しようぜ!!」
「別にいいけどさ、急にどうしたの?」
「いや、単純に真良と勝負したくなっただけだぜ?」
「ちょっと、神社壊すのだけはやめてよね!?」
「分かってるぜ!!」
「絶対分かってないでしょうが!!」
博麗神社の境内で魔理沙と真良が相対する。
「真良、準備できたか?」
「こっちは問題ないよ。魔理沙は?」
「こっちも大丈夫だぜ!」
「……それじゃあ、言うわよ。始め!!」
霊夢の宣言で始まった二人の勝負。先にしかけたのは、魔理沙だ。
「それじゃあ、喰らえ!!『魔符 「スターダストレヴァリエ」』!!」
彼女がカードを取り出し、叫ぶ。すると、星型をした弾幕が彼女を中心として一斉に放たれる。
「流石魔理沙だ。初っ端からエグいもん仕掛けてくるね」
などと軽口を叩きながらも真良は弾幕を次々と交わしていく。
「へっ!!余裕を噛ましてられるのも今のうちだぜ!!」
そう言うと、早くも二枚目のカードを取り出し、叫んだ。
「『恋符「マスタースパーク」』!!」
そして、彼女の手元にあるアイテムからレーザーが放たれる。直撃すればピチュンする(消し飛ぶ)のは避けられないだろう。そのレーザーが真良へと向かっていく。
「なら、こっちも使わせてもらうよ」
そう言うと、真良もカードを取り出し、叫んだ。
「スペルカード『 無符 「荒波不立」』」
その瞬間、彼の周囲に穏やかな波紋が現れマスタースパークを打ち消した。
「くっそ!!いつやってもそんなのズルいだろ!!」
「生憎、僕はこれしかスペルを持ってないからね。そこは見逃して欲しいか……な!!」
魔理沙の言葉にそう返して、真良は魔理沙の懐に潜り込み、刀を突きつける。
「はい、お終い」
「くっそー!!また負けたー!!」
「いや、こっちも危なかったよ。あと少しでもスペルの発動が遅れてたら消し飛んでたよ」
「次こそは絶対勝ってやるからな!!」
「望むところだよ、魔理沙」
二人はお互いの拳をぶつけ合う。そこへ霊夢が歩いてきた。
「ほら、やりたいことはやったんでしょ?だったらさっさと帰った帰った!」
「えー!!もう少しゆっくりさせてくれよー!」
「駄目に決まってんでしょ!!こっちもダラダラ喋ってる暇は無いの!!」
「いつも暇しかしてないくせにー」
「何ですって!?」
「分かった分かった(笑)そんじゃあ、霊夢、真良、またなー!!」
「全く……魔理沙ったら……!!」
「それじゃあ、僕もそろそろお暇させてもらうよ」
「ええ、また近いうちに遊びに来なさいよ」
「分かった。それじゃあね」
その数日後、彼等は異変に巻き込まれることになるのである。
『紅霧異変の章』開幕