The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
――マズい。非常にマズい。俺は頭を抱えて、机に突っ伏していた。
「あー、疲れた。……で、どうしたのよプロデューサー?」
「いや、何でも」
がちゃりとドアを開けて入ってきたのは、ハーマイオニー・グレンジャー。愛称はハーミー。担当しているアイドル……の卵だ。
そう、ハーマイオニー・グレンジャー。あの有名な海外ファンタジーのキャラクターと同じ名前なのだ。しかも、その見た目はそのまま幼い頃のエマ・ワトソン。そのハーマイオニーが、今、日本語で、俺と会話しているのだ。
ゆっくりと顔を上げながら、その辺に置いてあった割り箸を袋から取り出し、ハーミーに手渡す。コンビニで弁当を買ったら、もう一つ余分に付いてきてしまったやつだ。
「ん? 何よ?」
ハーミーは割り箸を受け取ると、訝しむように俺を見る。
「ハーミー、『エクスペクト・パトローナム』って唱えてみてくれ」
「え? 何で?」
「いいから」
訝しむ視線はそのままに、ハーミーはまるで交響楽団を指揮するかのように割り箸を振る。
「エクスペクト・パトローナム!」
……辺りを静寂が包んだ。
「はい、どうも」
「一体何なのよ! なんの呪文なのよ!」
ぷんぷんと怒りながら、ハーミーはパキンと割り箸を二つに割った。おいおい、横に割ったら使えなくなるだろうが。
この世界には『ハリー・ポッター』が存在しない。その為、さっきハーミーに唱えてもらった有名な「守護霊の呪文」も誰一人知らない。……まあ、取り敢えず俺に関わってくる所で言えば、大阪のテーマパークからあのホグワーツ城が無くなっている所だろうか。前世では行けなかったし、軽くショックだ。
「あらハーミー、またプロデューサーさんにからかわれていたの?」
遅れて部屋に入ってきたのは、ダフネ・グリーングラス。未だにぷんすか怒っているハーミーを見て、「ふふっ」と大人の微笑を見せる。
「ダフネ! だって、プロデューサーがよく分からない事をやれって言って――」
「素直にやったのね」
うぐっ、と言葉に詰まるハーミー。ダフネはまるで妹を揶揄うかのようにくすくすと笑う。
……ダフネは一三歳でハーミーは一二歳。学年も年齢も一つしか違わないのに、ダフネが見せるこの大人の余裕は一体何なのか。体つきも下手すると大学生に見えるし。俺の一回目の一三歳など……まあ、推して知るべし、というやつである。あの頃は若かった。
「プロデューサーさん、あと一人は見つかったかしら?」
「うっ」
ハーミーに続き、今度は俺が言葉に詰まる番となった。そんな俺の様子を見て「何よ」とハーミーは詰め寄ってきた。両手の折れた割り箸がむっちゃ怖い。頼むから刺さないでくれよ。
「わたし達二人じゃ不満なの?」
「ちょっと足りないというか、しっくり来なくてな」
少し前の事になるが、事務所の先輩である武内さんがプロデュースする「シンデレラプロジェクト」のメンバーが揃った。その人数は一四人。ここの七倍である。イギリス人の新人ジュニアアイドル二人のユニットでは、どうしてもインパクトに負ける。せめてあと一人は欲しいところだ。
諦めて二人で売り出す方向も考えたが、今西部長から「もう一人ぐらいいたら良さそうだね」と言葉をかけられてしまった。……いやあ、あの笑顔が怖い怖い。
勿論、部長の言いたい事も分かる。今彼女達に用意された曲は、一二歳と一三歳が歌うにしてはいささかクール過ぎるのだ。
「養成所にもしっくり来る子がいなかったしな」
「しっくり来たのがあたし達、でしょ?」
ダフネの言う通り、武内さんの引き抜きが終わった時点でしっくりと来たのが、この二人だったのだ。――二人で完結してしまっている、と言えば完結しているのだが、やっぱり足りない。心のどこかで、何かがつっかえてしまっている。
とは言え、たまたま空いていた資料室をプロジェクトルームとして使わせて貰っている分、結論は早めに出さないといけないのには違いない。
「っと、もうこんな時間か。二人ともそろそろ帰ってたらどうだ」
二人の基礎レッスンが少々長引いたからか、中学生はもう帰路に着いた方が良い頃合いだった。
「……分かったわよ。今日は帰るわ。明日からは、覚えておきなさい」
ハーミーは折った割り箸をゴミ箱の中に突っ込むと、むすりとした顔のまま帰り支度を始める。おう、今日に限らず明日も明後日も普通に帰ってくれよ。
「あたしも帰るわね。それじゃ、お仕事頑張って」
ダフネは微笑みながら手を振ると、鞄を持って部屋から出ていった。育ちの良さが出ているなあ。それを受けてハーミーは「ちょっと、待ってなさいよ!」とばたばた忙しなく出ていった。
うーむ、平和だ。
――――
やはり平和だ。コンビニで買い物をした後の帰り道、公園のベンチに座りながら、辺りの風景を眺める。この後? 残業だよ。
「異世界転生」と聞いて、普通ならばどのような世界に、どのように飛ばされると思うだろうか。……よくあるライトノベルだと、「ファンタジー色が強い世界に、何らかの力を持った状態」で飛ばされるものだろう。
ただ、俺の場合はそうでもない。前世に似通った世界で、特に特殊能力を持っているわけでもなく、のうのうと再びサラリーマンを始めている。特に不満がある訳じゃないが、まあ拍子抜けだ。じゃあ何か陰謀が渦巻いているのかとも思えば、世界情勢は前世に比べると幾分かマイルドになっているような気もするし、不穏な空気も感じられない。紛争の「ふ」の字もないぐらいだ。平和ボケしてねえかこの世界。いや、平和ならそれに越したことはないんだけど。
さて、このように物思いに耽っているのも、何を隠そう、ユニットのもう一人が見つからないからだ。……所謂、現実逃避というやつでしかなく。
「はああああマジでどうしよう……」
夕暮れの公園は、若干閑散としていた。ため息をつきながら黄昏れるには丁度いいだろう。――黄昏れてる場合じゃないけど。
この世界の人々の容姿水準は、前世のそれに比べて無茶苦茶高い。それに加えて、まるでマンガやアニメのような派手な髪の色や目の色でも、この世界にとっては日常らしい。上の方の従妹の時なんざびっくりした。ピンク色の地毛にカラコン無しの金色の瞳なんて、前世じゃ見ねーぞそんなの。
まあ兎に角何が言いたいかというと、見た目だけで一般人をスカウトするのは難しい、という事だ。俺からしてみれば、皆が美男美女である故に、である。……普通の仕事なら特に問題がある訳じゃないが、如何せん今の仕事は芸能関係である。
玉石混交の中から玉を見つけるのは容易いが、玉しかない袋の中からより良い玉を手探りで見つけるのは至難の業なのだ。
赤羽根さんは確か、「ウチの社長風に言えば、『ティンと来る』んだよ」と話していた。いや、言いたい事は分かる。分かるが、つまりそれは「人事尽くして天命を待つ」という事に他ならない。人事は尽くしたとは言え、待ってる場合ではないのだが。
「どうしたもんかなあ……」
春には似つかわしくない、冷たい風がよぎった。
――――
緑色―――――、目の―――――――。その途端、―――――――暗くなっていく。
――――――――聞こえてくるのは、――――――叫び声。まるで、――――――だった。
「……………………?」
――――――――視界。そのまま―――――のように、――――――も、自分を置いていく。
しかし、その時に、しかと聞いて、見たのだ。
「…………?」
まるで―――――――。
「おい、ちょっ…………、大丈…………!?」
―――――――――――。
「おい、大丈夫か!? ちょっと、おい!」
――声が聞こえてくると同時に、激しい頭痛が徐々に消えていく。まるで、長い長い悪夢を見ていたかのように。
――――
ベンチに座らせた少女に、自販機で買った、小さめの温かい紅茶のペットボトルを手渡す。
「ありがとうございます」
真っ青だった少女の顔も、今は幾らか生気を取り戻しているようだ。
「どう? 少しは落ち着いた?」
俺の言葉に「はい」と短く答え、少女はペットボトルの蓋を開ける。彼女が中身を口に含んだのを見届けた後、俺も立ったまま缶コーヒーのプルタブを開け、中身を呷った。ブラックの苦味が口内に広がる。
「わざわざすみません」
「いいって。気にする事ないって」
ふらふらと公園の中に入ってきたと思えば、突然頭を抱えて座り込んだのだ。助けない訳にはいかない。救急車を呼ぶ事態ではなかった事が幸いか。あと、武内さんみたいに警察を呼ばれるような事態にもならなくて良かった。
しかしまあ、この子もこの子でこの世界の例に漏れず美少女だ。茶色がかった赤い髪は肩の辺りまで伸ばしており、夕日に照らされてオレンジ色に輝いていた。
黒縁でラウンド型のシンプルな眼鏡を掛けているが、それでは隠しきれないぐらいに優れた容姿をしている。その眼鏡の奥では薄い茶色の瞳が揺れており、白い肌も相まって儚い印象が何処と無く感じられる。制服を着ていることから、女子高生である事は何となく察することが出来た。
――おそらく外国人だろう。しかしそれにしては、日本語が上手い……と言うのは少しアレか。日本語の上手い外国人の知り合いが多すぎる。この世界では、日本語は標準語なのだろうか。……いや、やっぱりそんな事ないな。
(……どうしようか)
直感では「ティンと来た」。本能が「この子をスカウトしろ」とやかましい。それを押さえつける理性は「穏便にスカウトの話を切り出せ」と諭し……あれ? スカウトする流れになってね?
「――あの」
一人で悶々と考えている時間は、少女の一声で一旦休止する事にしよう。
「お仕事は、何をされているんですか」
お見合いかよ。女子高生とお見合いとか、犯罪もいい所じゃねーか。
「ぺーぺーのサラリーマンだよ。ほら、スーツ着てるから分かると思うけど」
「えっ、だったら会社に戻らなくていいんですか!? あ、でも定時って事も……」
直球が過ぎる。確かにそうだけどもさ。
「今は、まあ、スカウトの途中だからね」
嘘は言ってない。良さそうな子がいたらスカウトするつもりだったし。ホントだよ。
「スカ、ウト……?」
うーむ、やはり警戒するような目付きになってしまった。――名刺を持ってて正解だったな。スーツから名刺入れを取り出し、少女に名刺を手渡す。
「346プロダクション、アイドル事業部でプロデューサーをやっている、城戸進ノ介です」
少女は目を白黒させながら、俺の名刺をおずおずと受け取った。
「346プロって、あの?」
「その346プロだよ」
346プロの知名度は、アイドル事業部が出来てから急速に高まりつつある。元から俳優やモデルに音楽、映画など大手芸能事務所として手広い事業を行なっていたのだが、アイドル事業部だけは――アイドルが芸能界で重宝されているこの世界にしては――不思議となかった。意外にも、アイドル事業部ができる前の346プロの評価は「縁の下の力持ち」だった。
今となっては「高垣楓が所属している」とか言えば、普段テレビを見ないような女子高生でも、ほぼ全員が分かるような知名度ではあるが。
少女は名刺の裏を凝視したり、橙色が強くなった夕日に透かしたりしている。……そんな事しても何も起きないんだけどな。やがて、俺が見ている事に気付いた彼女は、慌てて名刺をブレザーのポケットにしまう。
「す、すみません、お時間を取らせて」
「いいっていいって。――さて、本題に入っちゃうけど、いいかな?」
――賭けるぜ、俺は。
「アイドルに、興味ない?」
■ハーマイオニー・グレンジャー
ハリポタ二次創作だとハリーと結構くっついている印象があったりする。
個人的にはハリポタ二次創作表の女王って感じ。
年齢は個人的な好みでセレクト。
正直いちいち「ハーマイオニー」と他キャラに呼ばせるのもあれなので、多分「ハーミー」呼びを多用すると思う。
■ダフネ・グリーングラス
ハーマイオニーがハリポタ二次創作表の女王なら、この子は裏の女王って印象。
スリザリンが絡むと割と出てくる気がする。
原作では名前だけの登場だった気がする(うろ覚え)
何か喋らせたらセクシーな感じになり、「まあこれでいっか」となった。
■城戸進ノ介
「346プロダクションという『城』の門『戸』を叩く少女達が、己の道を『進』むのを『介』ける」……といった思いで付けたわけではない。
とある作品の主人公名をユナイトベントしてカキマゼールした結果こうなった。
クロスオーバーとはいえ世界観はガッツリとアイマスのものを使用しているので、微妙な違和感があるかもしれません。
それでも読み続けてもらえたら幸いです。