ガンダムシリーズ短編集   作:イング・ディライド

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めぐり愛、大地にて(セイラ編1/2)

 宇宙に上がった人類が迎えた最初にして最大の危機、一年戦争。ブリティッシュ作戦を皮切りに行われたジオン怒濤の電撃作戦によって一週間で総人口を半分に減らした後、両陣営は戦争の終結を先延ばしにして戦い続けた。

 最前線に立ち、武器を取って戦う兵士たちにとってはたまったものではない。いかに職業軍人といえど国のために死ぬなんて覚悟ができている者はごく少数だし、できれば税金泥棒と罵られながら訓練だけの日々を過ごすのが一番いい。MSマニアでひたすらMSに乗っていたい奴だとか、特定の相手に因縁を持って戦い続ける奴だとかは数えるほどだ。

 しかし、それを許さないのが戦争だ。さまざまな人間の思惑が絡まって、本人たちの手に負えなくなって、結局誰もが何のために戦っているのかわからなくなっても戦わざるを得なくなる。そんな状況で最も得をするのは誰だろうか。

 答えはわかりきっている。

 

 一年戦争の終結を見届けたセイラ・マスは軍を抜け、オーストラリアの田舎町に居を構えた。さほど大きなものではないが、女性一人が暮らすには不自由ない程度の広さはあった。電気にガスに水道、それだけ揃っていれば文句はない値段だった。

 連邦軍から支給された一年ぶんの給料は決して少ない額ではなかったが、セイラの一生を保証してくれるほどの金額でもない。日々の生活を送るうちに口座の金額がかなり減ってきたことを感じ、彼女は投資を始めることにした。一年戦争でのごたごたから連邦軍の監視がつくようになった今、まともな就職先を探すのには苦労する。

 幸い、元手はあった。一年戦争開戦以前、養父テアボロ・マスから相続した多額の資産が。それならばその金を死ぬまで使い潰せばいい、ともなるだろうが、セイラはそこまで気楽にも考えられなかった。これから働けない以上年金は貰えないし、いつまた戦争が始まって家が焼けないとも限らない。地球にずっと住んでいられるかどうかさえ怪しいご時世だ。コロニー落としの影響で地価が暴落したオーストラリアに買ったこの家に、資産価値などない。

 それ以上にセイラにとって大切だったのは、再び戦争が始まった時にいち早くそれを察知し、独自のネットワークから世界の情報を集め兄シャア・アズナブルの動向を知ることができるやもしれないという淡い希望だった。戦争終結時点でザビ家が滅び兄の復讐対象がいなくなったことはニュースで知ったが、それで終わりになるとはどうしても思えなかったのだ。

 かくしてセイラは株を買うことにした。とはいえ、投資に関しては素人の彼女が初めから利益の上がる株がどれかなどわかるはずもない。セイラは未だ自分と接触を続ける旧ジオン系ダイクン派の知り合いであるカーディアス・ビストを頼った。地球に残された文化遺産を保護するため宇宙へ上げる、引っ越し公社に似た事業を本業としていた彼は、それだけでは会社が成り行かないからと株式投資を行っていた。それは彼の一族に受け継がれるライフスタイルのようなもので、数十年に渡って培われた経験則は信頼に足るものだ。会話のやり取りをすべて記録することを条件にすれば連邦の監視員も許可を出した。ジオン公国崩壊後もそれなりの勢力を保つダイクン派にとってセイラの身は特別なものであるということを、よく理解しているらしい。

 

「遠からずまた戦争は起こります。なれば、ほぼすべての企業の株価は爆発的に上昇します」

 

 長身のカーディアスと並ぶと子どものように見えるセイラは、パソコンの画面を睨みながらため息をつく。

 

「カーディアス、利幅の大小を問わず、安定性のある企業を選んでもらえますか。一時の爆発的な利益だけでは、今後の生活が不安なのです」

「お嬢様は投資には不向きなようですな。・・・まあ安定を求めるのも仕方のないことでしょう。なれば、この会社などどうでしょう」

 

 アナハイム・エレクトロニクス社。月に大規模な工場を持つ電化製品の会社である。家庭向けの冷蔵庫や洗濯機、電子レンジから企業向けの冷凍室やエアコンなども手がける大手の企業である。戦中から続く特需の中にあってあまり目立ちはしないものの、そこそこの歴史を持ち安定した業績で毎年利益を伸ばしている堅実な会社だった。

 

「ルナリアンの会社ですか。確かに、信頼のおけそうな感じはあります」

 

 公式ホームページから過去の業績を眺めたセイラは渋面をつくる。別にカーディアスが勧めたこの会社が嫌な訳ではない。ただ初めての投資に不安だらけなだけなのだ。

 そんな様子を見たカーディアスがセイラに耳打ちする。

 

「とある筋からの情報ですが、このアナハイム社は現在ジオン系企業の買収、併合を進めているとのことです。遠からず宇宙戦艦、MS産業にも進出するでしょう。戦後、連邦軍の取引相手はアナハイム一社で事足りるほどに成長することになる。すぐに買えなくなりますよ」

「そうですか・・・」

 

 決められないのはわざわざ呼んだカーディアスに失礼だと思いつつも、どうしても躊躇いは捨てきれない。結局、連邦政府とジオン共和国政府の両者から国債を同額ずつ買うことに決めた。

 

 数年後、結局セイラは民間企業への投資を始めることになる。83年のデラーズ紛争、その発端となったオーストラリアは軍に閉鎖された。伝え聞いた噂によればトリントン基地に核弾頭を保有していることが一定数に広まったためとも言うが、真相は定かではない。ともかくオーストラリアを放り出されたセイラはヨーロッパに移住することになるのだが、そのための費用が馬鹿にならない額だったのだ。四年あまりの間はだましだましやって来たものの、かなり苦しくなってきた。

 時は宇宙世紀0087、後にグリプス戦役と呼ばれる戦乱のさなかにあって、カーディアスに勧められたアナハイム社は爆発的な成長を遂げていた。戦争をしている両陣営がアナハイム社から卸したMSで戦い、破壊されればまた発注される。四年前に連邦軍と取引を始めたデラーズ紛争の折から、業績は実に三十倍以上に伸びていた。

 もう一度カーディアスに確認するべきだろうか、と考えたセイラは彼の私用携帯に電話を掛けたのだが、いつになっても電話は繋がらなかった。

 

「戦争続きで、財団の仕事が忙しいとは聞いているけれど・・・」

 

 決心つきかねたセイラは、何気なくテレビをつけた。最近は情報の入手にインターネットばかり使っていたため、ただのインテリアかと思うほど使っていなかった。

 

「突然の無礼をお許し頂きたい」

 

 突然耳を打った、懐かしい声。セイラは心臓が飛び上がるほどに驚いた。・・・いや、そんなはずはない。あの人が地球にいて、しかもメディアに堂々と姿を晒すなんて、あり得ない。冷静さを取り戻すために思考回路をフル回転させる。

 しかし、声の主はセイラの心情を慮ってなどくれなかった。

 

「私はかつて、シャア・アズナブルと呼ばれたこともある男だ」

 

 とてつもなく長い時間、十分以上を要して落ち着きを取り戻したセイラがようやく直視した画面には、七年ぶりに見る唯一の肉親の顔が映っていた。

 エゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉。兄はそう名乗った。また、シャア・アズナブルとも。しかし、セイラが知る名前を言ってはくれない。ジオン公国から逃れ地球でわずかばかりの平穏をともに過ごしたエドワウ・マス、そして何より父ジオンと母アストライアに無償かつ無限の愛情を受けて育った幼少期キャスバル・レム・ダイクン。ジオン・ダイクンの子として語ると言いながらもキャスバルの名を出さないのは、既に捨てた過去だからだろうか。しかし、セイラにとって今テレビに映っているのは優しかった「キャスバル兄さん」その人なのだ。

 エゥーゴの一兵卒としてティターンズの悪行を暴く。彼の人となりを知るセイラから見ればまさしく道化だった。

 演説を終えた兄が画面から消え、ダカールからの中継も途絶えた。少しだけ見えた議事堂前でのエゥーゴとティターンズの戦闘、あまり詳しくはないが両軍ともに似た気配のある機体だった。

 あらゆる手を尽くしてダカール行きを試みたセイラだったが、治安維持の名目で都市全体が封鎖されてしまっては手の出しようがない。飛行機のチケットが取れたのは一年あまりが経った頃だった。

 

「滞在目的は? 」

「戦地復興活動、1か月間」

 

 たった一年で勢力図が激変した地球圏。ティターンズが壊滅したのちに正規連邦軍の管轄に戻されたダカールは、今は弱腰の楽観論者たちがアクシズの首魁ハマーンと取引を行うための接待の場と化していた。

 

「ようこそ、ダカールへ。こんなご時世ですが、うちは食べ物も酒も良いものを取り揃えてますよ。より良い活動を行うためにも、まずは腹を満たしてからってね」

 

 これから活動拠点となる難民キャンプでセイラを出迎えたのは、シェイルという若者だった。なるほど、彼の底抜けの明るさは希望を失った人々が細々と暮らすキャンプになくてはならないものだろう。セイラにとっては一番苦手なタイプだったが。

 それから数か月はダカールでのボランティア活動に精を出した。遠目に臨める連邦政府省庁の建造物が取り壊しに遭っているのが気に掛かった他は、特筆するほどのこともない平和な日々。ハマーン一派がネオ・ジオンを名乗っているのだから今も戦争の最中ということになるのだろうが、ホワイトベースに乗っていた一年戦争の頃に比べれば緊張感も逼迫した様子もない。

 

「連邦政府も弱っちまったもんだなぁ」

「あら、何かあったのかしら? 」

 

 自分よりも数週間、長い者は一年ほどダカールに滞在している同僚たちからの愚痴は絶えない。グリプス戦役からこっち、都市郊外にあるダカール基地へのネオ・ジオン艦艇入港が絶えないこと、このスラムにもネオ・ジオン軍人が時折顔を見せて物資を強奪していくこと、そして・・・つい先日ハマーン・カーン自らがダカール入りしたこと。

 

 地球連邦政府首都ダカール。広大な砂漠に囲まれた小さな楽園にして全人類の命運を決める議会が存在する土地。セイラがその市街地を目指した時、そこは戦場と化していた。

 規格外の太さを持ったビームの一射が海を割ったのを皮切りに、四方八方で戦火が煌めく。ビームライフルの弾丸、あるいは戦艦の主砲、そして命が消える爆発の光。一年戦争からこっち、十年近く距離を置いていた戦場の血生臭さに、セイラは目まいを覚えた。

 しかし兄、あるいはシャアという人間を追うのなら避けては通れない道だとわかっていた。むしろ逃げ続けていた、そのツケが回ってきたのだと思った。立ち向かわなければならない、今度こそ。

 都市部へ向かおうと思ったのは、ハマーンとかいうネオ・ジオンのトップが来ているのならあの男もいるのではないかとの直感からだ。正義感という訳ではない、家族愛なんてものでもない。一年戦争で敵として相まみえた時には憎んでいた。ただ、この世界でたった一人残された肉親ならば悩み、痛み苦しむ兄のそばに居てやらなくては何が妹か、と脅迫的ですらある思い込みに突き動かされていただけなのだ。

 そうやって必死に走っていた最中だったのだ。あの懐かしい感覚に、心を捕らわれてしまったのは。

 優しく、純粋で、まだまだ幼い感性を押し殺して悲痛な叫び声を上げる、少年の痛み・・・。

 




ストック使い潰したのでここから文字通りの不定期投稿となります~~(しかしかなり空いてしまった・・・)
プラモ、ゲーム、その他諸々やりたいことが山積みなので、本当にモチベーション次第です。

セイラさん、っていうか1st~後作品でも取り上げられるような宇宙世紀のキーパーソン的な存在ってファンも多いし設定も多いし問題点たくさんあるかもですが・・・
コメントでそっと訂正してもらえると助かります。
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