精霊に文学少女がいないのはおかしいと思う   作:山野化石

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エターから少し復活したので再投稿です。



07

どうして……帰ってきたんですか…………イギリスに行ったんじゃ……。」

「何、簡単な話だ。またあの女が高飛びしたからだ。」

「っ……嘘………」

「本当の事だ。今頃、ヨーロッパの男と諸国漫遊でもしてるだろうさ。」

「私…はどうなるんです……?」

「その話をしにきた。既に離婚届は提出してきた。お前の親権は向こう持ちになる方向だ。だから、私にはお前を養う気はさらさらない。しかしだ、先程家の中を見させてもらったが管理はお前に任せて正解だったらしい。それなりに綺麗に保っていた様だな。」

そう言われた。そもそもこの家は広すぎるのだ。自分では扱いきれず、使っている部屋よりも空き部屋の方が多いくらいだ。だから月に一度の掃除でも十分に清潔さを保てたのだ。

「それで、だ。家の管理をしていた報酬としてお前に預けていた通帳は中身ごとお前にやることにした。それと、お前の私物だが、こちらで外に出しておいた。後で場所は伝える。必要な物があれば拾っておけ。だからさっさとどこへでも行け。もう二度と私の前に顔を見せるな。」

ああ、この人は最初から私の事など見てはいなかったのだ。すっかり忘れていた。

血も繋がっていない娘を養うほど甘くはないだろうとも思っていた。しかし、現実にこうなるとかなり堪える。あの本だけは保護しなければ。あれは絶対に必要なものだ。あれは私が持つ唯一のアイデンティティなのだから。

 

 

結果を言おう。本は見つからなかった。

一通り探し終えた私は学校関係の物だけ抱えて独りで夜の町を無気力にふらふらと彷徨っていた。正常な判断は既にできていなかったのだろう。

「あっ…メガネ持ってくるの忘れていましたね…」

ふいに、メガネを掛けていなかった事を思い出して囁告篇帙を取り出す。すると、ひとつの情報が脳に流れこんできた。

「これは…まさかあの本のある場所ですかね?」

すっかり忘れていたが情報収集の能力である

囁告篇帙を使えば直ぐに場所は分かった筈だ。正常な思考ができていなかった事を恨んだ。

私は地図の場所に急ぐ事にした。

 

 

 

「あら、思いの外、時間がかかりましたわね。」

「時崎狂三…」

たどり着いたのはビルの屋上。以前、彼女と遭遇した場所だった。

「貴女ならもっと早く来ると思っていましたが。どうやら見込み違いだった様ですわね。」

「ひとつだけ聞きます。貴女が本を持っているの?」

「ええ、貴女が探しているのはコレの事でしょう?」

こちらに見せつける様に取り出したのはまさしく私が探している本だった。

「……!返して下さい!」

「返さない、と言ったら?」

「力づくで奪い返させていただきます!」

それしか無い。幸いにも彼女は精霊の中でも勝算のある方だ。

「ここで倒して差し上げるのも優しさですわね…。」

『刻々帝ー【二の弾】!』

『刻々帝ー【加速】!』

相手の時間を遅らせる弾に対して加速の弾をぶつける。

すると彼女の弾は加速の弾を貫いた後、消滅した。

「なっ…!?」

「やっぱり、相反する効果の弾同士をぶつけることで相殺できる!」

「わたくしの能力が使えるのは知っていましたがこういう使われ方をするとは予想外でしたわ。」

「褒め言葉として受け取らせてもらいます!」

『支配騎士 突撃形態!』

蛇腹状になった剣を使って敵の弾を躱し、打ち消し、払う。緊迫した時間が数分程続いていく。敵から放たれる攻撃を紙一重で捌き続ける。

「随分と厄介ですわね…ならこれはどうです!」

『刻々帝ー【七の弾】!』

時間停止の弾。当たれば即敗北の反則技だ。

対応する弾が無く、打ち消す事はできない。

しかし、対応手段が無いわけでは無い。

『氷結傀儡!』

打ち消せ無いのならば止めてしまえばいい。

氷の壁で七の弾を防ぎ、減速弾で牽制し、剣を相手に叩き込む。

しかし、突如真横から強い衝撃を受けた。

「ガハッ!?」

そこには正面にいるはずの時崎狂三が立っていた。

「な、なんで…そこに…?」

「【8の弾】。有り体に言えば分身の弾ですわ。貴女ならば対策くらいはしていると思いましたが期待外れでしたわね。」

ああ、なぜ勝算があるから勝てると思っていたのだろう。

やはり純正品の精霊はバケモノなのだ。

能力の使用に寿命を使う彼女ならばまだ勝ち目があるだろうと思っていた。ガンガン攻めては来ないだろうとも。

予想外だった。まさか分身するなんて。

「まさか…勝てるなんて思っていましたの?」

ざっと数えただけでも50人以上の時崎狂三がいた。時間を操る能力の予想外の攻撃に私は戸惑っていた。ただでさえ一対多戦闘は苦手な上に能力弾の代償を霊力で肩代わりしていたせいで既に私の霊力は空っけつに近い。

これでは逃げる事もできないだろう。

さらに、先程受けた銃創から血が流れていくのがより逃れる事を許さないのを痛感させていた。

 

《逃げないの?》

仕方がない。敵は強すぎるのだから。逃げる事も出来ない。

《貴女は何がしたいの?》

あの本を取り戻したい。私が私足る唯一の物。それを諦めたくはない。

《なら変わってあげようか?》

今回はヤケに優しい。いつもの生意気な態度はどうしたのだろう。

《目的の一致。あれは私にとっても大切な物だから》

彼女がこんな態度を取るなんて思わなかった。まぁ、もういいだろう。私ではもうどうしようもない。ならば彼女を解き放ってあげよう。

《ありがとう。ゆっくり休んで》

鍵が壊れる音がした。意識が遠のいていく。

死ぬ時はこんな感じなのだろうか。もう起きる事はないだろうというのに下らない事を考えてしまっている。それくらい未練というのはないのだろう。

『あぁ…でも…もう一度でいいから、彼とデートをしてみたかったかな?……』

 

 

 

 

 

 

 

「始原の精霊への練習と思いましたがこれでは参考にもなりませんわね。」

横たわる彼女を観察する。【一の弾】や【ニの弾】を相殺してきたのには驚いたがせいぜいその程度だ。

「まぁ、反転しかけていたのですからこうする他ないのですけれど。」

彼ならばあの状態からでも救おうとするのだろうが自分ではどうにもできない。

「この本ももう必要はないですわね。」

何処かで捨てるか売るかしよう。デザインは好みだが持っていたところで役に立つわけでもないだろう。

 

 

《復讐騎士 破城形態》

突如何かが頬を掠めた。

そこには彼女の身の丈ほどもあるだろう大槌が構えられていた。先端に杭の様な物がある。それを打ち出したのだろう。

「まさかあの出血で生きていたのですか!?」

彼女は何も答えない。

「しくじりましたわね。反転してしまいましたか。」

金色の鎧は既に禍々しい黒に染まっていた。籠手には獣を思わせる爪が付いており、靴にも攻撃用と思われる爪があった。対象的に髪は全て白髪になっており、瞳からは色素が失われて髪と同じく白くなっていた。

《霊結晶91番から100番連結開始。完了。顕現開始。》

腰から延びたワイヤー、その先に付けられた金属板を重ねて作ったかの様なブレードは先程出していた天使の様な道具の形とはまるきり別物だった。機械のような見た目で生物の様に動くそれは機械的に喋る漆黒の騎士に不思議と似合っていた。

「まさしく合成天使…いえ魔王とでも呼べば良いのでしょうか。」

《返却希望。さもなくば攻撃を開始する。》

「とはいえ、まだ不完全なようですけれど。」

未だに人格部分が不完全だが油断ならない相手だ。

『【八の弾】!』

『模造-暴虐公』

無造作に振るわれた一撃で分身の半数近くが消し飛び、爪による追撃により、さらに多くの分身が消えた。

「なるほど…相当な威力をお持ちな様で。しかし…これでは獣ですわね。」

復讐騎士(バルバトス)-破城杭』

杭が発射される。

直撃こそ避けたがまた多くの分身が消し飛んだ。

「これはまずいですわね…」

これ以上の消費は今後の計画に支障が出る。

ここは隙を見て撤退するのがいいだろう。

『威力調整、形態変更。』

大槌と尾が消えその代わりに黒い大太刀が握られていた。

『過剰投与-偽典 終焉の剣チャージ開始』

黒い光の奔流。鳴り響く悲鳴の様な金属音。まさしく魔王の一撃と称するのが相応しい光景。合成品故の威力不足を霊力の過剰投与によりオリジナルを超える威力で放つ必殺の一撃。本来、不壊であるはずの天使が悲鳴を上げる程の過負荷。いかに精霊であろうと直撃すれば消滅は免れないだろう。

「なっ…!?この街ごと私を消し飛ばすつもりですか!?」

『チャージ完了まで残り十秒。』

「……ッ!行きなさい!私達!」

効率度外視の分身。大量の分身が一華に向かって突撃していく。先頭の分身は途中で消滅した。次点の分身もそこから十歩も進めずに消滅する。一人、また一人と消えていく。

「…間に合いなさい!」

『過剰投与-偽典-終焉の剣、発射』

発射される寸前、分身の一体が構えられた大太刀を蹴り上げる。

それにより必殺の一撃は一華の後方に空高く打ち上げられた。想定外の方向に発射されたためか彼女は地面に叩き付けられていた。

「ハァ…ハァ…、面倒な事をしてくれましたわね。」

予想外の出費に、それに見合わない収穫。完全に赤字だ。

「趣味ではありませんがここは撤退ですわね。」

そして、ビルから飛び降りて夜の街に消えて行った。

 

 

 

 

「人格浮上完了。あのゴスロリはもう逃げちゃったかな」

数分後、黒い騎士はおもむろに立ち上がった。

「久しぶりに表に出てみれば中々面白い事になってるね。」

先程と同じくに淡々とした様に、しかし先程よりも明るい声だった。

「ふむ、なるほどなるほど。彼女も甘いね。こんなやりたい放題できる能力を使わないなんて。もったいない。だから…」

「私が使ってあげる。」

《復讐騎士 星世転変》

 

 

その日、世界はそのあり様を塗り替えられてしまった。

 

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