裏切り者の名を受けて   作:ほろろぎ

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第四話 変身 ─モーフィンタイム─

 駆道 明楽は、まだたったの十二年しか生きていない。

 その十二年の人生で一度として経験したことのない激しい痛みを今、彼は味わっていた。

 

 突如宇宙からやってきた謎の怪物の群れ。その中でもことさらに大きい、ヘビを模したような化け物。

 その化け物に、明楽は無残にも腰から下を食いちぎられてしまったのだ。

 

「ぁ……が……っ」

 

 あまりの苦痛に叫ぶことすらできない。残された胴体や腕がビクビクと痙攣している。

 破れた腹から内臓と大量の血液がこぼれ、地面に広がった。

 

 通常であれば肉体にこれほどの損壊を受ければ、人は生きていられない。

 痛みでショック死するか、それでなくても出血多量ですぐに死に至るだろう。

 しかしどいういう訳か明楽は死なず、意識を失うこともなかった。

 

「あっきいいいい!!」

「駆動くん……!」

 

 歌野は明楽の元に向かおうとするが、彼女を取り囲む白い化け物の数が多く、その場を脱することができなかった。

 水都は目の前に広がる残忍な光景に腰を抜かしている。

 ヘビ型の怪物は動けなくなった水都に標的を変えたのか、彼女ににじり寄っていく。と、不意に怪物の動きが止まった。

 水都が目の前の状況に驚愕し目を見開く。

 怪物の体──地面に垂れ下がっている尻尾状の部位──に、上半身だけの明楽がしがみついていたのだ。

 

「……ふじも……にげ……」

 

 苦痛に顔をゆがめ、口や鼻から血を吹き出しながら明楽は、水都に逃げろと伝える。

 明楽自身、なぜここまで必死になって水都を助けようとしているか分からなかった。

 まだ会って数分しか経っていない、名前しか知らない少女。

 

(でも……誰かを助けるために死ねるなら、それもいいかな……)

 

 明楽の目の前に、怪物が蛇の頭を思わせる部位を近づけてきた。今度こそ一飲みにするつもりだろうか。

 口を開き、舌に似た器官が明楽の額に触れる。瞬間、明楽の意識が体を離れた。

 

「…………」

 

 明楽は出し抜けに、真っ白な空間を漂っていた。

 

「ここは……あの世?」

『ソレは違う』

 

 ついに死んでしまったのか、と思った明楽の耳に何者かの声が聞こえてきた。男とも女ともとれない奇妙な声色だった。

 だが周囲には誰もいない。声は空間全体に響き渡っている。

 

「誰?」

『私ハ、十三番目に生み出されしモノ。不完全なモノ。廃棄されしモノ』

「だから誰?」

『私に、名前はナい。私ハ、お前を喰らいしモノ』

「……えっ」

 

 声の主は、自分が明楽を襲ったヘビ状の化け物であると告げた。

 

「じゃあ、やっぱり僕は食べられて死んで……」

『違う。お前の生命活動は、まだ停止していなイ』

「ならここはどこなの?」

『お前ノ意識の中。私が通信してイル』

「なんでそんなことを」

『お前に、興味ガ湧いたカラ』

 

 発言の意図がわからず、明楽は黙って言葉の続きを待つ。

 

『ナゼ、自分の命を捨テルような真似をしてまで、女共ヲ助けよウとした』

 

 女共とは歌野と水都のことだろう。

 明楽にも明確な意思があって彼女達を助けようとした訳ではない。そのため答えに困ってしまう。空間が静寂に包まれる。

 

『命が、惜しくはないのか』

「そんなことないよ。死ぬのは嫌だ」

『では、ナゼ』

「さあね。助けたかったから助けた、じゃダメかな」

『理由もナイのに、自分を捨てルノか』

「……それが人間だから、かもね」

 

 怪物は、明楽の言葉をかみ砕いているかのように黙り込んだ。しばらくして再び声が聞こえる。

 

『ワからなイ。他者とは利用するタメにあるのではナいのか。我々は、利用さレルために創られた。私は、利用価値がないカラ、捨てられた』

「捨てられた?」

 

 明楽は怪物の発言に興味を引かれた。

 化け物共を生み出した存在がいるということよりも、捨てられてしまったと語るこの怪物。

 その言葉に感情のようなものは乗せられていないが、明楽にはどこか寂しげな風に聞こえた。

 

『お前ハこのまマデは死ぬ。私が、生き返らせてヤロう』

「えっ、そんなことができるの!?」

『私と、お前ガ、融合するのダ。肉体を組み合ワセ、意識ハ独立する。我々は、共生関係にナル』

「……なんで僕を助けてくれる?」

『お前たち、人間ノことを知りたイ。それだけダ』

 

 不思議と、この怪物は嘘をついていないと明楽には感じられた。それは、意識と意識が直接繋げられたせいかもしれない。

 明楽は自然と、怪物の提案を受け入れた。

 

「わかった。お願い、僕を生き返らせて」

 

 言ったとたん、明楽の意識は光に飲まれ

 

「駆動くん!」

「はっ!?」

 

 次には、自分の名を呼ぶ水都の声で現実に引き戻された。

 明楽はまだ神社の側に倒れていて、周囲には白い化け物が漂い人々を襲っている、悪夢のような現実に。

 

「藤森さん……あのヘビみたいな奴は!?」

「わ、わかんない。急に光ったと思ったら、姿が消えちゃって……」

「逃げ遅れてた子は?」

「もう神社の方に避難してるよ。そ、それより駆動くん、その……大丈夫なの……?」

 

 水都の視線が明楽の足元に向けられる。

 明楽の体は上半身のみで、腰から下がすっぱりと消失している。

 

「うわーっ!? 足がない!?」

「やっぱり大丈夫じゃないよね!?」

 

 驚き叫ぶ明楽、つられて叫ぶ水都。

 と、ズリュッという音と共に胴体から、明楽の下半身が勢いよく飛び出てきたではないか。

 

「うわーっ!? 足が生えた!?」

「ひえーっ!? なにこれなにこれ!?」

 

 再び驚く明楽と涙目の水都。動揺する明楽の頭の中に、何者かの声が響いた。

 

『慌てるな、お前の怪我は、私が治した』

 

 男とも女ともとれない奇妙な声色のそれは、あのヘビ型の怪物のものだ。肉体を共有したおかげか、声は聞き取りやすくなっている。

 なら逃げなきゃ、と立ち上がろうとする明楽だが、その前に白い化け物の群れに囲まれ逃げ道を塞がれてしまった。

 化け物は歯をガチガチと鳴らし、今にも二人に襲い掛かろうとしている。

 

「ウソでしょ。せっかく生き返ったのに、また殺されちゃうの……?」

『そうはならない。お前が戦うのだ』

「え、戦うって……僕が!? 無理だよそんな!」

 

 確かに歌野と水都を助けるために二度も体を張ったが、それはただ囮になっただけだ。

 

『案ずるな、私が力を貸す』

 

 今の明楽の体の中には、化け物どもと同種の存在が宿っている。むしろヘビ型は、不完全とはいえ白い怪物の上位種にあたる。その力を使えば負けはしない、と。

 

 歌野の姿を探すが視界の中にはいない。きっと向こうは向こうで化け物の対処に手一杯で、都合よく助けに来てくれる展開は望めないだろう。

 隣にいる水都を見る。少女は、迫る死への恐怖で震えていた。

 あと数秒、明楽がなにもしなければ彼女は死ぬ。水都の生死は明楽の手にゆだねられていた。

 

「……なら、やるしかないじゃないか」

 

 呟き、震える少女を安心させるように彼女の肩に手を置く。

 

「藤森さん、大丈夫。僕が……僕たちがなんとかする」

 

 水都がその言葉を聞いたと同時に、明楽の体が閃光に包まれる。

 雷のように光が一瞬で消えると、そこには黒い鎧に全身を包まれた大男が立っていた。

 頭部には角が生え、口元からは鋭い牙が覗いている。それは、聖書などに描かれる忌まわしき存在──『悪魔』の姿そのものであった。

 水都は目の前の出来事に一瞬驚いたが、すぐに悪魔のような男が明楽であると気づく。

 禍々しいその姿はまさに人類の敵にしか見えないが、少女の心には不思議と恐怖の感情は湧かなかった。

 むしろ、絶対に自分を守ってくれるだろうという安心感を覚えるくらいだ。

 

 白い化け物たちは、明楽が異様な姿に変化したことを認めると一斉に群がった。建造物を楽々と噛み砕く歯でもってかじりつく。

 が、甲冑のようになった少年の体には文字通り歯が立たなかった。

 明楽は化け物どもを引き剥がそうと両腕を振るうと、それだけで群がっていた数十の怪物が容易に引き裂かれてしまった。まるで豆腐でも叩きつぶすような手ごたえの無さだった。

 

「これなら、いける……!」

 

 怪物の群れの中に明楽は飛び込んでいく。喧嘩もしたことのない明楽でも、ただ両手を振り回しているだけで怪物共は抵抗もできず次々と砕け散っていった。

 周囲の脅威を一掃し水都の安全を確保すると、続けて歌野の元へ向かう。

 歌野は数の多い怪物の相手に疲れ、肩で息をしていた。動きも鈍くなり集中力も切れ、迫る化け物の一体への反応が遅れる。

 

「まずっ……!」

「てやぁーッ!!」

 

 大口を開けた怪物が少女の頭を噛み砕かんとする直前、横から飛び込んできた明楽がその化け物を殴り飛ばした。

 突然の乱入者に歌野は呆気にとられる。

 

「ホワッツ!? 何者!?」

「うーちゃん、大丈夫!?」

「その声は……あっきー?」

 

 鎧で覆われているせいかくぐもった低い声になっているが、聞き覚えのあるそれに歌野はすぐに明楽だと理解した。

 

「どうしたの、そのスタイルは?」

「説明は後で。今は怪物たちをやっつけないと」

「……ええ、そうね。二人でノックアウトしてやりましょう!」

 

 理由をなにも聞かされないにもかかわらず、歌野はすんなり事態を受け入れてみせた。

 

(さすがうーちゃん、順応性が高い)

 

 明楽が感心していると、二人の元に結界内部に残っていた化け物たちが集まってくる。

 だが、いくら数をそろえようが今の明楽たちの敵ではないことは明白だった。

 

 結果、明楽と歌野の合わさった力は圧倒的で、化け物どもを一掃し終えるのに十分もかからなかった。

 

「これで最後だ!」

 

 残す一匹に明楽はとどめの拳を叩き込んだ。

 その最後の一匹は消え去る間際、なにか言葉を発するかのように口をパクパクと動かしながら消滅した。

 戦いが終わり、歌野は大きく息を吐き解放感に浸っている。

 明楽の体も鎧が霞のように消え去り、身長も元の小柄な少年のものに戻った。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

 明楽は、自身の中に共生することになったヘビ型の怪物にお礼を伝える。

 

「そういえば、僕の名前を言ってなかったね。駆道 明楽だ」

『明楽。私の名は……』

「聞いたよ、名前は無いんでしょ?」

 

 それに対し、怪物は平たんな声色で、しかしどこか喜んでいるような雰囲気を乗せてこう答えた。

 

『私はたった今名付けられた。あの白い奴が最後に伝えてくれた。私が「父であり母であるモノ」より与えられた名前は……「裏切り者」だ』

「いや、それは名前じゃない」

 

 嬉しそうな相手に対し水を差すのもどうかと思いつつも、明楽はヘビ型の特異な感性に突っ込みを入れざるを得なかった。




元ネタ
・『モーフィンタイム』
パワーレンジャーの変身時の掛け声より

・駆道 明楽、ヘビ型バーテックス、明楽の変身体
デビルマンの主人公、不動明とアモンの関係がモチーフ

変身体のイメージもマジンサーガのデビルマンXや、デビルマンサーガのような
鎧調にデザインされたデビルマンを意識してます

・下半身を食いちぎられる明楽
魔王ダンテの主人公、宇津木涼の境遇から
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