仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「この世界はバグスターウイルスという新種のウイルスによって脅かされています」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「ゲームは俺の得意分野だ!」
「バグスターと戦うのはゲームじゃないと言っただろ!」
「最初から分離してる……!? なんで!?」
「どけどけどけ! 危ないぞ!」


第15話「Flow! 父子のエンディング」

 突如現れた三人のバグスターを前にしたエムとユウスケ。攻撃を仕掛けられ、ピンチの彼らのもとに士が駆けつける。ドライバーを装着し、ディケイドへと変身した。

 

《カメンライド ディケイド》

 

「うおおおっ!!」

 

 腰からライドブッカーを外し、ソードモードへと変化させる。

 彼が斬りかかったのは中央に立つグラファイトバグスター。グラファイトは長い双刃刀を振るってディケイドの攻撃を受けとめた。

 

「なかなか良い太刀筋だ!」

「そりゃどうも!」

 

 両者の武器が激しくぶつかり合う。互いが使う武器の関係でグラファイトの方が若干有利だ。ディケイドはダメージこそ負っていないが、なかなか敵に近づけずにいる。

 

「さあこちらの相手は誰ですかあ!?」

「ブルンブルゥン!! 俺についてこれるやつは~……お前か!」

 

 残った二人のバグスターは、なおエムたちに接近してくる。

 

「くっ!」

 

 ユウスケはエムの手を握り、その場から逃げた。

 

 

 

 

第15話「Flow! 父子のエンディング」

 

 

 

 

 少し走って、地下駐車場の中に来た。

 

「エムはここにいるんだ。俺は士を手伝ってくる」

「待って」

 

 物陰に隠れて安全を確認すると、ユウスケは彼らと戦うために立ち上がろうとする。しかし、それをエムが止めた。ユウスケがエムの顔を見ると、彼はこう言った。

 

「さっきのバグスター、ソルティ伯爵とレーサー・モータス。マイティアクションシリーズと爆走バイクのキャラだよ」

「知ってるのか?」

「うん。俺もやったことあるゲーム。だから俺だけでもいけると思うんだよね」

「えっ」

 

《ゲーマドライバー!》

 

 エムはゲーマドライバーを取り出し、腰に巻き付けた。そしてガシャットを取り出し、スイッチを押した。

 

《マイティアクションX!》

 

「エム!?」

「助けはいらないよ。一人でも平気。むしろそっちの方が楽。攻略法は知ってるし、何よりゲームは俺の得意分野だからさ! 変身!」

 

 ガシャットをドライバーに挿し、レバーを展開させる。エムはエグゼイドアクションゲーマーレベル2へと変身した。今回は患者と融合した状態のバグスターユニオンではなく独立したバグスターを相手にするため、やっと本来の用途でこの姿に変身した。

 

「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!」

 

 エグゼイドは決めポーズをして、バグスターたちのいる方へ走っていった。ユウスケは彼を見守るかたちで後ろから様子をうかがう。

 

「うおおおお! バグスター! 俺が相手だ!」

「見つけた! 返り討ちにしてやりますよぉ!」

 

 エグゼイドとソルティがバトルを始める。エグゼイドはパンチやキックを繰り出すが、それはソルティのごつい腕でいともたやすく防御される。

 

「こ~れはなんとしょっぱい攻撃……」

「なんだと!」

 

 エグゼイドはソルティの挑発に乗ってしまった。ガシャコンブレイカーを装備したエグゼイドは怒涛の練撃でソルティにダメージを与えていく。

 

「おらおらおらおら!」

「うぐっ! がっ!」

「トドメだ――なに!?」

 

 次のモータスの相手をするため、ソルティに最後の一撃を与えようとしたその時、エグゼイドの攻撃はまたも敵の左腕で止められてしまった。そして次の瞬間、エグゼイドの身体中を電気が駆け巡る。

 

「うわぁあぁあぁしびびびびび……」

 

 体の自由を奪われたエグゼイドは、ソルティから強い一撃を受け、床に転がった。ライダーゲージが著しく減少する。

 

「エム!」

 

 物陰からユウスケが飛び出し、ダウンするエグゼイドのもとに駆けつける。

 

「残念でしたねえ! あなたもこれでおしまいですよお」

「ブルンブルン! なんだ、もうバトルから降りちまったのか?」

「じゃあ次は僕の番だ」

「ん?」

 

 エグゼイドたちの奥から現れたのはディエンドだった。

 

「何者です!? 乱入者は受け付けていませんよ!」

 

 ソルティがそう言うと、彼の掲げた腕からウイルスが周りに広がった。地面に付着したそれは、一般バグスターウイルスとなってソルティたちの周りを取り囲む。

 

「一対一の勝負の邪魔をしたペナルティでーす! どうですか、私に辿り着くのが難しくなってしまいましたが?」

「残念。手下を呼べるのは君たちだけじゃないのさ」

 

 ディエンドは落ち着いた様子でドライバーを構えた。

 

《カメンライド ライオトルーパーズ》

《カメンライド クロカゲトルーパーズ》

 

「蹴散らせ!」

 

 召喚されたライダーたちはバグスターウイルスと戦い、各々散っていく。すぐにメインバグスターたちの姿が露わになった。ディエンドは、更にバグスターウイルスを生み出される前にカードを取り出し、それをドライバーに装填する。

 

《カメンライド》

 

「一対一をお望みなら、おあつらえむきの相手を用意するよ」

 

《バロン》

《チェイサー》

 

 ディエンドは更に二人のライダーを召喚した。バロンとチェイサーは、それぞれソルティとモータスの相手をする。

 

「ふん! むっ……!? なかなか……やりますねぇ!」

 

 ソルティとほぼ互角の攻防を繰り広げるバロン。それに対してチェイサー対モータスの戦闘は未だに始まっていなかった。

 

「うはは! 逃げてるだけじゃいけないぜー!」

 

 チェイサーは、周りを暴走するモータスをひたすら回避していた。

 

「さあお前のマシンを用意しろ! 俺とレースバトッ――」

 

 次の瞬間、モータスの顔面にシンゴウアックスがめり込んだ。バイクの超スピードの反動もあり、モータスは空中をくるくる回りながら地面に落ちた。

 モータスは起き上がることなく、消滅した。足元にゲームクリアの文字が浮かぶと、チェイサーも消えた。

 

「……やっぱりそうだ」

「エム! 痺れが治ってきたのか!」

 

 ユウスケの問いかけにエグゼイドはコクリと頷く。そして彼の考察を話す。

 

「爆走バイクはなんでもありのレースゲーム。ほんとのクリア条件は『相手より早くゴールする』なんだけど、『相手を落車させる』でも一応クリアのフラグが立つんだ」

「なるほど。だからバイクから落としただけで倒せたのか。じゃあ、他のバグスターは?」

「マイティアクションは一応ボスバトル回避があるけど、ドラゴナイトハンターは真っ向勝負しなくちゃいけない」

 

「はあ!」

「ぐわあっ!!」

 

 エグゼイドが話していたドラゴナイトハンターZのバグスター、グラファイトと戦うディケイドは苦戦を強いられていた。

 またグラファイトファングがディケイドのアーマーを強く打ち付けた。片側ならまだしも刃が両側についているため、ライドブッカーでは捌ききれない。

 

「ったく。その武器が厄介だな!」

 

 ディケイドはカードを取り出し、ドライバーに装填する。

 

《フォームライド クウガ ドラゴン》

 

 マゼンタカラーのボディが、落ち着いた青のアーマーに変化する。ドラゴンロッドをくるりと回してグラファイトに向かって突く。今までとはリーチが変わったことにより、グラファイトは反応が遅れてダメージを負った。

 

「ぬおっ! ……はっはっは。いいぞ。これでこそ戦いがいがあるというもの! さあ受けてみよ! 激怒竜牙!」

 

 グラファイトファングにパワーが込められ、赤く光る。そしてそれをブンと振ると、衝撃波がディケイドクウガに向かって飛んできた。これを受けてしまうとひとたまりもないだろう。

 ディケイドクウガはそれを素早い身のこなしで避ける。それと同時にライダーカードをバックルに挿し込んだ。

 

《ファイナル アタックライド ククククウガ》

 

 ドラゴンロッドにエネルギーを込め、グラファイトの体にぶつける。必殺技を放ったばかりのグラファイトはそれを耐えるパワーを残してはいなかった。演出のように爆発が起きた後、グラファイトはふっと消えた。

 ゲームクリア。その文字を見届け、ディケイドは最後のバグスター、ソルティはどうなったのかと振り返った。

 

「な……!?」

 

 結果的に言うと、ソルティは倒していた。だが、それはライダーによってのものではない。

 ディケイドが避けたグラファイトの必殺技。それが後方で戦う彼らの方に飛んでいったのだ。ソルティやバロン、ディエンドまでもがダメージを受けた。そしてエグゼイド――エムはそれを正面で受けてしまい、大怪我を負っていたのだった。

 

 

 

 

 聖都大学附属病院。辺りが暗くなり始め、窓からは明るい電灯が漏れている。

 院長である原戸は、放射線科医のタイガから受け取った自分のMRI画像を眺めていた。心臓の隣に写るガシャット。ただ体に埋まっているだけではないことは明らかだ。

 ふとノックの音がした。今日の院長室はやけに人の出入りが多い。写真を机の中に入れて隠し、「どうぞ」と客人を招き入れる。

 院長室に入ってきたのは先ほどまでここにいた二人、士とユウスケだった。士の方は相変わらずだったが、ユウスケの微妙な面持ちを見た原戸は、胸騒ぎがした。

 

「どうかしましたか」

 

 胸騒ぎの正体は確信していない。少し早口になって二人に尋ねる。

 

「あんたの息子が怪我をした」

「!? おい!」

 

 士は隠すこともオブラートに包むこともせず、きっぱりとそう言った。ユウスケが彼の腕をはたく。

 

「……エムが!? ……どうして!?」

「バグスターの攻撃があいつに当たった。ライダーに変身していたから命の心配はない」

「すみません! 俺たちがついていながら」

 

 ユウスケは深く頭を下げた。

 原戸は一瞬目の前が暗くなった気がした。目眩だろうか。いや、それにしては平衡感覚がスッキリしている。

 

「それで、エムは……」

「今は俺たちの家で休んでいます。しばらく動けないでしょうから、今晩はうちに泊まってもらうことになります。保護者に、怪我の件と併せて伝えないといけないと思って……」

「病院に連れて来るって言ったら嫌だの一点張りでな」

「い……」

 

 原戸は言葉を失った。

 

「……そうですか」

 

 なんとかその一言を絞り出す。

 

「明日、病院に連れてきますね。嫌って言ってもやっぱりちゃんと看てもらった方がいいですもんね」

 

 それ以降は、原戸は頷くことしかできなかった。簡単な返事すら考えることができない。最後に「遅くに失礼しました」と言って二人は去っていった。

 

「……」

 

 原戸は椅子に腰掛けた。

 何もかもがショックだった。まず、エムが負傷したこと。次に彼が病院に来ることを拒んだこと。そしてエムの怪我について彼らを咎めることができなかったこと。

 きっと士らのせいでなく、エムがまた余計なことをしたのだろうと思ってしまった。そんな自分自身が嫌になる。

 

『息子のことが気になってしょうがないみたいだな』

「ん?」

 

 誰だ?

 部屋を見渡すが、誰もいない。

 

『やはり怪我も死も無い方がいいだろう?』

「誰だ?」

 

 今度は声に出して言う。しかし、声の主は現れない。

 

『決して死ぬことのない完全な体。かつてのお前はそれを求めていたんじゃないのか』

 

 原戸は、それが自分の中から聞こえていることに気がついた。

 

『この、オレを』

 

 その瞬間、体が熱くなる。呼吸が荒くなる。頭の中が真っ白になる。

 

「う……ぐ……うがああああああああああああ!!!」

 

 バグスターウイルスは、患者がストレスを感じると活性化する。激しいストレスを感じた原戸の中のバグスターウイルスはとてもよく活性化していた。

 原戸の体が揺らぎ、一瞬だけ白黒の姿をしたバグスターの姿へと変化する。次の瞬間には元の人間の姿に戻る。

 

「……フ。人類は進化する。我々バグスターと同じにな」

 

 姿や声は同じでも、それは原戸ではなかった。

 また扉がノックされる。原戸に憑依したバグスターは何食わぬ声で「どうぞ」と言う。

 

「院長、少しよろしいでしょうか……」

 

 部屋を訪ねてきたのは一人の看護師。入院患者について用事があるようだ。

 

「ああ。なんだ?」

 

 バグスターは原戸に憑依したまま部屋を出る。そして用件を説明しながら前を歩く看護師に向かって手を伸ばす。

 

「……院長?」

 

 何か違和感があった気がする。だが、彼女の目からは原戸に何も変化は感じられない。後ろを歩く院長は普段と変わりない。おかしいな、と首を傾げて再度前に向き直る看護師。

 原戸に憑依したバグスターは、既に彼女にバグスターウイルスを感染させていた。

 

 

 

 

 光写真館の食卓には五人が座っていた。士、夏海、ユウスケ、栄次郎、そしてエムだ。

 

「わあ……! おいしいです!」

「そうかい。どんどんおかわりしていいからね」

 

 エムの感想に、栄次郎は嬉しそうに笑う。彼の小さな茶碗を持ってキッチンの方へ行く。

 エムの怪我の治療は終わっていた。今までノーミスでバグスターを倒していた彼にとっては負ったことのないダメージだったが、けがの程度は大したことない。傷を塞いで飯を食べれば元気が出るだろうということだ。

 うまいうまいと頬張るエムを見て、士は呟く。

 

「そこまで言うほどか? レストランに来たわけでもないだろうに」

「そんなこと言うなら君の分明日から減らしちゃうよ」

「っと、冗談だ冗談」

 

 丁度戻ってきた栄次郎に聞かれてしまった。士は慌てて訂正する。

 そうして夕食の時間は過ぎていった。

 

「ごちそーさま!」

 

 エムは元気よくそう言った。もうすっかり怪我の痛みは引いたようだ。

 夕食後、エムは持っていた携帯ゲーム機でゲームをしていた。真剣な表情をして、ボタンとスティックを巧みに操る。

 夏海は彼の隣に座り、声をかける。彼女とともに士とユウスケも画面を覗き込んだ。

 

「またゲームですか?」

「子供は早く寝ろ」

「これはバグスターに負けたから、次は負けないようにするためだよ。……あっ」

 

 画面に映ったのはゲームオーバーの文字。左スティックの操作がうまくいかなかった。

 リトライを選択し、また最初からゲームを始める。しかし、やはり左手がうまく動かないのか、小さなミスが目立つ。

 

「エムくん、明日は病院に行きましょう? その手、ちゃんと治さないといけませんよ」

「いや、いいよ……」

「どうしてなんだ。お父さんが嫌いだからか?」

「いや……そうじゃないけど」

「だったらなんで」

 

 エムは中断ボタンを押した。

 

「父さんは忙しいからさ、俺が病院に行くとさらに忙しくなるんじゃないかって思ったんだ。父さん、最近ずっと帰ってきてないから。だから、俺は俺だけで頑張る。そう決めたんだ」

「……」

 

 エムはスタートボタンを押し、またゲームの続きを始める。

 士は黙って部屋を出た。

 

 

 

 

 翌日の朝。聖都大学附属病院の様子はおかしかった。

 ユウスケはエムを連れて病院にやってきた。待合室も廊下にも人の気配はない。どこを探しても患者も医師も看護師もいない。

 

「すみませーん。どなたかいますかー」

 

 ユウスケは人を呼びながら病院内を歩いていく。電気はついているし、そもそも入り口が封鎖されていなかったため、休みではないはずだ。それでも人の気配がないというのは不気味で、まだ外が明るいにも関わらず怖くなってしまった。

 

「おかしいよ」

「なんで誰もいないんだ?」

 

 ガラ……。

 ユウスケが呟いた途端、真隣にある診察室の扉がゆっくりと開かれた。

 

「うわ!」

「わーっ!!」

 

 エムよりもユウスケが大きな声を出した。

 静かな空間が続いていたところに、急に扉が勝手に開くとくれば驚くのも無理はない。エムは悲鳴をあげて後ろに下がる。ユウスケは足を滑らせてその場に尻もちをついた。

 扉が完全に開ききると、そこにもたれかかっていたのか、一人の女性看護師が倒れてきた。彼女の体にはノイズがかかっており、発せられる声も途切れ途切れだった。ユウスケは彼女を起き上がらせ、診察室の中のベッドに寝かせた。

 

「大丈夫ですか!」

「あなたたち……逃げ……逃げて。こここここ……は危険……」

 

 そう言い残すと看護師は目を閉じて気を失う。そして顔のノイズがさらにひどくなり、バグスターウイルスの頭に変わってしまった。

 

「わっ! これはゲーム病か!?」

「いや違うよ。人間が……バグスターになった……?」

 

 エムの言う通り、人がバグスターに感染しているのではなく、バグスターそのものになっていると言った方が正しい。全く未知の症状だ。

 

「エム……来たのか」

 

 扉の入り口に原戸が現れた。

 

「原戸さん! これは一体どう言うことなんですか!」

 

 ユウスケは原戸に近づき、事態についての説明を求める。

 

「……! 離れて!」

「え? ゔっ……」

 

 エムの忠告は遅かった。原戸はユウスケの顔を手で掴み、大量のバグスターウイルスを浴びせた。ユウスケの体にノイズが走り、彼は気絶した。

 

「決して傷つかない不死の体、これは人類の夢だ。そこはあらゆる医療を必要としない世界。素晴らしいだろう」

「父さん……じゃないな? 何者だ」

 

 エムは後退りながら尋ねた。

 原戸はニッと笑う。

 

「お前が知る必要はない」

「ひっ!」

 

 原戸はエムに手を伸ばし、ユウスケのようにウイルスに感染させようとする。エムはそれをかわし、ベッドの縁に足を乗せて原戸を飛び越えて後ろに回り、診察室を出て行った。

 

 

 

 

 士はエムのゲーム機を触っていた。最近のゲーム機は一つの機械で複数のゲームができるらしい。彼がプレイしていたのは古いRPGゲームだった。当然エムはクリア済みだ。

 

「……あ! まーた人のもの許可なく勝手に触って! 壊したらどうするんですか」

 

 スタジオに入ってきた夏海が士を叱る。

 

「誰が壊すか。それよりこれ見ろ」

「?」

 

 夏海が画面を覗き込む。

 そこにはクリア日時とパーティの名前が載っていた。日付は今から数年前。そしてパーティの名前は『えむ』と『は゜は゜』。

 

「名前をお父さんに……」

「ああ。親父と二人でいられる時間はここにしかなかったんだ。昔から一人で育ったようなものらしいからな。ただ寂しかったんじゃないか」

 

 士はおもむろに立ち上がる。

 

「どこに行くんです?」

「病院だ。あいつらの反抗期を終わらせてくる。子供のケアをしてやるのが小児科医だからな」

 

 士はゲーム機の電源を切った。

 

 

 

 

 逃げながら、半開きになっている扉の中を覗いて回る。どの部屋にも、先ほどの看護師と同じ症状だと思われる人々が苦しんでいる。

 

「待てェ! エムゥ!」

「うわああっ!!」

 

 曲がり角から原戸が現れた。先回りされたのだ。病院内のことは院長である原戸の方がよく分かっている。さらに子供の足と大人の足では圧倒的に速さが違う。

 エムは引き返そうとするが、既に通路はバグスターウイルスと化した患者たちでいっぱいになっていた。

 

「嘘だろ……」

 

 再び前を見るとこちらに手を伸ばす父親の姿が。

 万事休す。

 そう思った矢先、急に視界が横にズレた。

 

「え?」

 

 エムの体は横に飛んでいた。彼を抱えて、仮面ライダーブレイブが窓から飛び出した。勇者の姿、人型のレベル2だ。

 

「ヒイロ! 坊ちゃん! こっちだ!」

 

 彼らを呼んだのはバイクの姿をしたライダー、レベル2の仮面ライダーレーザー。ブレイブはエムを後ろに乗せてハンドルを握る。

 直後、地面が爆発した。

 爆風に乗ってバイクは空を舞う。

 

「くっ!」

 

 ブレイブはレーザーと息を合わせ、うまく着地した。着地点にはもう一人のライダー、スナイプがいた。

 

「ねえ、これはどういうことなの!?」

「どうもこうもない。今朝気づいたらこうなってたんだ! 患者や看護師はみんなバグスターウイルスになるし、お前の父親――院長はあの様子だ」

「噂をしてると、来たみたいだぜ」

 

 レーザーの言う通り、彼らの前には原戸が立っていた。バイクで飛んできた彼らに追いつくのは、おおよそ人間ができる芸当ではない。

 ブレイブはレーザーから降りて剣を握った。

 原戸が一歩近づく。ブレイブは一歩退がる。また一歩詰める。また離れる。

 

「どうした? かかってこないのか?」

「……院長の姿をして、なんのつもりだ」

 

 ライダーたちは武器を持ってはいるが、攻撃ができないでいた。なぜなら周りにいるバグスターウイルスたちは見知った仕事仲間や患者だからだ。彼らを傷つけることはできない。

 

「フ……。そうか。この姿じゃあ戦えないかァ。ならば見せてやろう。これがオレの正体――お前たち人類の神となり救世主となるものの姿よ!」

 

 原戸の姿が揺らぎ、バグスターとしての姿を見せた。

 白黒の体からあちこちに伸びる管。彩度のないデザインの中で一際目立つ赤く光るバイザー。筋繊維や骨の露出を思わせるデザインだが、グロテスクを超えてある種の美しさやカッコ良さすら感じる。

 

「バグスター……か」

「あれは……バイヨン!?」

「坊ちゃん、知ってるのか?」

「うん。デンジャラスゾンビのラスボス、殺戮兵器・バイヨンだよ!」

 

 エムたちの前に立つバグスター・バイヨンは手を前に突き出す。

 

「ハッ!!」

 

 その声とともに辺りが爆発した。ブレイブたちはエムを庇い、ダメージを負う。

 

「うう……」

「どうだ。人間は脆いだろう。バグスターにならないか? そうすればお前たち医者は必要ない。苦しいのは最初だけ。完全にバグスターになるまでの辛抱だ。もう人は老いることも死ぬこともない。バグスターになり、データとして永遠の時を生きるのだ」

 

 バイヨンの管が外れ、そこからバグスターウイルスが一気に散布された。彼から飛び出したバグスターウイルスは風に乗り、人々にとりつき始める。

 

「やめろォ!」

 

 ブレイブはガシャコンソードでバイヨンに斬りかかる。攻撃判定はあるが、ダメージは通っていない。

 

「残念だったな。不老不死の体にそんな攻撃は効かない」

「~~ッ! だったらこうだ!」

 

《キメワザ!》

《タドル クリティカル フィニッシュ!》

 

 ブレイブはガシャコンソードのスロットにガシャットを挿入し、必殺技を放った。

 超至近距離で放たれたそれはバイヨンを両断する。

 バイヨンの体が揺らぎ、一部が元の人間の姿に戻った。今の姿は、バイヨンの頭部半分と片腕が原戸のものに変化した状態だ。

 

「院長!」

「伊佐美くん……。早く私を斬ってくれ。このままではまたバグスターに自我を奪われてしまう……。ぐっ……!!」

 

 原戸が苦しむと、半分の頭になったバイヨンが喋りだす。

 

「ガシャットの能力を利用した新たな形の医療……。お前の研究の先にあった完全な生物がオレだ。今日この日、オレによって人類は死を超越する!」

「違う! 生き物は必ず死ぬようにできているんだ。不老不死などあってはならない。私は医者として、それを認めない! 不死とは異常……それを治すのも医師の役目だ!」

 

 原戸のその叫びを聞いて、ブレイブは剣を構えた。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 そう叫んだのはブレイブではなかった。

 エムがエグゼイドアクションゲーマーレベル1に変身し、ブレイブにタックルをかましたのだ。衝撃でブレイブは吹っ飛ばされる。

 

「な、また邪魔をするつもりか!」

「邪魔なんかじゃない! デンジャラスゾンビはゾンビを倒すゲーム! その設定だと、バイヨンを乗っ取った人ごと殺すことになっちゃうんだよ!」

「な……」

 

 エグゼイドは叫び、バイヨンと同化した原戸をなんとか引き剥がそうとする。だが、ガシャットを体内に持つレベルで融合した二人を分離することはできない。

 ゲームの中でどんなプレイをしても分離することができないのはエグゼイドも知っている。それでも希望を捨てられない。

 

「フハハハハハ!無駄だ! オレには効かない」

「エム……! 私ごとバグスターを倒せ!」

「嫌だ!」

「急を要する事態だぞ! わがままを言うな!」

「嫌だ!」

「いずれお前にも感染するんだぞ! 早くしろ!」

「それでも嫌なんだ!」

 

 次の瞬間、バイヨンの腕がエグゼイドを掴み、衝撃波で彼を吹き飛ばす。レベル1の丸っこいボディが地面をゴロゴロと転がる。

 

「ぐ……」

「おいおい。来てみれば親子喧嘩の真っ最中か? それにしても周りのこいつらはなんだ。病院の人間の顔が変わってるが」

「誰だ!?」

 

 エグゼイドの側に士が立っていた。ブレイブたちは彼の登場に驚いている。エグゼイドや原戸もあっけにとられていた。

 

「士……さん?」

「あなたは……」

「お前ら、お互いがぶつかって噛み合ってないんだよ。心配するが故にどこかで遠慮してる、似たもの親子ってわけだ。それじゃ気持ちもうまく伝わらない。言いたいことがあれば遠慮なんてするな。なにせ、血の繋がった親子なんだからな」

 

 士の言葉で、エグゼイドは立ち上がる。そして再び敵に向かって走っていく。

 

「俺は父さんを見捨てられない! 俺の全てをかけても、父さんを助けたいんだ!」

「エム……」

「無駄だと言っているのが分からないかァ!?」

「ぐわああっ!!」

 

 エグゼイドは吹き飛ばされ、変身が解除されてしまう。彼が起き上がった頃には原戸の顔は消え、完全にバイヨンに戻っていた。

 

「人類はバグスターウイルスとして生きる。それがお前たちに用意されたハッピーエンドだっ!」

 

「違うな」

 

「人が笑顔であること、それが健康に生きている証だ。たとえ命が有限であったとしても、たとえ病を患ったとしても、それが人として生きるということだ。医者ができるのはその手助け。少なくともそれは、バグスターとして生き長らえさせることじゃない」

「なんとも効率の悪い考え方だ!」

「俺たちは人間。データでできてないからな。効率よりも大切なことがたくさんあるんだよ」

「知った口を……! お前! なんなんだ!」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ」

 

 ライドブッカーが開き、複数枚のカードが飛び出す。士はそれを手に取り、広げる。エグゼイドの力がカードに宿った。

 

「行くぞエム。親父を救う緊急手術だ。コンティニューはないぞ」

「……はい!」

 

 二人はディケイドライバーとゲーマドライバーをそれぞれ装着する。エムはガシャットのスイッチを押した。

 

《マイティアクションX!》

 

「変身!」

「変身ッ!」

 

《カメンライド》

《ガシャット! ガッチャーン! レベルアップ!》

《ディケイド》

 

 二人はディケイドとエグゼイドアクションゲーマーレベル2へと変身する。

 

《マイティジャンプ マイティキック マイティマイティアクション X!》

 

「ディケイド、ありがとう」

「あ?」

「久しぶりに……超協力プレイでクリアしてやるぜ!」

 

 それは、ずっとソロプレイを行っていた彼が誰かの手をとった瞬間だった。

 ディケイドはカードをドライバーに装填する。

 

《ファイナル フォームライド エエエエグゼイド》

 

 ライダーカードが読み取られると、どこからかゲキトツロボッツのロボットゲーマが現れた。ゲーマはバラバラに分離し、エグゼイドに合体する。

 

「え?」

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

 ディケイドはエグゼイドの背に手をやる。背面の顔を持ち上げると、その顔に目が現れる。左腕だけに装着されていた腕パーツが増え、もう片腕にも装着される。最後に足回りが太くなり、まるでレベル1のような姿に変化した。

 

「うおお! すごいぜ!」

 

 エグゼイドは『エグゼイドマキシマムゲーマ』になった。

 

「レベル1ではオレを倒せないことはもう分かっているだ――なに!?」

 

 エグゼイドマキシマムゲーマはバイヨンの隣に一瞬で移動し、地面に強力なパンチをした。最初から当てる気はない。だが、その速さと力強さを見せつけるには十分だった。再び超スピードでエグゼイドはディケイドの横に戻ってくる。

 それと同時にディケイドはカードをドライバーに装填する。

 

「いくぞ。あいつを倒す」

「ああ!」

 

《ファイナル アタックライド エエエエグゼイド》

 

 エグゼイドマキシマムゲーマの中にディケイドが入る。ディケイドはマキシマムゲーマを鎧のように纏い、ドスドスと走っていく。

 バイヨンは不死ではない。バグスターであるため、ライダーの力ならば倒すことが可能だ。

 

「待て! やめろ! 俺を殺すとお前の父親も死ぬぞ! それでもいいのか!!」

 

 バイヨンが焦ってそう言うが、ディケイドたちは止まる様子がない。巨大な脚にすごいパワーが溜まったまま、地面を蹴ってキックの態勢をとる。

 

「ハアーーーーッ!!!」

「なんだ血迷ったか!? ウワアアアアアアアッ!!」

 

 ディケイドたちのキックを前に、バイヨンは腕をクロスさせて防御姿勢をとる。

 二人はぶつかり合い、ディケイドたちは敵を貫いた。だが、バイヨンにダメージはない。ディケイドとエグゼイドマキシマムゲーマのキックはダメージを与えられなかった。

 

「……ん?」

 

 バグスターにされた人々を戦闘から離れるように誘導しながらディケイドたちの戦闘を見守っていたブレイブたちも、それを無言で見つめる。

 まるで時が止まったかのような静けさだった。

 

「……ふ。フハハハハハッ!! 残念だったな! なんだか知らんが、お前たちの秘策も無駄に終わっ終わっ終わ終わ終わ終わわわわわわわわわわわ」

 

 高笑いする彼の姿が揺らぎ、二人に分かれた。片側はバイヨン。そしてもう片方は原戸だ。

 

「……な、なにっ!?」

「父さんっ!」

 

 エグゼイドはレベル2の姿に戻り、父の元へ飛んでいく。うまくキャッチし、地面に落ちる衝撃を無くした。

 

「……エム。命の重さが分かったみたいだな」

「え」

「さっき私を助けるために必死になっていただろう。それが人を助けるってことだ。医者は患者の命を預かっている。それはゲーム病も同じ。医者も命をかけて患者に向き合わないといけないんだ」

 

 そう言った原戸は笑顔を見せていた。

 

「ああ! 俺……分かったよ!」

 

「うぐっ……! なぜだ! なぜだぁ!! オレに何をしたぁ!!」

 

 喚き散らすバイヨンに、エグゼイドは言った。

 

「お前の性質をリプログラミングさせてもらった。これで迷いなくお前を倒せるってわけだ!」

「ぐ……クソォッ!!」

 

《ファイナル アタックライド》

《キメワザ!》

 

「うおおおおおおおお!!」

「はあああああああっ!!」

 

《ディディディディケイド》

《マイティクリティカルストライク!》

 

 二人のライダーの必殺キックがバイヨンに放たれた。不死の能力を上回るほどの威力をぶつける。

 

「ま……さか……。オレ……がやられる……なん……て……! グォォォォオオオオオオオ!!」

 

 バイヨンは爆発し、彼の姿はチリと化した。そして空中にはゲームクリアの文字が浮かび上がった。

 

「……やった。やったぞーーーっ!!」

 

 ディケイドたちがバイヨンを倒したことによって、バグスターウイルスになっていた患者たちは元に戻った。皆お互いの無事を喜び合う。

 

「エム」

 

 原戸は彼を呼んだ。エグゼイドは変身を解除し、父の元へと駆け寄る。

 

「よくやった。ありがとう」

「いや……別に……うん、まあ、ね。へへっ」

 

 ぎこちない会話を交わしながら、息子は動けない父に肩を貸す。

 そんな親子に向かって、士はシャッターを切った。

 

 

 

 

 事態が収束し、バイヨンの脅威は去った。長年の感染者だった原戸は、徐々に回復している。エムは人を救うことの大切さを知り、医者を目指すことにしたらしい。ゲームは相変わらず大好きなままだ。

 

「いやあ、酷い目に遭ったぞ」

 

 ユウスケはバイヨンにウイルスを感染させられて疲れたのか、肩をグルグル回す。ゲーム病は治ったがまだ違和感がある。「ユウスケ大丈夫~?」と声をかけるキバーラに「なんとか」と返事する。

 

「それより……お前はなんでここにいるんだ」

 

 士はそちらに目もくれずに言った。その対象は海東だった。彼はバイヨンの感染騒ぎの間、ずっと病院内でお宝探しをしていた。

 

「士に僕のお宝を見せてあげようと思ってね。ほら、ハリケーンニンジャのガシャットだ。まだ発売されてないゲームでね。まさしくお宝だろう?」

「俺に言われても知らん。お前は俺に自慢するためにお宝探しをしてるのか?」

「き、気持ち悪いことを言わないでくれ」

 

 海東はガシャットを懐に仕舞う。

 

「それにしてもエムくん、いい顔してましたね」

「ああ。あいつはいい医者になる」

 

 士は撮った写真を机に広げていた。夏海と共にそれを眺める。

 

「お、また色々撮ったなあ。医者の仕事はちゃんとやってたのか?」

「当たり前だろ」

「お、これ、いい写真じゃん」

 

 ユウスケは広げられた写真の一枚を取り、みんなに見せた。いつもはそれを褒める栄次郎だが、今回は険しい表情だった。

 

「士くん、それでカメラのお金はどうなったんだい?」

「……ツケだ」

 

 士は少し沈黙し、そう言った。

 

「ちょ、ちょっと。ちゃんと払うって言ったじゃない」

「いつか払う。絶対だ」

「そういう約束だったでしょ――おっととと!」

 

 栄次郎は部屋中を歩き回る士を追う途中、足を滑らせてしまい、柱にドンと手をついた。

 その瞬間、ジャララララと新たな絵が出現する。今回の絵はガレージの中に赤い車が泊まっていて、その周りにミニカーが浮いている様子。

 

「次の世界か……」

 

 士はそう呟いた。




次回 仮面ライダーディケイド2

「ロイミュードってなんですか」
「やっぱこれからの時代はマッハだろ」
「お願いします! あの人のやる気を出させてください!」
「間に合ってくれよ……」
「反乱、というのはどうでしょう」

第16話「彼のドライブはなぜ止まったのか」

全てを破壊し、全てを繋げ!
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