仮面ライダーディケイド2〜平成二期の世界〜   作:らいしん

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「私たちも天校が大好きなんです! だから一緒に守りたいんです!」
「一人で抱え込むのはやめてください!」

これまでの仮面ライダーディケイド2は……

「頑張れー!」
「いよいよあんたは噂なんかじゃなく、真に天校を守るライダーになったってことだな」
「あのスイッチは――」
「もうこの世界で取れるデータはない。処理は完了した」


第8話「歓迎!ゴーストの街!」

 朝が来た。

 九十九(つくも)タケルは日が昇る前に目を覚ました。まだ幼いながらもこの生活は長く、目覚まし時計は必要ない。

 素早く着替え、布団を畳み、顔を洗う。そして仏壇の前に正座し、目を閉じて母の遺影に手を合わせた。

 

「母さん、おはようございます。今日も一日、頑張ります」

 

 その言葉は母へ捧ぐものであり、また、自分を奮い立たせるものでもある。

 目を開けた彼は仏壇に置かれた刀の鍔を見た。その表情は暗い。再び母の遺影に目をやると、うんと軽く頷き、気合の入った表情を作った。

 

「タケル! 起きているか!?」

「ああ、うん! 準備できてる! すぐ行く!」

 

 部屋のすぐ外にある階段から、呼ばれる声がした。

 タケルは階段を一段飛ばしで下り、家の裏へと向かった。

 

 

 

 

第8話「歓迎!ゴーストの街!」

 

 

 

 

 光写真館の中のスタジオでは、士が自分がこれまでに撮った写真を広げていた。その中にはこの世界に来てから撮ったものも混じっている。世界を渡った直後に周辺の景色を撮ったのだ。しかし、やはりどれも歪んだ写真である。

 

「相変わらず写真の才能ないよなあ」

「うるさい」

 

 ユウスケが、ソファに座る士の肩に手を置いてそう言う。テーブル上に散らばるうちの数枚を手に取ってパラパラと眺める。

 

「そんなことないよ。ほら、ずいぶん上手くなったでしょ」

 

 二人の会話に入ってきたのは、アルバムを抱えた栄次郎。アルバムの中身は、以前世界を巡った時に士が撮った写真だ。以前の旅の時から彼の写真の腕は変わっていないように見える。

 

「写真はねえ、生きているんだよ。撮る人によって違う世界を表現できる。士くんもその表現者の一人だ。この写真は士くんにしか撮れないんだもの。私は、この写真もすごくいいと思うよ」

「ほら見ろ。凡人には俺の才能は分からん」

「な、なんだよ」

 

 士はユウスケから写真を取り上げる。

 

「いい写真を撮るんだけどね、フイルム代、現像代、えっと、カメラの修理代もだね。全部払えてこその一人前の表現者……」

 

 栄次郎がアルバムを仕舞い、振り返ると、もうそこには誰もいなかった。

 

「あ、あれ?」

 

 夏海、と呼んでも、キバーラちゃん、と呼んでも返事はない。彼は一人写真館に残されていた。

 

 

 

 

 栄次郎が捜索を諦めたその頃、士たちは目的地に向かっている途中だった。

 

「この先に大きなお寺があるみたいなんです。そこにあの絵と同じものがあるんじゃないでしょうか」

 

 夏海は古いチラシを見せた。インクは褪せているところがあるが、なんとか読める。彼女の言う通り、本堂の写真の端――雑木林の中にぽつんと祠があった。祠には何かが供えられているが、それが何かまでは分からない。

 

「珍しく有能だな、ナツミカン」

「大天空寺へお越しください……だってさ?」

「ねーえユウスケ。私にも見せてよー」

 

 夏海からチラシを受け取ったユウスケは文字を読み上げる。そんな彼の周りを、キバーラがふわふわと漂う。

 

「なんでお前までついてきてんだ」

「いいじゃないのぉ。たまには外に出たくなるのよ」

 

 彼女を追い払おうとする士の手を、右へ左へ避けながらくすくす笑う。

 

「……というか、なんで白衣?」

「知らん」

 

 ユウスケは士の格好にツッコミを入れた。今度の世界の士の格好は、さながら研究者の白衣姿。ビジネスバッグの中にはファイルやバインダーがまばらに入っている。科学色が強いこの格好は、これから向かう寺院にはミスマッチだ。

 

「それより、この旅の終わりってなんなんですかね。士くんの世界はもう見つかりましたよね?」

「それだ。言われたままライダーの世界を巡ってるが、目的がさっぱりだ。だいたいあいつは俺を倒そうとしてたんだろ。……丁度いい。おいキバーラ、お前鳴滝と知り合いなんだよな。なんか知らないのか」

「私はなにも知らないわよぉ」

「ちっ。役に立たねえ」

「なんですって!?」

「あ、ほらほら! あれじゃないか!?」

 

 ユウスケが指差した方には何段も重なる石段があり、それの先には門と塀が木々の間から見える。

 

「見つけたぞ。あの奥に大天空寺があるんじゃないかな?」

「……。おい、これを見ろよ」

 

 道端に木製の看板が立っていた。士がそれを読むように促す。

 

「えーとなになに? 『大天空寺は現在参拝をお断りしております』……って、ええー!?」

「残念です。せっかく来たのに」

「お前の情報が古すぎたんだ。まったく、役に立たない――あはははははははははは!! もうこれはいいだろ!」

 

 士の大笑いが辺りにこだまする。

 石段の下の道の両脇には店が数軒並んで建っている。ほとんどは閉まっているが、そんな通りの寂しさをかき消すような元気な声がした。

 

「あっ、参拝の方ですか! すみません! 今、大天空寺は改修工事の真っ最中でして! お腹が空いたでしょう、おにぎりいかがですかー!」

 

 士らに声をかけるのは、やけに背の高い男。どうやら士の笑い声を聞いて店から出てきたようだ。

 

「ははは……。おい、人がいるみたいだぞ。お前、行け」

 

 士はユウスケの背をドンと押す。

 

「わっ、おい! あ、あはは。ど、どうも~」

「ご旅行ですか? さぞお疲れでしょう――」

 

 にこやかに笑う店員は、後からやってきた士の姿が目に入った途端、表情を凍らせた。

 

「なんの用だ? 看板が読めなかったのか。今は大天空寺には入れないぞ」

「!?」

 

 夏海とユウスケは思わず彼に道を譲る。店員は士に負けるとも劣らない背丈をしている。二人は互いに近づき、睨み合う。

 

「なんだ? お客様に向かってその態度はよろしくねーな」

「なにがお客様だ。厚かましい」

 

 険悪な空気を感じたのか、店から更に少年と少女が出てきた。

 

「お兄ちゃん、喧嘩はやめて」

「そうだよ、マコト兄ちゃん。せっかくのお客様だよ」

 

 思わぬ援護だ。士はさらにマコトと距離を縮め、煽るように言う。

 

「俺はここに用事があって来たんだ。そいつらの言う通り、どう考えても客だろ。お客様は神様仏様ってな」

「何度も言っているように、もう調査することなんてない。帰れ!」

「マコト兄ちゃんってば!」

「なんだ、タケル! お前は出てこなくていい!」

「違うよ! この人ほんとに何も知らないみたいだよ。だってわざわざ正面からくるなんて……」

「だが……」

 

 店から出てきた少年に説得され、長身の男は黙った。

 

「ほら、お兄ちゃんは店に戻って! お客様! こちらにどうぞ!」

 

 士たちは少女に案内され、席に通された。「うちの兄が失礼しました」と深々と頭を下げて謝罪する彼女に対して、夏海とユウスケは「いえいえうちの士も……」と返した。

 つくも屋。大天空寺に続く道にある飲食店だ。定食屋といった方がイメージが近い。寺が工事中で参拝客が来ないからかほとんどの店が閉まっている中、このつくも屋は変わらず営業している。

 

「お冷やですー」

 

 先ほどの少年が人数分のコップをお盆に載せてやってきた。

 

「タケルくん、でしたっけ。偉いですねー。お手伝いですか?」

「あ、いや」

 

 夏海に褒められたタケルは、言葉を詰まらせる。

 

「おい、ここの責任者は誰だ。さっきの店員、クビにした方がいいと伝えとけ。世界は俺のように心の広い奴ばかりじゃないからな。今時訴えられたら面倒だぞ」

「自分で言うな。てかお前も喧嘩腰だったろ」

「ちょっとぉ。私の水がないじゃないのよお」

 

 運ばれてきたコップは全部で三つ。キバーラが机の上に止まり、タケルに文句を言った。

 

「わ、こ、こうもり」

「それは失礼しましたァ!」

 

 キバーラを見て驚いたタケルの頭の上から手が伸び、トンと追加のコップが置かれた。キバーラはコップの縁に止まり、ストローでそれを飲む。

 持ってきたのはまた別の男。金髪メッシュで、ぼさぼさ頭。凛とした顔のマコトとも、あどけない顔のタケルとも違うタイプの顔。

 

「アラン兄ちゃん、ありがと」

「マコトも気が立ってるんですよねェ。どうか堪忍くださいね」

「お前がここの店主か?」

 

 士の質問に、アランはふふっと笑う。

 

「違いますよ。俺は別の店から勝手にお手伝いで来てるだけ。ほら、ここの正面にあるたこ焼きの店。今閉まってるでしょ。従業員はさっきの兄妹──マコトとカノン。で、ここの店主はこいつ、九十九タケルですよ」

 

 タケルの頭に手を置いて髪をわしゃわしゃっとかき回す。やめてよ、とタケルは彼の手を払う。

 

「こいつが!?」

 

 士たちは目の前の少年を見た。

 

「はっ。子どもが店主とは笑わせる。ごっこ遊びじゃないんだぞ」

「お前はまたそんなこと言う……」

「その通りです。俺なんてまだまだです。マコト兄ちゃんやアラン兄ちゃんたちみたいにならなくちゃって思うんです。だから、俺も早く一人前にならないといけないんですけど……」

 

 士の意地悪な言葉に、思いの外傷ついた様子のタケル。夏海やユウスケがフォローを入れる。

 

「気にしちゃダメです。この人、こんな性格だからこんなことしか言えないんです」

「こんな大人になるなよ~。タケルくんはきっといい料理が作れるようになる!」

「そうよそうよ。焦らないことね~」

 

 アランはタケルの頭を撫で、励ます。そしてユウスケに目を合わせて、質問をした。士を会話に混ぜるのは危険だと分かったからだ。

 

「ところでお客さんはどうしてこんなとこに? 偶然立ち寄るようなとこでもないっしょ」

「俺たちは世界を巡って旅をしてるんです」

「このチラシを見てここに私たちの探してるものがあるかもしれないと思って来たんです。ほら、この写真の、ここ!」

 

 夏海からチラシを受け取ったアランは目を凝らす。

 

「おお、昔の景色だ。大天空寺があった時の写真か~。この頃は眼魂(アイコン)も眼魔も知らない平和な時期だったなァ」

「アイコン?」

「ああ、眼魂ってのはこういうので――」

 

 制服のポケットに手を入れたアランのその腕を、マコトが掴んだ。

 

「友人のよしみで手伝ってくれるのは助かるが、そうやって客にベラベラ喋るのはやめろ」

「で、でもいい人たちだぞ。タケルのことを偉いって褒めてくれたし」

「そんなことを言って、本当は早く俺たちを立ち退かせたくて仕方ないんだろう」

「マコト、いい加減にするんだ! お前は言いすぎる!」

 

 ドガァン!

 アランが叫んだ次の瞬間、店の外で大きな音がした。

 

「なんだ!?」

 

 マコトとアランは急いで店を出る。士たちはそれを見るために、後ろからついていく。

 店の外では、沢山の人だかりができていた。よく見るとそれは人ではない。黒いパーカーを着た謎の怪人たち。そしてその中の一人は青い目と一際派手なパーカーを羽織っていた。

 彼らは、潰れて空き家になっていた建物に穴を開け、中に入っていく。

 

「大変! 建物が壊されてます……!」

「あいつらがこの世界の怪人なのか!?」

 

 慌てる夏海たちと、落ち着いた様子でそれらを写真に撮ってみる士。

 

「眼魔だ! 行くぞアラン!」

「言われなくともォ! っと、今日は一段と数多いな!?」

 

《アーイ!》

《ステンバイ》

 

 マコトとアランは眼魂を手にし、それぞれのドライバーに装填する。

 

「変身!」

「変身!」

 

《カイガン スペクター》

《テンガン ネクロム メガウルオウド》

《レディゴーカクゴ! ドキドキゴースト!》

《クラッシュ ザ インベーダー!》

 

「うおおお!」

 

 二人のライダーは眼魔たちに向かっていく。圧倒的な数の眼魔たちを相手にした二人は押されつつも、店に被害を出さまいと持ち堪えている。

 

「士くん!」

「ああ分かった。しょうがねえな。変身!」

 

《カメンライド ディケイド》

 

 ディケイドに変身した士は、スペクターとネクロムの後を追う。そして戦いに乱入し、下級怪人である眼魔コマンドたちをばっさばっさと斬り伏せる。

 

「お客さん、あなた……」

「大変そうだと思ってな」

「うむ、助かりました! 感謝です!」

 

 ディケイドはネクロムと会話を交わす。

 

「雑魚を倒しただけだ! まだ残っているぞ! うあっ!!」

 

 スペクターが胸から火花を散らし、その場に倒れる。

 

「なに……ぐっ!!」

「うわあっ!」

 

 ネクロムもディケイドも謎の攻撃を受け、倒れた。それもそのはず、攻撃の主である刀眼魔は見えなくなっていた。見えない斬撃は避けられない。

 

「フーハハハハ! どうだ? 手も足も出まい! お前たちはいつも我々の邪魔をする! ここで倒してやる!」

「なんだ!? どこから攻撃を!」

「上級眼魔は……姿を消すことができる……!」

 

 スペクターが敵の特徴を説明する。

 

「あんたらも見えないのか!? ……フン、だったら!」

 

《カメンライド フォーゼ》

 

 ディケイドは煙と光に包まれ、白い姿に変化する。そして一枚のカードを取り出した。

 

《アタックライド レーダー》

 

 ディケイドフォーゼの左腕にレーダーモジュールが現れる。左手を掲げながらくるくると回ると、レーダーがピピピッと音を鳴らす。素早く次のカードを装填した。

 

《アタックライド クロー》

 

 右腕にクローモジュールを装着し、空を切る。三本の爪のうち、一つが何かに擦る。それを感じ取ったディケイドフォーゼは勢いのままに回転し、もう一度斬りつける。

 

「そこだ!」

「ぐおおおッ!?」

 

 ディケイドフォーゼの攻撃は眼魔に命中する。刀眼魔の姿がぼんやりと浮かび、そしてみるみるくっきりとしていく。

 

「見えた!」

「お見事!」

 

《デストロイ》

 

 スペクターとネクロムはドライバーを操作する。

 

《ダイカイガン スペクター オメガドライブ》

《ダイテンガン ネクロム オメガウルオウド》

 

「はあーーーっ!!」

「ウォォオオオ!」

 

 二人のライダーの必殺技が炸裂する。キックを受けた眼魔は吹き飛び、姿が崩壊していく。その体を構成していた眼魔眼魂は粉々に砕け散った。

 士は変身を解除し、その破片を眺める。

 

「……助かった。あのままじゃ、眼魔にやられていたかもしれない」

「いや~! マジでありがとうございます!」

 

 変身を解除したマコトがお礼の言葉を口にする。アランはやや強引に、士に感謝の握手をした。

 

「これでどうだ? 俺たちに大天空寺の秘密とやらを教えてくれよ」

「……いいだろう」

 

 

 

 

 つくも屋で腹ごしらえをした士は、マコトの案内で大天空寺の敷地に来ていた。

 

「大天空寺はタケルが継ぐはずだった寺だ。住職であるタケルの父親は、科学者でもあった」

「ああ、だから白衣姿の俺に良い印象を持たなかったわけか。その父親ってのはろくでもないやつだったのか?」

「逆なんだ」

 

 マコトは、タケルから預かった鍵で門を開けた。門は結界の意味を持っていたようで、鍵を開けるとあの絵のように目の紋章が一瞬浮かび上がり、そして消えた。

 

「科学……じゃなぇなこれは」

「寺生まれ独特の力だ。タケルにもいわゆる霊感があるのだろう。俺たちが見られなかった眼魔もはっきり見ることができる」

「寺の息子がどうして飯屋をやってる? 住職を継げばよかっただろ」

「それはここを見れば分かる」

 

 門を超えた先。本来あるべきものがない。

 

「大天空寺は一夜の内に跡形もなくなってしまったんだ」

 

 門の鍵を開けたその先には、写真のような立派な寺の姿はなかった。ただ塀の中にだだっ広い土地があるだけだ。士はまた辺りを撮影する。

 

「建物ごと失踪したことで、彼の知り合いの研究者たちが何度もここを訪れようとした。お前もその一人だと思ったのだ」

「何もないなら勝手に調査させてやればいいだろ。満足すりゃ帰る」

 

 ファインダーから見える景色は殺風景だ。

 

「そうはいかない。タケルの父親、九十九リュウが残した手紙に『誰も大天空寺に入れるな』と書いてあったからだ。そして手紙と一緒にドライバーと眼魂が入っていた……」

「お前たちが変身できるのはそういうことか。そのアイコンってのはなんなんだ」

「手紙にざっと書いていた説明によると、どうやら霊の力を凝縮したものらしい。俺たちはこれを使って眼魔……さっきの怪人たちと戦っている」

「その理由は?」

「大天空寺をもとに戻すためだ」

「そこにどういう繋がりがある?」

 

 

「十五個のアイコンを集めればなんでも願いが叶うのさ」

 

 

 ふと、ファインダーに怪人の姿が映る。顔を上げるとそこには先ほどとまた別の眼魔が。白と金の装甲を纏った、眼魔ウルティマだ。

 

「眼魔!? なぜここに!?」

「フフフ……お前たちが眼魂を集めていたのだな。道理で今まで見つからなかったわけだ。ではそれをいただくぞ!」

「そうは行くか!」

 

 マコトと士はそれぞれ眼魂とライダーカードを手にする。ウルティマは自身の足元を軽く爆破する。土煙が舞い上がり、ウルティマの姿が隠れる。

 

「チッ。逃げたか。何をしに来たんだ」

「……しまった! タケル!」

「まさか!」

 

 二人は門を出て、何段もある石段を駆け下りた。

 

「旅は順調のようだな、ディケイド」

 

 ふと背後から声がした。

 士が振り返ると、そこには見慣れたコート姿の男が立っていた。

 

「鳴滝! この忙しいタイミングで出てきやがって。……まあいい。出てきたついでにこの旅の目的を教えてもらおうか」

「それは最初に言ったはずだ。世界の崩壊を防ぐためだ」

「ナツミカンの夢の話だろ? その通りだとすると、また俺が破壊者になることになってるが?」

「お前がライダーである限り、それは起きない」

「どういうことだ」

「それはまだ明かすことはできない。ライダーの世界を全て無事に巡ることができたら……その時は……」

「おい!」

 

 鳴滝はオーロラの中に消えていった。

 士はそれを見届けると、再びマコトの後を追った。

 直線状の階段を降り、戸の閉まった家々が並ぶ通りを走る。緩やかなカーブのその先。一軒だけ様子がおかしい。マコトの悪い予感は的中していた。

 つくも屋に戻ると既にウルティマが暴れた後だった。傷ついたネクロムが倒れている。夏海はタケルとカノンを連れて裏口の方に隠れていた。

 

「ふん!」

「ぐあああああっ!」

 

 既にマコトは変身し、ウルティマと交戦中だった。そしてダメージを受け、ネクロムと同じように地面を転がる。

 

「お兄ちゃん!」

「カノンちゃん、夏海さん! こっちです……!」

 

 裏口の扉を開け、タケルは真っ先に二人を逃した。カウンターを粉砕し、タケルの前にウルティマが迫る。

 タケルの腹にはゴーストドライバーが装着されているが、彼は一向に変身する素振りを見せない。

 

「おい、お前! 死ぬつもりか!」

 

 追いついた士はタケルを庇うためウルティマに攻撃しようとする。しかし、ウルティマによって足元に衝撃波を放たれ、思うように近づけない。

 

「お前か? 英雄眼魂を持っているのは」

「う……!」

「ごまかそうとしても無駄だ。お前からは強い力を感じるぞ」

 

「やめろっ! 超変身!」

 

 タイタンフォームに超変身したクウガが二人の間に割り込む。粉砕されたカウンターの木片を持ってそれをウルティマに叩きつけた。

 木片はタイタンソードへと変化し、火花が散る。不意打ちとはいえ、強い攻撃を受けてしまったウルティマは思わず膝をつく。

 

「なんだお前は!」

「タケルくんに手出しはさせないぞ!」

 

 クウガはウルティマの攻撃を剣で受け止める。

 スペクターやネクロムは、今まで多くの眼魔と戦ってきた。そして眼魔を倒すたびに敵に戦闘データを取られていたのだ。しかし、敵はクウガのことは全く知らない。それゆえに、クウガはウルティマ相手に互角以上の戦いができていた。

 

「くそ……! ここは退こう。ひとまずお前を……!」

 

 ウルティマが指を鳴らすと、彼の背後に目の紋章が浮かぶ。次の瞬間、そこに次元の穴が現れた。強い重力が発生し、タケルはそこに引き寄せられる。

 クウガは彼に手を伸ばす。手のぎりぎりを掴み、なんとか彼を助けようと足を踏ん張る。

 

「タケルくん! 手を離すな……!」

「うん……! うわあああああああーーっ!!」

 

 抵抗虚しく、タケルとクウガは次元の穴に吸い込まれてしまった。ウルティマはそれを見届けると、同じくそこに消える。

 

「タケルーッ!!」

「ユウスケ!」

 

 士とマコトが叫ぶ。無惨な姿になったつくも屋の中で、二人の声だけが響いた。

 

 

 

 

 散らばった瓦礫を片付けた後のつくも屋の空気は重かった。

 

「すまない……俺がいながら……」

 

 アランはマコトに頭を下げた。

 

「お前のせいじゃない。あの眼魔が強すぎたんだ。それより、二人がどこに行ってしまったか、だ」

「そのことなんだけど……」

 

 カノンが一冊のノートを持ってきた。手紙やドライバーと共に残っていた、タケルの父親のものだ。そこに書かれていたのは研究成果の一部だった。

 

「これじゃないかな」

 

 彼女が開いたページ。そこには、眼魔世界という文字があった。

 

「眼魔世界!? タケルはそんなところに行ってしまったのか!? ……こちらから向こうにいく方法は書いていないのか!?」

「お兄ちゃん! 騒ぎすぎだよ」

「……すまない」

 

 また沈黙が流れる。

 

「あっちに行ってしまったのはタケルくんだけじゃありません。ユウスケがいます。ユウスケがきっとなんとかします」

「あいつがどこまでできるかは不安しかないがな」

 

 夏海は余計な一言を付け加えた士の腕をつねる。士はウッと苦しみの声を上げた。

 

「とにかく今日はもう解散だ。二人を信じるしかない。俺は、一度これを読んでみる。眼魔世界について何か分かるかもしれないからな」

 

 マコトの言葉に一同は頷き、つくも屋は暖簾を下ろした。

 

 

 

 

 一方眼魔世界。

 二人が送られてきたのは謎の場所。クウガが咄嗟にドラゴンフォームに超変身し、その身体能力で危なげなく着地した。

 

「ユウスケさん、ありがとうございます。それと……ごめんなさい、俺……変身できなくて」

「ユウスケでいいよ。それに謝らなくていい。自分も狙われていたのに、夏海ちゃんとカノンちゃんの避難を優先したじゃないか。十分偉いし、立派だよ」

「……ありがとうございます」

「うん。それよりここは……」

 

 ユウスケが見上げる。どこまでも広がる空は赤い。それも夕焼けのような気持ちの良い赤色ではなく、荒れた毒々しい赤色だ。

 様子がおかしいのは空だけではない。地上の空気中にも赤い霧が満ちており、視界の邪魔をする。

 

「眼魔の世界なのかな、ここ」

「え?」

「寺にあった、父さんの研究室で見たことがある……かも」

「タケルくん、この世界のことを知ってるのか!?」

「うん。あの建物とか」

 

 タケルが指差した方には巨大な塔がそびえ立っていた。なんの手掛かりもないこの世界において、とても分かりやすい目印だ。元の世界に戻るためには、二人をここに連れてきた張本人──眼魔ウルティマの力が必要なのかもしれない。奴の情報は何一つないため、ひとまず塔に向かって歩くことにした。

 歩き出してしばらくすると、辺りに家があることに気がついた。それも一軒だけではない。隣にもう一軒、更に隣にも。

 

「これは……眼魔の街?」

「眼魔たちにもこういう家を作る文化があるのか」

 

 まるで大天空寺に続く大通りのようだ。建物の並び方だけでなく、扉が完全に閉められて寂しげな雰囲気が漂っているところまで似ている。

 ユウスケはその中の一軒を選び、戸を開けた。

 

「……使われてないみたいだ。それも、長い間」

「住んでた人はどこに行ったんだろ」

「うーん、分からないな」

 

 家には家財道具が一式揃っていた。引っ越したわけでもなく、住民だけがいない状態だ。

 

「どうするんですか」

「この家をちょっと借りようか。あの大きい建物に近づくと眼魔が襲ってくるかもしれない。一旦、ここで休憩しよう」

 

 ユウスケは近くの座布団の埃を払い、そこに腰を下ろした。




次回 仮面ライダーディケイド2

「タケル……」
「父さん……」
「選択の時だ、ディケイド」
「小野寺ユウスケをこの世界に置いていくことだ」
「人は一人じゃない」
「命、燃やすぜ!」

第9話「晴天!二人の覚悟!」

全てを破壊し、全てを繋げ!

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