「ロイミュードと人は滅ぼし合う運命にあるのです」
これまでの仮面ライダーディケイド2は……
「それが警察……それが仮面ライダー……それがこの男だからだ」
「ロイミュード108体、救出完了……」
「ナイスドライブ!」
「人間とロイミュードが一緒になって笑う世界……か」
ついに九つ目の世界にやってきた。
士はテーブルにライダーカードを並べた。再び世界を巡るきっかけとなった、九人のライダーのカードだ。
彼は四番目のカード、最後に残ったウィザードのブランクカードを手に取った。長かった旅も、いよいよ終わる。
「ここが最後の世界かあ」
ユウスケは窓を開け、外を眺める。この世界の空気が部屋に入ってくる。
世界が変わると景色も変わる。これがきっと最後の旅だ。普段と違った景色を見られるのもこれが最後になるだろう。
突如びゅうと風が吹き、士のカードをさらっていく。
「カードが! ユウスケお前!」
「え!? あ、ごめん!」
士はカードを失くすまいと外に飛んでいく。
ユウスケは窓を閉め、士が座っていた椅子に腰を下ろす。士と入れ替わりでスタジオに入ってきた夏海が、その隣に座った。
「こうして見ると、私たち、いろんな世界を巡ってきましたね」
「うん。これで世界は救われるんだっけ」
「……はい。多分」
夏海の返事はあやふやだった。以前世界を巡った時、ディケイドは世界の破壊者になり、夏海が見た夢の通りになった。今回もそうなるのではないかという不安が彼女の中で渦巻いていた。
それを払うように、カードを一枚ずつ取り上げながら巡った世界の思い出を浮かべる。ここ数日のことでも遠い昔のように感じてしまう。
「でもね、最後まで油断は禁物だよ」
コーヒーを煎れてきた栄次郎が会話に混じる。
「百里行く者は九十里を半ばとす、だ」
ふとドアが開く音がする。士が帰ってきたのだ。栄次郎が「おやおかえり」と呼びかける。
「カード返せ。そろそろこの世界でやるべきことを探さないといけないからな」
どうやら無事にカードを拾えたらしい。彼はこちらに近づいてくる。
「あ、分かっ……ぶは! なんだ士、その頭!」
カードを集めたユウスケが彼に話しかける士の顔を見上げると、彼の頭上にはやけに大きなシルクハットが乗っていた。士は、視界に入った途端吹き出すユウスケにそれを被せた。前が見えなくなったユウスケは派手にすっ転ぶ。
「マジシャン……ですか?」
「そうらしい」
「士くん、似合ってるじゃないか」
栄次郎が士の格好を見て感想を言った。
「私もマジックできるんだよ、ほらこの縦縞模様が……くるっと回ると……横縞に」
「いやーんすごーい栄ちゃん!」
「ははは。そうだろう」
栄次郎のしょうもないネタを無視し、夏海と士は会話を続ける。
「士くん、マジックなんてできるんですか?」
「まだやるとは言ってないけどな」
そう言ってユウスケに被せていたシルクハットを取る。彼の頭には白い鳩が乗り、羽を広げていた。
◆
第18話「アマチュアウィザード奮闘中」
◆
「3、2、1、ハイ!」
近くの公園に来た士は、適当な場所でマジックをしていた。然るべき許可は取っていない。
士はシルクハットにかけていた布を勢いよく取った。そこから溢れんばかりに飛び出す花。何もなかったところから花束を出すマジックだ。普通に出来がいい。だが……。
「おー。やるなあ」
「すごいです」
拍手をするのは夏海とユウスケだけだ。
「誰も見に来ないじゃないか!」
もう一度シルクハットに布を被せ、それを取ると花は消えている。彼はそれを取り上げ、頭に被った。
辺りに人はいるのだが、誰も士の前に立ち止まらない。目立つ場所にいるのだが、皆素通りしていく。
「ほらほら、パフォーマーは舞台上で怒らない怒らない」
「だったらお前がやってろ」
士はまたユウスケに帽子を被せる。それを取ると今度はユウスケの口から旗が出た。帽子を振ると、釣られた魚のようにユウスケもそれに引っ張られて動く。夏海はひゃあと一瞬驚き、その様子が可笑しくて思わず笑った。士の口も綻ぶ。
士がふざけている最中、ふと彼の目の前に立つ青年と目があった。なんだか変な感じがする。
「そういえばこの世界は、特に変わったことはないよな」
旗を全て出し切ったユウスケはそう言った。
写真館を出てからここにくるまで、特別何かが起こったわけではない。ゲーム病といった見知らぬ単語が書かれたポスターや看板、ライドベンダーなど特殊な装備が配置されているわけでもない。
「案外、ライダーも出てくる必要がないくらい平和だったりして」
「それだと俺が迷惑する。最後のやるべきことが分からねえだろ」
ユウスケと話しつつも、視線は青年の方に行っていた。
青年は紙袋の中からドーナツを取り出し、おいしそうに食べている。そして士らに近づきながら彼はにこっと笑う。
「手品うまいじゃん。ほら、続けてよ」
「お、やったな士! 念願のお客さんだぞ」
「いや、俺は――」
もうやめようと思ってるんだ。そう言おうとした。だが、士が言う途中で青年は回れ右をし、士の言葉を遮るように大声でこう言った。
「おーい! 今からスペシャルマジックショーをやるってさー! すっげー!」
「お、おい!?」
士は青年の肩を勢いよく掴む。焦る士とは裏腹に、青年の表情は軽い。
「大丈夫だって。そういう芸ってみんなに見てもらってこそだろ」
「……」
士の周りにみるみる人が集まってくる。主に公園で遊んでいた子供たちだ。きらきら輝く純粋な目を前に何もしないわけにはいかない。士はマジックショーをはじめた。
既に夏海たちに披露した、帽子から鳩を出すマジックや布を被せて何もないところから物を取り出すマジック、そしてカードを使った透視マジック。子供たちはその一つ一つに歓声をあげ、盛り上がる。
渋々ではあったが、こうして喜ばれるのは嫌じゃない。彼もまた夢中になってマジックを披露した。
士がネタを切らした頃、さっきの青年が隣にやってきた。士の方ではなく、観客の方を見ている。
「じゃあ、お次は大マジックだ」
「!?」
さらりとそう言う青年。戸惑う士。さらに盛り上がる観客。
「お、おい。勝手なこと言うな。俺はもう終わるつもりでいたんだぞ」
笑顔で言い切る彼に、士はこっそり耳打ちをする。青年は「まあ、任せといてよ」とピースサインをした。
「まずは人体巨大化マジック! 俺の手をよ~く見ててね~」
青年は左手を出し、掌と甲を見せる。士からシルクハットを借り、それを目隠しにして手を後ろに。そして彼は手を伸ばす。
《ビッグ プリーズ》
「ん?」
士は一瞬何かが聞こえた気がしたが、次の瞬間湧き上がる観客の歓声にかき消されてしまった。
なんと彼の手が十倍ほどの大きさになった。見間違いでも、間に特殊なガラスを挟んでいるわけではない。本当に大きくなっているように見えるのだ。
青年が手を引っ込めると大きさは戻っている。帽子の裏を見せるが、特にタネらしきものはない。
「お次は物体移動マジック! これを持っていてね」
次に彼は観客の子供の一人に指輪を渡した。子供はそれを両手で覆う。青年はそれに左手をかざし、声高にカウントダウンを始めた。観客の視線はそこに集まる。
「3……2……1……! はいッ!」
青年は叫ぶと同時に右手を出す。そこには渡したはずの指輪が。そして子供の手の中にあったはずのそれはなくなっている。
どうやったんだ。青年は指輪どころか子供に触れることもなかったはずだ。士はトリックを見破れない。
「最後にイリュージョンマジック! 成功したらぜひ拍手を!」
青年は士を前に立たせた。
「俺がこっちから歩いていくよ。カウントダウンよろしくね! 行くよ~」
なんの打ち合わせもしていない。士はただ言われた通り、観客に向かって立っているだけだ。
観客は321とカウントダウンする。そして青年が士の後ろに隠れた瞬間、ゼロのカウントがされた。
士がそこを退けると、青年はいなくなっていた。
観客はいなくなった彼を探す。
士も近くをきょろきょろ見回すが、辺りに隠れられそうな場所はない。
「俺はここ! イリュージョン成功でーす! ありがとうございましたーっ!」
青年は観客たちの後ろにいた。客の間をかき分け、士の元へ戻る。
二人は拍手喝采に包まれた。マジックショーは大盛り上がりで終わったのだった。
「人を楽しませるのって楽しいよな!」
青年は士に話しかけた。
「お前、なんなんだ」
「俺? 俺はハルト。あんたは?」
「門矢士だ。いや名前を聞いたんじゃない。さっきのマジックのことだ。なんの準備もなしにあんな芸当ができるものなのか?」
「うん。俺、ああいうことは得意分野でね。見せる側のあんたも楽しかっただろ? 誰かを笑顔にするには、まず自分が笑顔じゃないとな!」
「確かにそうかもな」
「あんた、最初マジックやってた時はつまんなそうだったもんな。でも笑顔になった。せっかくやるなら、楽しまなきゃもったいないだろ?」
ハルトは士にドーナツを差し出す。士はそれを受け取り、かぶりついた。
ふと、きゃーっと悲鳴が聞こえた。どこから湧いて出たのか、怪人の群れが人々を襲っている。
「なんだあれは!?」
「グール! 大変だ! みんな、逃げろッ!」
ハルトは周りの人々を誘導しつつ逃げる。走れない人は背負っていく。転んだ人には手を差し伸べ、引いていく。
「士も! 早く逃げるんだ!」
ハルトはそう言い残し、その場を去る。
士は既に目の前のグールの群れに視線を向けていた。逃げろと言われたが、そうはいかない。
「あいにく俺はこっちの方が得意分野なんだ」
真っ黒のシルクハットを取り、その中から真っ白いディケイドライバーを取り出した。腰に当てるとベルトが巻かれる。ライダーカードを取り出し、怪人たちに見せつけるようにそれを掲げる。
「変身!」
《カメンライド》
バックルにカードを装填し、ハンドルを押してドライバーを回転させる。
《ディケイド》
ライダーたちの影が重なり合い、アーマーが姿を現す。プレートが頭部に収まり、仮面ライダーディケイドに変身した。
「おら!」
所詮は雑魚兵士だ。数は多いが一体一体はさほど強くない。ディケイドは、グールの持つ槍のような武器を奪って豪快にぶん回す。一度に複数のグールを蹴散らした。
「いいぞ士!」
ユウスケがディケイドにエールを送る。と、彼の背後に潜んでいた一体のグールが、彼の首を絞めた。意識外の攻撃に、反撃できないユウスケ。ディケイドはそれに気づくが、なまじグールの数が多くすぐに辿り着けない。
「はっ!」
次の瞬間、その場に赤いライダーが現れ、グールを斬りつけてユウスケを助けた。彼はその場に膝をつき、むせる。
この世界の仮面ライダー、ウィザードだ。
彼はウィザーソードガンを左手に持ち、右手の指輪をドライバーにかざす。
《バインド プリーズ》
魔法陣がそこかしこに現れ、そこから鎖が飛び出す。グールの群れを取り囲み、一網打尽にした。
続いて武器を右手に持ち替え、手の形のパーツを展開し、それを握る。
《スラッシュストライク ヒ ヒ ヒ ……》
彼は激しい炎を纏った一振りでそれを両断して見せた。
まだ消えない火を挟み、ウィザードとディケイドは睨み合う。
「グールを倒しただと……? お前……魔法使いじゃないな? 何者だ」
ウィザードはディケイドに向かって質問を投げかける。語気からは警戒と敵意が感じられる。
「仮面ライダーっていうんだが。お前もそうだろ?」
「知らないね!」
ウィザードは武器を構え、ディケイドに向かってくる。こういうことは慣れっこだ。ディケイドもライドブッカーを構える。向かってきたところを返り討ちにする。そのつもりだ。
「カメンライダーなんてファントム、聞いたことがない!」
「ファントムだ? 違う、俺は……」
ディケイドの言葉は届かない。走ってくる途中、ウィザードは別の指輪を左手にはめ、ドライバーにかざした。
《ウォーター プリーズ》
《スイー スイー スイー スイー》
ウォータースタイルに変身したウィザードは、ディケイドに斬られる瞬間に地面に下半身を地面に沈めた。否、水のように足を変化させ、背丈を縮めた。
「なに!?」
そしてディケイドの反対側で飛び出し、一撃を与える。それだけではない。次の一手を打たれる前にさらに一撃、もう一撃と加える。
ディケイドは見えない背後に足を伸ばし、ウィザードにキックした。
「うっ!」
「いちいちうるさいベルトだな!」
ウィザードが倒れている隙にディケイドはライダーカードを取り出す。そしてドライバーに装填した。
《カメンライド オーズ》
《タ・ト・バ タトバ タ・ト・バ!》
ディケイドオーズはトラクローを展開し、ウィザードに対抗する。
「なんだその変身!?」
流体で移動するウィザードだったが、ディケイドオーズの本体を捕らえる目の力によって易々と逃げることは叶わない。そして単純に剣一本と両手の爪では数が違い、捌ききることもままならない。
「龍虎相摶つ……ってな」
「くそっ」
《ハリケーン プリーズ》
《フーフー フーフーフーフー!》
《コピー プリーズ》
ウィザードはハリケーンスタイルに変身。それと同時にウィザーソードガンを複製し、ディケイドに対抗して両手に剣を持つ。今度は風に乗り、空中を漂いながら右へ左へ舞うように戦う。
相手に合わせてディケイドもフォームチェンジをする。
《フォームライド オーズ ガタキリバ》
「カマキリ頭には、こっちもカマキリだ」
「だっ、誰がカマキリ頭だって!?」
《ガータガタガタキリッバ ガタキリバ!》
ウィザードの二本の剣攻撃を、ディケイドオーズはカマキリソードで受け止める。二つの刃が火花を散らす。両者一歩も動かない。
ウィザードはそれ以上の攻撃手段はないが、ディケイドはカマキリベッドから放たれる電撃で相手を攻撃した。
「うわああああっ!?」
ウィザードは地面に落ちる。ついに魔力が切れ、それ以上動けなくなってしまった。
「くそ……手強いな。こんなファントム初めてだ……」
「だから、ファントムじゃないと言ってるだろ」
「嘘つけ! この街に俺以外に魔法使いがいるわけがない!」
「だから魔法使いでもない。仮面ライダーだ」
ウィザードがこれ以上戦闘を続けられないと判断したディケイドは、彼の目の前で変身を解除した。
「あ、あんたは……」
ウィザードも魔法陣をくぐり、変身を解除する。
「お前……さっきの」
両者指を差し合う。動けないハルトはユウスケに肩を借り、立ち上がった。
◆
士と戦った傷を治療するため、ハルトを写真館に連れてきた。
「コーヒーどうぞ」
「あっ。ありがとうございます」
ハルトはそれを受け取り、一口飲む。美味しいですねと感想を伝えると、栄次郎は気を良くしたのかもう一杯カップを持ってきた。
「この世界の仮面ライダー、ウィザードは怪人ファントムを人知れず倒す魔法使いってわけか」
ユウスケはハルトの隣に座り、ハルトの手に嵌められた指輪を眺めて言う。
「俺も体の中にファントムがいるんだけどな。魔法が使えるのはそのおかげ。ファントムは人間から生まれるんだ。強い心を持っていないと、体を食い破られちまう。魔法だって、人の強い心から生まれるんだぜ」
「なるほど、大体分かった」
「士はその、仮面ライダーってやつなんだろ? マジックやってたのは俺みたいに正体を隠すためか?」
一杯目のコーヒーを飲みつつ、ハルトは質問する。
「違う。あれはこの世界で俺に与えられた役割だ。おかげでお前とも出会えた」
「俺たちは世界を救うために旅をしているんだ」
ユウスケが補足説明をする。あやふやでスケールの大きい言葉に、ハルトはピンときていない。
「世界を救う?」
「ええ。九つの世界を巡って、やるべきことを探しているんです」
「じゃあきっと、俺と一緒に戦うのがやるべきことだ」
「そんな簡単なことか?」
「そうだよ。間違いない」
士は彼の言い方に違和感を覚えた。
「大した自信だな」
「そう言われたんだよ。たくさんのファントムを倒せって。つまり、街を守る。これが俺の使命なんだよ」
「言われた? 誰に?」
士の問いに、ハルトは真面目な顔でこう言った。
「実は俺、魔法使いに命を救われたんだ」
ハルトは幼い頃、家族で外出中にファントムに襲われた。ハルト一家だけではない。同時に多くの人々が巻き込まれ、命を落とした。
両親と兄弟が殺され、唯一残ってしまったハルトは一人の魔法使いと出会う。
ハルトのウィザードライバーはその魔法使いから受け取ったものだ。魔法の使い方も魔法使いのあり方も全て教わった。そして、使命も。
「俺はあの日のことを忘れたことはない。魔法使いになってファントムを倒せ、誰にも知られることなく。そう先生から言われたんだ」
「それで、どうなるのかな」
スタジオの扉が開き、いつの間にか海東がもたれかかって話を聞いていた。
「いつになく唐突な登場だな」
「お宝の匂いがあれば僕はどこにでもやってくるよ。その先生って人の道具なら、強い魔力を持ってそうだよね」
「……」
士は呆れたように首を振った。
「それでどうなる……ってのは、どういう?」
ハルトは海東に言われたことの意味が分からない。
「別に? そのままの意味さ。現れるファントムを倒してどうなるのかな。確かにきみは魔法を使えるようになった。だが今は言われたことをこなしているだけに過ぎない。その先に何がある?」
「その先……?」
ハルトは考え込んでしまった。
「まだ君は半人前だ。ずっとそこで足踏みしているといい」
海東はそう言って、ハルトの返事を待たずにどこかに消えてしまう。
ふと窓を叩く音がする。そこにはハルトの使い魔のレッドガルーダがいた。
「ファントムが出たみたいだ!」
ハルトは一目散に飛び出していった。
その先になにがあるか。考えたこともなかった。それでも彼はファントムを倒す。ただ、それだけだった。
◆
現場に急行したハルトたちが見たものは、あたりに広がるドロドロした液体。バイクを降り、それを踏まないようにしてファントムを探す。
「本当にここにファントムが出たのか?」
「この変な水みたいなのはファントムがやったに違いない。……あ、あそこに人が」
人影を見つけたハルトはそちらに向かう。何が起こっているかが徐々にはっきりしてくる。ハルトの呼吸は乱れはじめた。
大量の人が倒れている。
生死は定かではない。だが、人々が重なるように地面に横たわるその景色は、幼い頃見たファントムの襲撃のよう。
「これは」
「ああ。どこかにいる。それも、かなりやばいのが」
「……! ハルト避けろ!」
士はハルトに駆け寄り、彼の頭を上から押した。どこかから飛んできた水が彼らの頭上を超えていく。
その水が地面に落ちると、だんだんと形を作り、ファントムに変化した。全身ぶよぶよの半透明な青。ツヤのある体は周りの景色を反射している。ファントム・スライムのお出ましだ。
「ファントム……! また派手にやってくれたな」
《ドライバーオン プリーズ》
ハルトはウィザードライバーを起動する。スライムはそれを見てくくっと笑う。
「ふん、なかなかの魔力量だな」
「だろ。お前らファントムを倒すために強くなってんだよ、こっちは!」
《シャバドゥビタッチヘンシン!》
「俺も混ぜてもらおうか」
士もドライバーを起動し、カードを取り出した。
「変身」
「変身!」
《カメンライド》
《フレイム プリーズ》
《ディケイド》
《ヒー ヒー ヒーヒーヒー!》
ディケイドとウィザードに変身が完了する。二人はスライムに向かって剣を振りかざして走っていく。
二対一の構図は、次の瞬間には二対二に変わる。スライムが左右に分かれたのだ。
「分身した!?」
同時に斬りかかるライダー。分裂したスライムは、攻撃をいともたやすく受け止める。
「俺は魔力を吸収することで強くなる。最強のファントムになることが俺の目的さ」
「そんなことのために人を襲うなんて、許せない!」
ウィザードはスライムと組み合い、その場から離れる。
ディケイドともう一体のスライムは拮抗した戦いを繰り広げる。スライムは自らの体で作り出した剣で、ディケイドのライドブッカーに対抗する。どうやら生み出した物体の硬度も自在らしい。
「お前は魔法使いじゃないな?」
「まあ、魔法は使えないが似たようなもんだ」
「くっくっく。分離した俺には少ししか魔力を与えられていないが、魔法の使えないお前など恐るるに足らんわ」
「ほう。舐めてると痛い目に遭うぞ!」
ディケイドは刃を押し、スライムをよろけさせる。そして流れるようにその体を斬りつけた。
だが効いた様子はない。
スライムは切り口からさらに二体に分身した。倍の量になって向かってくる怪人に、ディケイドは思わず剣を振る。また増える。そんなことを繰り返しているうちに、周りを取り囲まれてしまった。
「厄介な能力だな……」
「余裕がなくなってきたな」
スライムたちはディケイドに向かっていく。
「だったら――」
「食らえええーーーーっ!!」
全方向からの攻撃。前だけを対処しようと思えば、後ろからダメージを受けることになる。かといって後ろを向けば正面からやられる。上に飛ぼうとしても、別のスライムが飛んでくる。万事休すだ。
「……ん?」
ディケイドがいた場所に突っ込んでいったはいいが、肝心のディケイドがいない。スライムたちは彼を探す。
「その反射する体が仇になったな」
少し離れた場所で声がした。
「いつの間に!?」
ディケイドは攻撃を受ける直前、龍騎に変身していた。スライムの、景色を反射する体を鏡に見立て、ミラーワールドへ潜入。別の場所から脱出できた。
ディケイド龍騎はすかさずカードを装填する。
《アタックライド ストライクベント》
「斬撃が効かないなら、焼き尽くすまでだ! はあああッ!!」
「う……うぐァァァアアアア……!」
スライムたちは悲鳴をあげ、跡形もなく消しとんだ。
◆
龍の騎士がスライムの片割れを倒した頃、龍の魔法使いはピンチに陥っていた。ディケイド側と違い、殆どの魔力がこちら側のスライムには残っている。実力の差は歴然だった。
「威勢がいいのは最初だけだったようだな」
スライムはウィザードに掌を向け、魔法エネルギーを放出した。
「くっ!」
避けることができない。ウィザードは頭を守るように剣を構えた。
《バリア ナウ》
ドライバーの詠唱音声が鳴る。
ウィザードが目を開けると、目の前に光の壁ができていた。スライムの攻撃は壁にぶつかり、消える。
「この力は……」
「ハルト、私がいなくても立派にやれているか」
琥珀色の顔。左手には鋭い爪。ウィザードのものと違う、赤い装飾の入ったドライバー。そこにやってきたのは、仮面ライダーメイジだった。
彼こそが、ハルトを助けた魔法使いだった。
「先生……! お久しぶりです! どこに行ってたんですか!」
「そんなことはいい。今はファントムに集中しろ」
「はい!」
ウィザードはメイジが現れたことによって士気と魔力が上がった。スライムの攻撃を受けつつも、斬撃とキックを次々と繰り出す。
その時、急に後方からメイジに向かって銃弾が放たれた。
「……」
「ついに姿を見せたね。そのベルトと指輪、いただくよ」
メイジが振り向くと、そこにはドライバーを構えたディエンドが歩いてくるところだった。
「邪魔をする気か」
「そうさ」
ディエンドは二枚のライダーカードを提示し、ドライバーに装填する。
《カメンライド ナックル》
《カメンライド パラドクス》
クルミのライダーと格闘ゲームのライダー。召喚された二人のライダーは大きな拳を振るう。メイジはそれをひょいひょいと避ける。そして右手に別の指輪を嵌め、魔法を発動した。
《チェイン ナウ》
空中に魔法陣が現れ、鎖がスライムの体を縛る。
「行け、ハルト! 私がファントムをおさえておく!」
「はい!」
ウィザードは動けないスライムに向かっていく。ベルトを操作し、必殺技を放とうとする。
「バカめ!」
「なっ!?」
だが、スライムは鎖を破壊した。そして長く伸ばした腕でウィザードの足を掴んでバランスを崩し、カウンターのパンチを食らわせた。
ウィザードはその場に倒れる。
その頃メイジサイドでは、なんとディエンドが劣勢の状況にあった。エクスプロージョンの魔法でダメージを受け、まさかの形勢逆転。その場に戻ってきたディケイドにも「お前何してんだよ」と言われる始末だ。ディエンドはそっぽを向いて「別に」と答えた。
「まさか先生の魔法が破られるなんて……!」
パンチを受けた腹を押さえつつ、よろよろと立ち上がった。
「まだ気づいていないようだな」
「なんだと……?」
「ハルト」
手が空いたメイジはウィザードの後ろにやってくる。ウィザードはスライムを睨みつけながら立ち上がり、相手の出方を窺う。
「はい、先生。あいつ手強いですよ――」
刹那、メイジの鋭い爪がウィザードの背に突き刺さった。
ディケイドもディエンドも、当事者のウィザードも何が起こったか分からない。
「……へ?」
メイジは彼の背を蹴る。爪が抜けて、ウィザードが地面に倒れる。激しいダメージに、変身が解除される。
「な……んで……」
スライムはハルトの前にしゃがみ、彼を見下ろした。
「俺は自由自在に姿を変えられる。そして分身を作ることもできる。これがどういう意味か分かるか?」
「そうか……この先生は、お前の演技だったのか……!」
ウィザードがそう言うと、メイジの姿はどろりと溶け、また別のスライムになった。その個体はさらに分裂し、ディケイドたちの相手をする。
「ふっ、まだ夢を見ているようだな」
「なに……!?」
「お前の先生など、最初からいなかったんだよ」
「……は?」
衝撃が走る。ハルトはその真実を飲み込めない。
「いや……嘘だ。嘘だ! ファントムの言うことを信じられるか!」
「これは紛れもない真実だ」
暴れる彼を、スライムは上からジェルで押さえつける。ハルトは腕を封じられ、魔法を発動させることができない。足をばたつかせるが、うつ伏せの体勢は変わらない。
「じゃあ、お前は俺をわざと生かしたとでも言うのか!」
「その通りだ」
「っ……」
彼は黙ってしまう。
スライムは立ち上がり、語りはじめる。
「魔力のない人間でもないよりマシだ。だが、あの時偶然お前を見つけた。俺は、強い魔力を持つお前を育てることにしたんだ。他でもない、自分のためにな」
ファントムが話している時、後ろではディケイドたちは苦戦を強いられていた。
強い魔力を持つということは強い戦闘力を持つということ。メイジに擬態していただけのことはある。
「お前が魔力を高めることに専念できるよう、俺が魔法の使い方を教えてやっただろう? そしてお前は俺の狙い通り、俺に魔力を捧げるために他のファントムを倒し、強くなった」
「じゃあ、街を守るという使命は……!?」
「街を守る? ははあ、『ファントムを倒す』をそう曲解したわけか。お前がやってきたことは無意味だ。……そうだ、お前から魔力を吸いつくした後に、この街の人間から魔力をいただくとしよう。なんの魔力もない人間でも、これだけの数があれば少しは足しになるかもな」
「なんだよ……それ」
「さっきお前は、俺が最強のファントムになることを『そんなこと』だと言ったな。俺は立派な目的を持っている。なんのために戦っているかも分からない、空っぽのお前がよく言えたものだな!」
なにもない。
その通りだ。今まで彼はメイジに言われた通り、ファントムを倒すためだけに生きていた。あの日からずっと、彼にはそれしかなかった。
「うっ……!!」
バリッ。
ハルトの頬に亀裂が走った。
魔法使いは、体内のファントムの力を利用しているだけだ。絶望で強い心を保てなくなると、体内のファントムの魔力が勝って体を破られてしまう。
「これを待っていた!」
スライムはハルトの拘束を解いた。やっと自由になったが、ハルトはそれどころではなかった。
「ハルト! しっかりしろ!」
「う……う……!」
ディケイドが彼に呼びかける。ハルトはなんとか動転する心を鎮め、それを修復しようとする。
「今更どうもできないぞ!」
ファントムはハルトの首を掴む。彼の体中の亀裂から魔力を吸い上げていく。
魔力がなくなると、ファントムは死ぬ。つまりハルトの中の魔力がなくなると、彼の中のファントムは死に、魔法が使えなくなってしまう。
ハルトはなんとか逃げようとするが、びくともしない。
「うっ……! ぐわああああああーっ!!」
ハルトは絶叫する。
「ハルトォォオオ!!」
ディケイドは彼の名を叫んだ。
次回 仮面ライダーディケイド2
「魔法の使えない魔法使いなど、もはや無意味」
「諦めていいわけないじゃないか!」
「俺は……魔法使いになれるかな」
「未来を見て、前に進み始めた」
「さあ、ショータイムだ」
第19話「希望が生まれた日」
全てを破壊し、全てを繋げ!