ガンダムシリーズ短編集   作:イング・ディライド

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枯れて散りゆく愛の花(名瀬編)

 美しい花には刺がある。薔薇の茎に刺があるのは周知のこととしても、美しさというものは何にでも見出だすことができる。建造物に施された装飾、あるいは無骨な中に生まれる機能美。刺と表現するものがあるとすれば、それは人の心を虜にする美しさそのものなのだろう。夢中になれるものを持て、熱中できることを見つけろと人は言うが、あまりにも視界が狭まった人間は身を滅ぼすものだ。

 しかし悲観することはない。植物には種がある。たとえ枯れても、次の命がやがて実を結ぶ。滅びた者の屍を糧として次代が育つ。そうして世代を重ねていく。それが自然の摂理であり、万物に共通する法則にして原則。 

 まだ酒の飲み方も知らねぇ女の味も知らねぇガキだったとしても、自然の中に生きる奴らにそのルールが適用されないはずがない。

 

 鉄華団、決して散らない鉄の花。マナーもルールもなっちゃいない、どうしようもない集団だ。

 初めて会った時の奴らは、突っ張っていた。身の丈を弁えず身の程を知らねぇ、治安なんて言葉を失った火星のスラムによくいる気丈で気の毒なガキどもの集まりだ。戦艦を持ちMSに乗って戦うことなんてまだ知らなくていい年頃の、適当な相手を見つけて恋愛楽しんでタバコだの酒だのちょっとした悪さに憧れる全うな道を歩むべきやつらだ。

 

「子どもの面倒を見るのは大人の役割だろ」

 

 最高にクールな俺の女はそう言った。互いにマトモな人生を踏み外した――いや、この時代にあっては俺たちみたいなのがマトモと言うべきだろう。火星で、圏外圏で、母なる星から切り離されて産まれそして死んでゆく命が憧れる生活はもはや夢物語だ。

 清潔な病院で両親に祝福されながら産まれ落ち、無償の愛を注がれて育ち、恋も火遊びも苦悩も挫折も経験しながら大人になって、酸いも甘いも味わい尽くしたあとで子どもに看取られて穏やかに死んでゆく。

 そんな理想の生活が、夢想の人生がありふれていた時代があったというのだから全く自分の不運を呪わずにはいられない。

 苦しいことばかりの半生とはいえ苦悩や挫折に足を取られたことはない。いつも生死の淵ぎりぎりを綱渡りしている俺たちにそんな生易しいものはないんだ。苦悩ではなく絶望、挫折ではなくただの死。

 そんな世界でこの年まで生き延びてこられた先輩として、柄にもない親心を刺激もされたからだろうか。鉄華団を試してやろうという気になったのは。

 

「ハンマーヘッド、戦闘態勢に入るぞ」

「あいあいさー」

 

 気の抜けた号令が合図になって、ハンマーヘッドに火が入る。

 

「やっちまってください、ダンナ!! 」

「MS隊、発進完了。敵艦もロックできてます」

「各砲座準備OK。いつでも行けるよー」

 

 軽く脅かして退かせるのが最善、敵艦の足を止めて安全に制圧すれば次善。子どもの火遊びとは訳が違うんだ、負けるはずがない。

 

 盛大に負けた。

 侮ってはいなかった、と思いたい。ガンダム・フレームのMSが一機、どうやって手に入れたのか知らないがグレイズが一機。そして旧知の悪友、マルバ・アーケイ所有の強襲装甲艦ウィル・オー・ザ・ウィスプもといイサリビは型落ちの旧式とはいえど戦闘力の高さはお墨付きの高性能艦だ。鉄華団が所有するマシンはことごとく異常なスペックを誇るものたちだ。

 いや、言い訳はするまい。マシンの性能で負けたのではなく、覚悟の違いで負けたのだ。宇宙空間を超高速で進む戦艦から戦艦へMWで飛び移るような離れ業も、格上相手にしがみついてでも足止めする根性も、“百里”の最高速度に食らい付いていく命知らずもみんな俺たちの想像を越えていた。

 ブリッジを制圧されて敗北を突きつけられた時、どこか清々しい思いを抱かずにはいられなかった。

 その時から、俺はアイツらが大のお気に入りになっちまったんだ。テイワズのボスにあんなガキどもを会わせるなんて馬鹿げた行動も、かわいい愛しい俺の女を随伴させてやるなんてこともやったのは何でだろう、今となっちゃ俺自身にも分からない。

 ジャスレイなんて小物に睨まれようが、俺はコイツらの面倒を見てやらなきゃいけない兄貴なんだ。そう思ってた。

 

「最期まで同じとはね、笑えてくる」

「最高に幸せだよ、噛みつきたいくらいに」

 

 もう面倒は見られない。“フラウロス”の輸送に目を付けられてたなんて迂闊だった。もともとダインスレイヴ弾頭を運用するために建造されたガンダム・フレームなのだから、なんとでも言い掛かりがつけられる。イオク・クジャンは頭の回らないクソガキ御曹司と名高い。ジャスレイに唆されて艦隊を動かしたバカには、降伏の信号も見えないらしい。

 最高にイカした俺の女は、最後の最期まで最高にキレていた。危うく惚れちまうところだったぜ、全く。美しい顔もスタイルも鼻をつく匂いも何もかも、すべてが俺を虜にする刺みたいな女だ。ラフタやアジー、エーコたちが劣っているとは思わないが、結局こうして背中を任せられるのは一人だけだ。圧倒的な強さを誇る奴だからこそ心配だの遠慮だのしなくていい。決死の突撃に随伴させられる。

 ブリッジにセンスの欠片もない鉄の棒が突き刺さる。俺の大切な財産にして商売道具、それをこんなぐちゃぐちゃにしやがって。何がギャラルホルンだ、何がセブンスターズだ。アミダはたった一機の新型に足止めされていてハンマーヘッドは丸裸、よっぽど優秀なのがいるらしい。頭から肩から腹から血が抜けていって、少し落ち着いてきた。

 ああ、中途半端だよな、本当に。俺のハーレムはちゃんと逃げてくれたみたいだから、もういいか。鉄華団の奴ら、俺の女たちを任せるに足る最高な男どもがいるしマクマードの親父にも話は通している。犠牲は俺とアミダだけで十分だ。

 

「いいとこ育ちの坊っちゃんが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!! 」

 

 ハンマーヘッドの艦首を敵の艦隊に向ける。旗艦は無理だとしても、1隻くらいは道連れにしないと気が済まない。

 

「自棄を起こして最後の仕事、忘れてんじゃないよ」

 

 アミダの言葉で思い出す。そうだった、あいつらを逃がすためにチャフを撒いておくんだ。もう通信はできなくなる、途端にいとおしくなった自分の女たちを目に焼き付けておこうと意識を向けたとき、「あってはならない」光景を見た。

 獅電、ガンダムフラウロス、そして昭弘・アルトランドのガンダムグシオンリベイクフルシティ。初めてオレから女を奪った、不器用そうでイカした男だ。

 オレは手前勝手すぎたんだな、ようやく分かった。オレはあいつらを巻き込みたくなかったんじゃない、自分の女たちに最後の花舞台を見せたかっただけだ。だけどもう、そんなことはどうだっていい。投げやりになったんじゃない、絶対に次へ繋ぐっていう自分の役目を理解したんだ。「悪かったな、アミダ」目の前で四肢を投げ出した“百錬”に声をかける。「謝るんじゃないよ、アンタらしくもない」自然と笑いがこぼれた。

 

「じゃあ最後のひと仕事、行くぞ」

 

 最高の相棒が息を引き取った気配に気付かないふりをして、ハンマーヘッドの速力を上げた。ブリッジに染み付いた家族の匂いに包まれて、オレは意識を失った。

 

※※

 

 昭弘たちに先行して戻ったライドからの一報が鉄華団を震わせた。

 

「兄貴、すまねぇ」

 

 誰もが汲み取った名瀬の真意を無下にする決断を下したオルガはたった一言だけ、たった一粒だけ涙を流した。三日月たち中心メンバーだけを集めた、自分の部屋で。




鉄血のオルフェンズは個人的に一番好きなガンダムなので(二期後半のゴタゴタはともかく)、ここが長く続くことがあればかなり分量が増えてくると思います。

推しキャラは名瀬さんとユージン、機体はグリムゲルデとルプスレクス。
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