精霊に文学少女がいないのはおかしいと思う   作:山野化石

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お待たせしました。


06

俺が待ち合わせの五分前に行くと、既に先輩がいた。

「おはようございます、先輩。待たせちゃってすみません。」

「いいえ、私も今来たところですよ。」

「じゃあいきましょうか。」

「はい。」

 

 

 

先輩とのデートはスムーズに進行していった。今までの様に突然のアクシデントや突飛な選択肢、突然の襲撃もなく、これぞデートとでもいうかの様に普通のデートだった。

先日買うことの出来なかった本を買いに行ったり。

「五河君、この前買えなかった本を買ってもいいですか?」

「じゃあ一緒にいきましょうか。」

最近知った美味しいスイーツのお店を回ったり。

「ここのクレープが美味いんですよ。」

「五河君が言うなら間違いないですね。」

 

今までとは違う普通のデートというやつに俺は戸惑っていた。エスコートしたり、されたりと恋人の様なデートは初めてだった。

今までは変則的なデートだったと思い知る。

十香達とのデートが楽しくなかったわけではない。恋人の様にデートしてこなかったわけでもない。しかし、攻略時に此処まで平和なデートは経験がなかった。まだまだ自分が未熟であると実感がさせられるばかりである。

 

 

「ここまで普通のデートは初めてね。」

「そうだね。今までのケースだといつも何かしらのアクシデントが起こっていたが今回はそれがない。我々の負担も少なくていいじゃないか。」

「そうも言ってられないのよ。いつもだったらアクシデントを起点に好感度を上げていたけれど今回はそれがない。つまり、このままだと今回のデートでは封印は無理なのよ。」

「確かに、このままだと封印するには少しだけ足りないな。こちらでトラブルでも起こすかい?」

「相手は対人無敵の精霊よ。ヘタなマッチポンプは本人で対処できてしまうわ。それじゃあ意味がないわよ。」

「それもそうか。なら人員は監視に留めておこう。」

「ありがとう。後は士道に任せるしかないわね。まさか、普通のデートで一番苦戦するなんて、まだまだ私達も未熟って事ね。」

 

 

「五河君、そろそろお昼ご飯にしましょうか。」

「じゃあどこかいいお店でも探しましょうか。」

「私、いいお店知ってますよ。オムライスが美味しいお店です。」

「いいですね。じゃあそこにしましょうか。」

 

 

先輩に連れられて向かったお店は商店街の外れにある静かなカフェだった。

「さっきも言いましたがここのオムライスが絶品なんです。」

此処まで先輩がオススメするのだ。相当に美味しいに違いない。オムライスとコーヒーを二人分注文する。

「五河君。今日はありがとうございます。」

「そんな、俺の方こそありがとうございます。あんな急に誘っちゃったのにOKしてくれて。」

「まぁ、五河君の目的は知ってます。精霊の封印が目的なのも。」

何故それを知ってるのだろう。ラタトスクのセキュリティは簡単に破れるものじゃないはずだ。

「なんで…それを知っているんですか…。」

「簡単な話…ではありませんが。私の能力は命名を強制させるだけのものじゃありません。私は他の天使の能力が使えるんです。その中には情報を収集するものがあるんです。」

だからそれを使って調べた、と先輩はなんでもない様に言った。

「じゃあ、十香や四糸乃の能力も使えるんですか?」

「十香さんのは今見せるのはちょっと難しいですね。でも四糸乃さんのなら出来ますよ。ほら。」

すると先輩がコップを指で弾く。すると入っていた水が凍っていた。

「これで、信じてもらえましたか?」

信じないわけにはいかなかった。

「すごいですね…。そんな能力があったんですか…。」

「それ程でもないですよ。これはこれで使い勝手が悪いですし。」

そうとは思えなかった。

「さぁ、そろそろ料理がきますよ。」

「あっ、はい。」

先輩がそう言ってから割とすぐに料理が出てきた。料理は先輩がオススメするのが分かる程美味しいものだった。

 

 

 

「私、最近ようやく料理を美味しいって思えたんです。」

料理を食べ切った後、食後のコーヒーを飲んでいると先輩はそう切りだした。

「どういう事ですか?」

「そのままの意味ですよ。私は最近まで美味しいって経験が無かったんです。味は感じるんですけどね。」

意味が分からなかった。味は分かるのに美味しいが分からない。そんな事があるのだろうか。

「私は元々感情というものが薄い人間なんですよ。昔はそうじゃなかったみたいなんですけどね。忘れちゃったものはしょうがありませんし。」

「そんなの…辛くはないんですか。」

「辛いって感情も薄いんですよ。喜怒哀楽が薄いんですから。だから初めてなんです。こんなに楽しくて、美味しくて、嬉しいのは。」

琴里が言っていて事を思い出す。確かに彼女は美九の時よりも手がかかるのかもしれない。人として当たり前の事を体験ではなく知識として記憶している。本人がそれを自覚していないのがそれに拍車をかけている。それでは悲しすぎるではないか。

「先輩。いや、一華さん。」

「はい。なんですか。」

「今日は最高に楽しませて見せます。」

「っ…はい!」

 

 

「ふーん、やるじゃない。これで相手の情報が引き出せたわね。」

「それに、白石一華の情報も集まった。なんというか、これは推測だが、彼女は意図的に記憶を失ったのではないかね。」

「意図的に?どういう事よ。」

「これを見てくれ。おそらく、彼女が記憶を失う原因だと思うんだがね。」

「何よ…これ…、こんなの、思い出させちゃいけないものじゃない…」

 

 

 

「士道君。今日はありがとうございました。初めてのデートが貴方で本当に良かったです。」

「こちらこそありがとうございました。」

「ではこの辺で。また、学校で会いましょうね。」

「はい!」

 

 

 

 

「ふぅ、楽しかったなぁ。」

あんなに楽しかったのは初めてだ。

霊結晶を取り込んでから感情というものが強くなっている気がする。今までならなんとも思わなかった事もどうでもよくなくなっている。

「これは…喜ぶべきなんでしょうか?」

流石に八年間も過ごしていれば自分が歪んでいるのは理解している。およそ自分が人間らしくはない事も。それが人間を辞めてからようやく人間らしくなっているのは何という皮肉だろうか。

「まぁ、士道君の目的上また誘ってくれるでしょうから次のデートの時に確認するのもいいでしょう。」

「さて、今日の夕飯は何にしましょうか?

魚もいいですが前に作ったハンバーグが残っていたはずですからそれにしましょうかね?

おや……家の前に車が止まってますね。何か用でしょうか?」

 

 

「すみません。私の家に何か用でしょうか?」

「ようやく帰ってきたか。久しぶりだな。」

「えっ……お義父さん……?」




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