咲-Saki- 龍の娘は、裏雀士の夢を見るか?   作:ひびのん

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第1局

「あの……お爺ちゃん、そんなところにお一人で大丈夫ですか?」

 

 ずっと昔の話だ。

 わたしは桜の木の下に座り込んだお爺ちゃんに、そう聞いたことがあった。 

 サングラスをかけた白髪の老人は、ほとんど目の前で屈み込んだわたしに、ただ漫然と言葉を返す。

 

「ああ、大丈夫さ」

「そうは見えません! こんなところにいては風邪を引いてしまいますよ。わたしが家までお連れしましょう!」

「悪ぃな嬢ちゃん、助けは必要ねえ。心配してくれてありがとよ」

 

 断られてしまったが、このやつれた老人を放ってはおけないと思った。

 何とかして連れ出す理由を探そうと唸っていると、老人は面白そうに笑い始める。

 

「くくっ。それよりどうしてお前さん、こんなところにいるんだ。ここは若ぇのが来るところじゃあねえぜ」

「どうして、と言われましても……おや、そういえばここは、どこなのでしょう」

 

 ふと、あたりを見回した。

 この桜の下は爽やかな草原に包まれていたが、それ以外は黒で塗りつぶされている。

 わたしは阿知賀女子中等部の制服で、お爺ちゃんは白いシャツを着ている。真っ黒なサングラスのせいで、相手の表情は分からない。

 

 闇の世界に、輝く桜の花びらが舞っていた。

 

 目を離せば動かなくなってしまいそうなほど弱々しい白髪の帽子を被った老人。力なく桜の幹に背中を預けて、座り込んだまま動かないこの人を、このまま放ってはおけないと思った。

 

「さあ、ここから早く出て行きな。早く帰んねえと、友達が心配するぜ」

「ううむ。そうは言いますが……なんだか、このまま帰ってはいけない気がするのです。このまま置いては帰れません!」

「……お節介な嬢ちゃんだ」

 

 わたしが一歩前に踏み出ると、桜吹雪はぴたりとおさまった。

 お爺ちゃんもわたしが出て行かないと分かると、笑うのを止めて首を下ろす。まるで何年も孤独に過ごしてきたような、もの哀しい気配だ。

 寂しそうにぽつんとそこに居続けるその人には、不思議な風格があった。

 

 わたしは――松実玄は、サングラスの老人の領域に、ためらいなく手を差し伸べる。

 

「お爺ちゃん。わたしに、何かお手伝いできることはありませんか?」

「ああ……そう言われりゃあ、あるさ」

「わたしにできることなら、何でも言ってください! できる限りでお応えします!」

「クク、本当にお節介なやつだ。だが……まあ、いいか」

 

 老人が空虚なほどに白い空を仰いて、何かを思い返しているのか、可笑しいものを見たときのように嗤った。

 

「そうさな。おれは、もし叶うなら、もう一度」

 

 そうして紡がれた言葉を最後まで聴き終えることはない。

 最後の言葉はいつも闇に飲み込まれる。目が覚めれば全て忘れてしまうことも、分かっている。

 しかし、それでも。

 目を醒ますその時まで覚えていたいと思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 閉じられた部屋に、今年も春の風が吹き込む。

 その日の吉野は満開の桜で、階段を上がった阿知賀女子学院の窓から見える景色は、どこも桃色に染まっていた。新しい始まりを祝福するかのように、桜が奈良の山々に広く桜色を届けていた。

 そんな季節にわたしは、ぼうっとその光景を視界におさめていた。掃除用の帽子を頭に、そして掃除用具を片手に持って、感慨深くため息をついた。

 

「ふぅ……もうすぐ、高校生だよ」

 

 ぽつりと呟いた言葉は、ほんの少しだけ響いて、廊下の木床に吸い込まれる。

 グラウンドからは誰かの笑い声や掛け声が聞こえてくる。楽しそうな気配は、ここからとても遠く感じた。

 でも、人気のない廊下も、わたしにとっては実家みたいに安心できる場所だ。

 

 麻雀教室が解散してから、いったいどれくらい時間が経ったんだろう。

 近かったような気もするし、ずいぶん遠い出来事のような気もする。あのときは中学一年生になったばかりだったのに、もう今年は高校受験が控えている。

 

 もちろん受験するのは、この奈良県立阿知賀女学院高等部だ。

 しっかりと勉強もしているので、今のままいけば大丈夫。この学校の鐘楼の音を、今までと同じように聞くことができるだろう。

 

「また、みんなと遊べるのかな……なんてね」

 

 でも、ここにみんなはいない。

 かつての仲間は離れ離れに、一人、また一人とこの阿知賀女子学院を離れていった。 

 大変なことがあった、辛いこともあった。でもその十倍くらい、楽しいことや、嬉しいことがいっぱいだった。

 

『あっ、玄さん! おはよーございます!』

『おっす、玄。今日も早いわね』

『わー! クロチャーだぁあーー!!』

 

 箒を持ったわたしの手に力を込めてぎゅっと握る。

 出会いと別れを象徴するこの季節に来ると、胸がじくじくと痛むような……そんな感覚を、かすかに感じるのだ。

 みんなが離れ離れになるのは寂しい。名残惜しさのようなものが、わたしの中にあり続けている。

 

 きっといつか、みんなが戻ってきてくれるんじゃないかと、そう思いたかった。

 ずっとこの場所を守り続けていきたい。

 そう思うから、今日もこの場所にやってきた。

 

 改めて掃除用具を持って、その部屋の前までやってくる。

 一見、単なる空き教室のようにも見えるが、元麻雀教室・麻雀部の部室である。部室棟にはいくつか、同じように使う人のいない空部屋が残されていた。

 わたしはバケツを置いて、さっそく鍵を差し込もうとしたのだが――この日は、変だった。

 

「あれれ。んーっ? 鍵が……」

 

 先生に借りた鍵はすんなりと入った。けど、鍵が開いた音がしなかった。

 試しに反対側に回してみるとカチャリと音がして、扉を引いてみると鍵がかかっていた。ではもう一度……カチャリと音がして、鍵は開いた。

 

(おかしいな、先週はちゃんと閉めたと思うんだけど)

 

 不思議に思いながら、中に入ってみる。

 人の気配はない。分厚いカーテンの締め切った薄暗い部屋があるだけだった。

 

「……おや、あれは?」

 

 ちょっとキョロキョロ見回してみると、奇妙なものを見つけた。手入れしている雀卓の上に、古ぼけた木箱が置いてあったのだ。

 近づいてまじまじと見つめてみると、書かれている文字は、すっかり薄ぼけて、読める状態ではないが、麻雀牌をしまっておく箱のように見えた。

 

「うーん、なんだろうこれ。前はこんなのなかったんだけどな……?」

 

 麻雀部の備品のことならよく知っているが、初めて見るものだ。

 とりあえず触らないでおこう。

 勝手に開けたら怒られちゃうかもしれないもんね。

 

「とにかく、いまはお掃除だよっ! お掃除ならおまかせあれだよ……!」

 

 今日はなかなか大変な作業になりそうだ。

 しばらく来られなかったから手入れも行き届いていない。これは、気合を入れてやらなければいけないね。

 

「……おや? 雑巾はどこへ隠れて……あっ、部屋の外にバケツも雑巾も置いたままだったっけ。いけないいけない」

 

 部屋の様子に気をとられて、ぼけてしまっていたみたいだ。

 置きっぱなしにしたものを取りに入り口に戻ろうとしたとき、耳が何かの音を捉えた。

 人が滅多にこないはずの廊下に、コツコツと音が聞こえる。そして人影は、部室の扉の前で立ち止まった。

 曇りガラス越しに、誰かが立っているのが見えた。

 

「空いていますよ、どうぞー?」

 

 誰も使っていない部屋に来客なんて珍しい。もしかして、先生が様子を見に来たのだろうか。

 人影は恐る恐る、扉を開けた。

 ひょっこりと隙間から顔を覗かせた人は、わたしを見て心底驚いたように、目を丸くする。

 

「あれ……玄さん? 玄さんじゃないですか?!」

 

 部屋の中にいるのがわたしであったことに気づいて、うわーっと、駆け寄ってくる。

 わたしも驚いて、掃除用具を手から落としかけた。

 

「えっ? あ……しずちゃん!?」

「はい! 穏乃です。お久しぶりです、玄さんっ!!」

 

 中等部の冬服を着た同じ阿知賀の生徒。一つ下のわたしの大切な後輩で、仲間だった子。

 高鴨穏乃。

 しずちゃんって、わたしは呼んでいる。ジャージがよく似合う、誰よりも元気いっぱいな女の子が、そこにいた。

 

「っていうか、なんで……? もうとっくに麻雀部は廃部したはずなのに……部屋きれい。ももも、もしかしてっ、ここの掃除してたんですか!?」

 

 困惑したような表情でわたしに詰め寄った。

 

「うんっ。しばらくお掃除してなかったから」

「ふええ、いや廊下にバケツが置いてあったからどうしたのかと……あ、手伝います、手伝いますっ! 何かできることないですか!?」

「本当!? じゃあ、お願いしようかなっ」

「任せてください!! っていうか言ってくださいよ、麻雀教室の掃除って言われたら絶対手伝ったのに!」

 

 しずちゃんが置きっぱなしだったバケツを部屋の中に引き入れながら、焦ったように言う。

 それを見て、わたしは抑えられない気持ちに口元がむずむずしたのがわかった。

 

 ぜんぜん変わってない。

 元気はつらつで、とても熱心で、頑張り屋さんのままなしずちゃんがいたことが嬉しくって。

 

 ちょっとだけ……楽しかったあの頃に戻れたような気がした。

 

 

 

 

 

 しずちゃんと二人で始めた、春の大掃除も中盤を迎えた頃。

 一生懸命に濡れ雑巾で床を拭いていたしずちゃんが、思い出したようにひょいと顔を上げた。

 

「玄さんは……その。麻雀教室がなくなってから、麻雀打ったりしてますか?」

「うーん……たまーにうちのお客さんと打つときはあるけど、最近はさっぱりだよ。しずちゃんは?」

「最近はもう全然で。麻雀教室がなくなってからは、牌すら触ってないです」

「あはは……他のみんなはどうなんだろうね。憧ちゃんは、頑張っているのかなあ」

「あー、最近連絡取ってないんで分かんないですけど……多分きっと、頑張ってますよ!」

 

 すると、そこで何かを思い出したように、しずちゃんは表情を変えた。

 わたしが首をかしげると、少し悲しそうな表情で窓の外を見た。

 

「……和が転校しちゃうって話、もう聞きました?」

「うん。阿知賀を離れることになりました、って、わざわざ教室まで探して挨拶に来てくれたんだ」

「そっか。和のやつ、相変わらずそういうとこは律儀だなぁ」

 

 しずちゃんは窓に両手をかけ、顎を腕に当てた。

 阿知賀子供麻雀倶楽部。わたしたちの麻雀教室は、教師だった先生の栄転をきっかけに、もう何年も前に解散している。

 原村和ちゃんは、麻雀教室の仲間の一人だった。

 いまはしずちゃんの同級生だけど、もうすぐこの土地を離れることになっている。

 

「憧のやつも転校しちゃったし。これから寂しくなりますね……」

「久しぶりにみんなで、打ちたいね」

「……ですね。でも今日で和も転校しちゃいますし」

「そっか……今日が最後だったんだね、和ちゃん」

 

 あの頃にみたいに、みんな集まって打ちたいというのは、叶わない願いなのかもしれない。

 記憶の中の活発なしずちゃんとは真逆の、その寂しそうな声色に、胸がきゅっと締め付けられるような、やるせない気持ちが、わたしの心を包んだ。

 

 きっと、しずちゃんは和ちゃんと会える最後の日だから、この部屋を訪ねてきたんだ。

 

 懐かしくて、今あったことのように思い出せる。

 かつての麻雀教室の部屋に見えた、小さかった頃のわたしたちの幻が、風とともにふっと搔き消えていった。

 もう、今はここを使う人はいない。

 

(本当に、またみんなで集まれるのかな)

 

 二人とも同じことを考えているのは分かっていた。

 けれど、あえて口に出すことはない。

 仲のよかった四人のうち、一人は先ほど話題に出たように別な中学に進学。

 指導をしてくれた先生も今はこの奈良を遠く離れた。

 いまは遠く離れた土地で、実業団のチームで活躍していると聞いている。

 わたしとしずちゃんは同じ学校に通っているけれど、学年が違うので顔を合わせることはめったにない。

 

「…………」

「…………」

 

 ……何となく目の前の顔を見てみると、向こうもこっちの顔を見ていた。

 思わず、二人とも視線を逸らしてしまう。

 桜の花びらが部屋の中に入り込んできて、二人の間にはらりと落ちた。

 吹き込んだ春風が、背中に結った茶色のポニーテールと、腰まで伸ばした赤髪を大きく揺らした。

 心に残ったのは、寂しさと、もの悲しさだけだ。

 

「うおおおおおーーーーっ!!!」

「っ、し、しずちゃん……?」

 

 急に叫んだしずちゃんに驚いて、びっくりして思わず振り向いてしまった。

 より一層打ち込むように、残っていた掃除を一気に済ませようと、雑巾を置いて犬のような体制で床を駆け出した。しっちゃかめっちゃかに、そこらを駆け回って、床をぴかぴかに磨く。

 ぽかんとその様子を見ていた。

 でも、わたしも掃除道具を握りなおした。

 

(うん。いつまでも、湿っぽい気持ちでいちゃいけないよ)

 

 気を取り直して、わたしも、意気込んで掃除を再開した。

 一心不乱に、そして一通りの掃除が終わる頃には、さっきの切ない空気はどこかへ吹き飛んでいた。

 

 

 掃除を進めてしばらくした頃、しずちゃんが聞いてきた。

 

「ところで玄さん、ずっと気になってたんですけど。あれ何ですか?」

「おおっ、これねぇ」

 

 思い出したように机の上を指差した。

 そこには、例の古い箱がぽつんと置き沙汰にされている。

 しかし、わたしもその答えは持っていない。どう答えたものかと考える。

 

「わたしも今日久しぶりに来たから……備品、じゃないよねえ。誰かが置いていったものだと思うけど」

「麻雀教室のときには、なかったと思いますよ。なんか古い箱ですね。ここに置いてあるってことは、やっぱ麻雀牌? なんか昭和の臭いがしますねー」

「でも、誰が持ってきたのかなぁ……?」

「きっと麻雀部に寄付してくれた人がいるんですよ。あ、そういえば最近、学校の倉庫の整理とかがあったみたいですから、それかも!」

「へえ、しずちゃん、よく知ってるねえ」

「裏山から様子が見えてましたからねー」

 

 ……裏山?

 この学校は山の上に建っていたはずだけど、それより上って一体どこから見たんだろう。わたしは首を傾げた。

 すると突然、しずちゃんの頭に電球が浮かんだ。

 

「……あっ!」

「どうかしたの?」 

「そうですよ。せっかくこの部屋が空いているんですから、最後に三人で打ちましょうよ、麻雀っ!!」

「えっ!? 三人って、わたしと、しずちゃんと、それと……和ちゃん?」

 

 こくこく、しずちゃんは目を丸くして何度も頷いた。

 ぽかんとして、そして真剣に考える。

 

「え、ええっと。わたしは、いいけど……?」

「え。じゃあこの部屋、使ってもいいんですか!?」

「今日は部屋をとってあるから、先生がいるうちなら大丈夫だよ。でも、和ちゃんも忙しいんじゃ……あ、ちょっと、しずちゃん!?」

「こうしちゃいられない! 急がなきゃっ、うおおおおおおおおっっっっ!!!!」

 

 ……あっという間に行ってしまった。

 廊下に土煙を巻き上げていく。ひょいと廊下外に顔を出すと、野生的な叫び声とともに、全力で階段を下る音が響いていた。声はあっという間に遠くなって、聞こえなくなった。

 

「は、早い……さすがだよ……」

 

 しずちゃんは、そうと決めたら一直線だったっけ。

 そんな風に取り残されたわたしは、一人になって苦笑いしながら、改めて部室に視線を戻した。

 

 最初よりもずっと部屋が静かに感じた。

 思えば、みんなをいつも引っ張ってくれたのは、いつだってしずちゃんだった。

 麻雀教室のときも、イベントごとがあったときは、なんでも先んじてくれた。

 近所の川に遊びに行こうって言った時も、吉野の夏祭りのときも、真っ先に手をあげて、みんなを引っ張ってくれていた気がする。

 

 あの頃を思い出して懐かしい気持ちに浸っていると、ドアがばーんと開いた。

 

「連れてきましたっ!」

「早すぎだよ!?」

 

 十数秒しかかかっていなかったので、思わずビクッと身構えてしまった。

 息一つ切らさずに、その傍に何かを抱えている。

 

「……あの、これは一体何事ですか」

 

 まるで荷物のようにを抱きかかえられている……普段のピンクのヒラヒラ服を着た和ちゃんが、呆れ目でぽつりと抗議した。

 

「いやぁー! 急がないと帰っちゃうかと思って。靴に手がかかってたところだったし、危なかったよ!」

「そういうことではなくですね!?」

 

 ようやく降ろしてもらったジト目だった和ちゃんも、キョロキョロと部室を見回して、ようやくここがどこか気がついたみたいだ。

 

「……玄さん? あの、ここ。麻雀教室の部屋ですよね」

 

 もう閉じたはずの麻雀部の部屋が空いている。そのことに驚いてる様子だった。

 丸目でふんす、と期待するしずちゃんと、苦笑いのわたしを見比べた。

 そして、誘拐されてきた和ちゃんも何かを察したような顔に変わった。

 

「一応聞いておきます。穏乃、これは?」

「玄さんと一緒に部室の掃除してたんだよ。たまたま、ここでバッタリ会っちゃってさ」

「たまたまって……」

「いやー。ほら、今日で和も転校しちゃうわけでしょ」

 

 和ちゃんは、頭痛を感じたように、おでこを抑えた。

 

「やっぱり、そういうことですか。ですが、急に言われても困ります」

「今からやろうよ!! わたしと玄さんと和でっ!」

「……相変わらず人の話を聞きませんね」

 

 和ちゃんはどこか呆れ気味だったが、この様子だと、それほど嫌がってはいないようだ。

 

「最後の日に麻雀をしようと、そういうことですか」

「そうそう! 走ってるときに憧にも電話してみたんだけど、急すぎって言われて、ダメでさー」

「当然です。人には事情というものがあるんですよ。まったく……」

「ううっ、和、だめだった……?」

 

 しずちゃんが悲しそうな顔をすると、身を引いて、それからばつが悪そうに頬を掻いた。

 

「……ま、まあ……そうですね。前もってやっておくことはほぼ終わっていますから。問題ありませんけれど」

 

 よっし、とガッツポーズ。

 強い押しに負けた和ちゃんは、疲れたように息を吐いて、わたしを見た。

 

「ですが玄さんの都合は大丈夫なのですか?」

「うん、わたしは大丈夫だよ。部屋も大丈夫だと思う」

「そうですか……仕方ありませんね。穏乃とも玄さんとも、しばらくは会えなくなりますし……奈良で、最後にこの部屋で打つというのも、悪くありません」

「やった。よーっし! 麻雀教室、一日だけ復活っ!」

 

 しずちゃんが、高らかに宣言した。

 

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