遥か彼方の永劫を超えて   作:とも2199

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遥か彼方の永劫を超えて10 途中下車Part3

 人工冬眠中のタイジは、再び夢の中にいた。

 

 再び、子供の頃に見た同じ夢を見ている。

 次第に鮮明になって来るその記憶は、タイジの心を翻弄した。

 そして、その記憶に至る歴史を、タイジはより深く知るようになる。

 

 二十四世紀には、各国の政府のAIは、地球の限られた資源の限界を超えるエネルギーや物資の供給を実現するため、本格的に宇宙開発を推し進めた。太陽系内で有効活用出来る資源採掘を行い、地球に物資を供給した。これによって、ほぼ無尽蔵とも言える物資の供給が実現し、人々の暮らしはテクノロジーと豊富な物資に支えられ、かつて無い繁栄を享受していた。

 二十五世紀になると、人工子宮による人間の誕生は、世界全体の出生者の九割を超えた。これによって、世界は、イデオロギーの違いをほぼ無くし、遂にはばらばらだった国家が、一つに統一された。

 冷凍卵子と冷凍精子の在庫の管理も厳格化され、AIの分析によって、優秀な遺伝子同士の組み合わせが分類、整理された。AIは、人工子宮の提案をした時から長年研究を続け、この組み合わせと、遺伝子操作によって、更に優秀な優勢人種を生み出そうとしていた。人工子宮で生まれ、AIの教育で育った人々には、それはごく自然なことだった。更に優秀な人々が誕生すれば、より充実した未来が待っているからだ。人々は、その方針に多くが賛同し、実際に遺伝子操作が行われる事になる。

 

 遺伝子操作された人の誕生は、世の中を大きく変えることになった。政府のAIが求める人材は、AIの処理速度に追従出来る、所謂頭脳明な人間だった。人々は、これらの人を指して、新人類と呼ぶようになった。

 そのような人々が登場すると、旧式の人工子宮で誕生した人々の間で、様々な反発が起きた。何故なら、政府を支える閣僚に抜擢される人間は、徐々に新人類に入れ代わり、世界の経営を支える人材も、新人類が担うようになっていったからだ。効率と、利益を享受する事に最大限の努力をしようとするAIの方針を実現するのも、彼ら新人類が担っていた。次第に、旧式の人工子宮で誕生した人々は、淘汰されようとしていた。

 この変化の過程で、過ちを犯す特性を持った古い人間は、旧人類という呼び名が定着していった。彼らの主張は、人が過ちを犯すということこそが、人を人たらしめるものだ、というものだった。文化や文明のブレイクスルーには、こういった、一般的な普通の人々には無い、少しおかしいと言われるような特性を持った人間こそが、歴史を作ってきたと主張し、効率と利益を追い求める新人類との間で、激しい論争が起きた。

 しかし、二十六世紀頃には、世界は完全に新人類へと入れ替わった。そのような議論さえも、その時代には無くなったのである。

 

 一方、二十四世紀頃から政府のAIは、太陽エネルギーを効率良く収集する、ダイソン球構想を提唱した。

 それは、元来のアイデアは、二十世紀から二十一世紀を生きた物理学者のフリーマン・ダイソンが提唱した、太陽を包み込むように巨大な殻の中に入れ、無駄なく全てのエネルギーを集め、地球に供給すると言うものだ。惑星一つが享受する太陽エネルギーは僅かであり、これを受け取る場所を多くすることで、莫大なエネルギーを受け取ることが可能になる。

 来たるべき時代の高度なテクノロジーを支える為に、莫大なエネルギーが不可欠なものになるだろうと、AIは予測していた。しかし、技術的にも殻のように包み込むのが困難だったことから、リング状に太陽を包み込む、ダイソンリングを構築する案が、有力となった。

 

 二十五世紀には、この構想の実験が始まった。他の惑星や衛星から集めた資源を利用して、それらを月面都市で加工し、組み立て、そこからラグランジュポイントに、最初のリングの一部が運び込まれた。

 無線送信によるエネルギー供給も、同時期に実現されていた為、初めてエネルギーを受け取った地球では、実験の成功が伝えられ、人々はこれを熱狂的に歓迎した。

 それから、更に長い年月をかけて、地球上から、原子力発電所や、その他の発電施設は撤去されていった。それらが地球環境にもたらす公害や汚染は、長い年月人類を悩ませていたが、ダイソンリングが構築されてから、ようやく、その問題から解放されたのだ。

 その後、ダイソンリングは、それから千年近い長い年月をかけ、やっと太陽を取り囲めるまでになった。

 

 こうして、人類は、かつて無い繁栄の時代に突入したのである。

 

 タイジは、歴史を俯瞰的になぜ見られるのか、という疑問を持ったが、見たことを考える方が先だと思っていた。

 人類の未来の発展は約束されていて、何も問題が無いようにも思えた。ダイソンリングが崩壊し、人類がゆっくりと死滅していくあの未来の光景は何だったのか。

 地球に住む人類は、高度な文明社会を築いていたが、ダイソンリングが崩壊したことで、エネルギー供給を絶たれ、あらゆるものが、稼働しなくなっていた。

 最初に稼働しなくなったのは、その時代では、巨大な電子頭脳と言えるまで発達したAIだった。AIが、作動しない状態で、人類は、独自の判断を下さなければならなかった。

 旧式の原子力発電所を再建する方法もあったが、それには、それを実現する工場等が、エネルギー供給を絶たれて稼働しなくなっていたことから、すぐには困難な状態だった。そのようにして、手をこまねいている間に、人類は暴動を起こし、食料を奪い合うような野蛮な生活に一気に落ちぶれた。そうしている間にも、終末は迫って来て、それから百年もすると、ゆっくりと人類は死滅して行ったのである。

 

 タイジには、ダイソンリングの崩壊による影響を、何故AIが考えていなかったのか、大いに疑問だった。AIが、この事態を予測していないはずがない。ならば、どうして、このような結末になったのか。

 タイジは、AIが原因とは思えなかった。また、歴史に登場する新人類も含め、文明の発達には、どれも不可欠な要素だったであろう。

 

 そんな時、タイジの思考に、ユミが割込んで来た。

 

「面白いだろ?」

 タイジが、意識を向けると、そこは月面だった。いつの間にか、目の前に、ユミとダニエルが立っている。

「面白いとは、思うがね。それにしても、君に言われた通り、HSPを君に託したが、ちゃんと管理してくれているんだろうな?」

 それには、ダニエルが答えた。

「問題ない。君に干渉したことで歴史が変わって、俺はユミと一緒にHSPを月に持って来た。あれは、うちの会社の地下に設置してある。月面都市は、建替えなどせずに、そこにずっと存在しているから、君のHSPも存在し続けるはずだよ」

「問題は、あれが本当に千年もの長い年月を耐えられるか、ということだ。さすがに、この耐用年数は、実験出来ない。シミュレーション上は問題無いはずだが」

 それには、ユミが回答した。

「大丈夫だって。だって、あたし見てきたから」

 タイジは、ふと疑問を感じた。

「それなら、俺がこれからどうするのかも、未来を知っているって事だな?」

 ユミは、顔をしかめた。

「それがさぁ。わからないんだよね。多分、あんたの今の意識と接触しているからかも。あんたが目覚めるまで、仕方ないから、楽しみはとっておくよ」

 タイジは、少しがっかりした。

「それは残念だよ」

 タイジは、歴史をもう一度振り返り、そこで感じた疑問を、彼らと問答して答えを探すことにした。

「俺は、祖父母が夢見た宇宙旅行を実現する為に、あのHSPを実用化した。しかし、千年経ってもそれは実現しそうもない。どちらかと言えば、人類は外に出るのを止めて、地球に引きこもる事にしたように見える。俺としては、それが納得出来ない。この原因は、AIが人類の営みを効率的に最大限の利益を享受出来るようにした為だ。それが原因で、外宇宙の宇宙探査など、利益にならないし、非効率だと判断された。だからと言って、世界が平和に統一された歴史を鑑みると、AIがやった事が間違っているとも言えない」

 ユミが、思いついたことをぽつりと言った。

「ワープ出来るようになればいいんじゃないの? そうすれば、非効率じゃなくなる」

 タイジは、その疑問にあっさりと回答した。

「実現出来るならな。例えば、ワームホールを人工的に作り出すとか、様々なアイデアが俺が生きていた時代でもあったが、莫大なエネルギーが必要で、どのアイデアも実験すら不可能だ。結局、人工冬眠が、今の人類が出来る唯一の実現方法だ」

 その話を聞いていたユミが言った。

「それってさぁ。ダイソンリングがあっても無理なのか?」

 タイジの思考が、そこで止まった。

「何? 今なんて言った?」

 ユミは、不満そうに言った。

「ちゃんと聞いてろよ。ダイソンリングがあれば、その莫大なエネルギーってのがあるんじゃないの?」

 タイジは、それを聞いて、何か答えがまとまろうとしていた。

 ダニエルが、そこで口を挟んだ。

「もしかしたら、AIは、それを見越していたのか?」

「あたしには、そんな難しいことはわかんないよ」

 タイジは、二人に静かにするように言った。そして、暫く思考を巡らせた。

 

 ・AIは、実は効率的に外宇宙に出る手段を考えていた。

 ・その研究に必要な莫大なエネルギーを得る為に、ダイソンリングを構築した。

 ・ダイソンリングが失われる可能性よりも、これらの実現を最優先で考えていた。

 

 もしも、そうだとしたら?

 AIは、人類の進化を目指していたのではないか?

 人工子宮も、その為のものだった。

 効率と利益を求める基本機能はあるが、もっと大きな目的を果たそうとしていたのではないだろうか。

 この宇宙で、地球で花を咲かせた人類は、次のステップとして、胞子を他の星系に広げるべきだ。海から陸に出て、空を飛び、やがて宇宙ヘ。生命の進化の歴史を考えれば、当然のことで、AIにも、その思考はあったのではないか?

 

 だとすれば、人類が滅びるこの時間軸は、AIが壮大な挑戦をした結果だ。残念ながら、自然現象でダイソンリングが崩壊したことで、失敗に終わったが。

 

 然らば、俺のやるべきことは何か。

 

 そう。失敗を恐れずに、挑戦し続けることを止めさせないことだ。ダイソンリングのようなテクノロジーは、また挑戦すればいい。人類が僅かでも生き残っていれば、またやり直せばいいことだ。

 

 タイジは、ユミとダニエルに向かって言った。

「君たちのお陰で、どうすべきか決まった」

 ダニエルは、心配そうに言った。

「じゃあ、行くのかい?」

「ああ」

 ユミも、少し寂しそうに言った。

「これで、お別れか?」

「そうだな。二人とも、ありがとう」

 そう言うと、次第に意識は、月面を離れ、宙をくるくると回っているような感覚があった。何処かに、二人がいるのを感じたが、次第に遠くなっていった。

 

 タイジが見ていると、人類が火星をテラフォーミングして住もうとしていた。木星の衛星に基地を設けて、資源採掘を行っていた。それらの様子が、手に取るようにわかる。

 かと思えば、タイジの祖父母がまだ若い頃や、もっと昔の江戸の町を生き抜く人々の姿が見えた。

 そう。遠い過去から命が繋がって、それがタイジに繋がり、今、そのバトンを受け取ったのだ。

 そして、次第にゴールが迫っているのも感じた。

 

「だから、お願い。人類を救って……」

 

 何処からともなく聞こえるその声は、目覚めようとするタイジに、最後の願いを伝えていた。

 

続く…




注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開、または公開を予定しています。
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