ガンダムシリーズ短編集   作:イング・ディライド

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カテゴリー・フレッシュ(AW編2/2)

 砂漠にオアシスがあるように、荒廃した地球にも人が集まるポイントは点在していた。そのうちのひとつ、北アメリカ大陸某所オアシスの外れにぽつんと佇むボロ倉庫。世界的な評価を受けるMS整備工場、「フリーデンⅢ」である。

 

「久しぶりだなぁ、ここに来るのも」

「皆、揃ってるみたい」

 

 感慨深さに目を細める二人。彼らがここに来るのは開業祝い以来だから二年以上前だ。代わり映えしない寂れた佇まいには安心感すら抱くが、実際のところ繁盛していることはよく知っている。どうやらあのクソガキもとい天才メカニックは外観に金を使う気はないらしい。

 無警戒に開け放たれた門を通り、固く閉ざされた大仰なシャッターを横目に小さなステンレス扉を潜ると、予想通りながら予想を越える光景が広がっていた。

 これでもかと散らかされた機械のパーツ、工具、油の入ったポリタンク。挙げ句の果てには洗濯もせず脱ぎ捨てられた作業着が手すりに引っかけられている。足の踏み場もない薄暗い空間で、一か所だけ煌々とした明るさに照らされている。コンクリートの床が見えない散らかしっぷりを誇る倉庫の中にあって、そこだけはきっちりと片付けられた清潔なスペースになっている。

 

「久しぶり、ガロード!! 」

 

 来客を確認するや否や、油と錆びにまみれた作業着で抱きついてきたのが「フリーデンⅢ」の看板娘、パーラ・シス。天真爛漫、元気溌剌が身上の彼女にとってはハグなど挨拶に過ぎないが、その過激なスキンシップに冷たい視線を浴びせる者が二人。ガロードの旅の同伴者ティファ・アディール、この町工場を仕切る凄腕の機械バカ、キッド・サルサミル。

 

「パーラ、ガロードから離れて」

「ガロード、いつまでそうしてるつもりだ? 」

 

 慌てるガロードをますます強く抱きしめるパーラ。微笑ましい二組のカップルが繰り広げる痴話喧嘩は、第三者に水を差されて終わりを迎える。

 

「若いってのはいいね、眩しいよ」

 

 キャットウォークから四人を見下ろす「フリーデンⅢ」最年長者、シンゴ・モリが明るく笑う。彼自身まだ三十も迎えていない若者のはずだが、二十歳に満たない青春真っ盛りの四人に混ざるとどうしても老け込んだ気分が拭えない。

 

「今日の仕事は終わったから、僕は先にお暇させてもらうよ。鍵は預けておくから、どうぞごゆっくり」

 

 立ち居振る舞いが正に好青年といえるシンゴが言えば、嫌みっぽい言葉もそう気にならない。十メートルほどの高さからキッドに鍵を放り投げた彼は言葉通りに倉庫から出ていった。

 

「で、用事って何さ? 」

 

 やや気まずい空気を振り払うように、ガロードが沈黙を破った。ぎこちない口調ながらもキッドがそれに応じる。

 

「趣味で作ったMSが場所を取っててさ、良ければ買ってくれないか? どこも買ってくれなくてさ」

「コイツ、このご時世に“ガンダム”なんか作ったんだ。二人も何か言ってやってよ」

 

 ぶつくさ言いながら倉庫の奥にあった塊のシートを取り払うパーラ。トレーラーの上に寝かされていた人型の機械は、ガロードとティファにとって忘れることの出来ないものだった。

 トリコロールのペイントに特徴的な形状の胸部。よじ登って確認した顔には二つの瞳とV字のブレードアンテナ。そう、人類を絶滅の危機にまで追いやった最凶最悪の兵器にして戦争の火種を吹き消す最強最適の抑止力たる希望と絶望の象徴、MS“ガンダム”。三年前にガロードが操って仲間たちと共に時代を築いた機体に、それは酷似していた。

 

「KSF-001“リビルドガンダム”。エアマスターの設計を踏襲した軽量化にレオパルドの動力回路を再現した高出力で理論上はダブルエックスの三倍の機動力が得られる筈だ。さらにGXにも備えられてたハモニカ砲内蔵ディバイダー、ベルティゴのファンネルを参考に作った有線誘導ビーム砲“DREAMS”なんかも装備させてる。連邦軍どころか宇宙革命軍の最新鋭機とだって張り合えるスペックだぜ」

 

 変わらない機械バカっぷりに呆れるパーラと微笑むティファ、そして解説なんざ聞いちゃいないガロード。無視されていることに気付いたキッドだが、ガロードの瞳の輝きを見れば文句など言えようはずもなかった。

 メカニックにとって一番嬉しいのは、自分が手をかけた機体に愛を注いでくれる人がいることなのだから。

 

「今なら特別価格で譲ってやるよ、どうだ? 」

「待て待て、オレたちにそんな金はないよ。それにこんなのを持つ必要もない。ジャミルにでも相談してみたらどう? 」

 

 ガロードの言葉に肩を落とすキッド。その時、倉庫の中に警報音が響いた。

 

「何だよ? 」

「敵襲だよ。色んな奴に目を付けられてるからね」

 

 手慣れた様子で外の状況を確認するパーラ。パソコンの画面に表示させた防犯カメラの映像には、身の丈二十メートル近い巨人の群れが映っていた。

 今はバルチャーたちのスタンダードになった旧連邦軍の量産MS、ジェニスとドートレスの混成部隊である。

 

「今日はえらく豪勢だな、どこのバルチャーだよ」

「こちらはザル・ビルド率いる『ワニガメの騎馬』隊だ。大人しくしていれば危害は加えない、ここの資材を寄越せ」

 

 キッドのぼやきに被せるようにしてジェニスからの通信が告げた。どうやら補給物資が途絶えたらしい。新生地球連邦政府の行政の下で彼らのようなお尋ね者への締め付けは厳しくなっている。新しい世界の秩序が形成されつつある今、古い形でしか生きていけない者たちは廃れていくのが運命だった。

 

「キッド、私が出る。“クラウダ改”を出すよ」

 

 倉庫の屋根がゆっくりと開き、眩しい光がガロードたちに刺さる。どこか愛らしい丸っこいフォルムのMS、旧宇宙革命軍の量産MSクラウダのカスタム機が頭上をパスしていった。

 

「おいおい、敵は十を越えてるんだぞ・・・」

「一人じゃ足りないよな」

「ガロード!! 」

 

 ティファが名前を呼んだときには、既にリビルドガンダムのコックピットハッチは閉じていた。腹をくくったキッドが機体との通信回線を開き、怒鳴るようにして操縦マニュアルを伝える。

 

「一回だけだよティファ、心配ないって。ガロード・ラン、リビルドガンダム。出るよっ 」

 

 トレーラーの荷台から身を起こすガンダムは、立ち上がった瞬間にスラスターを焚いて飛び上がった。通信機から慌てたガロードの叫び声が聞こえる。想像以上の出力と敏感な操縦システムは、ぶっつけ本番で調整するにはピーキーすぎた。

 遥か彼方へ飛んでいくガンダムに敵が目を奪われている間に、パーラは大人顔負けの操縦技術でジェニス二機を行動不能にまで追い込む。

 

「貰ったぞ」

 

 しかし多勢に無勢、四方からビームの集中砲火を浴び、クラウダの装甲に焦げ跡が刻まれてゆく。機体を襲う激震に、パーラは悲鳴を上げるしかない。

 

「とどめだ」

 

 淡々と告げるドートレスのパイロットの声に焦ったキッドは、トレードマークの野球帽を叩きつけ、無線機に向けて声を荒げた。

 

「何やってやがる、ガロード!! 」

「OK、もう慣れた」

 

 クラウダを取り囲む四機のMSが、頭上からビームの直撃を食らい爆発した。高威力かつ精密な同時射撃、ハモニカ砲の最大の特徴。

 

「親方、下がりましょう」

「駄目だ、ここで退いたら次に戦う弾がない。後がないんだよ」

 

 隊列を乱す敵など何機いても同じで、怖いものなど何もない。クラウダのビームカッターが、ガンダムのDREAMSがジェニスとドートレスを蹂躙する。たった一人の気合と気概で生きていけるほど甘くはない世界だ、ガロードたちにも容赦する気はない。

 敵の大半が片付いた段階で、残された機体は母艦へと戻っていった。追いかけようとするガロードとパーラだが、フリーデンⅢの被害状況を確認するのが先だった。

 

「大丈夫か、パーラ」

「工場の被害は軽微。ガロードのお陰だよ」

 

 満身創痍のクラウダがゆっくりと格納庫へ収まってゆく。その隣にリビルドガンダムを寝かせながら、ガロードは騒がしいキッドの声を聞いていた。

 

「いい機体だろ。ジャミルたちが世界の治安を立て直すまでの繋ぎでも、十分役に立つと思うぜ」

 

 だからいらないって、と呆れ顔でコックピットを出た先にティファがいた。リビルドガンダムの装甲を登り不安定な足場の上に立ち、その瞳はまっすぐガロードを見つめている。

 

「戦わなければ守れない、わかってるけど、これ以上危ないことしてもらいたくない。このガンダムから感じる温もりはきっと、壊すためのものじゃないから」

 

 本当ならこんなに殺伐とした世界とは無縁だったはずのティファは、戦争と三年の旅を経て真実を悟っている。持ち前の高い理解力と適応力、そしてニュータイプと呼ばれる力で嫌というほどに思い知っている。それでもこんなことを言うのは、心の根幹にあるのが優しさでありティファを構成する最も大切な要素だからだろうか。長い間共に旅をしてきたことで少し分かり始めてきた友だち(ガールフレンドと呼べるほど無神経にはなれない)の想いはガロードを揺さぶった。

 自分の願いを歪める現実を知りながら望みを捨てないのは「綺麗事」ではなく「希望」なのだ。

 

「ま、こんなにいい機体に乗せて貰っといてなんの恩返しもなしってのも悪いもんな」

 

 旅の目的は達したと思いたい。目的地を決めなくても終着点は必ず決められている。たとえ本人たちがそれに気付いていないとしても。ガロードとティファはまっすぐ互いの顔を見て、最高の笑顔を浮かべた。

 

「オレたちもこの町に腰を据えるよ。前みたいに何でも屋を開業する。で、これが最初の仕事だ」

 

 突然の宣言に面食らうキッドとパーラを尻目に、ガロードは高らかに言い放つ。

 

「ガンダム、売るよ!! 」

 




最後の台詞言わせたかっただけとか言わないで。

DVDボックスの特典マンガとか知らないのでそっちのストーリーと齟齬が生じてるかもしれませんがご了解下さい。
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