仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「ライダーは助け合いだろ?」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「ハッ。オーズの資格を持つ者の自覚がないな」
「一度痛い目に遭えば考え方も変わるだろ」
「君はあのオーズというライダーにご執心みたいだね」
「間違いない、グリードです!」
「倒すしかないだろ」
「ウオオオオオオオオッ!!」


第13話「恐竜と赤い翼と伸ばす腕」

 恐竜グリードは大きく吠えた。あまりの迫力に、二人のライダーは思わず足がすくんでしまう。

 手当たり次第に破壊を行っていたグリードは、目標をディケイドとオーズに定めたようだ。一心不乱に殴っていた地面や壁には目もくれず、ライダーたちに向かってくる。

 

「来るぞ!」

「は、はい!」

 

 ディケイドはオーズをドンと押し、その反動で反対側に飛ぶことで左右に散る。寸前で敵の突進を避けた。

 すると、それを確認したグリードは太い尻尾を長く伸ばし、一回転して二人を跳ね飛ばした。力強い攻撃を受け、二人は壁にめり込む。

 二人が崩れたコンクリートと共に地面に落ちたと思えば、次にグリードは口から電撃を放った。

 

「うああああああああああっ!!」

 

 二人はその場に倒れた。

 剣を支えにしてなんとか立ち上がるディケイド。ダメージを受けたところをいたわりながら、敵の次の行動に備える。それに対してオーズはうつ伏せに横たわったままだ。

 

『エ……エイ……ジ……』

 

 あれはただの空耳なのか。そう思いつつも彼は既に、自分の立てた仮説が真実であると確信していた。

 彼は目の前の異形の怪人を見て、ぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

 

 

第13話「恐竜と赤い翼と伸ばす腕」

 

 

 

 

 ディケイドは恐竜グリードと戦闘中だ。グリードはまだ有り余るパワーの使い方がなっておらず、先ほどのように単純な攻撃ならば簡単に躱せる。敵の攻撃には冷気が纏われていて、攻撃が当たった地面は凍り付いていく。

 彼は敵の大振りのパンチをバックステップで避け、ライドブッカーからカードを取り出した。

 

「そっちが恐竜なら、こっちも恐竜でぶつかってみるか」

 

《フォームライド ダブル ファングジョーカー》

 

 ディケイドは白と黒のボディの刺々しい見た目のライダーに変身した。変身完了と共に身体中のトゲがギンと逆立つ。ディケイドダブルも恐竜グリードと同じように吠えた。

 姿勢をぐっと曲げて重心を低くする。前方向に跳ね、敵に一発攻撃を加える。そして受け身をとって次の攻撃へ。ディケイドダブルはまるで野生動物かの如き動きで恐竜グリードを翻弄する。グリードの尻尾攻撃もバク宙で回避した。

 ファングジョーカーがすごいのは回避性能ではない。攻撃に特化したフォームだけあり、敵のパワーにもものともしない力を持っていた。二人は鍔迫り合いの戦闘を繰り広げる。

 

「はっ!」

 

 右足でグリードの腹に蹴りを入れ、左足で地面を蹴る。跳んで、その左足でグリードの顎にキックを与えた。グリードが怯んだ隙にまたカードをドライバーに装填した。

 

《アタックライド ショルダーファング》

 

 右肩から刃が生えてくる。それを取り、敵に向かって投げた。

 

「ウガ……グ……」

 

 不規則な動きで飛んでいくそれは、恐竜グリードを右から左から、切り刻むようにダメージを与えていく。グリードは攻撃の隙がなく、激しい攻撃に苦悶するだけだった。

 

「とどめだ!」

 

《ファイナル アタックライド ダダダダブル》

 

 戻ってきたショルダーファングを肩に収め、必殺技のために屈む。右足首から新たな刃が生えてきた。ディケイドダブルは跳び上がり、回転しながらグリードにみるみる近づいていく。

 

「だめだーーっ!!」

 

《サイ》

《ゴリラ》

《ゾウ》

 

 二人の間に、サゴーゾコンボに変身したオーズが割って入った。

 

「お前……! 何して!」

 

 目では確認できているが、体はいうことを聞かない。必殺技を中断しようにも避けようにも、タイミングが悪すぎた。ディケイドダブルは勢いそのままにオーズに突っ込んだ。

 

「うわあああああっ!!」

 

 オーズは両手を前に出して防御の態勢をとっていたが、ディケイドダブルの破壊力に負けてしまった。コンボの反動とディケイドから受けた攻撃、二つのダメージがエイジを襲う。

 オーズの変身が解除され、膝をつく。グリードの声を聞いたエイジの口元が緩んだ。

 

「グオ……エイ、ジ……」

「やっぱり……そうなん……だな……」

 

 言い終わると白目をむき、倒れた。

 恐竜グリードは倒れるエイジを見てただおろおろとするだけだった。エイジに駆け寄るディケイドを確認すると、どこかに逃げていった。

 

「……! 待て!」

 

 ディケイドが叫んだ時にはグリードは既に消えていた。

 変身を解除し、地面に倒れているエイジを見下ろす。彼は何をしたかったのか。士にはまだ理解できていなかった。

 

 

 

 

 海東は紫龍ファウンデーションに赴いていた。崩れた地下にいたため、服には砂埃が付着している。なんですかあなたはと彼を止めようとする社員たちを振り払い、会長室に進んでいく。

 バンと扉を開けると、会長は椅子に座って誰かの到着を待っていた。

 

「たのもー」

「何かご用かな」

「あんたの息子さんの話をしたいんだけど。今彼がどこにいるか分かるかい?」

 

 単刀直入に尋ねる。

 会長は眉一つ動かす気配がない。

 

「アキラのことかな」

「ああ。彼は――」

「既に知っているよ」

 

 会長は胸元のポケットからリモコンを取り出す。ボタンを押すと椅子の後ろにモニターが降りてくる。

 モニターに映っているのは戦闘風景の録画だった。画面の中ではオーズとディケイド、そして恐竜グリードが戦っていた。

 別のボタンを押すとグリードがアップになった。映像は止まり、隣にいろいろな数値が出る。グリードの体を分析した結果らしい。

 

「君は何のためにここに来たのか。アキラのグリード化を戻す術を探しに来た。そうだね?」

「……」

「人が完全にグリードになる、すなわち肉体が完全にメダルに置き換わるには時間がかかる。だが、宿主の欲望によって反応速度に差が生じる」

「なら、まだ隊長くんは」

 

 会長は笑顔で頷く。余裕と満足を一つにした表情だ。

 

「今ならまだ間に合うが、じきに完全なグリードになってしまうだろうということだ。アキラは新たなグリードとなる」

「自分の息子だろう。彼がグリードになってしまってもいいのか!」

「いい」

「なに!?」

 

 会長の発言に海東は驚く。

 

「人を動かすのは欲望だ。自らの欲望に従った結果がグリード化(それ)ならば、私はそれを認める!」

「……」

「元々アキラには欲がなかった。なんでも人並み以上にこなせてしまう故に、渇いていたのだ。私は親としてあいつに接してきたが、特別何かを欲しがることはなかった。しかし!」

 

 机をばんと叩く。それはもう海東に話している口調ではなかった。独り言のように空を見つめ、興奮した口調で語り続ける。

 

「赤羽エイジくんがオーズの力を持ちヤミーと戦い始めてから、アキラは私にライドベンダー隊入隊を要求した! それは初めての欲望だった! 欲望の先に何を見出すのか。私はそれが見たいだけだ。我が子の選んだ道を!」

「ああそうかい」

 

 海東はこれ以上話すこともないと判断し、部屋から出て行こうとする。

 

「待ちたまえ」

 

 彼はその場に立ち止まり、顔だけそちらを向く。

 

「自らの欲するもの全てを手に入れるために動く存在。故に強欲(グリード)。だが今のアキラはたった一つの欲望のために全てを捨て去る、矛盾した、いわば虚無のグリードと呼ぶべき存在だ。これはとても危険だ」

「だからなに?」

「君にこれを預けておこう」

 

 会長が投げて寄越したのは赤いコアメダルだった。

 

「僕はこんなのいらないけど?」

「それはエイジくんへのプレゼントだ。渡してくれ」

「……ふん」

 

 海東はメダルを握りしめ、会長室を後にした。

 

 

 

 

 エイジは気がつくと、辺りに何もない謎の場所に立っていた。だだっ広い空間には草一本生えていない。足元もはっきり見えず、自分が何に立っているのかすら分からない。

 

「ここは……?」

 

 何もない場所をエイジは歩きだした。

 しばらく進むと、この遠くに人影が見えた。

 

「おーい。誰だー?」

 

 そう呼びかけるが、人影は反応しない。おかしいなと首を傾げ、小走りで近づいていく。

 ふと彼の足が止まった。

 

「あ……」

 

 人影はこちらを振り返る。

 エイジの体が震えだし、汗が出てくる。視界がぼやける。息をするのも忘れてしまいそうだ。

 

「アキラ……」

 

 そこに立っていたのは紫龍アキラ。

 嘘だ。ここにいるはずがない。だって、アキラは。

 

「そうだよ」

「!」

 

 エイジの考えていることが伝わったのか、アキラはエイジに笑いかけた。久しく見たことがなかった笑顔だ。その笑顔に彼は、言い表しようのない不気味さを感じた。

 そしてアキラの腕が。足が。体が。だんだんと変化していく。

 

「いやだ……アキラ……うわああーーーっ!!!」

 

 エイジは叫んだ。

 その拍子に、再び目が覚めた。

 今度はしっかりと床があり、壁があり、天井がある。エイジはベッド代わりのソファに寝かされていた。急に起き上がったことで、額に乗せられていたタオルが落ちる。

 

「気がつきましたか?」

 

 初めての声に質問される。声の方を見ると、救急箱が置かれたミニテーブルの周りに三人の男女が座っていた。

 会釈するエイジに、女は「あなた、長いことうなされていたんですよ」と伝えた。彼女の言う通り、窓の外はすっかり暗くなっている。

 エイジは、士によって光写真館に運ばれていた。夏海やユウスケの手当ての甲斐あってエイジは目覚めたのだった。栄次郎は替えのタオルを持ってきたところだったが、エイジの元気そうな姿を見て喜んでいた。

 

「あ……門矢さん。ありがとうございました」

 

 お礼を言われたのに士は不満そうな顔だ。

 

「ありがとうじゃないだろ。せっかくあいつを倒せるところだったのに。なにやってんだお前は」

「すみません……」

「まあまあ。エイジくんもなにか理由があったんじゃないかな」

「そうかあ?」

 

 文句を言う士をユウスケがなだめる。だが士の言うことはもっともだ。ライダーがヤミーやグリードを放置することは市民への危険を意味する。

 しかし、今回は状況が状況だ。

 

「はい。実はちょっと思うことがあって……。多分、さっきのグリードの正体は……アキラです」

「なに?」

 

 士は半信半疑だった。

 

「アキラさんって、あなたのお友達の……ですよね? 士くんに聞きました」

「あいつ、人間じゃなかったのか!?」

「いや! 間違いなく人間です! でも、人間がグリードになったなんて話は聞いたことがありません。ありませんが……そうとしか思えないんです」

 

「その通りだよ」

 

 スタジオに新たに一人入ってきた。

 

「海東。お前何か知ってるのか」

「隊長くんは謎の男にコアメダルを投げ入れられて、ああなってしまった」

「謎の男?」

「この世界でもガイアメモリを使っていてね。どうやら僕たちの他に世界を渡る奴らがいるみたいだ」

 

 ガイアメモリはダブルの世界の道具のはずだ。

 士は今までに遭遇した白い服の男女を思い出していた。別のライダーの世界のはずだが、彼らは同じ服装で、一貫して士たちと逆の行動をしていた。最初に鳴滝を襲ったのもそうだった。

 

「アキラと一緒にいたんですか!?」

 

 エイジはソファから立ち上がり、海東に歩み寄る。

 

「ああそうさ。オーズくんにもお世話になったね。このお宝をいただくために彼と取り引きをしていたんだ、君と戦って勝たせるというね」

 

 海東は胸元から三枚の黒のコアメダルを取り出した。

 メダルを保管していたのは財団のビルの地下。厳重な警戒がしかれたそこに侵入するのは不可能ではないが骨が折れる作業だ。それを堂々と正面から入るためにアキラに案内させる必要があったのだ。

 

「あんた、そんなもの欲しさにアキラを見殺しにしたのか!? あんたがしっかりしてればアキラはグリードにならなくて済んだんだっ!」

 

 海東の発言にカチンときたエイジは彼に殴りかかろうとする。それをユウスケが後ろからなんとか取り押さえる。

 

「離してくださいよ! こいつが……!」

「落ち着け。今ここで感情に身を任せても意味ないぞ」

 

 士はエイジの腕を掴んで引き、海東から遠ざけた。エイジもすぐに怒りが治まったようで「すみません」と罰が悪そうに言った。

 

「お前はあいつのことをずいぶん気にかけてるな。昔からの友人だからか?」

「そうですね。……アキラは、昔から体が弱かったんです。だから余計に心配だっていうのはあります」

 

 エイジは話し始めた。

 

「バースだってただのパワードスーツじゃない。あいつはそれを無理して使ってる。変身するたびに負荷がかかってるってのは、俺からはずっと見えてたんです。そんなの……無茶させられないに決まってるじゃないですか」

 

 彼は、変身のたびに身体中を痛めるアキラを、タカの目で見てきた。心配だったが、それを伝えることは強くならなければならないという彼の気持ちに水をさすものだと判断したのだ。

 

「あいつのことを思えば思うほど、俺が頑張らないとって思ったんです。アキラのためを思うなら、俺が強くなってあいつを守らなくちゃいけないって」

「なるほどな。プライドの高いあいつに本当の気持ちを言えなかったということか」

「全部アキラさんのため……だったんですね」

「人は、自分の身の丈に合ったことしかできません」

 

 エイジは手を前に突き出して言った。

 

「俺が変えられる世界は、俺の手の届くとこだけ。自分ができることを精一杯やる。それだけです。……今の俺にアキラを救えるんでしょうか」

 

 掌をじっと見つめ、拳を握る。

 

「人間は欲望にまみれた生き物さ」

 

 海東が再び会話に混じる。一同はそちらを向く。

 

「欲が深すぎるとそれに溺れ、あらぬ方向に暴走してしまう。だが、厄介なことに欲がないと生きてる感じがしないのも事実だ」

「……」

「彼は今、メダルに足を取られて欲望の海で溺れている状態さ。助けられるのは君だけだ。君の手で彼を引き上げたまえ」

 

 エイジは小さく頷いた。

 

「さあさあ、ご飯できたよ。君も食べていきなさい」

 

 栄次郎が皿を持ってやってくる。エイジは好意に甘えることにした。

 いつもより人が多い食卓。ユウスケは栄次郎の手伝いをし、夏海は言い合いをする士と海東を注意する。

 賑やかな雰囲気に、エイジの心も少し晴れた気がした。

 

 

 

 

 とあるビルの屋上。めったに人が来ない場所で、怪人が柵にもたれかかっていた。

 恐竜グリードはショルダーファングで受けたダメージがようやく癒え、人間の意識もはっきりしてきた。

 彼の視界は色褪せ、ノイズが混じり、近くも遠くもぼやけて見える。車の音や人の話し声も、質の悪いイヤホンのようなボケた音しか耳に届かない。

 

「これが……俺か……」

 

 アキラはすっかり変わってしまった自分の手足を見た。

 聞いたことがある。ヤミーとは違い、コアメダルを核として構成された怪人。全てを手に入れるまで潤わないほどの欲を持つ、欲望の象徴。

 彼は、もしこのまま人間でなくなったとしても構わないと思っていた。

 

「うっ……」

 

 アキラは苦しむ。その瞬間、グリードの姿から人間の姿になった。まだ体がコアメダルに慣れきっていない。痛覚はまだ正しく働いているようだ。

 グリードがこの世の全てを欲しがるならば、彼はその逆だった。例え全てを失ったとしても、たった一つだけの欲望のために。

 アキラは気を失うように倒れ、眠った。

 

 

 

 

 次の日。エイジはいても立ってもいられず、街を適当に歩いていた。彼には士が付き添い、アキラ捜索に手を貸していた。

 探索に出していたタカカンドロイドが飛んでくる。タカーという可愛らしい機械音声を出しながら、くるくると旋回した。

 この先にアキラがいる。そう思うとエイジは歩けなくなってしまった。何人もの人に追い越され、すれ違う。

 

「どうした。この鳥が指す方にあいつがいるんだろ」

「そうなんですけど」

 

 エイジはタカカンドロイドを追おうとする士についていけない。足がすくんだままだ。

 

「やっぱ俺、戦えないですよ。戦いたくないですよ。だって相手はアキラですもん」

 

 その時、ドンと大きな爆発音がした。直後に悲鳴がする。カンドロイドが示す方向と逆であるため、アキラではないことは確かだ。

 

「こんな時にヤミーかよ……!」

 

 士はディケイドライバーを持つ。エイジも反射的にオーズドライバーを持ったが、手の震えが止まらない。

 

「お前……」

「ダメですね、俺。手の届く範囲でできることを精一杯やるって言ったじゃないですか? オーズの力を持ってから、世界中どこまでも手が届く気がしてました。でも俺の手は……いつも近くにいた友達には届かなかったんです。もう俺は……」

 

 エイジは下を向き、そう言った。その声は震えている。地面にぽつりと一つの染みができた。

 

「その程度だったのか? 君の、彼に対する気持ちは」

「……え?」

 

 海東が現れた。

 つかつかと二人の方に近づき、士をドンと押した。何をするかと思えば、彼はエイジの胸ぐらを掴んだ。

 

「いつまでそうやってウジウジしているつもりだ!」

 

 今にも殴りかかりそうな勢いだ。士はそれを止めようとしたが、海東の冷静さを失っていない目を見てその必要はないと判断した。

 

「手が届かないなら、次は精一杯伸ばしたまえ! 君が手を伸ばしたら彼もきっと応えるはずだ! 君たちはお互いに素直になれていない。まずは自分の心に正直になるんだ。君は何をしたい? 世界中に届く手? そんな言い訳はやめるんだ。思い出すんだ、君の欲を」

「俺の……欲……」

 

 それは彼が持っていなかったもの。エイジの口から漏れるように呟かれる。

 

「俺は……」

 

 彼の頭の中で思考が巡る。本当にしたかったことは何か。それを思い出している。そして一つの結論に達した。

 

「俺は、大切な友達を失いたくない。だから戦います。アキラの欲望に応えること。それが、俺があいつにできることだ」

 

 エイジはもう迷わない。確かな決意がそこにあった。海東はふっと笑い、指で銃を作ってばんと撃った。

 

「その欲望、解放しろ」

 

 海東はそう言い、エイジに赤いメダルを手渡した。

 エイジは頷く。飛んでいくカンドロイドの後を走って追っていった。

 

「海東……お前、ずいぶんとらしくないことをするじゃないか。雨が降るか槍が降るか、なんなら世界がぶっ壊れるんじゃないか」

「勘違いはよしてもらおうか。……僕もまた、通りすがりの仮面ライダー。それだけのことだ」

「ふっ。じゃあ行くか」

 

 士はディケイドライバーを腰に巻く。二人は同時にカードを取り出し、それぞれのドライバーに装填した。

 

「変身」

「変身ッ!」

 

《カメンライド ディケイド》

《カメンライド ディエンド》

 

 二人のライダーはエイジの向かった方とは逆の、ヤミー騒ぎの中心に向かって走っていった。

 

 

 

 

 エイジは街を超え、人がいない海岸まで来ていた。周りには何もないので、背の高い人影が目立つ。

 波打ち際に人間の姿のアキラが立っていた。彼は何も言わず、エイジの方に体を向けた。

 エイジもアキラの気持ちに応えるようにベルトを巻いた。海東から受け取った赤いメダルをドライバーに入れていく。

 

「変身」

 

 スキャナーが振り下ろされた。

 

《タカ》

《クジャク》

《コンドル》

 

 赤い光と熱いオーラがエイジの体を包み、オーズ・タジャドルコンボに変身した。

 アキラも同時に体をグリードの姿に変化させる。

 熱気と冷気が激しくぶつかり合う。

 二人は同時に走り出す。パンチを繰り出し、お互いの頬を殴るところまで全く同じ動きだった。

 

「うっ……!」

「グウ……」

 

 次に二人はキックを繰り出す。今度も同時にヒットした。

 

「嬉しいぜ、お前とこうして互角に戦えることが」

「俺は……そうは思わない」

「そうかよ。戦うのが嫌なら、オーズの力を捨てろ!」

「それはできない! これはヤミーから人を守るための力だから! バースもそうだろ!? なあ!」

 

 アキラのパンチを横に避けたオーズは、飛び蹴りをした。アキラがよろめき、当たったところからはメダルが溢れた。

 

「お前……もうグリードに……!?」

「かもしれないな。だが俺はお前と戦うためならば人間としての俺も捨てるつもりだ」

「バカ野郎!」

 

 オーズがパンチを当てた。今までで一番重い一撃だった。その衝撃でアキラは後方に飛ぶ。

 

「俺と戦う理由はなんなんだよ! 俺たちは大きな喧嘩もしてこなかっただろ! ここまで二人で仲良く歩んできたわけじゃないか――」

「違う!」

「ぐあっ!」

 

 今度はアキラがオーズを殴った。

 

「お前は他の奴らとは違い、俺に対等に接してくれた! 紫龍ファウンデーション会長の息子である俺にな。だから俺もお前の手をとった!」

 

 グリードの攻撃は止まない。

 

「いつも共に歩いてきた! 俺とお前は常に隣にいた! 横並びだった! だがオーズを手にしたお前とは実力が広がるばかりだ。追いついてもお前はその先をいく。いつしか俺の目標は……バースとして世界を守ることより、お前を超えることになっていた……」

 

 オーズの赤いボディに氷が付着しはじめた。アキラの胸中の思いを聞いていた彼は既に抵抗をやめていた。一方的にアキラに殴られるだけ。それでも彼は倒れず、ただ立っていた。

 アキラはスッと一呼吸置く。彼の拳に禍々しいパワーが集まっていく。

 

「俺は……お前と一緒に歩いていきたかった! それだけだったんだ……!!」

 

「俺たちは勘違いしてたのかもな」

 

 ぽつりと呟いたオーズは、バッと翼を広げた。全身を覆っていた氷の膜を溶かし、アキラの右手を受け止めた。

 

「!?」

「俺はオーズになった時、この世界の全部を守るって決めたんだ。この力があればできるって思った。そしてお前も守るって、そう思ってた」

 

 オーズはギュルルルと回転し、アキラの手を払い、距離を取った。

 アキラはふっと笑う。

 

「分かっていたさ。エイジのことだ。きっとそうなんだろうなと思っていた。だが、俺はそれがどうしても許せなかったんだ。お前の気持ちを素直に受け止めることが出来なかった……」

「……」

 

 アキラの拳に再び力が集まっていく。それは先ほどよりも強大だ。

 オーズもスキャナーを手にし、バックルに沿ってメダルをスキャンした。

 

《スキャニングチャージ》

 

 オーズは翼を広げ、宙に飛び上がる。足の形状が大きく変化し、アキラに向かって猛スピードで突っ込んでいく。

 

「来い! エイジ!」

「うおおおおおお! アキラァァァアア!」

 

 アキラは攻撃をしなかった。力を溜めていた拳は振られることはなく、下ろされた。

 

「すまなかったな」

 

 それが、エイジが聞こえた最後の言葉だった。

 オーズの必殺技を受けたアキラは倒れる。グリードの体は元の人間の姿に変わっていた。

 エイジは変身を解除し、慌ててアキラのもとに駆け寄る。砂に足を取られて転ぶが、それでもいち早く彼のもとにと急いだ。

 彼のもとにたどり着くと同時に、力なく倒れたその体を抱き上げた。小さいが、鼓動を感じる。アキラは人間として残ったのだ。

 

「……やったみたいだな」

 

 ヤミーを倒してすぐに駆けつけた士と海東は、倒れた友を抱きかかえるエイジの後ろに立った。

 

「俺の手……届いたんでしょうか」

「ああ。多分な」

 

 ふと、アキラの体が紫色に発光する。同時に海東の上着のポケットが光る。次の瞬間、アキラの体が浮かび上がった。

 そして海東の上着から三枚のコアメダルが、アキラの体に向かって飛んでいく。彼から紫のメダルが飛び出し、アキラの体は自由になって落ちる。黒のコア紫のコアの中に飛び込んだ。

 

「僕のお宝が!」

 

 計十二枚になったメダルの塊は、辺りの砂や水を巻き込み、メダルに変化させる。そしてそれらで体を作り出し、グリード態のアキラよりも数段がっちりしたグリードが誕生した。

 

「あれは伝説のグリード……ギル!」

「様子がおかしいぞ……」

 

 ギルと呼ばれたグリードは苦しみの声をあげる。そして体を膨張させ、獣のような姿になった。

 本来グリードは九枚のコアで構成される。ギルは必要枚数を超えたことで暴走状態となってしまったのだ。紫のコアメダル九枚の時点ですでにパワーを使いこなせていなかった。それが、別のコアを含めて十二枚になってしまえば、余計に使うのが難しくなるだろう。ギルは自我を失い、暴れ出した。

 真っ黒な体は光を反射して、節付きの、トゲがついた足が地面に突き刺さる。大きなハサミを持った腕は、振り回すだけでも脅威になる。

 ギルは悲鳴のような鳴き声を上げ、あたり一帯を破壊した。そして何かを求めて飛び去ってしまった。

 士たちは爆発の瞬間に変身し、事なきを得た。

 

「あっちは街だぞ!」

「止めないと……!」

 

 焦るオーズに、ディエンドは彼の肩に手を置いて言った。同時に一人のライダーを召喚する。

 

「彼のことは僕に任せたまえ」

 

《カメンライド フォーゼ》

 

 召喚されたフォーゼはメディカルモジュールを発動させ、アキラの治療を始める。

 

「ありがとうございます!」

 

 アキラの介抱をディエンドに任せ、オーズはギルが向かった方へ走っていく。ディケイドもそれを追う。

 破壊活動をしながらの移動は時間がかかるようで、グリードが街に入る前に追いつくことができた。

 ギルは、全てを喰らい尽くすグリードの本来の本能のままに動いていた。

 

「人は欲望でできてるらしいが、人はその欲をコントロールできるからな。こんなバケモノとは違う」

「中身のない欲望に、俺たちは負けませんよ」

 

 オーズのその言葉と同時にライドブッカーが開き、ライダーカードが飛び出した。カードにオーズの力が宿る。

 ディケイドはその中の一枚を選び、ドライバーに装填する。

 

《ファイナル フォームライド オオオオーズ》

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

「わ!」

 

 オーズの背からクチバシが飛び出す。彼の左右の手足がそれぞれ一つになり、大きな翼になる。最後に尾羽がつき、彼は『オーズタカカンドロイド』に変形した。

 オーズタカカンドロイドはギルに突っ込む。鋭いクチバシ攻撃や、翼による激しい攻撃でギルはメダルをこぼした。

 

「これは……」

 

 ディケイドはそれを拾い、近くの自販機に投げ入れた。自販機は一瞬のうちにライドベンダーに変形する。

 

「エイジ! こっちだ!」

 

 ギルと戦うオーズタカカンドロイドの方にバイクを飛ばしていくディケイド。オーズはディケイドの意思を汲み取り、そちらに向かっていく。

 ライドベンダーの前輪が開き、ヘッドが左右に割れる。前輪があった場所にオーズタカカンドロイドが納まると、バイクの黄色いラインが赤く変色した。

 二つが合体し、巨大な鳥型バイク、タカライドベンダーへと変わった。

 

「一気に突っ込むぞ!」

『はい!』

 

《ファイナル アタックライド オオオオーズ》

 

 大きな鳥の形をしたバイクはウィリー状態になり、スピードを上げていく。ギルは反応できない。

 

「はああああああっ!!」

『せいやァァァアアアア!!!』

 

 二人の掛け声と共に、炎を纏った赤い翼がギルを貫いた。

 炎はギルの身体中に瞬く間に広がり、爆発した。

 爆発の反動で大量のメダルがわっと湧く。セルメダルだけではない。紫と黒のコアメダルが空中に散らばる。タカライドベンダーの突進の衝撃でヒビが入ったメダルは、一枚残らず砕け散った。

 

「今度こそ、本当に全部終わりですね」

「ああ」

 

 オーズとディケイドは変身を解除する。

 辺りの地面一帯を、セルメダルが覆い尽くしていた。

 

 

 

 

 メダルの回収も終わった後、士はエイジのバイト先に来ていた。特に用事はないが、彼が働く横で人の往来を眺めている。エイジとチヨコは相変わらず忙しそうだ。

 

「ありがとうございました。俺もアキラも、心の突っかかりがなくなった気がします。手が届かないなら伸ばせばいい、でしたね。あの人にもお礼を言っといてください」

 

 それを聞いて士は適当に手を振り、はいともいいえともどっちともつかないような動作をした。

 

「あの」

 

 ふと声がした。士たちはそちらを見た。

 声の主は客ではなかった。とある財団の会長の息子。彼は屋台に貼ってある求人のポスターを指さした。

 

「バイト。募集してるって聞いたんだが」

 

 エイジは呆気にとられている。そんな彼に、補足するように言った。

 

「俺も、守るべき人たちと関わることを始めてみようと思ってな。まずは手の届くところから、一緒に」

「……! ああ!」

 

 エイジの顔はとびきりの笑顔だった。チヨコも嬉しそうに笑う。そんな二人を見て新たにバイトにやってきた彼も、照れ臭そうに、だが嘘偽りのない笑顔を作るのだった。

 士は彼らにカメラを向け、シャッターを切った。

 

 

 

 

 写真館に戻ってきた士はお土産の白い箱を持っていた。エイジに持たされたアイスキャンディーたちだ。箱を開けるとドライアイスの白い煙がふわあと床に落ちる。

 箱に群がる夏海たちを尻目に、士は一枚の写真を眺めていた。

 

「おっ。これ、いいじゃないか」

 

 栄次郎がそれを覗き込み、言う。

 相変わらずの変な写真だった。そこにはエイジの接客スマイルとアキラの仏頂面、そして二人が肩を組む後ろ姿が写っていた。

 

「あいつら二人なら、この世界のどこにでも手が届くかもな」

「……? どういう意味だ?」

 

 赤いストロベリーアイスを持つユウスケが尋ねる。

 

「お前は知らなくていい」

「なんだよ冷たいじゃん」

「鬱陶しい」

 

 士の方に歩いてくるユウスケを避けるように、士は立ち上がって逃げる。その際に彼の足が引っ掛かり、椅子がガタンと音を立てた。

 その瞬間、ジャララララと新たな絵が出現する。

 スクリーンには巨大な建物だけが描かれている。一般的な建物であり、一見ただの街中の風景を描いただけに見える。

 

「おっ、今度のは分かりやすいぞ。病院かな」

「……あれ? これはなんでしょうか」

 

 夏海は絵の中を指差す。

 そこには地面から突き出た土管や、不自然に空中に浮かぶブロックが。よく見ると宝箱なんかも置かれている。

 次の世界も一筋縄ではいかなさそうだ。

 士は自分のアイスを持ち、一口頬張った。




次回 仮面ライダーディケイド2

「政府が特別に発行した、ゲーマー免許があれば変身可能なのです」
「お前も医者か……!?」
「さあ、オペの時間だ」
「俺にかかればパーフェクトッだぜ!」

第14話「Championの名はエグゼイド!」

全てを破壊し、全てを繋げ!
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