輝く空の下で鳴り響く鐘の音が、門出を迎えた二人を祝福している。その温かい音色は式場を包み込みその場にいる全員を晴れやかな気持ちにさせて、どこか遠くへと抜けていった。
純白のドレスに彩られた女性は、普段の彼女を知る者たちには信じられないような乙女の顔をして、おずおずとハイヒールの歩を進める。慣れないスーツにそわそわと落ち着かない様子の青年が見かねて彼女の手を取った。強引に引っ張られた女性が体勢を崩し、倒れ込む――寸前、青年がその身体を受け止めるやそのまま自分の胸へと引き寄せる。
頬を染める暇も与えられず、女性はお姫様抱っこをされていたのだった。
「トニヤーっ!! 」
「いいぞウィッツ!! 」
歓声に混じった冷やかしにひとつずつ反応を返しながら、トニヤとウィッツはゆっくりと階段を降りる。青い空に映える白黒の衣装は、真っ赤に染まる二人の顔をより際立たせていた。
※※
「式を挙げないか」
ぶっきらぼうな口調で照れを隠したトマトのような顔は、いつになく真剣だった。
一連の騒動が終わった直後にウィッツから結婚を申し込まれたトニヤだったが、突然故郷へ連れてこられたり事後処理に当たる元戦友たちの手伝いだったりで多忙を極めていた中、結婚式だなんて考えてもいなかった。ウィッツにしても実家の畑仕事の手伝いやら兄弟たちのおもりやら、長い間家を空けていたツケを払わされていてなかなか言い出す機会がなかったのだ。
結婚だとか式だとかなんてふわふわした特に意味もない行事なんて、戦争で疲弊した人間の文化そのものからさっぱり忘れ去られてしまいそうなものだが、案外そういうものが一番大事にされたりもするのだ。むしろ生活の困窮や明日への不安を抱えるようになったことで、それを共有して共感して協力し合える「繋がり」の大切さを思い知ったということなのかもしれない。
とはいえ、今は違う。三年前、自分達の手で荒んだ時代と決別したのだ。世界を狂わせる兄弟を倒し、己の価値観に固執する古い頭をすげ替えて、人類は新たなスタートを切った。百年以上に渡る戦争を終えその残滓の消化に十数年を要しながらも、人という種の自浄作用は失われてはいなかった。
新天地とも呼べる時代の訪れに相応しい門出を断る理由もない。しかし、いきなり「式を挙げないか」とはストレート過ぎる。そんな物言いこそ彼らしいとはいえ。
答えを待つウィッツはぎゅっと口を結び、ガチガチに固まっていた。対するトニヤは戸惑いからぽかんと口を開けていたが、普段見ることのない夫(?)の姿に気付くとげらげらと笑い始めた。つられて笑い出したウィッツと一緒になって腹がよじれるほど涙が出るほど大爆笑して、笑いすぎて苦しくなった呼吸を整えて、トニヤが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「もちろん!! 」
こんな時代だから連絡の取れない者もいたし、住所不定の者もいた。こんな時の強い味方が地球連邦に参加したジャミルとサラだ。本来は連邦軍の統括と加盟国の意思統一機関として成立していた地に足のつかないふわふわした組織だったが、長く続いた混乱の時代を経てぐちゃぐちゃになった世界を再編するためにほぼ全ての公務権限を与えられ秩序の制定に奔走していた。
テクスが参加する「国境なき医師団」の動向も、三年前と変わらずフリーのMS乗りとして世界を股に掛けるロアビィの居場所も、裏社会で名を上げるエニルの仕事も全て二人が教えてくれたのだ。
医師としての責任感から現地を離れられないテクスや「フリーデンⅢ」を営むキッドとパーラなど不参加の通知が帰ってきた者もいたが、三年越しに集まることができた会場の面々は思い出話に花を咲かせていた。
バルチャー時代の武勇伝は枚挙に暇がなく、酒も入っているとなれば手がつけられない。特に厄介だったのがエニルとサラで、冷静沈着が身上のロアビィはともかく歴戦の勇士ジャミルも妻の悪酔いには打つ手がなかった。
「それにしても、あんたたち二人がくっつくとはねぇ」
ロアビィに身体を預けたエニルがいくらか真面目な口調に戻る。
「お調子者二人、お似合いじゃないの」
ロアビィの軽口とも本気ともつかない言葉に赤くなる二人――しかし、言われっぱなしで黙っている夫婦ではない。
「お前こそ、本命は決まったのかよ? あんまりフラフラしてると手遅れになるぜ」
「この男を信用しちゃダメよエニル、絶対に男から言わせるの。選んだのはアタシだってガツンと言ってやんなさい」
何を言ってんの、と苦笑いするロアビィが明確な否定をしなかったことで式の参加者が抱いていた疑惑は確信に変わった。うろたえたエニルの体を支えるしぐさなどは、まさに気心知れた仲のそれだ。
この会話の流れは当然ジャミルたちにも飛び火するのだが、騒ぎは案外すぐに収まった。生真面目すぎるジャミルとサラには軽口が通じないからだ。
「あーあ、それにしてもさぁ、一番お似合いのカップルが来てないなんてねぇ」
だいぶ酔いが落ち着いてきたエニルがぼやく。花も恥じらう透き通った純情、『お似合いのカップル』を思い出した面々は、少し冷えた頭を空に向けた。真昼の空に浮かぶおぼろ月は、戦乱の激しさも人の醜さも包み込んで永い時を見守ってきたのだろう。人類が地球の外を目指した時代も宇宙の開拓を進めた時代も、サテライトシステムの拠点としてニュータイプの象徴と扱われた時代も。
「全く、何してやがるんだか」
どこか優しげな、らしくもない口調でウィッツがつぶやく。直後、
「彼らなら、『フリーデンⅢ』に顔を出すらしいですよ」
聞き覚えのある声が告げた。
金髪碧眼の絵に描いたような美青年にしてMS戦闘技術は人類トップクラスの『作られたエースパイロット』、カリス・ノーティラス。
「久しぶりねカリス。フォートセバーンの方は大丈夫なの? 」
「僕一人居なくても回るくらいには立ち直ってますよ。団結の力って、すごいパワーなんです」
ニュータイプとして嫌でも他人の心を見なければならなかったカリスにとって、希望を与えてくれる温かい心の光を感じられることは何にも代えがたいものだろう。出自は違えど同じニュータイプどうし、ジャミルが父親のような優しい笑みを浮かべる。
「しっかしなんでそっちに連絡が行ってるんだよ? 招待状はバツ印だけで返しやがった癖に」
「ニュータイプの感応ですよ、離れていたって僕とティファさんは話ができるんです」
カリスの分かりにくい冗談に一同が驚愕を表す。からかうようなくすくすという柔和な年相応の笑みも、この三年で彼が身につけたもののひとつだ。
「キッドさんから商談を受けたんですよ。フォートセバーン警備隊に新作ガンダムを迎え入れてみないかってね」
その名も、リビルドガンダム。
世界を、秩序を、人の意識を改めて再構築するこれからの時代を象徴する、純然たる力――。
短編と言いつつ一本で完結できない・・・
ガンダムX、マイナーだとは思いつつ大好きなので書かずにはいられませんでした。
生暖かい目で見てやってくださいm(_ _)m