仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「人類はバグスターウイルスとして生きる。それがお前たちに用意されたハッピーエンドだっ!」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「人が笑顔であること、それが健康に生きている証だ」
「医者も命をかけて患者に向き合わないといけないんだ」
「エム。よくやった。ありがとう」
「父さん……」


第16話「彼のドライブはなぜ止まったのか」

 夜。ビルが立ち並ぶこの街では、退勤で多くの人が歩く。家に急ぐ者もいれば店に立ち寄り大騒ぎする者もいる。

 空が暗くなった時間、黒いスーツの海にポツンと白い服。道のど真ん中を歩く姿は一際目立つはずだが、誰もそちらに目もくれない。

 一歩路地裏に踏み入れば、そこには静かな空間が広がる。白い格好の男は電話を取り出した。

 

「連絡します。バグスター暴走実験は終了。次の世界にて新たな実験を始めています」

 

 連絡が終われば即終了するはずの通話はまだ切れない。彼は電話の相手からとある忠告をされた。男は黙ってそれを聞く。

 

「あれ? あんたァ……なーにしてんだこんなとこで」

 

 路地の奥から浮浪者風の男が声をかける。白服の男はそれに関心を示さない。

 

「ご心配なく。任務は必ず遂行いたします。彼らの処理も兼ねて」

 

 男は電話を切った。そして浮浪者の方を見やる。

 

「な……なんだよあんた――はっ!!」

 

 それ以上の言葉を発することなく、彼は跡形もなく消えていた。

 

 

 

 

第16話「彼のドライブはなぜ止まったのか」

 

 

 

 

 士たちは朝イチで出かけていた。残る世界はあと二つ。士は手に持った二枚のカードを眺める。

 この世界でライダーの力を手に入れる手がかりは、写真館の絵に書かれていた車だ。その車を探すにはまず外に出ることからだ。

 

「あんなのが街中を走ってると思うか?」

「文句言うなって。とりあえず歩いて探すしかないだろ。それにしても……」

 

 ユウスケは歩調を緩め、後ろを歩く士の方を見る。

 

「また警察なんてな」

 

 警察と一口にいっても、警官帽をかぶったお巡りさんではなく、スーツ姿の刑事だ。

 

「ふん。正義感溢れる俺がたびたび正義の味方に選ばれるのも仕方ないことだ」

「どこがですか」

 

 そんなやりとりをしていると、サイレンを鳴らしたパトカーが数台すれ違った。それを無視して進もうとする士の服を掴んで止める。

 

「なんだよ」

「警察だろ。じゃああのパトカー追ってみようぜ」

 

 一理ある。士はユウスケの言うことに従うことにした。以前の世界でも警察の格好をした時は彼らが対処している事件を追えば自ずと事件に足を踏み入れることになっていた。

 パトカーを追っていくとすぐに現場に着いた。ビルの間には既に規制線やブルーシートが貼られていた。規制線の前には警官が一人立っている。

 

「じゃあ行ってく――」

 

 士は言葉を切った。

 夏海とユウスケも彼が無言で見つめる方向を見る。そこには一際目立つ赤い車が停まっていた。

 

「あっ! あれ! あの車ですよ!」

「行ってみよう!」

 

 三人は車に近づいていく。

 真っ赤なボディだけでも目立つが、さらにその独特な形のフロントバンパーと後部に着いたタイヤが異質さを演出する。

 三人は周りをぐるぐる回ってみたり、中を覗いてみたり、車の外見を眺めてみたり。どこからどうみてもおかしな車だ。

 

「よう。俺の愛車をじろじろ見てどうしたよ?」

 

 士らに声をかけたのは一人の刑事だった。やけにくたびれた格好は、外見を実年齢より老けて見せる。

 

「す、すみません……」

「いやいや。めちゃくちゃイカしてるってことは俺も否定しないけどな。あ、これトライドロンっていうの。すごいだろ?」

 

 刑事は士が首からかけているカメラに気づいた。

 

「おー。いいカメラだ。撮ってくれよ、ほら」

 

 カメラに手を伸ばそうとするが、士がそれを払いのける。刑事は何事もなかったかのように車にもたれかかり、ポーズをとった。士は言われた通り一枚だけ撮影する。

 刑事は「また現像したやつくれよ」と連絡先をメモに書き、上着のポケットから出した飴と一緒に士に渡した。

 

「これ、警察の方の車だったんですね」

 

 夏海が刑事の隣に立ちトライドロンを撫でる。彼は車に手をつき、夏海を見つめてこう言った。

 

「ああ。らしくないだろ? どうかな、俺と二人でハイスピィードなドライブでも……」

 

 そして車のドアに手をかける。夏海は返答に困っているが、士は刑事を冷淡な目で見ているだけで彼女を助ける気はない。刑事はドアを開けた。

 

「やめたまえシンノスケ。お嬢さんが困っているじゃないか」

「ああ。二人きりじゃなかった。あんたがいたわ」

 

 急に刑事のテンションが下がる。彼に注意したのはトライドロンの二つの席の中央に取り付けられていた機械だった。

 士は反対側のドアを勝手に開け、それをじっくり見る。

 

「なんなんだこいつは」

「はじめましてだね。私の相棒が失礼した。彼はこのトライドロンの運転手(ドライバー)である日輪(ひのわ)シンノスケだ」

 

 そういえば、先程渡されたメモには特状課・日輪シンノスケと書かれている。

 機械の円形のモニターに映し出される顔は表情がころころと変わる。

 

「そして私は――」

「高性能カーナビ。ナビさんだ」

「お、おいシンノスケ……」

 

 ナビさんと呼ばれた機械は驚いたような呆れたような声を出す。

 ガチャン。

 シンノスケの腕に手錠がはめられた。

 

「ちょっと日輪さん。なにやってるんですか」

 

 そうシンノスケを叱ったのは女性警官だった。手錠をぐいと引き、彼を夏海から剥がす。そして彼に近づき、ずいと顔を突き出す。

 

「仕事サボってナンパとかサイテーですよ。それに『はいすぴ~どなどらいぶを』なんてイマドキ流行らないです」

「い、いや、まあ。俺現場見終わったし? 現場見てこりゃ特状課の仕事じゃないなーって思ったわけ、です。だからこれ外して」

 

 女性警官の登場で、それまで掴みどころのなかったシンノスケの口調が崩れた。視線を逸らし、体を反らし、早口になっている。彼は一度咳払いし、調子を整えた。

 

「あれをやったのはロイミュードじゃないんだよ。全員の昨晩の位置情報を確認したからな。ここ付近にいたロイミュードはいないの。……鍵持ってるよな?」

「まずはロイミュードの事件のことを考慮すべきです。先週は原因不明の暴走。一昨日には複数体が謎の緊急停止。現在108体のロイミュードのうち十体あまりが体の不調を訴えています。これはなにかあるとしか――」

「とにかく!」

 

 まくし立てるキリコに、シンノスケは掌を向けて話を打ち切らせた。

 

「この事件は特状課(うち)の担当外だ。キリコ、一旦帰るぞ。運転するからこれ外して」

「……はい」

 

 女性警官キリコは士らにご迷惑をおかけしましたと謝り、トライドロンに乗ってその場を去っていった。

 

「なんだったんだあいつ……」

「あ! 士くん! あの車行っちゃいましたよ!」

「そうじゃん! どうしよう士!」

「騒ぐな。あいつの連絡先は手に入れた。これでなんとかなるはずだ」

「あっ、すみません」

「おう」

 

 メモを取り出す際に士は通行人の一人とぶつかった。その瞬間、何か違和感があった。ばっと振り返ると、その通行人の後ろ姿に見覚えがあった。見慣れた髪色と、自分と同じくらいの背丈。士は肩をがっと掴んで引き寄せる。

 

「え?」

 

 そこにあったのは士と同じ顔。

 

「なんだお前。なんで俺と同じ顔をしている」

「面白い方だと思ったので、学習のためにお借りしています」

 

 士の顔で丁寧語を喋ると、とても違和感がある。夏海とユウスケは二人の顔を交互に見る。同じ顔なのに好青年に見える。なんだか不気味だ。

 

「学習だと?」

「あ、ボク、ロイミュードなんですよ」

 

 そう言って三人の目の前の士は姿を変える。

 黒く強靭な体。頭蓋骨のような白くつるんとした頭部。そこについている羽のようなパーツ。胸のプレートには『016』の文字。

 

「か、怪人!」

「よくもまあぬけぬけと正体現せたもんだな」

 

 士はディケイドライバーを取り出し、腰にあてる。ドライバーのサイドからベルトが伸び、装着が完了した。

 

「変身!」

 

《カメンライド ディケイド》

 

「え?」

 

 ディケイドは目の前でうろたえるロイミュード016に向かってファイティングポーズを決めた。ロイミュードはディケイドに背を向けて走っていく。

 

「なんで追っかけられるの!?」

「逃げるな!」

「ひっ!」

 

 ディケイドが追いつく直前に、ロイミュードは羽を広げて空に逃げた。

 

「ったく、ちょこまかと!」

 

 ライドブッカーからライダーカードを取り出し、ドライバーに装填した。

 

《カメンライド エグゼイド》

《マイティジャンプ マイティキック マイティマイティアクションX!》

 

 ディケイドはキャラクター選択画面をパンチする。そして彼は一瞬にしてエグゼイドに姿を変えた。

 彼は一枚のカードを手に取る。

 

《アタックライド ジャンプキョウカ》

 

 エナジーアイテムを取得。足にパワーがみなぎる。地面を蹴って、空を飛ぶロイミュードに一瞬にして追いついた。

 

「ついてきた!? わあ!!」

「おらぁあ……あ……あ……あ?」

 

 ディケイドエグゼイドがかかと落としをかまそうとすると、急に体が重くなった。その現象が起きたのはディケイドだけではない。地上では夏海とユウスケ、その他大勢の人々も急に体が思うように動かなくなっていた。

 

「なん……だこ……れ」

「か……らだが……動き……ません」

 

 ディケイドエグゼイドが空中でスローになっている間にロイミュードは地上に降りる。

 ディケイドは動きにくい中でカードをドライバーに装填し、バックルを回す。

 

《アタックライド コウソクカ》

 

 辺りにゲームエリアが広がる。空間を上書きした範囲内にエナジーアイテムの能力が及ぶ。ディケイドエグゼイドにかかっていた速度鈍化は打ち消された。

 

「おい。なんださっきのは」

「ええ!? なんで動けるんだよ!?」

「今度はこっちの番だ」

 

 ロイミュード016に向かってパンチ、キックを繰り出す。ロイミュードを踏んで飛び、さらに辺りに浮かぶブロックを蹴る。その反動を活かして強力なキックをぶちかます。

 

「も、もうやめてくれぇ!」

「やめるか!」

 

 もう一度パンチを繰り出そうとした瞬間、何者かがディケイドエグゼイドの腕を掴んだ。

 

「はいお二人さんそこまで」

 

 二人を止めたのは白いライダーだった。周りはまだゆっくりとした空間のはず。目の前の怪人とディケイド以外に自由に動き回れる存在がいたとは。

 

「なんだお前?」

「ま……マッハ隊!?」

「マッハ隊?」

 

 その名の通り、辺りには同じ型のライダーが複数待機している。

 

「なんだ。俺と数で戦おうっていうのか?」

「いやいや。戦いはしないよ」

 

 マッハはジャスティスハンターのシフトカーをドライバーに装填する。そして上部のボタンを連打した。

 

《ゼッタイ トラエール!》

 

「は?」

 

 ディケイドがキョトンとしていると、目の前にオリが現れる。オリを殴ってもびくともしない。一瞬のうちに捕らえられてしまった。

 そしてマッハは隙を見て逃げようとするロイミュード016の方も拘束する。

 

「ちょっとご同行願おうか」

 

 

 

 

 士たちが連行されていった後、鈍化を経験した人々は皆口々に怖かった、びっくりした、と言って共感し合う。

 その中の一人がそこを立ち去ろうとすると、腕を掴まれ、路地裏に引き込まれた。

 

「あなた、ロイミュードですね」

 

 腕を掴んだ白服の男はそう言った。彼の言う通り、連れ込んだ人間の正体はロイミュードだった。人間をコピーした姿を解除し、ロイミュードの姿になった。

 

「お前は俺に何をするつもりだ」

 

 ロイミュードは男に警戒の意思を向けた。自分に危害を加えようとする相手への対処として正しいはずだ。

 ロイミュードの力は人間を遥かに凌駕する。しかし、目の前の男は焦るそぶりもない。

 

「ロイミュードの解放、というべきでしょうか」

「解放だと。何からだ」

「人間からです。あなたたちは既に人間を超えているのですから」

「そんな馬鹿な。感情を理解するにはまだまだ足りない。俺だけじゃない。ロイミュードはもっと人間から学ぶことがある」

「いいえ。人間に比べればあなたたちロイミュードの方がよっぽど利口ですよ。私の思い通りに動いてくれますし」

 

 彼は小さなチップを取り出し、ロイミュードに見せた。

 

「……! ここ最近俺たちに不具合を起こしてるのはお前か……!」

 

 ロイミュードは拳を握り、男に向かって殴りかかる。

 男はするりとロイミュードの背に回り、背後から顔をぐっと近づけて言う。

 

「ロイミュードやこの世界のことは理解しました。人間以上の力を持っていながら人間に管理されるのは癪じゃないですか。ここで一つ反乱、というのはどうでしょう」

「うっ……」

 

 ロイミュードは苦しみながらその場に膝をつく。

 男はロイミュードの背中にチップを埋め込んでいた。

 

 

 

 

 士とロイミュード016の二人は取調室に来ていた。手錠をかけられた状態で、並んで椅子に座っている。ロイミュードは、なんとなく落ち着かないという理由で、士ではなく別の男の姿になっていた。

 

「まずきみ。ロイミュード……何番だ?」

「016です」

「ロイミュード016。これまでの記録は……特に問題行動なし、か。だが困るな、あんな街のど真ん中で重加速使って貰っちゃ」

 

 マッハに変身していた男、ゴウがロイミュードに語りかける。

 

「それは、この方が殴りかかってきたからです」

 

 ロイミュード016は士を指差した。士はそれを下ろさせる。

 

「知らなかったんだ。まさかあんたらがこんなバケモンと一緒に仲良く暮らしているなんてな」

「バケモン……!?」

「ああ。そうだろ。誰だってあんな姿いきなり見せられたらそう思うだろ」

「あなた失礼だと思わないんですか!」

「静かに。私語は慎むように」

 

 取り調べは続く。

 時を同じくして。士が連れていかれたので、夏海とユウスケは彼を追って久瑠間警察署まで来ていた。そしてその一階のロビーでは、キリコが二人の話を聞いていた。

 

「まさかあなたたちが連行されてくるなんて。ここに来たばかりの人はロイミュードなんて知らないでしょうし、驚くのも無理はないですけど」

「その、ロイミュードってなんですか」

 

 夏海が質問する。

 

「ロイミュードは機械生命体です。彼らの学習のために特別実験地区として選ばれたのがこの街、久瑠間市なんですよ」

「学習?」

「ロイミュードは、あなたたちのお連れの方の姿になったと聞きました。ロイミュードは、人間をコピーして、その行動や思考を学習するんです」

 

 夏海らは普段の士の言動を振り返る。お世辞にもお手本になるとは言い難い記憶ばかりが蘇ってくる。お互いに顔を見合わせて苦笑する。

 

「じゃあ、ロイミュードはいいやつってことなんですか?」

「基本的には。稀に、悪意を学習してしまったロイミュードが事件を起こすこともあるんです。我々特状課はロイミュードが事件・事故を起こした際に対処するための部署なんですよ」

 

 キリコは壁の張り紙を指さした。

 そこには『ロイミュードのいいお手本になろう! ストップ犯罪!』の文字が。そしてその右下にデフォルメされた赤いキャラクターがいる。白い複眼があり、腰には何かが巻かれている。そのデザインはまるで――。

 

「このキャラクターはなんですか?」

 

 夏海は尋ねる。

 

「ドライブです」

「ドライブ?」

 

「特状課のマスコットキャラクターだよ。ポスターの端にいるだけの存在。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 そう言って、エレベーターの方からシンノスケがやってきた。彼は夏海らに歓迎の証として飴を配った。

 

「ここ、いいとこだろ。警視庁ほどじゃないけど広いし、設備も揃ってるし。知ってる? 重要な部屋とかだと電波とかも遮断するらしい。すごくね?」

 

 そう言って彼も飴を口に入れ、はははと笑う。

 

「マッハ隊が作られるまでずっと免許センターが特状課の拠点だったからさ、マッハ隊には感謝だよなあ」

「日輪さん……」

「なんだよキリコ?」

「日輪さんは本当にそう思ってるんですか。私は、マッハ隊よりも日輪さんが――」

「やっぱこれからの時代はマッハだろ。お前よく言うだろ? 『イマドキ流行らない』ってやつ。そういうことだよ。じゃ、ちょっと出かけてくるから」

「……」

 

 彼は丁度出かける途中でキリコらを見つけ、立ち寄っただけだ。シンノスケは手を振ってその場を去った。

 

「ユウスケ、ドライブって……」

「夏海ちゃんも思ってた? ライダーだよな、あれ」

 

 二人の意見が合致した。

 

「あの、キリコさん。もしかしてですけど、ドライブって日輪さんが変身したもの……だったりしますか」

「えっ」

 

 夏海の質問に、キリコは聞き返す。

 

「話してくれませんか。ドライブについて」

「俺たちもライダーなんです。この世界のライダーについて、知りたいんです」

「……はい」

 

 二人の説得でキリコは話しはじめた。

 

「日輪さんはドライブとしてこの街を守っていました。研究の初めの頃はロイミュード絡みのトラブルもたくさん起こりました。周囲の人や物の動きを急激に鈍化させる現象、重加速がその一つです」

「あ、さっきのあれか」

「はい。ドライブやマッハは重加速の中で自由に動けるんです。でも、ある時から日輪さんはドライブになることをやめてしまいました」

 

 キリコの表情は暗くなる。

 

「ドライブとして活動していた頃は熱意を持っていました。どんな時でも私たちを元気付けてくれる太陽のような人だったんです」

 

 そう言ってキリコは自分の手帳を見せた。シンノスケの行動のあれこれが書かれている。

 確かに、夏海らが見たシンノスケの印象は、明るいことは明るいが太陽のような熱さは全くなかった。

 

「ここ最近ロイミュード絡みの事件が頻発してるんですが、日輪さんがあの調子だと解決出来ないんです。お願いします! あの人のやる気を出させてください!」

 

「だいたい分かった」

 

 士がキリコの手帳をひょいと取り上げる。一枚ずつページをめくり、適当に中身を眺めた後に彼女に返す。

 

「士くん!」

「士、釈放されたんだな!」

 

 士はゴウへの必死の説得で無罪を勝ち取っていた。016も今回の重加速に関しては特別に見逃され、ほっとしていた。

 

「……で、なんの話をしていたんだ?」

「だいたいどころか全く分かってないじゃん!」

 

 ユウスケは鋭くツッコミを入れた。

 

 

 

 

 久瑠間警察署の屋上、鳴滝は姿を見せていた。彼は眼下に広がる街を眺める。

 

「この世界にも奴らが……」

 

 そしてその場に膝をつき、手すりをつかんで苦しみ始めた。それはしばらく続き、ようやく落ち着いた。

 鳴滝はメガネを上げ、息も絶え絶えに立ち上がる。

 

「間に合ってくれよ……。ディケイド……」

 

 鳴滝は祈るように呟いた。

 

 

 

 

 シンノスケはトライドロンに乗り、近くの駐車場でいつものように時間を潰していた。

 

「シンノスケ、いくらなんでもナビさんはないだろう。私はドライブドライバー――つまりベルトであり、君はドライブなんだぞ」

 

 ナビさんもといベルトさんはシンノスケに苦言を呈する。

 

「俺はもうドライブにはならない。ベルトさんも、ベルトとしての役目はなくなったんだよ。これからはナビさんで行こう。な?」

「シンノスケ……私はロイミュードをも守ろうとする君を信じてドライブの役目を任せたんだ」

「その結果がアレだ。俺には無理だったんだよ。もう信念も折れちまったんだ。ああもう。考えるのはやめだ、やめ」

「……」

 

 シンノスケは飴を口に放り込んだ。ベルトさんは彼に何も言えずにいた。

 

「暇そうだね」

 

 不意に窓をノックされる。外に立っているのは若い男だった。

 シンノスケは窓を開ける。

 

「誰だか知らないが、言っといてやる。警察は暇な方がいいんだぜ。そんだけ世界が平和ってことなんだからな」

「暇なんだったらこの車は必要ないんじゃない?」

「あ?」

 

 男はトライドロンの前に立つ。シンノスケは彼を不審に思い、トライドロンから降りた。

 その瞬間男はボンネットに手をついて反対側に飛んだ。シンノスケの逆の方のドアを開け、ベルトさんに手を伸ばす。シンノスケも同時にドアを開け、ベルトさんを反対側から掴んだ。

 

「何してんだ? おい」

「僕は世界のお宝を集めるのが仕事でね。偉大な研究者スタインベルト博士の知能を頂こうと思ったのさ」

「泥棒ってわけか? 警察から物を盗もうとするなんて面白いやつだな」

「私はヒト扱いなのかモノ扱いなのか」

「どっちにしろ捕まえるがな」

 

 トライドロンは急発進した。トライドロンは運転手がいなくともベルトさんの意思で動くのだ。二人は同時に手を離す。間に挟んでいた車がなくなり、海東とシンノスケは睨み合う形になった。

 シンノスケは刑事だ。格闘技の心得がある。細工なしの生身の真っ向勝負ではシンノスケが有利だ。

 だが海東はそれを許さない。ディエンドライバーを取り出し、ライダーカードを装填した。

 

《カメンライド》

 

「変身!」

 

《ディエンド》

 

 ディエンドに変身した海東はシンノスケには目もくれず、持ち前の高速移動能力でベルトさんが運転するトライドロンに喰らい付いていく。

 

「行け!」

 

 シンノスケのその号令で複数のシフトカーがディエンドに攻撃する。シンノスケがシフトカーに指示を出している。

 

「変身しなくても厄介だな」

 

《カメンライド》

 

 ディエンドは二枚のライダーカードを取り出した。

 

《ナデシコ》

《シグルド》

 

「よろしく!」

 

 二人のライダーが召喚された。

 シグルドはソニックアローで、なでしこは背の噴射で宙を飛び回りながらキックで、シフトカーに攻撃する。だがシフトカーたちも複雑な軌道を描き、それを避ける。

 

「くっ!」

 

 ディエンドもシフトカーの撃墜に加わる。召喚したライダーたちだけでは手に負えない。もはやベルトさんを手に入れるどころではない。

 炎やトゲの攻撃を受け、ディエンドは一枚のカードを手にした。

 

「今日のところは撤退と行く……か……」

 

 ドライバーにコードを挿そうとした瞬間、ディエンドの動きは止まる。それだけではなく、なでしことシグルドもその場に静止した。

 シンノスケが辺りを見回すと、揺れる木々や舞う砂煙もゆっくりとしか動かないのが確認できた。

 

「重加速か!?」

 

 シンノスケはシフトカーを呼び戻し、腰のホルダーに収める。これによって変身後と同じく重加速の影響を受けなくなるのだ。

 

「今日で二度目か。一体どこで――」

「ここだ」

 

 シンノスケの背後で声がした。

 振り返るとともに顔面を殴られ、地面に倒れるシンノスケ。

 ロイミュードと思しき人型の機械がそこに立っていた。目の前の機械生命体の姿は、基本のスパイダー・バット・コブラのどの型にも当てはまらない。外的要因で進化した姿だ。

 

「はああああっ……!」

 

 ロイミュードはエネルギーを溜め、立ち上がろうとするシンノスケに放つ。

 重加速下で自由に動けるとはいえ、生身の状態の彼はそれを避けるほどの速さでは動けない。

 

「うわああああっ!!」

 

 シンノスケは叫んだ。




次回 仮面ライダーディケイド2

「旅はここで終わる……」
「日輪さんが見逃してたもの……!」
「全てのロイミュードを統べる者にな」
「守りたいから守る。それだけだ」
「ひとっ走り付き合えよ!」

第17話「なにが刑事を再び走らせるのか」

全てを破壊し、全てを繋げ!
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