「実は俺、魔法使いに命を救われたんだ」
これまでの仮面ライダーディケイド2は……
「怪人ファントムを人知れず倒す魔法使いってわけか」
「俺はあの日のことを忘れたことはない」
「お前の先生など、最初からいなかったんだよ」
「嘘だ!」
「ハルトォォオオ!!」
スライムはハルトの首を掴み、魔力を吸収していく。絶望でヒビ割れた部分からは魔力を吸い出しやすいのだ。
ウィザードとして戦闘を繰り返すことで、彼の魔力の量は圧倒的に増えていた。それはスライムの想像よりもはるかに大きかった。
ハルトは最初は激しく動いて抵抗していたが、魔力と体力を奪われて大人しくなっていく。そして次の瞬間、ドライバーにも亀裂が入った。
「ぐわああああああーっ!!」
ハルトの絶叫が辺りに響き渡る。ディケイドたちの視線はそちらに向く。
ハルトは力なく腕を下ろす。目の焦点が合っていない。
「お前の魔力、たしかに頂いたぞ。この力は……素晴らしい」
そう言ってスライムは姿を変えた。能力での変身ではなく、魔力量が膨大になったための進化である。
「ハアッ!」
ディケイドが駆けつけ、スライムに向かって剣状のライドブッカーを振るう。スライムはハルトから手を離し、それを回避する。
「ハルト! 大丈夫か!」
ディケイドは彼を受け止める。首を絞められていたハルトは、気道をなんとか確保し、必死に息を吸って咽せる。
「ハッハッハ。一歩遅かったな。もうそいつに魔力はないぞ。魔法の使えない魔法使いなど、もはや無意味。死んだも同じだ」
「なん……!?」
スライムはハルトを否定する。
「では、この街の人間全てを吸収して――」
スライムは言葉を途切れさせた。不自然に頭を押さえ、悶えている。誰かが攻撃を仕掛けたわけではないが、苦しんでいるようだ。
「……!? なんだ、この力は。強すぎる……。今解放するのは……まずい」
ハルトから奪った魔力は大きすぎた。急激に魔力を増やしたため、溢れそうなパワーを抑えるのに必死にならざるを得ない。
「ぐ……寿命が延びたな。だが忘れるな。この街は絶望に包まれたままだということをな……」
「待てっ!」
スライムはその場から逃走した。
◆
第19話「希望が生まれた日」
◆
本体のスライムと共に、ディケイドと戦っていたスライムも消えた。そして一緒に戦っていたはずのディエンドも、いつの間にかいなくなっていた。
士は変身を解除する。
ハルトは少し落ち着き、自分で立てるようになっていた。
「おい、聞いたか。あいつ、次は人間を襲うらしいぞ」
「そうだな」
「そうだなって……いいのかよ!? お前の家族だってあいつにやられたんだろ。それと同じことが起こるんだぞ」
「許せないさ! 許せないに決まってる。だけどな、魔法がなくちゃファントムを倒せないんだよ。今の俺には何もできない。それが事実だ」
ハルトは士の肩をガッと掴み、早口でまくし立てた。そしてどこかへ歩いていく。
「使命はどうした」
「先生なんてものは最初からいなかった。つまりスライムが魔力を得るための方便だったわけだ。そんな使命なんてもう、俺には関係ない」
「これからどうするつもりなんだ?」
士の言葉にハルトは足を止めた。
こういう時はどこへ行くべきか。悲しい時、辛い時にすがるもの。彼にはそれすらなかった。
「明日、また写真館に来い。人生相談の相手が欲しいだろ」
返答に困り静止してしまったハルトを見かねて、士はそう言った。
「……士がか?」
「いや俺じゃない。俺はあのファントムをぶっ飛ばさないといけないからな。ま、相談相手も頼りになるかどうかは分からんが。どうだ?」
「……じゃあ行くよ。どうせ、何もないしな」
ハルトはふっと笑った。否、口から空気を漏らした、というべきか。その目は絶望の色で染まっていた。
◆
その夜。士は窓を開け、空を見上げていた。
ハルトのことは夏海とユウスケに話した。二人とも快く了承した。
「士くん。そこで何してるんです?」
「次にファントムが暴れだす前に見つけないといけないんだろ? 時間との勝負だ。早く寝ないとな」
「俺はお前ほど寝坊助じゃない」
ユウスケと夏海が、テーブルを囲むように士の両隣に座った。
士は彼らを邪険に扱うこともあるが、基本的には信用している。だからこそ憔悴したハルトを預けるのだ。
「それにしても大変ですよね。ハルトさんが変身できなくなってしまうなんて」
「ああ。なんとか励ましてやれ。お前らみたいな世話焼きの出番ってわけだ」
「って、ひどい言い方だな」
ユウスケがツッコむ。
「いや、あいつも相当まいってる。かなり不安定な状態だ。ナツミカンだって知ってるだろ。信じてた人が悪いやつだった、その時の気持ちを。例えばそう、昔の知り合いとかな」
「あ……」
夏海は表情を固くした。
彼女はかつての旅で訪れた、とある世界のことを思い出したのだ。旧友たちと同じ顔をした、邪悪な存在。本当の世界ではなかったとはいえ、その事実を知った時は堪えた。
「でも大丈夫だよな。なんたって夏海ちゃんには俺たちがいるから!」
ユウスケに笑顔を向けられ、夏海は「はい」と返事した。
実際、士やユウスケの存在に安心させられたところもある。それと比べると、幼い頃からずっと騙されていたハルトはそれ以上の悲しみの中にいるに違いない。
「ハルトさんは、必ず私たちが勇気づけます」
夏海はそう言い切る。士は笑顔を浮かべて「ああ」と頷いた。
◆
スライムは誰もいない廃屋の中で魔力のコントロールをしていた。気を抜くと自らの体が崩壊しかねない。せっかく強大な力が手に入ったというのに、それはごめんだ。
体内で暴れる魔力をなんとか抑え、ようやく落ち着いた。
「素晴らしい」
拍手をしながら近づいてくる人間がいる。
「何者だ」
一瞬で片腕を刃に変化させ、突きつける。穴の空いた天井から差し込む光が、相手の白い服を照らす。
「お前、ファントムでも魔法使いでもないな」
「ええ。ただの人間です」
「ただの人間がファントムを前にして恐れないことがあるか」
「恐れることなどありません。ただこれを渡しに来ただけですから」
そう言って彼は小さな宝石を取り出し、スライムに見せる。
「これは?」
「我々が開発した人工ファントムの一部です」
「人工ファントムだと? ますますお前がただの人間だと思えなくなったが」
「まあ、そんなことはどうでもいい。これをあなたに」
スライムは差し出された宝石を受け取った。
「十分な魔力があれば使いこなせるでしょう。最後の手として持っておくといい」
「ありがたいが、これではお前たちにメリットがないだろう。狙いはなんだ」
「我々が興味があるのは、この石が一体どれほどの力になるかのみです。これはそのための投資ですよ」
「そうか」
スライムは急に触手を伸ばし、白服の体を包み込む。必要な情報は聞き出した。もう生かしておく必要はない。スライムは吸収を始めた。
白服は「うっ」と一言だけ漏らし、スライムの中に消えた。
◆
翌日。昨日の公園で、ハルトはベンチに座っていた。目に写るのは同じような光景だ。皆思い思いのことをして楽しんでいる。
「俺は後悔している」
しばらくの沈黙の後、ほんの一言そう漏らす。
「なにをですか?」
「あんたたちと会う約束をしてしまったことだ」
さらりと言う。その口元は笑っているが、全体を総合的に見ると彼の表情は暗い。目の下にクマができている。昨日は眠れなかったのだろう。
ハルトのセリフを聞き、隣に座った夏海は聞き返す。
「えっ。どうしてなんですか」
「どうもこうもない。誰に相談したからと言って解決することじゃないからさ。今更俺になにをしろってんだ。もう俺ができることなんてないだろ。スライムの言う通り、俺は死んでるのと一緒なんだよ」
「そ、それは違う!」
ユウスケはハルトの両肩を掴み、前後に振る。
「魔法を失ったからって、生きることを諦めていいわけないじゃないか!」
ハルトは目を丸くする。
「生きてる限り、何かできることがあるはずだ。士から聞いたぞ。最初のマジックショーの時、人を楽しませるのが楽しいって言ったらしいな。それがファントムを倒すことと関係があるのかよ。ないだろ。きみがそうしたいと思ってやったことなんだろ」
「俺がしたいと思ったことか……」
「ここにいたのか」
木の陰に隠れていた男が声をかけてきた。彼は組んだ腕をほどき、こちらにやってくる。
「海東さん。どうして」
「あんた……」
「そう。君に聞きたいことがあるんだよね。先生とかいう人はファントムだった。この世界のお宝はどこにあるんだい」
「……そんなの知らない。欲しいなら勝手に探してくれ」
海東は指で銃を作り、ハルトに向けた。ハルトはそれを手で退けて、よそを見る。
「相変わらず君は止まったままだね」
「なんだと?」
「言ったじゃないか。言われたことをしていただけだと。あとは君次第だ。これで失礼するよ」
「海東さん、これからどこに?」
「せっかく来たっていうのに、手ぶらじゃ物足りないからね。お宝を探すつもりさ」
海東は手を振ってその場を去っていく。ハルトはその背中を見つめていた。
「き、気にしちゃダメだ。あいつ、物事をオブラートに包まなすぎるんだ」
「違う」
ユウスケがハルトに寄り添い、海東のことを非難する。それを聞いたハルトは首を横に振った。
「あの人の言う通りだ。今まで俺はスライムの言いなりになってただけ。だからこれからは、自分の力だけで生きていかなくちゃいけないんだ。……魔法が使えなくても、俺は生きてていいのかな」
「何言ってんだ、当たり前じゃないか!」
「そうですよ。誰もそのくらいのことで生きる権利を奪うことなんてできません」
「そっか……」
ハルトは立ち上がった。その瞬間、大きな爆発音がした。衝撃で地響きが起きる。
「うわっ……!」
「なんだ!?」
「二人とも! あれを見てください!」
夏海が指差す方、ビルを串刺しにするように青色の柱が立った。何が起きたか確かめる暇もなく窓が破られ、そこからジェルが流れ出る。
ついにスライムが暴れ出したのだ。
◆
それより少し前のこと。士は街に出てスライムを探していた。
完全に隠れられてしまうとなんの手掛かりもない。隠れている場所を探知したり、出てくる場所を予測したりすることもできない。
「くそ……。強さの割に小物臭いことしてくれるぜ」
街は広い。もしかすると既に魔力を抑え込み、人の姿をとって紛れているかもしれない。
その時、人混みの中から一人、士の方を見て歩いてくる人物がいる。見覚えのある格好の男。
「鳴滝……」
「ついに九つ目の世界だ。もうすぐ終わるな、世界を救う準備が」
「準備か。お前の言ってることはよく分からん」
「この世界も危ない。奴らの介入が始まっている」
「なんだと?」
「急ぐんだ。もう私の力も通じなくなってしまった。頼んだぞ」
そう言い残し、鳴滝は人混みの中に消えていった。
やはり何を言っているか分からないが、何を聞いても欲しい答えを返してはこないだろう。
「……ったく。世界を巡り終わったらお返しをしてやらないとな」
士はため息をつき、再び街を歩き出す。その瞬間、地面が揺れ出した。
◆
ハルトたちはスライムが貫いたビルの近くに来ていた。近くの建物から避難してくる大勢の人たちとすれ違う。
「着いた!」
「ひどい。なんてこと……」
辺りは地獄のようだった。崩れたビルの瓦礫が辺りに散乱し、不運にもそれにぶつかってしまった人が何人も倒れている。火事も起きていて、パニックに追い打ちを与える。
そして瓦礫が山のように積み上がっている場所があり、その下には要救助者が。ユウスケはそれを一つずつどかす。
「二人はここを頼む! 俺は奥に行く!」
ハルトはその場を夏海とユウスケに任せた。
ビルの下に来る頃には、スライムの体が建物をを丸ごと包み込んでいた。そして一気に圧縮するかのように潰し、飲み込んだ。
「いた……」
ビルが建っていた場所にはスライムが立っていた。ハルトに目もくれず、次のビルに向かって触手を伸ばし、壁に突き刺した。そしてまた建物の反対側まで貫く。衝撃でガラスや壁の一部が崩れ、落ちてくる。下にはまだ避難中の人たちがたくさんいる。
「危ないっ! ここを離れて! あっちです!」
ハルトは周りの人に呼びかける。そして近くの人の肩を叩き、逃げるべき方を示す。
ハルトはふと視界の端に、泣いている子供をとらえた。
足が瓦礫に挟まって動けないのだ。
「あ……ああ……」
ハルトの呼吸が乱れていく。
辺りには人が転がり、恐怖と悲しみで泣くしかない。目の前の光景が、あの日の自分の姿と重なった。
スライムが次のビルを包み込んだ。圧縮の瞬間、辺りに破片が飛び散る。その中の一つが、目の前の子供の頭上に飛んだ。
「うおおおおおおおおおおお!!」
体が勝手に動いていた。
ハルトは子供のそばに駆けつけ、飛んでくる破片から守ろうと手を大きく広げる。
その瞬間、目の前の破片が粉々に砕けた。
粉末は風にのり、消える。ハルトは何が起きたか分からず、辺りを見回す。
「ハルト!」
「士!」
士がライドブッカーで破片を撃ったのだ。
そして二人は子供を助けるため、足元の瓦礫をどけた。
「ファントムは……そこか」
二人に気づいたスライムは、吸収をやめてこちらに近づいてくる。
「何もできないくせに邪魔をしに来たのか。お前はもう魔法使いではない。大人しく死んでいればいいものを」
「何もできないんじゃない。何もできないと思い込んでいただけだ。こいつはもう自分の足でどこにでも歩いていける」
「魔力がないなら同じだ。俺を倒せない。お前たちは絶望して、そこで見ていることしかできないんだ」
「違うな」
士は一歩前に出る。
「こいつは人を守ろうとした。魔法の力がなくても。それは誰かに課せられた使命じゃない。本当に心の底から誰かを助けたい。そう思ったからだ。それこそが仮面ライダーの……魔法使いの資格だ!」
「だったらもう一度……俺は……魔法使いになれるかな」
「なれるだろ。お前が諦めない限りな」
士がそう言った瞬間、ハルトの腹部が光り出した。体を起こしてそれを見る。
光が治まると、そこには砕けたはずのウィザードライバーが復活していた。
《ドライバーオン プリーズ》
ウィザードライバーが起動音と共に現れる。魔法が復活したのだ。ハルトは立ち上がる。
「なぜだ!? 魔力は吸い尽くしたはず……」
スライムは狼狽する。
「こいつは過去という小さな檻を壊した。そして未来を見て、前に進み始めた。誰のものでもない、自分の力で!」
「魔法とは、願いを叶えようとする力。明日に向かって生きる力。そして今を変える希望の力だ。俺がこの絶望に包まれた世界の、最初の希望だ!」
「お前、魔法使いではないと言ったな。ならば……なんなんだ、お前は」
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」
士はディケイドライバーを装着し、カードを構える。同じくハルトもウィザードリングを左手に嵌めた。
《シャバドゥビタッチヘンシン!》
「変身!」
「変身!」
《カメンライド》
《フレイム プリーズ》
《ディケイド》
《ヒー ヒー ヒーヒーヒー!》
「さあ、ショータイムだ!」
ウィザードが叫ぶと同時に、二人のライダーは武器を持ち、スライムに攻撃を仕掛ける。
「くそ! 魔法使いめ……!」
スライムは自分の体を細かく分け、そこからグールを生み出した。分け与えた魔力はほんのわずかだが、質より量の作戦だ。
人々が見守る前で、二人はファントムと戦闘を繰り広げる。ウィザードはいつも誰の目も届かない場所でファントムと戦っていた。そのため人々がウィザードのことを見るのはこれが初めてだった。
ディケイドはグールを狩っていく。ライドブッカーの剣と銃を使い分け、殲滅していく。
「はあああっ!」
ウィザードは両手に剣を持ち、スライム本体を斬る。誰かがいる方に逃げようとしたら、それを阻止する。触手を伸ばそうとしたら、それを断つ。
スライムも進化したが、それ以上にウィザードの動きが良くなっている。スライムはだんだんとその差に圧されていく。
「お前にまだこんな魔力が……!? ならば人間を吸収してさらに魔力を得なければ……」
「俺は希望の魔法使い、カメンライダーウィザードだ! この街に手出しはさせないぞ!」
スライムはついに攻撃を受け、床を転がった。
「今度は逃がさない。ここで決着だ」
「ま、魔法が希望だと? ならばその希望を砕くだけだ」
「うおおおっ!」
ウィザードが倒れるスライムに向かって剣を振り下ろそうとする。
「ハルトッ」
ウィザードは手を止めた。
そこにあったのは母の顔。何度も夢に見た、あの優しい母親のものだった。
「母さん……」
「ハルト」
「父さん」
父の顔。兄の顔。妹の顔。周りに次々と人の顔が浮かんでいく。優しい笑顔。あの日あったはずの世界だった。
「ハルト、もうやめるんだ」
「私たちを傷つけるつもりなの」
「……」
ザン!
ウィザードは両手の剣を目の前の母の形をしたものに突き立て、引き裂いた。そして周りの人の形に剣を突き刺し、回転斬りをした。
人だったものは崩れ、そこにダメージを負ったスライムが倒れていた。
「バカなぁあっ!? 人間を斬った……だと!?」
「俺の家族はもういない!」
ウィザードは叫んだ。
「死んだ人間は元に戻らない。だが、俺はその人たちを忘れるつもりはない! 過去を受け入れ、俺は今を生きる!」
《キャモナスラッシュシェイクハンズ》
《フレイム》
《フレイム》
ウィザードは同時に二つの剣の必殺技を発動する。剣を炎が包み込む。そして炎の威力が増していき、天まで届くほど大きくなった。
「俺はもう、あの日に囚われない! これでフィナーレだ!」
《スラッシュストライク》
《スラッシュストライク》
《サイコー!!》
「はああああっ!!」
最高出力の魔力を、挟み込むようにスライムにぶつける。もう逃げられない。スライムも自身の魔力を使って防御を試みるが、ウィザードの無尽蔵の魔力には勝てなかった。
「があああああああああああ!!」
スライムは叫び、爆発した。
同時にスライムの生み出したグールも消えた。奴の体は全て消え去ったのだ。
「やったな、ハルト」
「士」
ディケイドがウィザードに駆け寄る。
「ああ。希望を捨てなくてよかった」
ウィザードははにかみながらもそう言った。
「……ん? なんだあれ」
「え?」
ディケイドが指差した方。スライムの魔力が、奴が白服から受け取った宝石に集まっていく。そしてその宝石を額の中心に据えた、巨大な獣の姿に変化した。
現れた巨大ファントムには自我と呼べるものはなかった。大きく吠えると、二人のライダーを跳ね飛ばし、そのまま目の前に見えるビルに向かって突進していく。
「しつこい野郎だ。まさか、あんなでかいファントムになるなんてな」
「なんとしてでも止める。これ以上被害を出してたまるか」
その瞬間ライドブッカーが開き、ライダーカードが飛び出す。ディケイドがそれを手に取ると、魔法陣が一瞬浮かび上がる。そしてそこにウィザードの力が宿った。
彼はその中の一枚をドライバーに装填し、バックルを回す。
《ファイナルフォームライド ウィウィウィウィザード》
「ハルト、ちょっとくすぐったいぞ」
「おう。……お? ウオッ!」
ウィザードが振り返ろうとしたところを、ディケイドは彼の背中に手を当てた。ウィザードの背中からドラゴンの頭部が飛び出す。腰のマントは大きな翼となり、足は一つになり太く逞しい尻尾に変化した。彼が変身したのは『ウィザードウィザードラゴン』。自身の体中にいるファントムの姿だった。
「行くぜ!」
ウィザードウィザードラゴンは猛スピードで巨大ファントムを追いかける。ドラゴン状態の速さは凄まじく、一瞬で敵の背についた。
そして足でファントムを掴み、動きを止める。ファントムも抵抗して噛み付くが、ドラゴンは口から炎を吐いて攻撃する。
その場で絡み合って足止めしていると、ディケイドが追いついた。
「ハルト! 決めるぞ!」
「おう!」
ドラゴンは尻尾にファントムをひっかけ、大空高く飛ばした。
魔力の暴走したファントムを倒すと大爆発の恐れがあったからだ。それに、まだ近くに人がいるため、出来るだけ衝撃を和らげるために遠くで倒すことを心がけた。
ディケイドはカードをドライバーに装填し、ハンドルを押した。
《ファイナル アタックライド ウィウィウィウィザード》
ウィザードウィザードラゴンがまた変形する。頭部と前足、そして尻尾を前に出し、巨大な龍の足になった。
ディケイドはそれに向かってキックする。
龍の足が必殺技の威力を強める。足からは溢れ出る魔力が炎となって彼らを包み込む。炎は巨大なディケイドの姿を模した。
「はあーーっ!!」
「うおおおおおーーッ!!!」
いくつもの魔法陣がディケイドらとファントムの間に現れる。魔法陣の中をくぐり抜けていく巨大なディケイドの姿は、まるでディメンションキックをするようだった。
巨大なディケイドはファントムにキックを食らわせる。そして大爆発が起こった。
煙の中からウィザードウィザードラゴンに乗ったディケイドが出てくる。そして地上におり、ドラゴンはウィザードに戻った。
「お疲れさん」
「あんたもな」
二人は変身を解除した。
「これからどうするつもりなんだ」
「ファントムが現れる限り、一人でも俺は戦うさ。俺は希望の魔法使いだからな」
「そうか」
「お! いたいた!」
そう言ってこちらに走ってくる男がいる。
一人じゃない。奥からさらに一人。またもう一人。次々とこちらに向かってくる。
「あんたが助けてくれたんだな!」
「え? まあ。はい」
男はハルトの手を取り、目を輝かせる。ハルトはなにが起きたか分からず、キョトンとした顔をする。
「助けてくれてありがとう! 魔法使いさん!」
「ありがとう」
「ほんとにありがとうございます」
「これお礼だ。持ってってくれ」
「私も」
「なにかあったら言ってちょうだいね」
「私たちも力になりますから」
次々にお礼を言う人たち。いつも隠れて活動していたハルトは魔法使いとして感謝され慣れておらず、ぎこちないながらも笑顔で会釈する。
ハルトはもう一人じゃない。希望を与える魔法使いも、誰かを頼ることが許された。彼もまた、誰かに希望を貰って生きていく。この街は彼にとって安心できる場所になるだろう。
士は彼らに向かってシャッターを切った。
◆
士は写真館に戻ってきていた。彼にとっての帰る場所だ。スタジオで毎度の如く、この世界で撮った写真を並べる。
「ハルトさん、いい顔してますね」
「よかったなあ、元気になって」
夏海たちが見たのは一枚の写真。大勢の人々に囲まれ、生き生きとした嬉しそうな表情を浮かべるハルト。
しかし士の顔は晴れない。手元には九枚のライダーカード。ようやく全ての力を手に入れたのだ。これで何かが変わったのだろうか。
その時、写真館のチャイムが鳴った。栄次郎はスタジオから出ていこうとする。扉を開けた瞬間、そこには──。
「ご苦労だった」
「わっ!」
鳴滝が立っていた。
「鳴滝さん!」
「お前、そろそろ説明しろ。俺にまた旅をさせた理由をな」
「いいだろう。次の世界に行く前に言っておく。君は九つの世界を巡り新たな力を手に入れ、今までのディケイドを超える必要があった」
「今までのディケイドを超える?」
「ああ。ディケイドは数ある物語の一つとなってしまった。そこから抜け出し、新しいライダーにならなければならないのだ」
鳴滝は絵の方に手を向ける。
「いよいよ、最後の戦いだ」
鳴滝がそう言うと、ジャララララと新たな絵が出現する。
その絵を見て、一同は驚愕する。
普通の色使いではない。反転した色。つまりこれは――。
「ネガの……世界?」
「そうだ。ここが最後の世界。門矢士、私と一緒に来てほしい」
「……」
鳴滝はそう言った。
ユウスケと栄次郎は二人のやりとりを見ていたが、夏海は絵の方に目を奪われていた。
反転しているためわかりにくいが、絵に書かれているのは大きな施設と駐車場。なんの変哲もないその二つだが、夏海はそれをどこかで見た気がしていた。
次回 仮面ライダーディケイド2
「まさかここに隠れていたとはな」
「どうしてまた来てしまったの!」
「思い出した……」
「お前は本物になれなかった」
「財団X。それが奴らの名前だ」
第20話「再来 ダークライダーズ」
全てを破壊し、全てを繋げ!