死のうとしたらTSしてオジサンに助けられる話。   作:潮見ヤシ

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前・中・後編の一話大体4000字前後に分割
TSは中編、オジサンは後編。山なし谷なしのフラットストーリー




 不注意だった。

 気づいた時には一緒に行動していた仲間が死んだ。三人も、一瞬で死体に変わった。二人も生き残ったのは奇跡と言えるかもしれない。

 心だけではなく、体にも消えない傷を残した俺と生き残った一人。しかし、生き残った俺に待っていたのは罵声であった。当然だ、原因は俺にある。俺の不注意で三人を死なせ、一人に重傷を負わせた。そのくせ一番の経験者であった俺が生き残っている。

 もう一人の生き残りは怪我でこの仕事を続けられず、俺だけが残された。

 

 魔物の討伐なんて仕事、独りで出来るものではない。だから組合に所属し隊を組んで事に当たる。

 結局は二十人体勢で討伐された魔物に、別の討伐作戦中遭遇し仲間を死なせた奴と組もうとする奴はそういなかった。警戒区域に不注意で入り込んでしまった俺を褒める要素なんて何一つないだろう。

 だからこそ、ほどなくして俺は組合を抜けた。それほどまでにその失敗は仕事を続ける上、仲間と信頼関係を築く上で致命的なものだった。

 

 少し期待していたのかもしれない。

 組合の中では針の筵のような状態だった。それから解放されるのではないかと。

 けれどもそんなことは決してなく、噂という形で俺は町の人という人から軽蔑の目を向けられ続けた。

 嫌がらせ目的か俺の家に落書きをした人、窓から石を投げ入れてきた人もいた。嫌がらせとしては大成功だ。貯めていた金を借家であるその自宅の修理費用に充てざるを得なかったのだから、懐の温もりと心の安らぎを奪うという機能は十二分に機能していた。

 あまりにも嫌がらせが酷く、大家からも遠回しに言われたこともあり、その家も引き払った。

 ずっと家の維持に金を吸われることを思えば、多少なりとも俺自身の利もあったかもしれないが、それ以降俺は家なしの身となった。

 

 新しい職には就けなかった。

 町に留まっているうちは当然門前払いがほとんどだった。町を離れ、俺の風聞が届かない場所に来ても、まともな職にはありつけない。

 魔物討伐のために鍛えていた自慢の体は、心労と節約のために食を細めていたこともあり、やつれ果てまともな肉体労働さえ満足に出来なくなっていた。

 生きるためにかかる金のことを考えれば、これ以上路銀に充てることは出来ない。

 そんな中でいつしか俺は生きることよりも、いつどのように死ぬかというようなことばかり考えるようになっていた。

 

「オイ知ってるか、『蠱芳の甘果』の見た目がついに分かったってよ!」

「見つかったのか? あの貴族が長年探し回ってるって伝説の果実が?」

「……いや、それはまだらしいな。何でもそれらしき果実を見つけた奴は死んだけど、死ぬ間際に果実について伝え残してた人間がいたらしい」

「かーってことは見つかるのもう時間の問題かよ。ほんのちょっとでもアレの情報掴んだら大金くれたってのに」

「いや、それがそうでもなくてな……」

 

 今日は、そのような話ばかりを聞く。

 組合に所属していた時にもそんな話はよく聞いた。魔物討伐を生業とし、各地に出向くような人間にそのような果実に見覚え聞き覚えはないか、と貴族やその使者が聞きまわっていると。

 普段から上等なものを口にする舌の肥えた貴族が求めるくらいだ、さぞ極上美味な果実なのだろう。寄せられた情報に気前よく大金を払う貴族の姿を見て、そんなことを思っていたくらいだ。

 そうか、その果実がもうすぐ見つかるというのか。むしろ見た目も分からず、その存在を妄信していたと考えると貴族の執念とやらは恐ろしすぎる。一体何が奴らをそうまでさせるのだろうか。

 

 赤と青と緑の丸い実が寄せ集まったような見た目。丸い実は独立しているように見えて全て繋がっている。その実は暗がりでもはっきりと見えるほどに輝いていると。

 

 果たして貴族が故意に流しその所在を明らかにしようとしているのか、それとも噂というものはここまで恐ろしいものなのか。詳しくは知らないものの真相がどちらかはさておき、各地でそのようなことばかり話されている。

 聞いていると、見つけたものには貴族からこれまでと比べ物にならない謝礼が支払われるという。なるほど、それで皆は大きく騒いでいるのか。

 

 金。俺の手元には、限界まで切り詰めてもあと十日ほどの食費しか残っていない。

 働いて金を得るには肉体という資本がいるが、その肉体の準備には金がいる。飯を満足に食わせてくれるなら働ける、なんて言っても雇ってくれるところなんてそうはないだろう。

 つまり再就職の最初に躓いた俺に、後はない。もう残されたのはこの十日分の食費しかないわけだ。

 

 果実を見つけることが出来れば、人生逆転は狙えるだろう。質素な暮らしを心がければ、二世代ほど何もせずに暮らせる金が手に入るのだ。あくまでも質素な暮らしをすれば、だが。

 しかし普通の人間が探して見つからない伝説、幻と称されるような果物が金も力もない奴が見つけられようはずもない。

 

 逃げるように生まれの町を離れ遠くに来たものの、結局何も変わらず仕舞いだった。

 物貰いのように生きる度胸も出来なければ、物盗りとして生きる根性もなかった。あの不注意さえなければ、と何度も夢に見るが、それこそが落ちるところまで落ちた証拠だろう。

 

 俺は金が尽きたその日、巷で聞いた凶暴な魔物とやらの住む洞窟にフラフラとやってきていた。

 

「あの時は、絶対魔物には殺されたくねえって思ったのにな」

 

 幸か不幸か、洞窟に到着するまでは何事もなかった。

 町からはそこまで遠くはないが、人通りはない。すれ違う人間も居なければ、魔物とすらも出会わなかった。本当に凶暴な魔物の住む場所へ向かっているのかと疑いたくなるほどの平和さだった。

 

 諦めのような独り言が踏み入れた洞窟の中にむなしく響く。

 死に直面している訳でもないのに、あの時のこと、初めて組合に所属し魔物を討伐したこと、母が死んだことが走馬灯のように思い起こされる。まるで死を拒絶したあの時のように。

 今の俺と、必死に片足がなくなった仲間を抱え山を下りたあの時の俺。正反対にも程がある。あの時の俺は守るべきものがあった、助けるべきものがあった。死を拒絶した。対して今の俺は。

 懐に手を突っ込むもそこには何もなかった。

 

 洞窟を進む。

 途中、何度も地面の凹凸に躓きながら入り口の光が届かない方へ、足音を洞窟中に響かせながら暗闇の方へ進んでいった。魔物の匂いはするものの、気配はいまだ一切ない。

 やがて、手足も全く見えないほどの暗がりへとたどり着く。目の前に突如現れた洞窟の壁に勢いよく頭をぶつけ、額を切った。

 その時の衝撃で、真実か否か、頭の中にポッと結論が浮かんだ。

 

「ああ、何だ……。凶悪な魔物って、ただの噂か」

 

 魔物の匂いはしたが、きっとここはもうもぬけの殻なのだ。

 第一こんなに暗いところで、夜目が利くとか生者の匂いを嗅ぎ分けるとか言われる魔物でさえ、どうやって生活するというのか。俺たちが知る以上に、魔物が暗黒の中で生きられるというのならどうしようもないが、何だか馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

 よろけるようにして後ろに後ずさり、尻餅をついた。

 バキ。嫌な音が響いた。洞窟の中では一番聞きたくない音だ。魔物が掘ったり食ったりすることで薄くなった岩石に衝撃が加えられた音。

 

「はは、今は一番聞きたい音だったか」

 

 地面の割れる音の後、数秒もしないうちに周囲の足場ごと俺は足元の闇の空間へと転がり落ちていった。

 これで瓦礫に埋もれて終わるのならば、ここに来た意味もあるというものだ。

 

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