光夏海が気がつくと、そこは見覚えのある景色だった。かつて何度も夢に見た、ライダー大戦の戦場。そして全ての旅を終え、大ショッカー幹部アポロガイストと決着をつけた場所。
辺りには煙が立ち上り、植物の焦げた匂いと熱気を感じる。ぱちぱちと鳴く炎は風に煽られて揺れ動く。
「どうして……」
ライダー同士の戦いは終わったはずなのに。
彼女の旅は一段落したはずだった。世界を巡り、大ショッカーを倒し、その後釜であるスーパーショッカーをも滅ぼした。
それが、どうして今ここにいるのかさっぱり分からない。彼女は周りをきょろきょろと見回す。その場にいるだけでは、状況は何も変わらない。夏海は仲間の名前を呼びながら歩き出した。
「……士くん! ユウスケ! 海東さん! ……どこに行ってしまったんですか」
ヒュンと目の前を何かが通り過ぎた。それと同時に背後で大きな爆発が起きた。爆風で夏海はバランスを崩し、転ぶ。
「きゃっ!」
爆煙が晴れると、そこには幾千ものライダーがいた。
「うおおおおおおおお!」
「はあああああっ!」
「わあああああああ!」
武器を構え、夏海を無視して走ってゆく。
地上には変形・武装したバイクが走り、空には龍のモンスターや列車が飛んでいる。ディケイドと共に世界を旅した彼女は、それらが何者であるか知っている。
「やめて! やめてください! みんな! もう戦う必要はなくなったはずです! ……士くん! いるんですよね! こんなの――」
ふと彼女は気づいた。押し寄せる大勢のライオトルーパーの中に、見覚えのない量産ライダーがいることを。
黒い殻付きの実を模したライダー、宝石の頭にいかつい爪を持ったライダー、フードを被ったひとつ目のライダー。
「これも……ライダー……?」
地上を猛スピードで駆ける巨大な車が二つに割れ、中から飛行メカが飛び出す。ドラグレッダーとは違う西洋龍と、獅子の顔をした生物、そして黒い服に身を包んだイグアナが空を歩行する。緑色の大型機械の鎧武者が武器を掲げたかと思えば、その後ろから竹馬型のビークルに搭乗した一部隊が飛び出していく。
新たなライダーたちが次から次へと登場する。そんな彼らもまた、夏海の知るライダーたちと目的は同じ。彼女の体感で、ライダーの数はかつて見た夢の倍以上の規模だ。それに、技の系統も多彩になっている。
しかし、彼らの末路は先の夢と変わることはなかった。巨大な爆発が連鎖的に起き、押し寄せるライダーたちの波を吹き飛ばしていく。
呆気にとられているうちに、戦いは終わっていた。夏海はライダーたちが向かっていた方向へと歩く。
辺り一帯に転がるライダーたち。その中心にはやはり彼がいた。マゼンタカラーのアーマーに身を包んだ、あのライダーが。
見慣れた後ろ姿。夏海の存在に気づいていないのか、振り返らない。最後まで顔が見えることはなかった。
彼の背に向けて、夏海はこう呟いた。
「……ディケイド」
◆
第1話「新・ライダー大戦」
◆
夏海は目を覚ました。
「夢……」
光写真館の受付カウンターで、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。通路に出て伸びをし、凝り固まった体をほぐす。スタジオから声が聞こえるところからすると、彼もそこにいるのだろうか。
「士く……」
彼の名を呼び、スタジオに入る。
しかし、そこに目的の人物はいなかった。代わりに一人、客が来ていた。光写真館にとっては久しぶりの客だ。上から下まで真っ白なスーツに身を包んだ男。彼はすました顔のまま首だけを動かし、部屋に入ってきた夏海を直視する。
「すみません、お客様。お邪魔しました……」
「あっ、夏海ちゃんおつかれさま~。士ならさっき出かけたとこだよ」
そう言って、レフ板を持って栄次郎のアシスタントをしていたユウスケがにこやかに手を振る。
仮面ライダークウガ。夏海が世界を渡り、最初に出会ったライダー。それが彼の正体だ。
「あっ、こらこら。ユウスケくん、ちゃんと光当ててっ」
レンズから顔を上げ、ユウスケに軽く注意したのは光栄次郎。この写真館を経営者で、夏海の祖父である。
「はいすみませんっ!」
「じゃあもう一枚いきますからね~」
お辞儀をして退室する。そして夏海は士を探しに写真館を後にした。
門矢士。ふらっと街に現れて、光写真館の居候をしていた男。そして、仮面ライダーディケイドであり、大ショッカーの首領だった男。夏海と共に世界を巡り、世界を救った英雄。
「……のはずなんですけど」
さっき見たのはディケイドが破壊者に覚醒した世界のビジョンだったのだろうか。夏海は頭を振って、余計なことを考えないようにした。
「嘘。あんなこと、もう起こりっこない」
士は夏海の予想通り、いつもの寂れた公園にいた。普段は首にかけたトイカメラで景色を撮影しているのだが、今日は様子が違った。ベンチに座り、手に持つ何かを眺めているようだった。
「士くん?」
彼女に呼ばれて、門矢士は顔を上げた。変わらぬ気怠げな表情を彼女に向ける。
「おう、どうしたナツミカン。ようやくお目覚めか?」
「いえ、なんでも……」
寝顔を見られていたことに少しムッとしたが、士の姿を見て少し安心した。それも束の間、彼が持つカードに視線を落とした瞬間、全身を寒気が襲った。
彼女の表情の変化を読み取り、士は手元を一瞥する。そして彼女にこう問いかけた。
「これがどうかしたのか?」
彼が持っていたのは仮面ライダーの姿が描かれたライダーカード。彼が旅をすることで、各世界のライダーの力が使えるようになったアイテムだ。
しかし今、彼が持っているのは以前の旅で手に入れたものとは違っていた。士本人すらも知らないライダーがいる。力が抜けたブランク状態になっており、ライダーたちの姿は薄ぼんやりとしているが、なんとか認識できる。
そんな彼とは違い、夏海はその面々に見覚えがあった。ロケットを模したライダー。武者の姿のライダー。ゲームキャラクターのようなライダー。
「それ……どうしたんですか!?」
「知らん。気付いたら増えていた。俺たちがまだ行ったことのない世界のライダーなのかもな。……お前はこいつらのことを知っているのか?」
「はい。実は――」
夏海は夢の内容を話した。士は眉一つ動かさず、それを黙って聞く。
「だいたい分かった」
「またそれ……。本当に分かったんですか?」
話が終わると士は立ち上がった。ベンチに座ったまま質問する夏海に、ブランクカードをひらひらと動かしながら見せる。
「次はこいつらの世界を巡れってことだろ?」
「話が早いな、ディケイド」
夏海の、更に背後で声がする。
彼女と士は同時にそちらを見る。
「鳴滝!?」
「鳴滝さん!」
鳴滝。夏海と士の前にたびたび現れる謎の男。大ショッカーやスーパーショッカーの幹部でもあったが、その正体は未だ謎のままだ。現にそれらの組織が崩壊した今でも、こうして二人の前に姿を見せている。
「こいつはお前の仕業か、鳴滝。なんのためにこんなことを」
士の問いかけを無視して、鳴滝は夏海に話しかける。
「光夏海、君の見た夢はいつか起こりうることだ。君たちは何としてもそれを阻止しなければならない」
「阻止ったって、どうすりゃいいんだよ。そもそも、今回のお前の目的はなんなんだ? もう騙されねえぞ」
「今はまだ早すぎる。お前が新たな九つの世界を巡り、全てのライダーの力を手に入れた時に話そう。どうか、世界を救ってくれ。お前の旅の無事を祈っているぞ、ディケイド」
「今までと態度が変わりすぎだろ。いったいどういう風の吹き回しだ?」
「……いかん!」
「あ?」
士の背後、鳴滝の視線の先に現れたのは白服の男だった。
「……なんだお前?」
「あなた……さっきの!」
彼は栄次郎が写真を撮っていた、あの客だった。
「ようやく見つけたぞ鳴滝。この世界で始末してやる」
《マスカレイド》
起動音と共にアイテムを自身の体に突き刺す。顔面が、骨をモチーフにした仮面に変わる。
鳴滝は後退りし、夏海はヒッと悲鳴を漏らした。
「うおおおおおおおお! うおっ!?」
士は、鳴滝に向かっていくマスカレイドドーパントに足を引っ掛け、転ばせた。ドーパントが自分の足元に倒れるのを見て、夏海はきゃあと叫んでそこから離れる。
「勝手に話を進めるな。展開が急すぎだ。ま、とりあえずボコッとくか」
士はディケイドライバーを取り出し、腰にあてる。その隙に鳴滝はオーロラの中に逃げていった。
「貴様! 私の邪魔を……!」
「変身」
《カメンライド ディケイド》
半透明の像が士の周りに現れる。それらが一つに交わり、一人のライダーの姿が出来上がった。それと同時にベルトの窓から飛び出たプレートがマスカレイドドーパントに激突し、吹き飛ばす。そしてそれらが頭部に突き刺さり、士は仮面ライダーディケイドへと変身した。
プレートの不意打ちを受けて腹が立ったのか、うがあと怒りの声をあげるドーパント。そんな彼に攻撃の暇を与えず、ディケイドはパンチをくらわせた。
「……ぶがっ!」
「なんだ、戦いは素人か?」
攻撃がヒットした顔を押さえて苦しむドーパント。彼が怯んだのを見て、士はライドブッカーから一枚のカードを取り出した。
《ファイナル アタックライド》
「とどめだ!」
《ディディディディケイド》
「はあっ!」
「うがああああああああ!!!」
攻撃を受けて爆発するマスカレイドドーパント。変身が解除されることなく、跡形もなく消え去ってしまった。
「今のはなんなんだ? 随分と趣味の悪い格好をしていたが」
そう言って変身を解除する士。夏海も分かりません、と首を振る。
「鳴滝さんを狙っていたみたいですよね」
「庇う必要はなかったかもしれないけどな」
「……笑いのツボ!」
夏海の親指が士の首筋に突き立てられた。
「は!? ……あははははははは! ナツミカン! 冗談に……ははははは! 決まってんだろ! ははははははは!」
「冗談に聞こえませんでした。私の夢のことを知ってるってことは、今鳴滝さんがやられちゃったらまずいってことなんです。ここは言うとおりにしてみませんか」
「はははは……はあ。あいつの言いなりになるのは癪だが、話を聞く限りそれ以外なさそうだな。あいつが世界を救ってくれって言ってんだ、それ相応のお礼も頂かないとな」
「もう。がめついですよ」
士は夏海を置いて一人歩き出す。
「とりあえず帰るか」
「あ……! 待ってくださいよ!」
写真館に戻るやいなや、栄次郎とユウスケ、そしてキバーラが二人を出迎える。
「あ、二人ともおかえり」
「撮影に行ってたにしては遅かったな。遠出か?」
「どこ行ってたのよー、二人ともー、きゃっ!?」
士はキバーラを手で払い、ユウスケの頭をわしゃわしゃと掻き回す。
「また旅に出ることになった」
「ぐえ。……えっ、嘘」
「本当だ。これを見ろ」
士はそう言って机の上に九枚のライダーカードを広げた。
「新しい……ライダーか!? あっ……これは……」
ユウスケが手に取ったのはダブルのブランクカード。
「ああ、見覚えのある奴もいるよな。俺たちはそいつらの世界を回らないといけないらしい」
「いや~嬉しいねぇ~」
三人と一匹はパネルの鎖をいじる栄次郎の方を見た。
「人はみんな、生きている限り旅人なんだよ。人生という旅は死ぬまで続く。だから再び旅立てるこの日は、新たな人生の始まりだ」
「きゃ~! 栄次郎ちゃんかっこいい~♡」
「あは、あは、そうだろう? うわっとっと!」
栄次郎が手を滑らせ、新たな絵が登場する。
ビルが立ち並ぶ街の中に、ひときわ巨大な風車付きの塔がそびえ立っている。
「これが最初の世界か」
士がそう言うと、外でびゅうと強い風が吹いた。窓がガタガタと音を立てる。
彼らの新たな旅が、始まる。
次回 仮面ライダーディケイド2
「ようこそ風都へ! 歓迎するぜ~!」
「また警察か」
「やはり俺の知っているダブルとは少し事情が違うみたいだな」
「君のガイアメモリが欲しいんだけどね」
第2話「Wの世界/街を守る者」
全てを破壊し、全てを繋げ!