咲-Saki- 龍の娘は、裏雀士の夢を見るか?   作:ひびのん

20 / 30
第20局

 

 東一局、親で跳満を二回和了した。

 でも、今のわたしの点数は31700点まで落ちてしまった。おねーちゃんと、石戸さんが11900点。役満の直撃を決めた初美さんがトップの44500点。

 もうすぐ勝つことができる――そんな意気込みとは裏腹に、配牌はドラ二の五向聴だ。最初のように和了に近い手ではない。役満を振り込んだことで、すっかり流れが変わってしまった。

 でも今の局のおかげで、わたしも新しい情報を得た。

 

(初美さんは火力が高いけど……厄介なのは、石戸さんのほうだ……)

 

 初美さんは、まるで役満がわかっているように打ち回していた。恐らくは、二回の鳴きを入れることで発動する能力だと推測できる。

 そして石戸さんは、一見すると分かりづらいけれど、こちらの手牌を察知している節がある。わたしや、しずちゃんのように深く"読んで"くる。しかも、わたしたちには見えないものを見て牌を選んでいるのだ。

 

(きっと、わたしのドラの感覚みたいなものがあるんだ)

 

 最も厄介なのは、最高峰の攻撃と、最硬度の防御の二人が揃って、わたしを狙っていることだ。

 今の一局では石戸さんに誘導されて、追い詰められた。これほど厄介なプレーは他にはないだろう。

 

 

 流れが戻らないまま、大きな点数の変動もなく、東場が終わってしまう。

 

 迎えた南一局。

 わたしが牌を握って開けようとした瞬間に、冥界の跫音が聞こえて、肌が凍えた。ゾクッと肩が震える。

 

(まさか……!)

 

 牌を開ける前に、その感覚の方向を見る。わたしを見て嗤っている赤髪の巫女がいた。目を凝らせば、初美さんの背後に重圧が現れて、闇色の世界に続く鳥居が生まれていた。

 わたしは冷や汗を流しながら視線を落として、牌を開けた。

 今まで身を潜めていた初美さんだけれど、なぜこのタイミングなのだろう。疑問に思ったが、とにかく、そうと決まったからには、ここが勝負の時だ。

 そして賽が回って、配牌された一巡目。

 

「それ、ポンですよー!」

「っ……!?」

 

 即座、おねーちゃんの切った{東}をポン。びくっと震えながら、おずおずと牌を渡した。

 端に寄った三枚の字牌が今の初美さんの放つものと全く同じオーラを放つ。不気味な冥界の気配だ。

 

「それも鳴きますー!」

「……ふふっ」

 

 石戸さんが{北}を切り出すと、それも手に加えてくる。

 二枚の牌が怒りにも似た激情のオーラに包まれる。場に闇色の気配が漂いはじめて、空が闇に覆われた。

 不敵な笑みを作る小さな巫女によって、再び場は完成した。背後から現れる鳥居から、紅色の霊魂が場に溢れ始めている。

 

(……ここだよっ……!!)

 

 でも、わたしはもう、慌てたりしない。

 むしろこの瞬間を待っていた。初美さんが本気を出してくる、この時を。 

 

 さっきとは条件が違う。感覚は研ぎ澄まされているし、心の準備も万全だ。

 初美さんの能力は、恐らく条件付きで役満を引き寄せる。四喜和か字一色。どちらにしても、残りの手牌のうち、少なくとも五枚は限定されるはずだ。

 

 目を瞑ると、全ての音が、わたしの中から消えていった。

 すると見えないはずなのに、薄らと闇の中に卓が見えてくる。相手の呼吸音や、僅かな動きまで読み取ることができる。

 閉じた目を薄く開ける。

 

 ――松実玄の瞳の色が、灰色に染まった。

   

 

(初美さんは一度だけ理牌をした。端に並んでいる二枚の牌……きっと、あれが鍵だよ)

 

 手元に残った七枚のうち、端の二枚を大事そうにとっている。

 これまでの視線や仕草から察するに、字牌や対子ではなく数牌。なら、四喜和の可能性が高い。そして他の牌も、まだ揃っていないように見える。まだ時間は残されている。

 

(わたしだって、速さで勝てないわけじゃない……!)

 

 石戸さんを倒すためには、まず初美さんを真正面から攻略しなければいけない。

 そのために、わたしが先に和了する。

 

 

 

南一局0本場 親玄 ドラ{四}

 

玄手牌

 

{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索}{八索}{發} ツモ{八索}

 

 

 五巡目。

 字一色の可能性を考えて{發}を抑えていたけれど、その必要もなくなった。わたしの読みでは、初美さんはこれを持っていない。

 

「……{發}っ」

 

 このとき、わたしは気づかなかったが、無意識に切った牌の名前を口走っていた。

 石戸さんと、初美さんが妙な顔をした。おねーちゃんも一瞬不思議そうにわたしを見たけれど、そのまま続行だ。

 おねーちゃんも石戸さんも安牌切りで、初美さんまで番が回る……しかしツモ牌を見てむぅぅ、と表情を曇らせた……そして、そのまま{發}を切った。

 次順、回ってきたわたしのツモ。表面を撫でて、取り入れる。

 

 

玄手牌

 

{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索}{八索}{八索} ツモ{一}

 

 

 この順目で引くことは叶わなかった。

 しかし、ツモってきた牌を手牌の上に置く前に、指先がとまった。この{一}に嫌な気配がする。

 

(……{一}は、確かに危険牌だよね)

 

 さっき役満を振り込んだ時と同じ感覚。それに、普通に考えても十分に危険な牌だ。

 なぜならドラは{四}で、その周辺に牌が集まっていると推測されていてもおかしくない。同じ場所で待てば、今みたいに牌が溢れることだってある。

 

「{八索}っ……!」

 

 

 

玄手牌

 

{一}{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索}{八索} 打{八索}

 

 

 わたしは直感に従って自分の意思で待ちを崩し、声に出しながら河に放った。

 感覚はそれが”誰かの和了牌ではない”と告げていて、その感覚に従った。

 ツモ以外では役がつかず、和了できなくなってしまった。でも、まだこれで終わりじゃない。

 

(……感じるんだ。もっと、深くまで……!)

 

 初美さんと真っ向から打ちあうために、意識を深く潜らせるべく目をつむった。

 

 

 

 

『えっ……!?』

 

 ――そこに、麻雀を打つ人にしか見えない世界が見えた。

 目の前には初美さんが立っていて、背後には朱色の鳥居が構えていた。わたしを見て驚いたように目を見開く。

 

『これって、一体……!?』

『なんと……! たった一局で、"ここ"に到るまでの成長を見せますかー……!』

 

 声もはっきりと聞こえたし、わたしも、この世界を自由に動くことができた。

 初めて見た世界に驚いていると、何かの気配を感じて、振り返った。

 

『わわっ。あなたは……ドラゴン、さん?』

 

 わたしの髪色に似た、黒赤色に輝く鱗を持った龍が存在していた。

 呼びかけると、それは首を落とした。尖った鱗を持っていて、巨大な体でわたしを守っているみたいだ。

 そうっと手を伸ばして、首の鱗を撫でてみる。

 すると頭を下げ、それを待っていたと言わんばかりに、聞いたこともない泣き声で、喉を鳴らした。

 

『……あなたが、ずっと、一緒にいてくれたんだね』

 

 子供の頃からずっとそばにいて、わたしを守ってくれた存在だとすぐにわかった。

 無性に切ない感情と、嬉しい気持ちが溢れる。

 おかーさんの姿を思い出たんで、自然に一筋の涙が落ちた。 

 龍は唸りもせず、ただわたしの手を受け入れてくれる。

 

『ドラゴンさん。わたしと一緒に、これからも戦ってくれるかなっ』

 

 ドラゴンさんはもう一度鳴いて、わたしを守るように尻尾を巻いてから起き上がった。

 見据えるのは、紅色のオーラを放ち続けて、正面に立ちはだかっている悪石の巫女だ。わたしとドラゴンさんは、正面から超えるべき相手に向き合った。

 

『いきますっ。今度は、負けないですよっ!!』

『ここからが本気というわけですねー……! きてください、絶対に倒してやりますよー……!』

 

 ここからが正真正銘、真っ向からのぶつかり合いだ。

 

 

 

玄手牌

 

{一}{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索}{八索}

 

 

初美手牌

 

{二}{三}{南}{南}{南}{西}{西} ポン {東}{東}{東}{北}{北}{北}

 

 

 

 

 鳥居の前に立った初美さんは、腕を紫色の雲に覆われた空に掲げた。

 雷鳴が鳴り響き、冥府に続く門から溢れるのは、無数の霊魂の結晶だ。一つ一つが小さな力を持つそれらは、圧倒的な物量をもって龍を襲う。

 

『さあっ、これで決めてくださいー!!』

『お願い、ドラゴンさん……っ!!』

 

 

 

玄手牌

 

{一}{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索}{八索} ツモ{一}

 

{一}{一}{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索} 打{八索}

 

 

 

 玄の龍は高らかに鳴いてから、翼を大きく広げて自らの主人を包み込んだ。強靭な赤鱗が、嵐のように荒れ狂う赤色のエネルギーを弾いていく。しかし一つ一つ、小さな霊魂がぶつかり、小さな爆発を起こして弾ける。

 ドラゴンさんは小さく苦しげな鳴き声をこぼした。

 

『っ……! ごめんね、今は耐えて……!』

『なかなかやりますねー……ですが、ツモってしまえば関係ありませんっ!』

 

 初美さんは、一段とエネルギーを放出させて、ヤマに手を伸ばした。

 巫女が掴み取った牌は――

 

 

 

初美手牌

 

{二}{三}{南}{南}{南}{西}{西} ポン {東}{東}{東}{北}{北}{北} ツモ{五}

 

 

 ――そのまま、手牌の上に横に置かれる。

 初美さんはツモ切り。わたしを倒すには、至らなかった。

 

『……ううー……ですが、まだまだですよー!』

 

 牌が掠ったことに悔しそうな声を零した。

 同時に霊魂の放流も終わる。黒赤色のドラゴンさんは、再び羽を広げて、目の前の相手を睨みつけた。 

 現実は恐ろしいほどに静かだった。

 牌が卓に置かれる音のほかに聞こえるのは、息遣いくらいのものだ。

 建物の向こう側から漂ってきた霧が、わたしたちの卓を薄く覆っていた。山登りしたときに雲の中に入ったみたいにひんやりとした空気が、巫女服の隙間から滑り込んでくる。

 

 そして、わたしの番だ。

 ヤマに手を伸ばし、ツモってきた牌を盲牌して、体に電流が走ったような感じがした。

 

 

 

玄手牌

 

{一}{一}{二}{三}{四}{二筒}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索} ツモ{一}

 

 

 

 気づけば、広い待ちでの聴牌だ。{二筒}か、{三筒}-{六筒}・{四筒}の三面張。

 しかし張ったことが、わたしの手を止めさせたわけではない。"普通"に前に進もうとしたときに、気がついたんだ。

 

『え。ドラゴン、さん……?』

 

 龍が、わたしを見つめている。

 勝つために命令してくれ。自分に力を与えて欲しいと、綺麗な瞳が訴えかけてくる。

 

(……この{一}は、そういうことだったんだ)

 

 今は初美さんの引き起こす現象、内包する力に、押し負けそうになっている。

 それに勝つにはドラゴンさんの力を引き出さなきゃいけない。龍と心を通わせる。わたしには、それができるはずだ。

 指先に宿ったドラの感覚(・・・・・)を、手に組み入れた。

 

『力を、わたしに貸して……っ!!』

 

 わたしは天高く、雲渦巻いた空に右手を掲げた。

 これが今出すことのできる最大の力だ。初美さんを真っ向から超えるために、わたしの龍を信じて最高の力を呼び出す。龍も、想いに応えるかの如く、天に咆哮した。

 箱から点棒という命を削って、{二筒}を場に放った。

 

「リーチっ!!」

『……っっ!?』

 

 

 

玄手牌

 

{一}{一}{一}{二}{三}{四}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索} 打{二筒}

 

 

 

 龍はわたしの魂の一部を宿して、巨大な翼を羽ばたかせた。真っ直ぐに天に登って、雲の中に消えていく。

 

『これは、なにが……起きているのですかー……!? 』

 

 霊魂を従える初美さんは目を丸くして、刮目した。

 わたしには分かる。ずっと眠っていた力が、この世界を見つけたことで、呼び出せるようになったんだ。

 そして、龍はわたしの想いに応えてくれる。

 

 雲が二つに割れる。輝きとともに現れた龍は、先の倍以上に巨大な、四対の翼を持つ黒鱗の龍に進化していた。

 漆黒の龍の、宝石のような紅色の瞳が、眼下で待つ自らの主人を見下ろした。

 もちろん笑顔で応える。

 

『いくよっ……これがわたしたちの全力っ!』

 

 わたしが手をかざすと、龍は首を持ち上げた。

 初美さんに向けて顎を大きく開き、そしてーー口内からエネルギーの奔流を打ち放った。

 苛烈な光の柱が、空を焼きながら槍を突くように一直線に迫る。しかし霊魂が、盾のように初美さんの前に集まって、光の奔流を受け止めた。

 

『ぐぅぅ……ですが、まだですよー……!!!』

『っっ……! もう少しっ……!』

 

 真っ向からの正面衝突だった。

 世界に輝きが満ちる。

 ぶつかり合う瞬間、空気を切り裂く甲高い衝撃音が、世界を揺らした。 

 丸みを帯びた透明な盾にぶつかって散らばり、しかし、龍は咆哮を決して止めない。暴力的な咆哮によって霧は散り、暗闇に包まれていた空が割れて、光が舞い降りてくる。

 

 やがて進化した龍のブレスは、拡散して消えた。

 初美さんは袖で顔を覆っていたが、目を開けた時に、その表情は驚きに染まった。

 

『はぁっ、っ……そんな、まさか……!?』

 

 霊魂の壁は破られていた。

 背後の鳥居は龍の放った業火に包まれており、冥府に続く闇色の空間は力を失い、扉は消え去った。

 しばらく燃え盛る鳥居を呆然と見つめていた。

 やがて、わたしのほうに向き直り、身から湧き出すオーラを消して、寂しそうな笑顔で言った。

 

『凄いです。真っ向から押し負けるなんて、これが始めてなのですよー……』

 

 

 

玄手牌 ドラ{四} 裏ドラ{一}

 

{一}{一}{一}{二}{三}{四}{四筒}{五筒}{赤五筒}{赤五筒}{三索}{四索}{赤五索} ツモ{四筒}

 

 

 

「ツモっ……!」

 

 わたしに集まった龍の炎は、全て表に晒された。

 {一}に宿ったドラの気配は、全てと混ざり合って、溶けて消えてゆく。

 

『ありがとう……ドラゴンさん』

 

 黒龍はわたしを見た後、歓喜するように天高く咆哮をあげて、空に去っていく。

 暗雲に包まれていた空は、龍の羽ばたきで晴れ渡って、ただの夜空に戻った。そうやって去って行った龍を、いつまでも見送った。

 

 

 見えていた世界は嘘のように消える。

 もとの霧島神境の舞殿に、完全に意識が戻ってきた。

 

 目の前には、ぽかんと口を開いた石戸さんと、疲れ切った初美さんが後ろに手をついていた。

 

「これは、凄い力。驚いたわね」 

「やられてしまいましたー。クロは、すごく強いのですねー……!」

 

 それに、おねーちゃんや、他のみんなも驚いていた。

 

「すご、今の……すごいですよ、玄さんっ!」

「今のプレッシャーやば……てか玄、リーチしたわよね!? しかも裏ドラの連続ツモ!」

「わわっ……!?」

 

 ずっと見ていた二人が、勢いよくわたしに迫ってきて、目を丸くした。

 質問に答えようとしたけれど、でも、うまく説明ができない。

 

「え、ええっと……わたしにも分からないの。でも"できる"って思ったから、やってみたんだ」

「はぁ……」

「とうとう、裏ドラまで集めるようになっちゃったのね……確かに今までの玄との対局、裏ドラで点数ついたことはなかったけど」

 

 憧ちゃんが、心底呆れたような声で天を仰いだ。

 確かに今まで、裏ドラがあつまってきてくれたことはなかった。今の対局で新しい力が目覚めたことは、たぶん、間違いない。

 さっき見えた光景は夢や、幻なんかじゃない。わたしを守っていてくれたドラゴンさんは、確かにそこにいた。 

 すると、初美さんがぺたんと、後ろの床に手をついた。

 

「ちょっと、本気で打ちすぎて疲れてしまったのですよー……へとへとですー」

「くろちゃんも……ハンカチ持ってきてるから、使って……?」

「ありがと、おねーちゃん、っ」

「玄さんっ!?」

 

 ハンカチを受け取ったとき、体制を崩しかけて、みんなに心配されてしまった。

 対局している間はぜんぜん気づかなかった。ものすごい倦怠感だ。額にも、指先にも汗をかいていて、いつの間にか息もあがっている。

 

「あはは。わたしも、なんだかすごく疲れちゃったみたい」

「くろちゃん、もう休まなきゃ……」

「そうよ! また明日があるんだから、一旦中断ってことで!」

「お水、持ってきてる……二人とも飲んで」

 

 待っていた春さんが、竹の水筒をわたしと、初美さんに手渡した。

 

「……今日はここまでにしましょう。続きは明日ということで、どうかしら。玄さん」

 

 石戸さんにそう言われて、筒から口を離したわたしは、当然頷いた。

 

「では霞さん。これからどうしますか?」

「食事の予定だったけれど、汗をかいたままじゃ風邪を引いてしまうかもしれないわね。じゃあ、まずはみんなで温泉に入りましょうか!」

 

 ぱんと手を叩き合わせると、おねーちゃんが目を輝かせる。ポニーテールとツーサイドアップの風切り音がはっきり聞こえるくらい、しずちゃんと憧ちゃんが、勢いよく顔を上げて目を煌めかせた。

 

「温泉!?」

「温泉……あったかい温泉があるんですか……?」

「はい。神境の温泉は、とっても広くて心地いいんですよ」

「もちろん冷たい温泉もありますよー! ふえっ、なぜそんな悲しい顔をするのですかー!?」

 

 みんなが盛り上がりはじめた中で、ごろんと寝ころんだ。今日はこれで終わりだと思うと、力が一気に抜けた。

 

(ちょっとだけ、思い出せたよ)

 

 ずっと心にあった寂しい気持ちは、懐かしむような気持ちに変わっていた。

 木造の梁の通った天井を見つめて、天井に向けて伸ばした手のひらを握りしめる。欠けていた夢のピースのひとかけらが、手の中に戻ってきたような気がした。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。