仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「勝手に世界に入り込んでって……そんなことができるのかよ」
「歴史の管理者である者が持つ力だ」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「俺たちはレジスタンス。ダークライダーたちの監視を逃れ、隠れて生きてる」
「あたしたちはついにダークライダーを従える親玉の情報を掴んだの」
「ディケイドよ」
「お前、何をッ!」
「黒い……ディケイド……!?」


第21話「消える世界」

 ダークライダーを倒したキバーラたちの前に現れたディケイドは、黒いディケイドがカメンライドしていたものだった。その腰に巻かれたベルトは、夏海が夢で見た黒いディケイドライバーそのものだった。

 

「あ……」

 

 夢で見た光景を思い出す。かつて見たライダー大戦の夢とは違う、新たな戦いの夢。新たなライダーを含め全ライダーを倒した者、それがこの黒いディケイド。

 

「あれは誰だ? 士じゃ……ないな」

「は、はい。違うと思います」

「どうしたんだい、震えてるよ」

 

 ディエンドの言う通り、キバーラの足は無意識の内に震え出していた。はっとした彼女は自分の左足を武器を持っていない手で抑え、震えを止めようとする。

 キバーラとディエンドはそれぞれ剣と銃を持っている。対して黒いディケイドに武器はなく、気絶したユウスケを担いでいる。一見有利に思える状況だが、二人は一歩も動けない。

 彼らの数メートル後ろでは、レジスタンスの四人がその光景を見つめる。

 

「あれが……ディケイド……」

 

 ネガ夏海は唾を飲み込んだ。

 ふと、その横を何かが通りすぎた。

 

「夏海! 海東!」

 

 士が二人のもとにやってきたのだ。コートとマフラーが風にのり、なびく。

 レジスタンスたちはそれを眺めていると、その後ろから鳴滝が追いついた。レジスタンスの男から「なんだあんた」と尋ねられるが、鳴滝は呼吸に精一杯で答えられない。

 

「あれは……!」

 

 すうと息を深く吸い、顔を上げた鳴滝は目を見張った。眼鏡の奥では恐怖と憎しみが渦巻く。

 士も同じく、目の前のライダーの姿に少なからず驚いていた。

 

「なんだお前は!? 俺の真似っこってわけか?」

「士くん! あのライダーがユウスケを……!」

「……ああ。だいたい分かった」

 

 士はベルトを巻く。目の前のライダーの腰に収まる黒いドライバーと真逆の、真っ白なディケイドライバーを。そしてライドブッカーからカードを取り出し、構える。

 

「変身!」

 

《カメンライド ディケイド》

 

 士は仮面ライダーディケイドに変身した。

 すぐに戦闘は始まらない。二人のディケイドは見つめ合う。

 

「もう一度聞く。なんなんだお前は。財団Xってのと何か関係があるのか?」

「……」

「何も答えないつもりか?」

「……」

「だったらこっちから行くまでだ」

 

 ディケイドは黒いディケイドに向かっていく。黒いディケイドはユウスケを空中に放り投げた。ディケイドは一瞬それに気を取られてしまう。

 ユウスケが投げられた方にはキバーラとディエンドがいる。ディケイドの援護をしようとすると気絶したユウスケに攻撃が当たりかねない。二人は強制的に攻撃を封じられたのだ。

 

「……ゔっ!!」

 

 次の瞬間、黒いディケイドの鋭いキックがディケイドの腹に突き刺さっていた。ディケイドは両手で腹を押さえて後ずさる。

 ディケイドが再び顔を上げると、黒いディケイドは既に一枚のカードをドライバーに装填していた。

 

「なん……だと」

 

《アタックライド リモート》

 

 黒いディケイドライバーの中央にある青い窓から一筋の光が放たれた。光はディケイドの真横を通り過ぎ、ユウスケに向かっていく。

 

「変身しなくてもブレイドの世界の力を……!?」

 

 光がユウスケに届く。その瞬間彼は覚醒し、着地した。そして目の前の二人に攻撃を仕掛けた。

 しかし、所詮変身していない生身の人間の攻撃だ。ライダーの姿の二人には、大したダメージにはならない。

 

「お前……ユウスケに何をした」

 

 ディケイドがそう尋ねても、黒いライダーは何も答えることはない。このままではらちがあかない、とディケイドは再び攻撃を始めた。

 

「ユウスケ?」

「無駄だよ。今の彼は操られている」

 

 恐る恐る声をかけるキバーラを庇うように、ディエンドは前に出る。顔を上げたユウスケの目に光はなかった。

 

「……変身」

 

 その一言とともに、ユウスケの腹にアークルが現れる。中央の石も、彼の目と同じく光を失っていた。いつもの変身ポーズを取らずとも彼の体は変化していく。彼の腕が。足が。体が。そして顔が。

 ユウスケは赤いクウガに変身した。しかし、その目は黒く、闇より深い。

 

「はあっ!!」

 

 クウガが二人に手を突き出すと同時に、ディエンドはクウガに向かって引き金を引く。

 

「……!」

「うあああ……!」

「きゃあっ!」

 

 三人に同時に火花が飛ぶ。その場に倒れ込むキバーラとディエンドに対し、クウガは特段効いた様子もなく平然と立っている。

 ディエンドはすぐに上体を起こし、もう一発、さらにもう一発と銃を撃つ。キバーラは地面を這い、ディエンドのドライバーを持つ腕を下げさせた。

 

「海東さん! やめてください!」

「やめないよ! 今攻撃を受けただろう! 彼を止めるにはこうするしかないんだ!」

 

 同じ場所に何度もダメージを与えられたことで、ようやくクウガもダメージを感じたようだ。被弾箇所を押さえ、森の中に走る。

 

「ユウスケ! 待って!」

 

 それをキバーラとディエンドが追いかける。

 道なき道をひたすら進む。彼らはいつの間にか海岸に着いていた。

 ふと聞き慣れた声がした。キバーラはそちらを見る。

 

「士くん……!」

 

 キバーラたちの視線の先にあったのは、ライダーの戦闘だった。士が変身したマゼンタカラーのディケイドと、謎の黒いディケイド。二人のディケイドが激しい攻防を繰り広げる。

 否、それは攻防ではなく、一方的な攻撃だった。ディケイドの攻撃は届くことがなく、また、防御されることもなかった。黒いディケイドの攻撃が全てをかき消し、蹴散らす。

 

「うわっ!」

 

 ディケイドは、海を背に、地面に転がった。

 そしてキバーラは、大事なことを思い出した。

 ユウスケはどこに行ったのだろうか。

 

「ぐあっ……!!」

 

 背後から聞こえる苦しそうな声。振り返ると、クウガがディエンドの首を掴み、持ち上げていた。

 

「海東さん!」

「やめろ! 君は来るんじゃない――」

 

 キバーラが手を伸ばした瞬間、ディエンドの首元から全身にかけて火花が飛び散った。

 

「うああああああああああーーーっ!!!!」

 

 ディエンドが叫んだ。変身が解除され、口から血を流した海東が地面に落ちた。

 クウガはそれ以上動くことはなかった。戦闘不能の海東にとどめをさすことも、次の標的としてキバーラを狙うことも。

 

《ファイナル アタックライド》

 

「!」

 

 クウガはキバーラを見ていたわけではなかった。クウガの視線は彼女の後ろに向いていた。キバーラはばっと振り向く。

 その瞬間、二人のディケイドの戦いも終わっていた。

 黒いディケイドのキックを受けるマゼンタのディケイド。辺りに悲鳴がこだまする。とてつもない衝撃を受け、小さな爆発をいくつも起こしながら海へと飛んでいく。変身が解除され、ディケイドのライダーカードがドライバーから飛び出し、空を舞う。

 

「士……」

 

 気を失いかけていた海東はディケイドたちの方を見る。敗れた士に、届かぬ手を伸ばした。

 

「死ぬな……!」

 

 士が目を閉じて倒れる。風が強く、波が荒れていた。海の轟音が彼の着水音を遮る。水飛沫は低く跳ねた。

 ディケイドのライダーカードは黒いディケイドの手元に落ちてきた。彼はそれを掴み取る。そして一瞬オーロラに包まれたかと思うと、黒いディケイドはクウガと共に消えていた。

 

 

 

 

第21話「消える世界」

 

 

 

 

 夏海と鳴滝、レジスタンスのメンバーたちは、気を失った士と海東を写真館に連れ帰り、手当てをした。空気はとても重く、絶望だけがそこにあった。食事も満足に取れたものではない。

 栄次郎は彼らに部屋を与え、休むように伝えた。それはこの世界の異質さに気づいたわけではなく、ただの親切心だった。

 日が落ちた頃。真っ暗なスタジオでは、夏海が椅子に一人腰掛けていた。机の上には傷ついた士のドライバー。彼女はそれを見つめていた。

 

「……」

 

 黒いディケイドの圧倒的な強さ。新たに世界を巡り、自分たちも強くなったと思い込んでいた。しかし、それが全く通用しなかった。それだけではなく、更に仲間を一人奪われてしまった。

 夏海は眠れなかった。

 眠ってしまうと、またあの夢を見てしまう気がしたからだ。ライダー大戦の中心にいたディケイド。その正体は、あの黒いドライバーを巻いたディケイドだったのだ。その先の展開を見てしまうことが何よりも恐ろしかった。

 

「光夏海」

「……鳴滝さん」

 

 ふと鳴滝に声をかけられた。ずっとスタジオにいたのだろうか。もしかすると不安になるあまり扉の開閉に気づかなかっただけかもしれない。

 彼は夏海の横に立つ。鳴滝と一緒に部屋に入ってきたキバーラは、机の上に止まる。

 

「君も、あの黒いディケイドを知っているようだね」

「はい。鳴滝さんもですか?」

「ああ。よく知っている。奴が本当の、世界の破壊者だ」

「破壊者……!」

 

 夏海は立ち上がり、鳴滝を詰める。

 

「やっぱり士くんは破壊者でも悪魔でもなかったんじゃないですか!」

「夏海ちゃん、ちょっと落ち着きなさいよ」

「なのにずっと士くんは世界から嫌われ続けてきたっていうんですか」

「夏海ちゃん!」

「それは、彼が破壊者としての素質を持っていたからだ」

「違います。士くんは破壊者では――」

「そうだ。今の彼は破壊者の役目を取り上げられた状態にある」

「士くんは──! ……『取り上げられた』?」

 

 夏海は言葉に引っかかりを感じた。

 

「ああ。彼は生まれながらの破壊者ではない。かつて破壊者としての使命を受けてしまっただけだ」

「使命?」

「ああ。それを与えたのがあの黒いライダー、ダークディケイドの変身者にあたる者だ」

「ダーク……ディケイド……」

 

「なるほどね」

 

 扉の方から声がする。

 

「海東さん……怪我は!?」

「怪我だからって休んではいられないよ。どうやら財団Xは、色々な世界から情報を集めているらしいね。だったら面白いお宝だって眠っていそうだと思わないかい」

 

 夏海は彼に駆け寄った。既に普段の服に着替えており本調子に戻ったように見せているが、その下には包帯がまだ巻かれたままであった。怪我の程度は士ほど酷くはないとはいえ、無茶をしているような気がする。

 

「それに」

 

 海東の余裕のある表情が一変し、眉間に皺を寄せる。

 

「士の仕返しをしてやらないとね」

 

 海東は鳴滝の方を向く。

 

「鳴滝さん、あなたが士に再び九つの世界を巡らせたのは、ダークディケイドってのを倒すためだったんですね。分かってるなら最初から言ってくれればよかったのに」

「言えない理由があった。こちらが相手の存在に気づいていると知られてしまえば、こうして世界に入ることもできなくなってしまう恐れがあったからだ。そして……油断させられればダークディケイドの誕生を遅らせることもできると思ったのだ」

「ま、そううまくはいかなかったわけだ。こうなってしまった以上、なんとかして倒さないといけないんでしょう」

 

 海東は戦うつもりのようだ。

 

「それに、彼女らも同じ気持ちらしいし」

「彼女ら?」

 

「私たちも戦う」

 

 そこにはレジスタンスたちが。各々武器を持っており、戦う準備は完了している。

 

「他のレジスタンスに連絡を入れた。きみたちライダーと比べると戦力として心許ないかもしれないが、俺たちにも戦わせてほしい」

「ああ。戦闘員や怪人たちは君たちに任せるよ。ライダー相手なら僕が」

「私も戦います。そしてユウスケも、士くんのカードも取り返します。必ず」

 

 一同はスタジオを出て、敵地に向かう。鳴滝はその中の一人をこっそり呼び止めた。

 

「海東大樹、君に頼みたいことがある」

 

 

 

 

 ネガの世界の地下。そこには財団Xの特別な研究所があった。

 様々な組織に資金援助を行い、その見返りとして研究成果が財団に提供される。通常、技術や情報は各部署の単位で保管・研究されるが、ここには全ての情報が流れてくる。

 ネガ音也は研究員たちを尻目に通路を闊歩する。

 

「おっと」

 

 そんな彼にぶつかる者がいた。

 

「おい、男が人にぶつかったらまず謝罪の言葉とクリーニング代を渡すものだろう。教育がなっていないな」

「……」

 

 ネガ音也にぶつかったのはユウスケだった。無表情な顔で音也の方を見る。

 

「お前は……。なるほど、お前もこの世界の住人になったのか。いいだろう。先輩として、上司として、面倒見てやろう。そうだ、歓迎の印に一曲弾いてやる」

 

 バイオリンを準備し演奏しようとする彼の手を、ユウスケが掴んだ。演奏を遮られた音也はユウスケを見つめる。

 

「お喋りなやつだ。弱い奴ほどよく吠えるという」

 

 ユウスケが言い放つ。

 

「ハッハッハッ……。口に気をつけろ。せっかく仲間になったばかりで悪いが、すぐに消えることになるぞ」

「お前こそ。士を処分し損なった埋め合わせはどうするつもりだ。失敗は、死を表す。消えるのはお前になるかもな」

「……」

 

 ユウスケは彼を突き放す。

 

「丁度生き残った人間たちがここに向かっているところだ。それを処理しろ」

「ほーう。新人の癖に俺に命令するつもりか?」

「俺じゃない。上からの命令だ」

「……なるほど」

 

 ネガ音也はユウスケに背を向ける。そして手を高く掲げ、指を鳴らした。ユウスケはその動きの意図が分からない様子だ。

 

「この世界の全ての怪人は俺の支配下にある。奴らに命令したのさ」

 

 ネガ音也はバイオリンケースを放り投げた。がしゃんと音を立てて床を跳ねる。

 

「もはや人間に擬態する必要も、平和な世界を演じる必要もない。人間どもが集まってくるなら好都合。一人残らず、全力で狩り尽くせとな」

 

 

 

 

 夏海らが写真館を後にして少し経った頃、士は目覚めた。そして、自分がベッドの中にいることに気がつくと飛び起きた。

 

「っつ……」

 

 まだキックを受けた胸の痛みが激しい。

 

「気がついたか」

 

 ベッドの側には鳴滝が座っていた。死の狭間を彷徨った末に目覚め、一番最初に見る人間が彼になるとは。士は顔をしかめた。

 

「時間がない。すぐに準備するんだ」

「……」

 

 士は鳴滝に従い、ベッドから出た。スタジオに向かう際にちらりと見えた隣の部屋も、誰かの手当てに使っていた痕跡がある。それが既にいないということは――。

 スタジオに入ると、テレビの前に座っていた栄次郎が彼に手を振った。そしてとあるものを持って彼の方にやってくる。

 

「士くん。これ、君のでしょ」

 

 栄次郎は士にディケイドライバーを手渡した。彼はそれを受け取る。

 

「行くんだろう?」

「……ああ」

「これまでの旅が君の強さの証明だ」

「ああ、そうだな。俺の旅を、全てを終わらせてくる。もう世話になることもないかもな」

 

 財団を潰せば士の旅は完全に終わる。もう旅に付き合わせる必要もないのだ。最初の旅を終えた後にずっと成り行きで一緒にいたが、ここを離れる丁度良いタイミングかもしれない。

 

「それは違うよ」

 

 栄次郎は士の言葉を否定した。

 

「全てが終わったら、また旅を始めればいい。旅はゴールにもなるし、また新たなスタートにもなるんだよ」

 

 栄次郎はテレビの方に歩いていく。途中、壁の絵画を見た。全てはここから始まったのだ。

 

「だからまたここに帰って来ればいい。旅自体が帰る場所というのも変わってて面白いね。……ん?」

 

 腰掛けた栄次郎は、テレビの中の違和感に気づく。士らもそれを覗き込んだ。

 テレビの中の人が次々に姿を変えていく。これまでに巡った世界で、色々な怪人と戦ってきた。今回はそれが一気に現れたのだ。

 

「ネガの世界はすでに支配されてしまっている」

「怪人の世界……! これが本当の世界だったのか」

「いよいよ財団Xが本気で動き出したようだ。奴らは、ディケイド――お前を完全に消すつもりでいる」

「最終決戦だからな。盛り上がるのは結構なことだ」

 

 士と鳴滝は財団X特別研究施設に向かう。

 

「士くん! 気をつけて!」

「ああ!」

「ツケにしてたフイルム代も! まだ残ってるからね!?」

 

 付け足した言葉は士に届いていなかった。

 

 

 

 

「生き残った人は……これだけなんですね」

 

 レジスタンスたちが本部の前に集まった。夏海はその人数の少なさに少なからず絶望していた。この世界の友人のように、怪人やダークライダーに殺された人の多さを改めて気付かされた。

 数にして数十名。一人一人が武装していて、財団の戦闘員に対する戦力としては申し分ない。彼らの意思は一つ、いつの日か自由を手にすること。その思いが彼らを強くした。

 

「よし、じゃあ行こう」

 

 潜入は海東の得意分野だ。彼の先導で研究施設の中に入っていく。キバーラもコウモリらしく、彼らの上を飛びながら敵の気配を探る。

 そして誰にも気づかれることなく、かなり奥まで進んだ。

 

「……おかしい」

 

 海東は呟いた。

 

「え?」

「財団は僕らと接触しているだろう。それなのに警備が手薄すぎる」

「わざと中に侵入させているとでもいうのかよ」

 

 レジスタンスの男は銃を構えた。

 

「そうだろうね。でもこちらとしてはありがたい。面倒な戦いをせずに入れてくれるのならそれに甘えようじゃないか」

「あ、もうすぐ明るいとこに出ますね……」

 

 夏海らがたどり着いたのはとても広い部屋。ドーム状のスタジアムだった。

 

「なるほど。暴れるならここでやってくれってことかな」

「あ!」

 

 夏海は息を呑んだ。

 彼らを囲むように何人ものマスカレイドドーパントがずらりと並ぶ。そしてその前に二人のダークライダー、ブラックバロンとアナザーパラドクスが待ち構えている。

 

「行くよ、夏メロン」

「はい」

 

 そう言いながら、海東は自身のドライバーを取り出していた。夏海はその呼び方にうんざりしつつも、訂正はしなかった。

 

「キバーラ!」

「はいは~い」

 

《カメンライド》

 

「変身!」

「変身!」

「ちゅ♡」

 

《ディエンド》

 

 キバーラとディエンドは、それぞれブラックバロンとアナザーパラドクスと戦闘をはじめた。

 

「俺たちも続くぞォ!」

 

 レジスタンスたちは武器を構え、走っていく。

 ライダーの横を抜け、背後でどんどん増え続けるマスカレイドドーパントたちに攻撃をする。数人は小型ナイフを使って近接攻撃をする。残りは遠くから銃を撃つ。マスカレイドの攻撃力がそれほど高くないこともあり、メモリブレイク時の爆発にさえ気をつけていればレジスタンス側は致命傷を受けることはない。

 

「はあっ! やっ!」

 

 キバーラとブラックバロンはそれぞれ長い武器を振るう。一方は距離を取りながら、一方はダメージを受けることを顧みず攻めの姿勢で槍を突く。

 そしてアナザーパラドクスは、ディエンドの遠距離攻撃に対し不利であると判断するやいなや、バグヴァイザーⅡを反転させて銃撃戦をはじめた。お互い隠れるものがないため、紙一重の回避の連続だ。

 二人が避けた銃弾はマスカレイドやレジスタンスに飛び、怪我人が出始めた。

 

「海東さん、気をつけてください! 周りには味方もいるんですよ!」

「あー……。じゃあ、そろそろ終わらせてしまおう!」

 

《ファイナル アタックライド》

 

 ディエンドがカードを装填したのを見ると、キバーラは今までの守りの戦法を一転させ、ブラックバロンに突進して弾き飛ばした。

 ブラックバロンは地面を転がり、アナザーパラドクスの方に。彼らの距離が近くなると、キバーラは叫んだ。

 

「今です!」

「ああ!」

 

《ディディディディエンド》

 

 トリガーを引く。極太のエネルギー波が二人のダークライダーを飲み込んだ。エネルギー波が過ぎ去った後、二人は倒れ、爆発を起こした。

 爆発の衝撃でドームの周りの壁や天井が崩れ、瓦礫が落ちてくる。

 

「……よし」

「やりましたね」

 

「うわああああああっ!!」

 

「!?」

 

 ダークライダーを倒して一段落、と思ったのも束の間。背後から一つの絶叫が起こる。そして次の瞬間にはどよめきと銃声がドーム内に満ちる。

 キバーラとディエンドが離れることで隙ができてしまった。

 ブラックバロンとアナザーパラドクスに気を取られすぎた。敵はそれだけだと思い込んでしまった。残りのマスカレイド達のみならばレジスタンスだけで対処できると安心してしまっていた。

 

「くそっ!」

 

 二人はどよめきの中心に急いだ。

 既に何人ものレジスタンスメンバーが倒れている。

 屍の中心にはダークキバが腕を組んで立っていた。四方八方から銃口を向けられているが、ものともせず堂々としている。

 

「さっきの二人は囮だったのか」

「そういうことだ。おマヌケなお前たちのおかげでこうして楽に人間を殺すことができたんだ。感謝し――」

 

 キバーラは剣をダークキバに投げつけていた。ダークキバはそれを避けたためダメージを負っていないが、その剣の速さに驚いていた。

 

「会話の最中に攻撃とはな。だが、乱暴な女も嫌いじゃないぞ」

「もういいです」

 

 キバーラの声は怒りに震えていた。

 

「これ以上人を傷つけさせませんッ!」

「女を殴るのは趣味じゃないが、これもお前の運命だ。許してくれよ!」

 

 キバーラは武器を自ら失くしてしまったため、素手でダークキバに立ち向かうことになった。ダークキバは拳を握りしめ、向かってくるキバーラめがけて振りかぶる。

 ダークキバに対し、キバーラのスペックは大きく劣る。今素手で戦ったところでキバーラに勝ち目はない。

 

「死ね!」

「……!」

 

 その時、ダークキバの背に衝撃が走った。何が起こったか理解できず、衝撃を受けた彼は前によろめき、パンチを中断した。

 キバーラも時を同じくして足を止めていた。

 その理由は、ダークキバの背後に見慣れたオーロラが現れたのを見たからだった。

 

「誰だッ――ぐあっ!」

 

 ダークキバが振り返った瞬間、胸を斬りつけられる。彼はコウモリのエフェクトに姿を変え、距離をとった。

 

「待たせたな、夏海」

 

 オーロラから飛び出し、ダークキバに攻撃したその男は、そう言った。

 

「士ァ……!」

 

 ダークキバは恨めしそうに士に向き直る。

 門矢士の登場だ。キバーラとディエンドは彼に駆け寄った。士はキバーラサーベルを持ち主に返す。

 

「そろそろ決着にしようぜ。お前と会うの、これで何回目だ?」

「決着だと……? ハッ、笑わせるな。今のお前は変身できない。そうだろう?」

 

 ダークキバは天を仰ぎ、手をばっと広げる。

 

「お前の相手はこいつだ! さあ来い!」

 

 ダークキバの支線の先、天井近くから一つの影が現れる。影は士とダークキバの間に降り立った。

 

「!」

 

 登場したのは仮面ライダーディケイド。マゼンタと白のアーマーが不気味に光る。

 キバーラの視線はディケイドの腰へ。

 

「ダークディケイド……じゃないみたいです。じゃあどうやって」

「士から奪ったカードを使って、実体化させたんだろう」

 

 ディエンドは、自分の武器と同じ仕組みであると冷静に分析する。

 ディケイドの、魂のない複眼はじっとこちらを見つめていた。

 

「倒せばカードに戻るはずだ!」

 

 ディエンドはディケイドに向かって発砲した。ディケイドは体を翻して避け、ライドブッカーを銃の形状にしてディエンドに撃ち返した。ディケイドは、発砲を続けながら士たちに向かって走る。三人は散り散りに避けた。

 ディケイドの狙いは士だった。

 

「そう来ると思ってたよ……!」

 

 ディエンドは回避しつつ、ディケイドに狙いを定めていた。そしてディケイドに銃口を向けた。

 

「残念。俺もだ」

 

 その瞬間、ドライバーを持った手をダークキバに掴まれてしまった。

 

「お前の読み通り、あの感情のない空っぽのディケイドは士を倒すことだけを考え、向かっていく。だが、お前たちの相手はこの俺だ」

「なにっ!」

 

 ダークキバは、掴んだディエンドの腕を真上に引っ張り、彼の脇腹に思い切りキックした。それを見て、後方からキバーラがやってくる。

 ダークキバはそれに気づいていた。回し蹴りのカウンターで彼女を寄せつけない。

 

「はっ!」

 

 ダークキバは手を両側に突き出す。掌を向けられた二人に火花が散る。二人は悲鳴をあげてその場に倒れた。

 起きあがろうとするディエンドは、士の方を見た。ディケイドに追われる彼は、死体から奪った武器と、レジスタンスの援護でなんとか生きながらえている。周りに落ちた瓦礫をうまく使い、隠れることができるようになったのも一因である。

 

「ここは一旦任せるよ……夏メロン」

 

 行かなくては。彼はそう思った。

 

「そう易々と通すと思うか!?」

 

 ダークキバがディエンドに向かって走ってくる。ディエンドはそれから無理に逃げようとしない。落ち着いてライダーカードを装填した。

 

《カメンライド》

 

「なに!?」

「無理にでも通るさ!!」

 

 銃口をダークキバの胸元に突きつけ、トリガーを引く。

 

《クローズチャージ》

 

「ぐああああっ!」

 

 召喚されたクローズチャージがツインブレイカーでダークキバを吹っ飛ばす。その隙にディエンドは士の方に移動した。

 ディエンドは士とディケイドの間に割って入り、銃でディケイドを攻撃する。

 

「大丈夫だったかい、士」

「……」

 

 助けてくれたことは感謝したいが彼の手を取るのは何か違う気がする。士はそっぽを向いた。

 ディエンドの攻撃をまともに受けたというのに、ディケイドはまだ倒れない。よろよろと立ち上がり、ケータッチを手にした。

 

「あいつ……まさか!」

 

《ファイナル カメンライド ディケイド》

 

 画面を操作することなくケータッチをベルトに納めたディケイドは、コンプリートフォームに変身する。前面のアーマーについた十枚のライダーカード全てにディケイドコンプリートフォームの顔が映し出される。

 ディケイドはライドブッカーを使って銃撃を開始した。士はディエンドに上から押さえられ、瓦礫の後ろに隠れるように倒れることで攻撃をかわした。だが、士を庇ったディエンドは攻撃を受けてしまった。その威力は凄まじく、ディエンドの変身が解除されてしまう。

 

「おい、使えないんじゃなかったのかよ!」

 

 士はダメージを受けた海東を座らせつつ、怒鳴った。

 

「いや……きっと財団Xが何かしたんだ。今のディケイドはかなり強くなっていると見て間違いないないだろう」

「それは分かる!」

 

 ドンという破裂音とともに、士と海東の間に大きな穴が開いた。通常攻撃なのにすごい威力だ。

 

「……とにかく、ここは危険だ」

 

 士と海東はディケイドから距離をとる。さっき隠れていた瓦礫は既に粉々になっていた。

 ディケイドは士に向かって走る。手を伸ばし、殴りかかる。

 

「うあっ!!」

 

 ディケイドの重い拳が士の体を捉えた。血を吐く士に海東は肩を貸し、逃げる。

 そのタイミングでレジスタンスたちが煙幕を張った。ディケイドは彼らを見失う。士と海東は別の瓦礫の影に身を隠す。

 

「ところで……お前がこっちに来たってことは、夏海を置いてきたってことか?」

「そうだけど?」

「なッ……! なにやってんだ。ダークキバ(あいつ)も油断できない相手だぞ。夏海は……」

 

 士はキバーラが戦っている場所を探しはじめる。

 

「!」

 

 士の視線の先。ダークキバは一対二の構図にも関わらず、キバーラとクローズチャージを圧倒していた。彼は武器の有無の不利を思わせぬ強さを見せつける。

 そして最後の一撃がキバーラに決まった。変身が解除され、夏海は倒れた。彼女の上空をキバーラが心配そうに飛び回る。

 

「夏海!」

「馬鹿か君は!?」

 

 思わず飛び出そうとした士を、海東が襟を掴んで止める。

 

「お前ッ……なにすんだよ」

「彼女は君のために戦ったんだ! それを無駄にするな!」

「くっ……」

 

 そう。彼らは今ディケイドに命を狙われる立場にある。絶対的な強さの前では逃げることしかできない。逆転の一手はまだ見つからない。

 ディケイド視点では、どこに何が隠れているか分からない。ターゲットである士。それを庇う海東。そして有象無象の人間たち。

 ディケイドはライドブッカーをソードモードに変形させた。

 

《ファイナル アタックライド》

 

 海東がいち早くそれに気づいた。

 

「危ない! 伏せるんだ!!」

 

《ディディディディケイド》

 

 コンプリートフォームに変身したディケイドは斬撃の威力も大きく上がっていた。威力だけでなく間合いも大きい。否、むしろ間合いという概念が無くなっていた。

 隠れて見えないのならば、隠れる場所を含め全てを攻撃すれば良い。

 斬撃はディケイドを中心に円を描く。

 ディケイドと同じ高さにいた全てが切断された。それは、彼らと離れた場所で戦っていたダークキバでさえも。

 

「……な……に」

 

 士を倒すことのみを考えるディケイド。仲間意識などあるわけがない。ダークキバは変身が解除され、その場に倒れた。

 

「なんて威力だ……」

「……どうやら、見つかってしまったみたいだ」

 

 ディケイドは、真っ直ぐに二人の方を見つめていた。

 

「士を見ると向かってくるようだね。必殺技を連発するような行動基準じゃなくて助かった……」

「言ってる場合かよ」

 

 じりじりと二人に迫るディケイド。絶体絶命の状況だ。

 その時、二人の間を銃弾が通り抜け、ディケイドに命中した。

 振り返ると、ネガの世界の夏海が銃を構えていた。リロードし、再びディケイドに狙いを定める。

 

「どきなさい! 私がディケイドを倒す!」

 

 ドンと大きな音が鳴る。二発目の銃弾も命中した。しかし、ディケイドはその程度では倒せない。

 

「無茶だ! ただの武器じゃライダー相手に傷一つつかない!」

 

 ネガ夏海は海東の忠告に眉をひそめた。

 

「それでもやるしかないの!」

 

 何度撃たれようがお構いなし。ディケイドは無機質に、士だけを追い続ける。

 その時、ネガ夏海はとあることを思いついた。

 

「キバーラッ!」

「え……!?」

 

 キバーラは、倒れる夏海を心配して声をかけていたところだった。急に呼ばれ、こちらに飛んでくる。

 

「ネガの世界の……夏海ちゃん?」

「ええ、その通り。私も光夏海よ。彼女に資格があったなら、私だってライダーになれるはず」

「……面白いこと考えるじゃないの」

 

 キバーラはふっと笑ってネガ夏海の手に収まった。

 

「変身」

 

 キバーラはネガ夏海に変身の能力を与えた。彼女の体を光が包み込み、仮面ライダーキバーラの鎧に変化した。ベルトの色など、元の世界の夏海のそれとはところどころ異なる箇所がある。

 

「いくわよ」

 

 ライダーから聞こえてきたその声はネガ夏海のものではなく、キバーラそのものの声だった。

 変身者がネガ夏海になったことでキバーラ自体の精神が鎧を操ることができるようになったのだった。

 

「はっ! はあっ!」

 

 ついにディケイドが無視できない相手が現れた。士を追うことをやめ、キバーラとの戦闘を繰り広げる。

 その隙に士は夏海の方に駆けつける。倒れる彼女を抱きかかえ、じっとキバーラとディケイドの戦いの行方を見守る。

 キバーラは夏海が変身していた時以上の動きを見せていた。コウモリのように素早く、空を舞うように、不気味に、ディケイドを翻弄する。

 

「これがキバーラの真の姿よ。フフッ」

 

 キバーラはついにディケイドに一撃を与えた。地面を転がるディケイド。しかし、痛みすら感じないであろう彼の復帰も早い。

 

「すごい。あいつ、渡り合ってやがる」

「でも徐々に押されている……」

 

 海東の言う通り、ディケイドはキバーラの動きを学び、対処方法を知りはじめていた。キバーラも負けじと次々に攻撃を繰り出す。

 

「だめだ。一瞬攻撃を与えられても次の攻撃が繋がらない」

 

「いや、一瞬でも隙を作れれば十分だ」

 

 その声と共に、ディケイドの背後にオーロラが現れた。そしてそこから鳴滝が飛び出し、ディケイドの背に手を当てた。

 

「はっ!」

 

 鳴滝の手から謎のエネルギーが放たれる。ディケイドのコンプリートフォームが解除され、通常のディケイドに戻ってしまう。

 ディケイドはライドブッカーを握り、後ろにいる鳴滝に向かってブンと振るが、鳴滝は再びオーロラの中に姿を隠す。そして再びディケイドの後ろに現れ、彼の首を絞めるように飛びついた。ディケイドは彼を振り払おうとするが、一向に離れる気配はない。

 

「鳴滝、お前……」

「ディケイドを無力化するにはこれしかなかった! ……ついに正体を明かす時が来たな!」

 

 鳴滝とディケイドが光に包まれる。士たちはあまりの眩しさに目を覆った。そして光が消えた時には、そこには鳴滝一人しか立っていなかった。

 

 

 

 

 彼はディケイドのライダーカードを士に手渡した。息があがっており、苦しそうだ。

 

「確かに受け取ったぜ」

 

 あのディケイドは海東の推測通り、カードの力を使って実体化させたものだった。鳴滝の謎パワーでそれを無効化させたが、どうもその能力が引っかかる。

 

「あなた、私の代わりに戦ってくれたんですよね。ありがとうございます」

 

 目覚めた夏海はネガ夏海に対して礼を言う。

 

「まさかキバーラの意識で動くようになるとは思わなかったが」

「元々キバーラの力は、ネガの世界の光夏海を変身させるために私が生み出したものだ。こういうかたちで使われることになるとはな」

 

 一同は鳴滝の方を見る。

 

「生み出した……?」

「ディケイドを倒せるのはキバーラだけなのだ。光夏海、かつて君が破壊者になったディケイドを止めたように」

「……」

 

 それを聞いた士は嫌な記憶を思い出し、腹をさする。

 

「鳴滝さん、あなたは一体……」

 

 夏海の質問に、鳴滝はふっと笑って回答する。

 

「私の本当の正体は、歴史の管理者だ。仮面ライダーの歴史を、ずっと見守ってきた者だ。先程ディケイドを無力化した力もその一つだ。体力を消費しすぎたせいでもう使えないがね」

「見守る者にしちゃ、かなり積極的に介入してくれたがな」

 

 士は皮肉を言う。

 

「ディケイドの存在を知ってしまったからな」

 

 鳴滝のその言葉に、夏海は「またその話ですか」と言いたげにムッとする。

 

「ディケイドは世界を破壊する。ライダーの歴史を破壊され、なかったことになる前に、なんとか手を打たなければならなかったのだ。ライダー側に立っても怪人側に立ってもディケイドを倒すという信念は曲げずにやってきたつもりだ」

「もうそれは聞き飽きた」

 

 士は鳴滝の話を終わらせた。そして彼らに背を向ける。

 

「今は財団X(あいつら)がそれを企んでるってわけだろ」

 

 出入り口から財団の戦闘員、マスカレイドドーパントが現れる。それだけでなく、大量の怪人が溢れ出てくる。生前のダークキバの命令に従った怪人たちが研究所外から集まったのだ。

 士はディケイドライバーを取り出し、腰に巻きつけた。そして海東はディエンドライバーを、夏海はキバーラを手に取る。

 

《カメンライド ディケイド》

《カメンライド ディエンド》

 

「変身」

「変身」

「変身」

 

 ディケイド、ディエンド、キバーラ。三人のライダーが並び立つ。

 

「ユウスケを取り戻し、財団Xをぶっ潰すぞ」

「はい!」

「ああ」

「小野寺ユウスケは最奥部にいるはずだ。財団X特別研究所の規模を侮ってはいけない」

「だったらお前もついてこいよ」

 

 ディケイドは鳴滝にそう言いながら、ライドブッカーを撃って目の前に道を切り開いた。そしてカードを取り出し、バックルに装填する。

 

《アタックライド イリュージョン》

 

 ディケイドは三人に増えた。そしてそれぞれが別々のライダーカードを手にする。

 

《フォームライド ビルド ラビットラビット》

《フォームライド フォーゼ エレキ》

《フォームライド ドライブ テクニック》

 

 ディケイドビルドは鳴滝を脇に抱え、怪人たちの間を縫って通路の奥へ急いだ。

 

「待てえっ! ……あがっ!!」

 

 ディケイドビルドを追おうとした怪人を、ディエンドとディケイドドライブが撃ち落とす。

 

「お前が待て」

「行かせないよ」

 

 そしてディケイドフォーゼとキバーラは近接攻撃で次々に怪人たちを撃破していく。生き残ったレジスタンスたちも、下級怪人と戦う。

 

「はっ!」

「オラッ!!」

 

 数で見れば怪人たちの方が圧倒的に有利だ。しかし、戦況はライダーたちの方に傾いていた。

 

《ファイナル アタックライド ディディディディエンド》

 

 ディエンドの必殺技が多くの怪人たちを屠った。

 

「士、一旦僕はここで抜けさせてもらうよ」

「は!? お前、なんだこんな時に!」

「悪いね、ここからは僕にしかできない仕事があるんだ」

 

《アタックライド インビジブル》

 

 ディエンドは戦線から離脱した。ディケイドドライブはその怒りをトリガーに乗せ、多くの怪人を倒した。

 

 

 

 

 ディケイドビルドと鳴滝は、再び広い場所に出た。ただの通路は終わり、ケーブルや機械類があちこちに置かれるようになった。

 そして目の前には一際巨大な扉。そこを抜けると、大きな部屋に出た。そこには財団の研究員は一人もいなかった。研究員たちも全員戦闘員として駆り出されたためだ。

 

「ここにいないのか……ならば奴の次の狙いは……?」

 

 ぶつぶつとなにかを呟く鳴滝を地面に下ろす。ディケイドビルドは、先ほどの扉に描かれていたマークのことが引っかかっていた。

 財団を表すXの字と、それに重なるように描かれていたのは見覚えのある鷲のロゴ。嫌な予感がする。

 まさか、ダークディケイドは――

 

「来たのか、士」

 

 考え事をしていたため、その気配に気づけなかった。

 

「ユウスケ!」

 

 ディケイドは彼の名を呼んだ。

 ユウスケはこちらに歩いてくる。

 

「お前が俺の邪魔をするならば……俺はお前を倒す」

 

 ユウスケの腹にアークルが現れる。そして彼を黒いモヤと電撃が覆う。ユウスケは無言でクウガアルティメットフォームへと変身した。

 鳴滝はそれを見て、そそくさと扉の外へ避難した。

 

「……」

 

 ディケイドビルドはそれをただじっと眺める。クウガの黒い瞳に映るのは自分の姿。

 似た景色を前に見たことがある。前にクウガと本気で戦った時、相手は自分を止めようとする側だった。今度は立場が逆転している。

 

「はああああっ!!」

 

 クウガとディケイドビルドは同時に走り出す。そしてパンチを同時に繰り出す。お互いがダメージを受けた。

 

「はっ!」

 

 続いて逆の腕でパンチする。クウガはそれを受け止め、カウンターでディケイドビルドに一撃を与えた。

 ディケイドビルドは持ち前の素早さで距離を取るが、クウガも一瞬でそれに追いつく。ディケイドビルドを高く蹴り上げ、天井にぶつけた。

 ビルドの変身が解除され、ディケイドは地面に落ちた。クウガは彼の首を掴み、持ち上げる。

 

「もうすぐ人間は一人もいなくなる。この世界は怪人だけになるんだ。そして、世界は俺が貰う」

「なに……!」

 

 ディケイドはクウガの手を解こうと、彼の手をこじ開けようとする。クウガは無防備になったディケイドの腹を思い切り蹴った。ディケイドは横方向に猛スピードで飛んでいく。そして壁に激突し、穴が開いた。

 

「お前は……世界中の人の笑顔のために戦うんじゃなかったのか!」

 

 ディケイドはライドブッカーを地面について立ち上がった。

 

「この世界に人間はいないと言っただろう。守る笑顔も、なにも存在しない」

「俺とお前は旅をしてきただろ!」

 

 ディケイドは再びクウガの方に走っていく。

 

《ファイナル アタックライド》

 

「いろんな世界。それぞれの世界にルールがあり、人があり、物語があっただろう! 俺たちが思っている以上に世界は広い! こんな窮屈な世界に閉じこもるな! お前は囚われている。大事なことを忘れているんだ!」

「オオオオオオオオッ!!!」

 

 ユウスケは声にならない雄叫びをあげてディケイドに殴りかかる。その右腕には炎を纏って。

 

「思い出せ! ユウスケ!!」

 

《ディディディディケイド》

 

 ディケイドは右腕にオーラを纏う。

 二つの強大なパワーがぶつかり合い、辺りを爆炎が包み込む。

 鳴滝が再び扉の中を覗き込む。まだ炎と煙が残っている。

 そこには、目を閉じたユウスケに肩を貸す士の姿があった。

 

「やったのか。やったんだな」

 

 鳴滝は彼らに歩み寄る。士は彼に向かってにっと笑った。

 勝った。財団Xからユウスケを取り戻したのだ。さっきの爆発で周りの機械も全て破壊した。これで財団の研究データも全て消えた。

 

 パチ。パチ。

 

 何者かの拍手が聞こえる。煙の向こうにいるため、シルエットしか見えない。

 

「やるじゃないか」

 

 手を叩く音はだんだんと近づいてくる。

 

「偽物にしては」

 

 煙が晴れた。そう言った男の顔は、士のよく知る形をしていた。

 

「なんだ……お前!?」

「門矢士だ。本物の、な」

 

 士は目の前の男の顔に驚いた。目の前にいる男は士だったのだ。しかし、声が違う。

 

「お前が本当の士だと!?」

 

 謎の士は士の前にやってきた。そして士を思い切り殴る。

 

「うああっ!!」

 

 士は床に倒れ込む。彼が支えていたユウスケも同時に倒れそうになるが、鳴滝が代わりに支えた。

 

「世界の融合も、世界の破壊も、なにもできなかったお前がなぜ生きている」

「なに?」

「それが、私がお前に与えた使命だったはずだぞ」

「俺の……使命だと?」

 

 士がそう言って、口の血を拭った。謎の士は口を大きく開けて笑い出した。

 

「なにがおかしいんだ!?」

「やはりお前は使命のことを忘れていたか。この出来損ないが」

 

 そして急に真顔になる。

 士たちの真下の地面が動き出す。遠くで床が爆発した。

 

「な!? うわっ――」

「この世界は破壊されるのだ」

「何をした!」

「何もしていない。お前たちが壊したこの部屋の機械はこの世界を延命させる装置だったのだ。お前はそれを壊してしまった……。だが悔いることはない。この世界は、すでに、ずっと前から――」

 

 謎の士は彼らに背を向け、爆発が起こる部屋の外へと歩いていく。そしておもむろに振り向いた。

 

「終わっていたのだから」

 

 謎の士は高笑いととともに炎の中に消えていく。

 

「くそぉぉぉおおおっ!!」

 

 士は、謎の士が消えた炎に向かって叫んだ。そこには既に奴はおらず、代わりに炎が勢いを増して彼に襲い掛かろうとする。

 

「何をしているんだ!」

「!」

 

 鳴滝が士の腕を掴み、後方に引く。オーロラを抜けると、実体化したディケイドがいた部屋に飛んだ。

 キバーラの変身は解除されていた。ディケイドのイリュージョン体の三人も消え、ジリ貧状態だ。生き残ったレジスタンスも残り数名になっていた。しかし、怪人たちはまだ残っている。

 

「士くん! ユウスケを救えたんですね……!」

「こちらに来るんだ! じきにこの世界は崩壊してしまう!」

 

 鳴滝は、今度はオーロラの先を光写真館に繋げた。

 

「海東さんがいないんです!」

「あいつは大丈夫だろ! 多分!」

 

 士とユウスケ、夏海は次々にオーロラの中に入っていく。写真館では栄次郎が突然の地震に驚き、慌てていた。

 地震の振動でスタジオの絵がめくれようとしている。それを見た夏海はオーロラの中に体を突っ込んだ。

 

「あなたたちも!」

 

 夏海は、銃を持ち怪人たちとなお戦うネガ夏海に手を伸ばす。だが、彼女は首を振ってそれを拒んだ。

 

「私は行けない。この世界で最後まで生きた。それだけで十分」

「そんな!」

「だから、行って。私たちがこの怪人たちを止めておく」

 

 ネガ夏海は飛びかかる怪人を撃ち落とした。

 

「それに、ここで死んだ仲間たちを置いていくわけにはいかないもの。だから忘れないで。私が、私たちが必死に生きていたことを」

「……はい!」

 

「もう無理だ! 夏ミカン!」

 

 大爆発の寸前、夏海は写真館に戻ってきた。壁の絵は変わっていた。もう地響きは起きていない。

 ネガの世界は消えてしまったのだ。

 窓の外は明るく穏やかで、先ほどの天変地異が嘘のようだ。

 

「……絶対」

 

 夏海は呟いた。

 

「絶対に倒しましょう。ダークディケイドを」

 

 士は頷いた。

 壁の絵は、光写真館から眺めた外の景色だった。旅はいつもここから始まっていた。

 ディケイドの、最初の世界。

 最後の戦いが幕を開ける。




次回 仮面ライダーディケイド2

「これが私の計画だった」
「奴は最強で最悪のライダーになってしまった」
「お前はあの日、仮面ライダーとして再び姿を現した!」
「あなたも無茶言ってくれますね」
「お前に物語などいらない」

第22話「ディケイドの真実」

全てを破壊し、全てを繋げ!
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