仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「エイ、ジ……」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「思い出すんだ、君の欲を」
「俺の……欲……」
「人はその欲をコントロールできるからな」
「中身のない欲望に、俺たちは負けませんよ」
「まずは手の届くところから、一緒に」
「ああ!」


第14話「Championの名はエグゼイド!」

 士たちは新たな世界にやってきた。

 この世界についての最初の情報である壁の絵はただの風景画に見える。

 

「士くん。君のカメラ、修理できたよ。ほらどうぞ」

 

 椅子に座り絵を見つめる士のもとに、栄次郎がカメラを持ってやってきた。士が絵を見ていたのはこれを待っていたからだった。道具のメンテナンスは重要だ。

 彼はそれを無言で受け取り、レンズを覗く。

 

「……最高だ。サンキューな、爺さん」

「それでね。お金のことなんだけど」

「金ならない」

 

 いつものように栄次郎は代金のことを話し出すが、士はそれをバッサリと切り捨てた。

 

「お前恥ずかしくないのか? これ見てみろよ」

 

 テレビを見ていたユウスケが話に入ってきた。

 見ていた番組は、どうやら数日前に行われたゲームの世界大会の様子を映したものらしい。決勝に残ったのはどちらも未成年。だがプレイヤーの年齢は大学生と中学生で、大きな差があった。

 勝負はもう終わっていた。勝利したのは中学生の方。優勝賞金とトロフィーが贈られていた。

 

「士くんもこれくらい持ってきてくれたらいいのになあ」

「ですよねー。あれっ、士?」

 

 彼らはそう呟くが、士には届くはずもなかった。二人に背を向け、そそくさとその場を去る。「おい待てよ」とユウスケがついていくが、彼はそれも無視して扉を開けた。

 

「士くん?」

「おっ」

「笑いのツボ!」

 

 廊下で待ち構えていた夏海の親指が彼の首筋に突き刺さる。士を追って出てきたユウスケはそれを見て身震いする。

 

「うぁははははははははははははは!!」

 

 士はその場に崩れ落ちた。

 

「なーにが『金ならない』ですか! なあなあになってましたけど、あなたのツケ、ずっと溜まってるんですからね!?」

「はは……そ、そのうち払う」

「そのうちっていつになるんでしょうね!?」

「知らん」

 

 夏海は再び親指を立て、士を脅すように見せつけた。首を手で隠して士は玄関へと逃げる。

 写真館を出ると、士の格好は変化した。

 

「……また白衣か? バリエーションが貧相だな」

 

 少し前に訪れたゴーストの世界でも似た格好になった。そこでの立場は眼魔世界を研究する者だった。

 

「お、こんなの入ってるぞ」

「勝手に人のポケットをまさぐるな」

 

 ユウスケが取り出したのは、チェストピースがやけに大きな聴診器だった。サイズが大きいだけでなく、変なボタンもついている。

 

「お医者さんでしょうか?」

「こんなの持ってる医者なんて見たことないけどなあ。しかも士が医者って……ふふ」

「なんだ? 俺にかかればどんな病気も治してやるぞ」

「お前免許ないだろ」

「あ。こっちにも何かありますよ」

 

 夏海は妙に膨らんだ胸ポケットから名札を取り出した。三人はそれを覗き込む。そこには顔写真と、士の役職が書かれていた。

 

「聖都大学附属病院・小児科研修医・門矢士……」

「えっ小児科!? お前が!?」

「笑うな」

 

 士はユウスケの髪をぐしゃぐしゃにする。それでも彼は士がただの小児科でなく研修医であることをいじる。

 

「門矢先生! こんなところにいらっしゃったんですね!」

 

 息を切らした女の声がした。

 そこには女性看護師が立っていた。先生と呼ばれる士がおかしいのか、夏海とユウスケは後ろでくすくすと笑う。

 

「なんなんだ!?」

「なんなんだじゃないですよ、もう! 患者の子が待ってますからね! こんなとこで油売ってる暇なんてないですよ!」

「お、おい!?」

 

 彼女は士の腕をとる。士の抵抗も物ともせず、どこかに引っ張っていった。

 

 

 

 

第14話「Championの名はエグゼイド!」

 

 

 

 

 士は看護師に連れられ、病院にやってきた。名札にも書かれていた聖都大学附属病院だ。

 

「ほら! 休んでないで!」

「普通あの距離なら車かなにか用意するだろ……! 歩かせやがって……!」

 

 バテ気味の士と違い、看護師は元気そうだ。

 

「研修医なんだから、人一倍頑張らないとですよ」

「なんだそりゃ!」

 

 長い長い廊下を経由し、士は診察室に連れていかれる。かなり大きな病院だ。診察を待つ患者や見舞いに来た人がそこらにいる。

 その時、士は視界の端に白いスーツが見えた気がした。いろいろな世界に現れ、直近のオーズの世界ではアキラをグリード化させたという奴らが。

 

「……!」

 

 注目する暇もなく、白スーツの行方は柱に遮られて見えなくなってしまう。追いかけようにも看護師に腕を取られてしまって動けない。

 白衣の医者を見間違えたのだろうか。士は釈然としないまま、それを見逃すことにした。

 

「着きましたよ」

「おう」

 

 小児科研修医として、多少雑ながらも診察をする。検査器具の使い方もカルテの書き方も大体分かる。医者ではないが、なんでもこなしてしまうのが門矢士である。そのはずなのだが。

 

「おい! 逃げるな!」

 

 子供は彼の手に余る。

 病院嫌いの子は少なくない。泣き出したり、逃げ出したり、はたまたどこかに隠れてしまったりで士は手を焼いた。

 

「待てって!」

「いやだっ!」

 

 士は追いかけっこを始めてしまった。

 

「……今、士くんの声しませんでした?」

「いや? あいつは多分仕事中でしょ」

 

 遅れてやってきた夏海らは、院内の掲示板に貼られたポスターを見ていた。病院の外観の写真が載っている。

 

「やっぱりここ、絵にあった病院だ」

「ユウスケ、これ」

 

 夏海が見たのはポスターの隣に貼ってあった小さな掲示物、電脳救命センター通信。先月出たバグスターの種類と数、そして感染時の症状と対策が書かれている。

 

「バグスター? ゲーム病?」

「この世界特有の病気なんでしょうか?」

 

「バグスターウイルスに興味がおありで?」

 

 白衣の男性に声をかけられた。若そうな見た目だ。この病院の医師であることは間違いだろう。

 

「あ、はい。ここの病院の先生ですか」

「この世界についてお話を聞かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

 

 夏海は頭を下げると、男は笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 それから数分が経った頃、士の診察は終わっていた。

 

「ったく。大人しくすりゃすぐ済んだものを……。どうしてああ子供ってのは落ち着きがねぇんだ」

 

 士は机の上に突っ伏す。

 

「元気があり余ってるんですよ。というか門矢先生、小児科研修医なんだから子供のことに文句言ってちゃあ、やっていけませんよ」

 

 士の愚痴を笑い飛ばし、彼女は部屋を出た。

 

「お疲れのようだね」

 

 代わりに部屋に入って来たのは海東だった。

 

「何の用だ。頭でも見て欲しいのか?」

「言うようになったじゃないか。ところで士、ゲームは好きかい?」

 

 海東は手で銃を作り、士をばんと撃つ。

 

「あ?」

「この世界ではゲームの力がライダーの力になる。その中には不老不死の力を持つものもあるらしい。どうだい、それをどっちが早く手に入れられるか勝負するのは?」

「生憎だが、そんなもんに興味はない。俺は俺の仕事をするだけだ」

 

 その時、士のポケットからブザーが鳴った。その正体はあの聴診器だった。

 

「ゲームスコープが……。バグスターが出たんですね!」

 

 鳴り止まない音を聞いて駆け込んできた看護師がそう言った。士はゲームスコープの止め方を知らなかった。いろいろボタンを押すが、音は鳴りやまない。

 海東はいつの間にかいなくなっていた。

 

「……バグスター?」

「門矢先生、知らないんですか? バグスターっていうのは──」

 

 

 

 

 夏海たちは別室に案内されていた。

 

「まだ名乗っていませんでしたね。ここの院長をしています、原戸(はらど)です」

「院長?」

「ははっ、意外ですよね」

 

 院長という役職にしては若すぎるような気がした。聞き返すユウスケに、原戸は笑顔で更に返す。

 彼に続き夏海たちも自己紹介をした。

 

「この世界はバグスターウイルスという新種のウイルスによって脅かされています」

 

 彼は話を始めた。

 

「バグスターウイルスは人間に感染するコンピュータウイルスです。感染してしまうとウイルスに体を乗っ取られ、最後には消えてしまう。それがゲーム病です」

 

 原戸がそう言うと、彼の首にかけていたゲームスコープからブザーが鳴った。

 それを聞いた彼はモニターの電源を入れた。そこには道端に倒れ苦しむ患者の姿があった。体はモザイクがかったようにぼやけたり揺らいだり。悲鳴も途切れ途切れに聞こえる。

 

「原戸さん、この人は!?」

「ゲーム病患者が現れたようです」

「ええっ! 大変……!」

「ご心配なく。うちにはそれに対抗する力がありますから」

 

 そう言って彼はポケットから真っ赤なゲームカセットのような道具を取り出した。夏海とユウスケは机に置かれたそれを覗き込む。

 

「これは?」

「ゲキトツ……ロボッツ?」

 

 夏海はそこに書かれた文字を読み上げた。

 

「ガシャットといいます。これを使うとそのゲームの特性を得ることができます。つまり、ゲーム病にはゲームの力で対抗するわけです」

 

『院長……』

 

 ふと内線で彼が呼ばれてしまった。すみませんと言い残し、彼は部屋を出ていった。病院内だからこういうこともある。

 彼が出て行くと、白衣を着た男が二人、画面に映った。二人は同時にガシャットを起動する。

 

《バンバンシューティング》

《爆走バイク》

 

 ガシャットの音声が鳴ると共に、ゲームエリアが展開された。

 

 

 

 

「人間が消える!?」

「ええ。ですが、ゲーム病はバグスターを攻略することによって治すことができます」

 

 看護師は落ち着いて士に説明する。

 

「うちには資格を持ったドクターライダーがいます。彼らがいれば消滅の心配はないということです」

「なるほど? じゃあとりあえずバグスターを倒せばいいってことだ」

 

 士は立ち上がり、ドアに手をかけた。

 

「門矢先生!? どこに行くんです!? あなた、バグスターに対抗する手段があるんですか?」

「俺は仮面ライダーだ」

 

 そう言い残し、彼は部屋を出た。

 

 

 

 

 とある医者は車を飛ばして現場に向かっていた。彼は腕のいい外科医であり、そのため全国から手術を依頼したがる患者が後をたたない。彼がバグスター出現の知らせを聞いたのは先程手術を終えてからのことだった。

 車は自然公園の中へと入っていく。普段ならば静かで、葉がざわめく音や鳥の声くらいしか聞こえない。だが今日は打撃音や銃撃音が響いて騒がしい。

 景色の中にブロックやエナジーアイテムといった自然物ではないものが増えていく。ゲームエリアが展開されている証拠だ。外科医は車を降りた。

 巨大なバグスター、バグスターユニオンが暴れているのだ。周りを木で囲まれていても、その巨体は目立つ。細く長い足をたくさん持つファージ型だ。

 

「はっ!」

「ィよいしょお!」

 

 既に二人のライダー、スナイプとレーザーが戦っていた。三人目の医者の到着を確認すると、サッと近くに集まった。

 

「患者の容態は?」

 

 目線はバグスターユニオンに向いたまま、医者はゲーマドライバーとガシャットを取り出す。

 

「見た通り、融合中ってとこだ」

「チョチョイっと切り離しちゃってよ!」

 

 外科医は頷き、ガシャットを起動した。

 

《タドルクエスト》

 

「変身」

 

 ガシャットを起動し、ドライバーに挿す。

 彼の周りにゲームキャラのアイコンがぐるぐると回りながら現れた。その中の一つを選択すると、彼も仮面ライダーに変身した。

 三頭身のライダー、仮面ライダーブレイブレベル1。彼は剣と盾を持ち、巨大なバグスターに向かって走っていく。

 

「切除するぞ!」

「おう!」

「りょーかい!」

 

 スナイプとレーザーは銃でブレイブの援護をする。

 ファージ型のバグスターユニオンは三人のライダーの攻撃に耐えかね、先ほどより激しく暴れ出す。体をくねらせ、頭をハンマーのように地面に打ちつける。

 

「くっ……!」

「なんだこいつ。今までのバグスターとは強さが違うぞ!」

 

 

《アタックライド ブラスト》

 

 

 その音声が聞こえてきたと同時に、バグスターに銃弾が命中した。バグスターユニオンの体から火花が散る。

 

「!?」

 

 ブレイブたちは弾が飛んできた方を見る。

 そこにはライドブッカーを構えるディケイドが立っていた。

 

「おいおいなんだその格好。まさかこの世界のライダーってのはお前らみたいなちんちくりんのことを指すのか?」

「なんだと!?」

 

 ディケイドはさらに銃弾を発射し、バグスターにダメージを与えた。足を重点的に狙うことで動き回ることを抑制したのだ。

 

「足を封じてやった。これで簡単に倒せるはずだぜ」

 

 ディケイドは三等身のライダーたちの前に立ち、ライドブッカーをソードモードに変形させた。

 

「待て!」

 

 ブレイブはディケイドの腕を掴んで引っ張る。

 

「なんだ?」

「今のバグスターは患者を取り込んでいる! 激しい攻撃をすると逆に危険に晒すことになるんだ!」

「ほう……。じゃあどうすればいいんだ?」

 

 それを聞いてディケイドは武器を下ろす。

 

「ここは俺たちに任せて――」

「あれ? あんた新キャラ?」

 

 また別の声がする。

 そこには全身ピンク色のライダーがいた。周りの緑の景色にミスマッチ。ディケイドもボディカラーがマゼンタではあるが、そのライダーはさらに明るいピンクだった。

 

「お前こそ誰だよ」

「ありゃ、俺のこと知らない感じ? じゃあそこで見ててよ。助けなんていらないからさ。俺にかかればこんなのパーフェクトッ! だぜ!」

 

 ピンクのライダーは腕をぐるぐると回し準備運動をする。そしてバグスターに突っ込んでいった。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

「おい! いきなりレベル2での攻撃はやめろ! まずはレベル1で……!」

「そんなダサい格好になれるかよー」

 

 スナイプは彼に対して銃を撃つ。だが彼はそれすらも「難易度が上がった」と楽しんでいる。

 周りのブロックを足場にしてバグスターユニオンの頭に到達した彼は、踏んだり殴ったり攻撃を仕掛ける。

 

「あいつもライダーか? お前らとは違うみたいだが」

 

 ディケイドは頭を抱えるブレイブに尋ねる。

 

「仮面ライダーエグゼイド。あれはレベル2の姿だ。本来ならばレベル1で患者とバグスターを分離させてからレベル2になり、引き剥がしたバグスターを倒すんだ」

「だったらなぜあいつを放っておくんだ!? 患者が危ないんじゃないのか!?」

「放っておくしかないんだよ。今俺があいつを撃っても無駄だったのを見たろ」

 

 スナイプが銃を下ろし、そう言った。

 エグゼイドの身のこなしは並外れている。故にどんな妨害をしてもそれをうまくいなしてしまうのだ。

 彼らが話しているうちに、エグゼイドの戦闘はクライマックスに入っていた。

 

「いくぜ!」

 

《キメワザ!》

 

 エグゼイドはドライバーからガシャットを抜き、キメワザスロットホルダーに挿した。

 

《マイティ クリティカル ストライク!》

 

 ダッシュしたエグゼイドは地面を蹴り、右足を突き出してバグスターに突っ込んでいく。そしてそれが当たる直前に、手をベルトにやった。

 

「今だ!」

 

《ガッチャ……》

《ガッチャ……》

《ガッチャーン!》

 

 キックの瞬間、ドライバーのレバーを何度も引いた。その度にバグスターユニオンの体がボコボコと膨れていき、最後には爆発を起こした。

 会心の一発。エグゼイドの必殺技が炸裂したことで戦闘は終わった。ゲームクリアの音声が聞こえ、その場には患者が倒れていた。

 

「……あいつ、今なにをやったんだ?」

「必殺技の瞬間にドライバーの開閉を繰り返すことで、患者の分離とバグスターの討伐の両方を同時に行えることを発見したらしい。いわゆるバグ技だ」

「そんなのアリなのか……?」

「アリなわけないだろ!」

 

 ブレイブたちはご立腹の様子。変身を解除し、倒れた患者のケアに向かう。ディケイドも変身を解除した。

 

「あんた、良いエイムだったね。足潰すとこ見てたよ」

 

 エグゼイドは士に話しかけた。

 

「でも惜しかったな~。あの足いっぱい生えてるやつの弱点は頭なんだよね。弱点を狙うってのはゲームの常識だからさ、次はそこ押さえて戦った方がいいんじゃない? じゃあね」

 

 そう言って彼は去っていった。

 褒めたかと思えば直後に早口で上から目線のアドバイス。士は少しカチンと来ていた。

 

「おい。何してる」

 

 先ほどまでブレイブに変身していた医者が士を呼んだ。

 

「お前もドクターなんだろ。病院に戻るぞ」

 

 士が、彼らも同じ病院の医者であることに気がついたのはこの時だった。

 目を覚まし、うまく歩けない患者を両側で補助する医者たち。それを見た彼は、思わずシャッターを切っていた。

 

 

 

 

「院長の原戸です」

 

 病院に戻った士は院長室に通されていた。士を待っていた原戸の挨拶に応えるように軽くお辞儀する。

 夏海とユウスケもまた士の到着を待っていた。応接室のモニターで戦いを見ていると、ディケイドが乱入してきたからだ。士のぎこちない態度が可笑しいのか、二人は笑いを堪えている。

 

「先程バグスター患者の治療に加わってくれたこと、感謝します」

 

 原戸は頭を下げた。あまり戦わなかった士にしてみると、少し変な感じだ。感謝されるほどの活躍はしていない。

 

「さっきのライダーはお医者さんだったんですね」

「はい。皆ここで医者として働いている者たちですよ。外科医の伊佐美(いさみ)ヒイロ先生、放射線科医の早内(はやうち)タイガ先生、監察医の(じょう)キリヤ先生。三人ともそれぞれの仕事で大忙しなんです。あなたがいてくれれば一人一人の分担量が減って、大助かりです」

「この世界は医者がライダーになるのか。すごいなぁ」

 

 ユウスケは感心したように腕を組む。

 

「そういえば。さっきのピンクのライダーも医者なのか? エグゼイド、とか言ったか」

「いえ」

 

 士の一言を聞き、原戸の顔が強張った。

 

「ライダーになれるのは医師免許を持った者だけではありません。政府が特別に発行した、ゲーマー免許があれば変身可能なのです」

「ゲーマー免許?」

「はい。バグスターはゲームから生まれたウイルスで、その治療にはゲームの特徴を多く含みます。ゲームが上手い者をライダーに選出し治療にあたらせるための政策、それがゲーマー免許制度です。まだ制度が完全に決まったわけではありませんがね。あくまで一年間の仮運用です」

 

 話が終わると、コンコンコンとノックされた。一同はそちらを見る。原戸が返事をする前に扉が開かれる。

 

「父さん! いる!?」

 

 入ってきたのは少年だった。

 

「今日も俺がバグスター倒した! いい加減ゲーマー免許を公式の免許にするように言ってよ。このままじゃドライバー返さなきゃいけないんだろ!?」

「エム! 静かにするんだ。お客様が来ているのが分からないのか」

 

 原戸は少年をそう呼んだ。二人は親子だった。確かに顔立ちに似た印象を感じられる。だが、原戸の若さでエムほどの年齢の子供を持つのはいささか不思議であった。

 少年の目線は客人である夏海たちへ移る。士と目が合った時、エムは彼を指差して叫んだ。

 

「あっ! さっきの!」

「?」

 

 こんな少年と会った記憶はない。士は首を傾げる。

 

「とぼけんなって! アドバイスしたろ!? あんた、俺がバグスターぶっ倒すとこ見てたよな!? な!? な!?」

 

 ぐいぐいと迫ってくるエムの迫力に圧される。アドバイス。バグスターを倒す。その二つのワードから、士はある結論に到達した。

 

「お前……まさかバグスターにとどめを刺したあのライダーか!?」

「ほら! 俺、活躍してるんだぜ!」

「君がエグゼイドだったんですね」

「やるなあ」

 

 夏海たちもモニター越しに観戦していた。当然、彼がバグスターを倒したところもちゃんと見ていた。

 二人に褒められ、エムは目を輝かせる。

 

「父さんが言えば衛生省も絶対賛成するって。俺がライダーとしてバグスターを倒す。そしたら他のライダーは自分の医療に専念できる。ほら、いいことばっかりだ。ゲームなら俺に任せとけって――」

「ダメだ」

「え?」

 

 原戸の口調は厳しかった。

 

「なんで俺にやらせてくれない? ゲームは俺の得意分野だ! 大会でもいつもチャンピオンなんだぜ!? ライダーとしては、これ以上ないと思うけど!」

「そのライダーになるのに相応しくないと言っているんだ。それに、これはただのゲームじゃない。バグスターは決まった手順で倒さなくてはならないんだ。それをエム、お前は自分の方法でやっているんだろ。それだと誰もお前を手伝えない。お前にも負荷がかかるんだぞ!」

「違う違う。俺の発見した方法だと戦闘の時間は短いし、効率がいいんだよ。だから同時に患者が出ても平気なんだ。俺のことなら大丈夫。なんたって俺は天才ゲーマーだから、さ」

 

「いい加減にしろ!」

 

 原戸は今までにないほどの大声を出した。エムはビクッとして、彼を見つめた。

 

「バグスターと戦うのはゲームじゃないと言っただろ! これは手術だ! 患者の命がかかっているんだ! ゲームの技術が必要なのは当然だが、医者として患者の命を預かっているという心の持ち方が必要なんだ!」

「っ……!」

 

 エムは唇を噛み、院長室を飛び出していく。しんとなった部屋で院長は半開きの扉を閉めた。部屋の空気は重い。沈黙を破ったのは原戸だった。

 

「……私はダメな親ですね。感情的になって怒鳴ってしまうなんて」

 

 彼は自分を責めるように呟いた。

 

「そうか? あのくらいの生意気盛りにはそれくらい言ってやった方がいいだろ」

「空気読めお前。エムくんにはエムくんの考え方があるんでしょうけど、原戸さんの言ってることもごもっともです」

 

 ユウスケがそう言うと、原戸は悲しそうな顔をして頷いた。

 

「俺、ちょっと行ってきます!」

 

 ユウスケはエムを追って部屋を出て行く。部屋には三人が残った。

 

「……私の責任です」

「え?」

「エムは母親も兄弟もおらず育ちました。私がここで働く間、エムの孤独を紛らわせるのは買い与えたゲームだけ。多くの命を救う代わりに、私はエムとの時間を失ってしまいました」

「そんな、先生のせいでは――」

 

 夏海がフォローする中、ふと士は立ち上がる。

 

「士くん?」

「気が変わった。俺も行く」

「え!?」

 

 士は扉に手をかけた。

 

「今日も私は帰れそうにありません。エムには、すまなかったと伝えてください」

「……それはあんたが直接言うべきだ」

 

 士は院長の顔を見ずに部屋を後にした。夏海は院長に深々とお辞儀し、士に続いた。

 一人残された原戸は立つことに疲れたのか、ソファの背に手をついた。

 

「うっ……!」

 

 急に彼は苦しみだす。

 息を荒げ、立つことすらままならなくなっている。吹き出る汗。回る視界。そして姿が揺らぎ半透明になるそれは、正にゲーム病の症状だった。

 ノック音がするが、返事はできない。声を出そうとしても呻き声が漏れるだけだ。

 

「失礼しま――院長!?」

 

 ノックをしたのはタイガだった。返事がないことと微かに聞こえる呻き声を不審に思い、中に入って来た。

 タイガに支えられ、深呼吸をすると症状は引いていく。

 

「大丈夫ですか!?」

「すまない……。まさか……ここで再発するとは……」

「今のは……。あとこれ、院長のMRIの結果です」

 

 タイガは持っていたファイルから写真を出した。誰にも見られずにするためにはこうするしかなかった。

 タイガが取り出したのは胸部の写真。

 そこには心臓に突き刺さるようにガシャットが写っていた。

 

「このガシャットはいったい……。院長、あなた、いつから……」

 

 ファイルに入っていた次の写真は、ガシャットのタイトルがはっきり読める。

 デンジャラスゾンビ。それが原戸の体内のガシャットだった。

 

 

 

 

 ユウスケは病院を出て、走るエムの後を追っていた。

 

「待てよっ」

 

 ユウスケが追いつき、エムの手を掴んだ。エムは無理に振り払おうとはせず、息を切らせつつ質問をした。

 

「なんでついてくるんです? 父さんの指示ですか」

「ち、違うよ!」

 

 ユウスケはエムに鋭く冷たい目を向けられる。

 

「じゃあなぜ」

「君の話を聞いてみたかった。ライダーになって戦って、人を助けたことをあんな嬉しそうに話す。悪い子だと思えなかったんだ」

 

 ユウスケがそう言うと、エムの目つきが少し柔らかくなった。

 その時、近くの地面が火花を散らした。

 

「うわっ!」

 

 二人はそこから離れる。煙が晴れたその場所には三人のバグスターが立っていた。ソルティバグスター、モータスバグスター、そしてグラファイトバグスター。

 

「最初から分離してる……!? なんで!?」

 

 ユウスケはエムの前に立ち、彼を守ろうとする。

 

「どけどけどけ! 危ないぞ!」

 

 大声で二人に呼びかけながら、士が走って来る。左手にはディケイドライバーを、逆の手にはライダーカードを持っていた。ドライバーを素早く腰に巻き、カードを装填する。

 

《カメンライド》

 

「変身!」

 

《ディケイド》

 

 士はディケイドへと変身した。

 

「うおおおっ!!」

 

 ライドブッカーを構え、ディケイドはバグスターたちへと突っ込んでいった。





次回 仮面ライダーディケイド2

「お互いがぶつかって噛み合ってないんだよ」
「もうお前たち医者は必要ない」
「私は医者として、それを認めない!」
「それが人として生きるということだ!」
「超協力プレイでクリアしてやるぜ!」

第15話「Flow! 父子のエンディング」

全てを破壊し、全てを繋げ!
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