これまでの仮面ライダーディケイド2は……
「この世界は今までの世界とは違う。僕たちにとって全く新しい世界だ」
「何度でも立ち上がれる。この街を守るために!」
『なぜなら僕らは?』
「二人で一人。唯一無二の相棒だから!」
光写真館の朝は今日も賑やかだ。
「おはよ~」
ユウスケがあくびをしながらいつものスタジオに入ってくる。写真館がオープンしていない時は、ここがみんなが集まる食卓になる。普段はさまざまな皿が並ぶはずの机には、今日は食パンがポンと置かれているのみだった。
「あれー……今日はずいぶん質素だね」
「おじいちゃんが寝坊しちゃったんです。アレのせいで暗かったんですって」
「ああ、アレね。ただでさえスープの研究で、機能寝るの遅かったらしいけど」
夏海は窓の外の大きな壁を指さした。見渡す限りの壁、壁、壁。その範囲が広すぎて端が見えない。
「洗濯物も乾かないってぼやいてました」
「へえ。……そういえば士は? あいつまだ寝てるのか?」
「いえ。早くにご飯食べて、壁を見にいくって言ってましたよ。スーツ姿でしたし、今度の役割は災害対策の公務員さんですかね?」
「それにしても自分から調査に行くなんて珍しいな。やる気十分って感じだな」
夏海とユウスケが話しているその頃、写真館から東に進んだ方向に一人の男が立っていた。二重に作られた立ち入り禁止の柵を越えて、士は壁の前までやってきていた。接近記念に一枚パシャリ。
足場の悪い荒れた土地ではスーツ姿は動きにくい。伊達メガネもかけていて、以前旅をした時に割り振られたセールスマンの格好とよく似ている。取り出した名刺には「東都プロダクション」の文字が。どこかの事務所の人間だろうか。誰だか知らないが、こんなに地味な役割を選ぶとはな、と士は不服に思っていた。
「ん……?」
ふと壁の根本に目をやると、そこから謎のガスが噴出してきた。
「うおっ!」
ガスは士の足下に到達し、育っていた雑草をみるみる枯らしていく。士はそこから急いで離れる。柵が見えた頃には、ガスの噴出もなくなっていた。
「危ねえ……死のガスってとこか。看板の忠告は簡単に無視するもんじゃないな」
柵をひょいと飛び越え、空を見上げる。かなり高いところまで壁は続いているようだ。不気味な模様にも意味があるのだろうか。地球上の文明かも分からない。士はその場を去っていった。
◆
第4話「箱の中のビルド」
◆
夏海とユウスケは情報収集に出かけていた。
街は半壊した建物と瓦礫で構成されていた。それでも人々はあたたかく、何も知らない二人を迎え入れてくれた。この世界のことを知りたいと言うと、二人は大きな建物の中に案内された。その建物は東都政府と呼ばれていて、人々の心の拠り所であり、東都を守る砦となっていた。
「広いですね」
「東都の代表的な建物ですから。人々の心の支えとなるために、見た目だけでも強くあらなくてはなりません。もしもの時のために、地下にはシェルターもありますよ」
「へえ」
建物の中は清潔に保たれていて、普通の世界と変わらない。どうやらボロボロに見えるのは外見だけらしい。カーペットが敷かれた廊下を抜けると、目的の部屋に着いた。
応接室に通された二人の前に、五十代くらいの男性がやってきた。
「ようこそ。この世界について知りたいというのはあなた方ですね。私は
タイザンは丁寧に挨拶をする。
「光夏海です。わざわざすみません」
「小野寺ユウスケです」
三人は机を挟んで座る。
「聞いたところによると、世界を旅されているとか。もしかしてスカイウォールを見るのも初めてですか?」
「スカイウォール? あの大きな壁の名前ですか」
「あの、野暮なことをお聞きしますが……どうしてこんなひどいことに? この世界にはもともと壁があったわけじゃないでしょう?」
ユウスケの質問に、タイザンはこくりと頷く。
「十年前に隕石が落ちてから、我々はこのような生活をすることになったのです」
「隕石?」
「ええ、そしてその隕石から生まれたあの忌々しいスカイウォールのせいで国が分断されてしまった。それだけではない。謎の生命体……いや、生物かどうかも分かっていない、怪物が現れたのです。私たちは奴らをスマッシュと呼んでいます」
「スマッシュ……それがこの世界の怪人か……」
「スマッシュは街を破壊し、人を襲った。残された我々は力を合わせるために、それぞれで街を作りました。その中で最も大きいのが北都、西都、そしてここ東都の三つです」
タイザンが言い終わると、部屋の中でサイレンが鳴り響いた。部屋の中だけではない。外もだ。東都中がサイレンの音に包まれた。
「な!? なんですかこれは!?」
夏海の質問に答えるように、男が報告のために部屋に入ってきた。
「和西さん! 出ました! スマッシュです!」
「分かった。ビルドシステムの出番だ。すぐに
「はい!」
男は飛び出していく。
「ビルドシステム?」
「スマッシュから人々を守るために我々が開発した兵器ですよ。ここ東都だけでなく、北都と西都にも一つずつビルドシステムが設置されています。彼らがスマッシュと戦ってくれるおかげで被害は大幅に抑えることができるようになりました」
タイザンは嬉しそうに語った。
◆
士は帰宅し、再び外出していた。先に出かけた夏海とユウスケを追うついでに、何かこの世界のことを知る手がかりを掴めればと考えた。
「しかし……」
士はぐるりと辺りを見る。
「ひどい街だ」
今まで様々な世界を旅してきたが、ここまで荒廃的なのは初めてだ。この世界にもちゃんとライダーがいるのか心配になってきた。
荒れた街だが、生活水準は高いままらしく、人々の格好は清潔だ。だが、それでも埃ひとつついていないスーツ姿の士は目立つ。
ふと、きゃあと悲鳴が上がる。
「スマッシュだあああ!」
「逃げろおおお」
前方に全身に青いトゲをまとった怪人が現れた。一般市民をその手で払い、家の扉を一刀両断する。
士は逃げる人々と逆方向に進み、家の破壊に勤しむスマッシュの後ろに立つ。
「おいおい、不法侵入は怒られるぞ。変身」
《カメンライド ディケイド》
士はディケイドへと変身する。変身前にかけていた、メガネをくいっと上げる動作をした。
ニードルスマッシュはディケイドを見ると急に方向転換し、逃げていく。
「あっ。おい、待て!」
追いかけようとしたその時、ディケイドは信じられない光景を目の当たりにした。目の前の地面が割れ、新たな壁が生まれたのだ。否、それは壁ではない。二つに割れた、立体のグラフだ。
「お……お?」
ディケイドも当然だが、ニードルスマッシュも左右に現れた真っ白いグラフにうろたえる。
そして次の瞬間、二つのグラフが一つになり、スマッシュを拘束する。
「!!」
「とうっ! おらああああああああ!」
《ボルテックフィニッシュ》
熱い雄叫びが上がったかと思えば、ニードルスマッシュを突き抜け、新たな人影が前方向から飛んでくる。体を貫かれたスマッシュは爆発し、その爆煙が消える頃にはグラフもなくなっていた。
目の前に現れた赤と青の二色の謎の存在を見て、ディケイドはとあるライダーカードを取り出した。仮面ライダービルドのブランクカードだ。
こいつがこの世界のライダー、仮面ライダービルドか。
ディケイドは、初めて見るビルドをじっくり観察する。
「……」
「お、なんだ!? お前もスマッシュか!? まさか二体同時に出るなんて! このやろっ! お前らに東都を壊させやしない!!」
ビルドはディケイドを視界にとらえると、拳をガンガンとぶつけながら走ってくる。
「お、おい!? 俺は……! チッ、見境ないやつだな」
「人語を喋るスマッシュだと!? だが、倒ーす!」
ディケイドはライドブッカーから別のライダーカードを取り出す。
「まあいい。相手してやる。俺にも二色の丁度いいやつが手に入ったとこだしな。新しい世界の力を試すか」
《カメンライド ダブル》
風がディケイドを包みこむ。サイクロンジョーカーの変身音と共に、彼は仮面ライダーダブルへと変身する。走るビルドに向けて、ぴっと指を指した。
「はっ!」
「おらァ!」
赤い右手と緑の右手が交差し、お互いにヒットする。続いてキック。青と緑がぶつかる。両者とも引けをとらない攻防。赤、青、緑、黒の四色が混ざり合う。
戦場は住宅街から廃工場へ。
「くそっ! 手強いな」
ビルドはドリルクラッシャーを取り出し、ディケイドダブルにぶつける。回転する刀身に、ディケイドダブルは火花を散らす。
「ぐわあっ! そっちがその気なら……」
《アタックライド メタルシャフト》
ディケイドダブルは半身をフォームチェンジ。サイクロンメタルへと変化する。メタルシャフトを操る素早い動きでドリルクラッシャーの猛攻を全て弾き返す。そして少し距離の離れたビルドに、メタルシャフトを突きつけた。
「リーチはこっちの勝ちだぜ」
そんなディケイドダブルに対し、ビルドは慌てる様子なく二本のボトルを取り出す。
《タカ》
《ガトリング》
《ベストマッチ!》
ビルドはホークガトリングフォームへと変身し、大空に飛び上がった。
「これで届かないだろー!」
鷹を思わせる素早い動き。そこから放たれる何発もの弾丸。ダブルの中でも高い防御力を誇るサイクロンメタルでも耐えきれない。ディケイドダブルは新たなカードをバックルに装填する。
《フォームライド ダブル ルナトリガー》
「はっ!」
今度は左右の色、両方が変化する。右半身は黄色へ、左半身は青へ。
「どこに撃ってんだよ。やっぱスマッシュはスマッシュ──」
ビルドはトリガーマグナムから放たれた弾丸を華麗に避ける。だが、ルナトリガーの能力は自由自在に曲がる追尾弾。油断したビルドに、全方向から弾丸が集まってくる。
「なっ!? ぐわあああああ!」
ビルドは上空で爆発した。
「ちょっとやりすぎちまったかな。……ん?」
空から落ちてきたものを見てディケイドダブルは驚く。それはビルドではなく、焦げた丸太だった。
「なんだと!?」
《忍者》
《コミック》
《ベストマッチ!》
「甘いぞスマッシュ!」
「!」
ニンニンコミックフォームのビルドが現れ、不意打ち的にディケイドダブルに攻撃を仕掛ける。ダメージを受けたディケイドダブルは元のディケイドへと戻ってしまう。
ビルドは分身の術で三人に増えた。
「やるじゃねーか」
《アタックライド イリュージョン》
負けじとディケイドも三人に増える。
「なんだこのスマッシュ!? こんな能力を持つやつなんて見たことないぞ……まさか、こいつが!?」
「あ?」
「ギギ……ギギギ……」
「今度はなんだ!?」
ビルドとディケイド、三対三の戦いの場に、また新たなスマッシュがやってきた。圧縮機構を持つ、プレススマッシュだ。
「今度は硬そうなのが出てきたな!」
「お前が呼んだのか!? ったく、厄介なやつだぜ!」
ビルドはプレススマッシュではなく、ディケイドに刃を構える。そして三人同時に地面を蹴り、向かってきた。
「おい、優先順位を見誤るな! ……くそっ、だったらまずはお前を倒すぞ!」
《アタックライド ブラスト》
《アタックライド ブラスト》
《アタックライド ブラスト》
「うああああああああ!!」
三人のディケイドは同じカードを使い、ニンニンコミックフォームに向かって撃つ。この弾の雨は、ビルドは防ぎようがない。ダメージを受け、分身の術も解けてしまった。
「今度はお前だ!」
《ファイナル アタックライド ディディディディケイド》
一人に戻ったディケイドはライドブッカーから極太のエネルギーを放ち、プレススマッシュを破壊する。
「スマッシュがスマッシュを倒した……!?」
「もう勘違いは終わりだ。俺はそのスマッシュとかいうバケモノじゃない。ライダーだ」
「ライダー!?」
士は変身を解除する。それを見たビルドも変身を解除した。気の弱そうな男が両手を合わせて士の前に姿勢を低くする。
「ごめーん! 本っ当にごめん。スマッシュかと思っちゃった。まさか、ビルドシステム以外にも仮面ライダーがいたなんて知らなくて。あっ、俺、箱中セント。同じライダーとして、よろしく」
セントはそう言って右手を差し出した。だが士は握手に応じようとしない。
「門矢士だ。こういうのは慣れているから気にするな。それよりお前、俺に何か思い当たる節があるんじゃないのか? さっき狼狽えてただろ。ディケイドが世界を破壊する、とかなんとか吹き込まれたんじゃないか?」
「ああ。あれは違うよ。俺の仲間から聞いた、新型スマッシュかと思ったんだ。……ところで世界を破壊するってのはなんだい?」
士は嫌だったが、しつこく尋ねるセントに根負けし、説明した。
「うおお……世界の破壊者・ディケイド。すごいインパクト……。グワーッとこう、心の底から感情が湧き上がる感じ。まるで嵐……世界を揺るがすような。うん、君を見てるといい詩が書けそうだ」
「そうか。よかったな」
セントは、立ち去ろうとする士の手を掴んで逃がさない。
「……? なんだ」
「そんな君に一曲聴かせたい。お礼とお詫びにね」
「は!? おい、ちょっ、待て」
士はセントに引っ張られていった。
セントの活動拠点になっているのは、喫茶店ARITAである。スカイウォールに近い立地のせいで滅多に人が通らないため、喫茶店としてはほぼ機能していない。しかし、ビルドとして活動する拠点とするには色々と勝手が良いのだという。
そんなARITAの前で手を振る男がいた。
「セント! 待ってたぞ。お前に客だ。……こいつは?」
「俺の客だ。門矢士。彼も仮面ライダーらしい」
「仮面ライダー!? 新システムか!?」
「違うみたい。でもドライバーをじっくり見せてもらうつもりでいる」
「おい、俺はそんなこと許可した覚えはないが?」
「ちょっとだけ。ちょっとだけだから。ね?」
セントの調子に、士と男は呆れる。
「
「ここまで無理やり連れてこられたから、だいたい理解できる」
士のセリフに、リュウガはうわあと引いた表情を浮かべた。そして、セントの暴走の被害者となった士を哀れんだ。
喫茶店に入ると、見覚えのある玄関が。今度の世界では、光写真館は喫茶店ARITAと繋がってしまったのだった。
「リュウガさん、外でなにを……士くん!」
「おう、ナツミカン」
「お前どこ行ってたんだよ」
「なんだ、知り合いだったのか。あ、セント。この二人がお前の客だ」
リュウガは夏海とユウスケをセントに紹介する。
「おいー、ちょっとちょっとー。万東ー。ファンの子とプライベートで会うのはダメだって~。ちゃんと心を鬼にして、お引き取りくださいって言って――」
「
「……おう。入ってくれ」
セントの緩かった表情が、スッと真面目な顔になった。彼らは建物の中に入る。セントとリュウガは案内のため、キッチンに赴いた。
「……なんですか?」
夏海が尋ねると、セントは冷蔵庫に手をかけた。扉を開くとそこは地下へと繋がる階段が。夏海とユウスケは飛び上がりそうになって驚く。
「えええええ!? 夏海ちゃんなにこれ!? 知ってた!?」
「い、いえ、全く! いつの間にこんなものが!?」
「ほら、早く来なって」
セントたちは平然とした様子で中に入っていく。士はそこに続いた。
「入れったって……え? これ……うちの冷蔵庫……? え……?」
「ど、どゆことー?」
夏海とユウスケは少しパニックになっていた。
◆
「イエーーーイ!! 天ッ才シンガーソングライター、セント・カツラギだーっ!! 今日は楽しんでいってくれーーー!!」
「いえーーーい」
ジャカジャカとギターをかき鳴らし、セントはシャウトする。ユウスケはノリノリだが、士と夏海はそれをスルーしてリュウガと共に研究スペースに来ていた。
「葛城セント? 苗字が違うが、芸名か?」
「ま、そんなとこだ。あいつは――」
「まさか地下にこんな広い場所があるなんて、びっくりです」
「……ああ! 防音はもちろん、熱も電波もその他もろもろ含めて完全遮断だ。すげーだろ? 出入り口もそこら東都中のあちこちに繋げてある。どこでスマッシュが出てもすぐに駆け付けられるようになってんだ」
リュウガの言う通り、地下室の面積は明らかに光写真館よりも広い。
「それよりいいんですか? セントさん放っておいて」
「一人でも客がいれば歌う。あいつはそういう奴だからな。むしろユウスケくんがノってくれてよかった」
「酷い歌だな」
士はセントが開発した発明品を弄りながらばっさりと言った。
「士くん! それは言い過ぎです」
「いいんだ。あの曲はそんなに練習できてないし」
士を叱る夏海を、リュウガはなだめた。
「あいつの夢はでかい
「だったら俺がプロデュースしてやる。東都プロダクションの敏腕プロデューサー士がな。それであいつを満足させてやれるぜ」
士は立ち上がる。
「そんなことできるんですか? また勝手なこと言って……」
「ようは広いとこで大勢相手にパフォーマンスさせてやればいいんだろ。大船に乗ったつもりでいろ」
「はは、それは頼もしいな」
「まずは腹ごしらえから始めるか。そうだな、一流ミュージシャンにつく一流プロデューサーには一流の食事を出してもらおうか」
士の今朝の食事は、夏海らと同様パン一枚だった。
「おう。一流の食事が出せるかは分からんが、料理は作れるぞ。どれがいい?」
リュウガは紙の束を士に渡す。発明品のメモかと思われたが、どうやら料理のレシピのようだ。しかし、大さじ小さじなどの分量の表記が試験管何本分、とわざと分かりにくいようになっており、マッドサイエンティスト感が漂っている。
「料理道具がなくてな。実験器具で代用してるんだ。あ、料理用だから安心してくれ」
「なんのために喫茶店のガワを着てるんだ。どれどれ、オムライス、ハンバーグ、シチュー……」
「この調子でほんとに大丈夫なんでしょうか……」
夏海はふと壁に埋め込まれた緑の板を見つけた。東都政府の応接室にも同じものがあった気がする。
「これは?」
「ああ。それはパンドラパネルだ。隕石落下の時に、セントの親父さんが持ち帰ったもんだ。今はそれぞれの都市が二枚ずつ保管してる」
「合計六枚か。何に使えるんだ? カレー、チャーハン……」
「分からない。が、俺とセントは隕石落下地点と何か関係があると睨んでる。もしかしたらスマッシュの秘密も分かるかもしれない」
「じゃあ行ってみるか? その隕石落下地点とやらに」
「とんでもない! 落下地点はネビュラガスが充満していて、立ち入り禁止区域だ。ビルドシステムならまだしも、生身の俺が行ったら間違いなく死ぬ」
「なに? お客さん?」
ふと、幼い声がした。
「おう、ミソラ。起きたか?」
「うん。セントまた歌ってるでしょ。それで起きた」
「ああ、文句ならあいつに言ってこいよ」
「いい。慣れた」
彼女は今まで別の部屋で眠っていたらしい。ミソラと呼ばれた女の子はウサギのぬいぐるみを抱いたまま、リュウガの隣にちょこんと座った。
「えーっと。はじめまして。お名前は?」
「……」
「ナツミカン、まずはお前から名乗れ。唐揚げ、焼き鳥……。この辺は鶏肉のレシピか」
「士くんは黙っててください! ……私、光夏海っていいます。あなた、お名前は?」
夏海の問いかけに、ミソラは答えない。そして空気に耐えられなくなったのか、リュウガに顔を押し付けて夏海から顔をそむける。
「ぷっ。無視されてやんの」
「士くん?」
士を脅す夏海。リュウガは喋ろうとしない本人の代わりに、彼女を紹介した。
「こいつはミソラ。隕石落下の時に一人で歩いてたところを、セントの親父さんが保護した。まあ、セントの妹みたいなもんだ」
「……え?」
「大きな隕石だったからな。すごい衝撃で、近くの建物は……な。それに、地面から突き出したスカイウォールに巻き込まれた人も多くいたはずだ。ミソラと同じ目に遭った人も少なくない」
「ミソラちゃん……可哀想です。こんなに小さいのに」
「寿司、味噌ラーメン……。おっ、名前の響きが似てるな。美味そうじゃないか」
「さっきからぼそぼそと! いい加減にしてください! 笑いのツボ!」
「く……うはははははははは……痛った! ははははははは!!」
デリカシーのない士の首筋に、夏海の親指が突きつけられる。士は笑い転げ、床に落ちていた発明品で頭を打った。それでもなお笑い続ける。
「ミソラーメン……? ってなに?」
ミソラは士が言ったその一言に興味を持ったらしい。
「ラーメン知らないんですか」
「まあ、ミソラは一日のほとんど寝てるし。体が弱くて、食べ物もセントの作った要栄養補給サプリとかだからな……」
「はははは……上行って爺さんに作って貰え」
前の世界で風麺を食べ、栄次郎は丁度ラーメン作りにハマっていたところだ。すぐに用意できるだろう。
士の提案に、ミソラは目を輝かせる。
「リュウガ、私、ラーメン食べたい」
「セントがなんて言うかな」
「そっか……」
セントは歌い終わり、汗を拭いているところだった。
「ん? いいんじゃない?」
「軽っ!」
セントはすでに四曲分歌っていた。全力でペンライトを振っていたユウスケは疲れ果てている。
士は動けないユウスケを運び、そして夏海とミソラがその後に続く。ラーメンが楽しみなのか、階段を上るミソラの足取りは軽い。セントとリュウガは四人を見送った。
手を振り終わると、研究スペースに戻りながらセントはリュウガに尋ねる。
「落下地点の動きはどうだ?」
「間違いない。スマッシュはここから出てきてる。カズミンたちに聞いたが、三日前に北都で、一週間前に西都でスマッシュが出たらしいぜ」
リュウガはモニターにデータを映し出す。
「前回東都にスマッシュが現れたのは十日前だから、順番に襲ってるみたいだな。狙いはやっぱり──」
その時、防犯装置がジリリリと激しい音をたてた。
「誰だっ!」
二人は地下への入り口に駆けつける。
そこには緑のパンドラパネルを持った男がいた。
「なんだお前!?」
「そこで何をしてる!?」
「あーあ。バレちゃったかあ。このパンドラパネルを貰いに来たんだ。この世界のお宝にふさわしいと思ってね」
「それに触んじゃねえええ!」
《ラビット》
《タンク》
《ベストマッチ!》
「変身ッ!」
《鋼のムーンサルト ラビットタンク!》
イェーイという陽気な声と裏腹に、ビルドは怒号と共に海東に向かっていく。
「こんな狭いとこで暴れられちゃ困るな」
《カメンライド ディエンド》
「ほらほら、どいたどいた」
「誰がどくか!」
ディエンドはドライバーの発砲で牽制しつつ、冷蔵庫とは別の出入り口から地下を飛び出した。ビルドもそれを追う。二人のライダーは採石場に出た。
「逃がさねえぞ!」
《消防車》
青いタンクの体が、赤い消防車の体へ変化する。ビルドは、全身が赤いラビット消防車フォームになった。腕の梯子を伸ばして、ディエンドの持つパンドラパネルを弾く。そしてパネルの持ち手に梯子を引っ掛け、パネルの奪還に成功した。
「よし!」
喜ぶビルドを尻目に、ディエンドはカードを一枚取り出した。
「やるね。ご褒美にちょっとしたサプライズだ」
《カメンライド エターナル》
赤、青、緑。三つの光の像が一つになり、白いボディの仮面ライダーが召喚された。
「なに!?」
「紅白戦のはじまりだ!」
◆
その頃、東都政府では役員たちが慌ただしく走り回っていた。
「和西さん!異様な反応が出ています!これは……!?」
「な……なんなんだ!? うわっ」
激しい地響きが襲い掛かる。
スカイウォールに囲まれた中心地。東都でも北都でも西都でもない、中央の謎の部分。長い間閉鎖されてきた隕石落下地点。そこから一つの影が飛び出した。
それはスマッシュではなかった。破壊のために生まれた地球外生命体。
「パンドラパネルはァア……どこだァァァアアアア!!!」
異星人は叫んだ。
次回 仮面ライダーディケイド2
「ついに手に入ったァァァアアアア!!」
「何人熱狂させても、やっぱりあいつが一番笑顔にしたいのは……ってね」
「こいつは今まで、大勢の明日や未来、希望を作ってきた」
「この世界を破壊させないぜ」
「勝利の法則は……決まった!」
第5話「大天災とジーニアス」
全てを破壊し、全てを繋げ!