The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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ライブ描写は難しいですね。


第10話 How about our stage(1)

 遂に、この日がやって来た。今日は、E.G.G.Sがアイドルとして本格的な第一歩を踏み出す日である。

 

「……緊張するな」

 

「どうしてプロデューサーが緊張しているのよ……」

 

 落ち着かない俺を、ハーミーがたしなめた。

 

 そう、今日はE.G.G.Sのデビューライブである。とは言え、その規模は大きなものでは無い。そもそも、ショッピングモールの中庭ステージで行なわれる、セクシーギルティのミニライブにちょっとだけ顔を出す程度ではあるのだが、それでも不安なものは不安である。

 

「どう、皆行けそう?」

 

 片桐さんが三人に声を掛けてきた。

 

「あたし達は問題ないけど、プロデューサーさんが緊張しているみたい」

 

「じゃあ問題なし、って事ね!」

 

 片桐さんはぐっと親指を上げた。

 

「……皆問題ないならいいさ。エバンスさんも、大丈夫だよな?」

 

 エバンスさんはこくりと頷く。

 

「はい、プロデューサーのアイディアで、何とかなりました」

 

「……そっか」

 

 役に立てたようで何よりだ。

 

――――

 

「エバンスさんの歌詞の覚え方について、いい方法を思い付いた。――協力して欲しい」

 

 プロデューサーはそう言うと、にっと頬を緩めた。ちらりと八重歯が見える。

 

「協力って言ったって、何をすればいいのよ?」

 

 ハーマイオニーが彼に訊く。

 

「ダフネ、エバンスさんはいつ『Union-jAck』の歌詞を覚え始めた?」

 

 ダフネは腕を組み、思い出していくように言う。

 

「……確か、振り付けと歌を合わせていった時ぐらいからね。取り敢えず、歌詞の覚えについては置いておく事にして、あたしとハーミーのペースに一旦合わせる事にしたのよ」

 

 「ね、ハーミー」とダフネがハーマイオニーに確認すると、彼女は頷いた後にプロデューサーの顔色を伺う。

 

「……ああ、そっか!」

 

 片桐が気付いたように手を打ち鳴らす。

 

「むむむ、分からないです……」

 

 頭を抱える堀と、未だに釈然としていない及川を無視するように、プロデューサーは言う。

 

「そうだよ片桐さん、寧ろそうするべきだったんだ。エバンスさんは、振り付けの覚えがとても早い」

 

 プロデューサーはつかつかとオーディオ機器の元に歩み寄る。

 

「つまり、歌も振り付けの一部として覚えることが出来るなら、自然と歌えるようになる筈だ」

 

 皆が顔を見合わせる中、「でも」と異を唱えたのはハーマイオニーだ。

 

「もし、上手くいかなかったら?」

 

「忘れたのかハーミー、もう前例があるじゃないか」

 

 それに、と言葉を続けたのは、彼ではなく片桐だった。

 

「賭けてみましょう。面白くなってきたじゃない」

 

 彼女は、じっとハリエットを見据える。

 

「どうかしら? 試してみる価値はあると思うけど」

 

 ハリエットは暫し目を瞑り、考え込む。――答えは決まりきっていた。

 

「やります。やらせて下さい、プロデューサー。……ぼくも、賭けてみたいです」

 

 それじゃ決まりだな、と彼は頷き、オーディオ機器から「お願いシンデレラ」を再生させる。

 

「早速始めよう。善は急げ、だからな」

 

――――

 

 そろそろ始まる頃合だ。既にスタンバイしている六人を尻目に、ふうとため息をつく。

 

「まるで父親みたいじゃないか、城戸くん」

 

 声を掛けてきたのは、セクシーギルティのプロデューサーである五代さんだった。

 

「ははは、そうかもしれませんね。上手くやってくれるか心配で」

 

 彼の言葉に苦笑いしながら、E.G.G.Sの三人を見る。エバンスさんは白色、ハーミーは赤色、ダフネは青色。「Union-jAck」のタイトル通り、イギリス国旗と同じカラー三色の衣装だ。パンツスタイルの衣装は、サビの激しめな振り付けでも動きを邪魔する事はないだろう。

 

「ここまで来たら、プロデューサーは信じることしか出来ないさ。オレ達はプロデューサーだから、な?」

 

「……ええ、そうですね」

 

 時間だ。セクシーギルティの三人がステージに上がる。三人の姿が見えるや否や、観客席からは歓声が上がる。先の定例ライブに出る事が出来なかったとはいえ、彼女達も充分に人気アイドルである。

 

『バキューン! セクシーギルティよー!』

 

 片桐さんの一声で、歓声は更に大きくなった。

 

『よろしくお願いします〜』

 

 及川さんが手を振りながら周りを見渡す。……ううむ、デカい。

 

『おっと! テレパシーが届きましたよ!』

 

 堀がどこからともなくスプーンを取り出し、キョロキョロと辺りを見る。……テレパシーにスプーンは必要ないと思うのだが、キャラ作りだろうか。

 

『何でも、今日はアイドルの卵が来ているみたいです!』

 

 おおっ、と観衆がどよめく。イベントの詳細には書いてなかったことなので、正にサプライズゲストという訳だ。――それにしては、まだまだひよっこ過ぎるが。

 

『だったら、早く呼んでみましょう〜』

 

『そうね、早く会ってみたいわ。皆もそうでしょ?』

 

 片桐さんの呼び掛けに、観客は歓声と拍手で応じる。

 

『それでは、E.G.G.Sの皆さんです! どうぞ!』

 

 拍手が鳴り止まぬ中、俺の担当三人がいそいそとステージに上がった。三人がステージに上がるや否や、拍手のボルテージが一段と上がった気がする。よし、第一印象は良さげだ。

 

『み、皆さん、初めまして!』

 

 エバンスさんの挨拶に、観客が沸き立つ。アウェー感どうの以前に、歓迎ムードだ。これは嬉しい。

 

『わたし達、E.G.G.Sよ!』

 

『これからよろしくね?』

 

 ハーミーとダフネの言葉に、再び拍手が鳴った。――やはり、先輩アイドルの威光は大きい。新人アイドルのみでは、この盛り上がりはなかっただろう。小規模とはいえ、会場のボルテージが既に最高潮に達している。

 

『本当に卵なんですね〜』

 

 及川さんの感心しきった言葉に、観客席からは笑いが漏れる。……むしろ、オープニングトークの方を合わせていったのだが、まあそこは置いといて。

 

『こうしてステージに出てきたってことは、勿論?』

 

 はい、とエバンスさんが頷き、ハーミーが言葉を続ける。

 

『わたし達の曲、聴いてもらえるかしら?』

 

 ステージ的にはセクシーギルティに投げかけた言葉だが、それは同時に観客に掛けられた言葉でもある。

 

『良いわね! 聴かせてくれるかしら?』

 

『むむむっ! いい曲の予感がします!』

 

『楽しみです〜』

 

 観客も、セクシーギルティに賛同するような声を上げた。

 

『――それで、曲のタイトルだけど』

 

『あら、あたし達の衣装を見たら分かるんじゃないかしら?』

 

 ダフネ、それはどうかと思うぞ。その三色の要素なんて、色んな所で使われているし。

 

『そ、それだけじゃ分からないんじゃないかな?』

 

『そうよ! せめて、三人ともイギリス生まれって事を言わないと!』

 

 セクシーギルティはいつの間にかはけていた。

 

「城戸プロデューサー、曲が終わったら自己紹介させるべきじゃない?」

 

 一先ずステージから降りた片桐さんが、俺に耳打ちする。……確かに、三人の今のトークではユニット名しか言っていなかった。

 

「片桐さん、曲が終わったらフォローしてくれますか?」

 

「ええ、勿論。先輩アイドルなんだから、ね?」

 

 お願いします、と軽く頭を下げる。

 

『今からわたし達のファンになってもらうから、覚悟しなさい!』

 

 おおっとハーミー、ステージの上でも強気だな。

 

「……言うじゃないか」

 

 五代さんは、にやりと笑いながら俺の方を向く。

 

「打ち合わせには無かった台詞なんですけどね」

 

 上等だ。先輩アイドルから、ファンをかっさらってみせろ。

 

『E.G.G.Sで――』

 

 エバンスさんは一旦言葉を切り、深く息を吸った。

 

『――Union-jAck』

 

――――

 

 それは、衝撃だった。

 

「おーい、早く行くぞー」

 

 兄が声を掛けてくるが、私は足を縫い付けられたかのようにその場から動く事が出来なかった。

 

「……何だよ。……お、アイドルか?」

 

 ほー、と兄は物珍しそうな顔で中庭のステージを眺める。ステージでパフォーマンスをしているのは、私とそう年齢が変わらない女の子達だ。

 

「お兄ちゃん。今日って何か、イベントやってた?」

 

 どれどれ、と兄はスマートフォンを操作し、このショッピングモールのサイトを開く。

 

「……セクシーギルティってユニットのミニライブらしいな。こういう所でも営業するんだな、日本のアイドルって」

 

「……違う」

 

「何がだよ?」

 

 私は自分のスマートフォンを操作し、セクシーギルティのファンサイトを開く。夜をイメージしたような暗い色調に、ネオン管で象ったようなフォントが踊るサイトだ。ページの上半分を占拠するように、ユニットの三人がポーズを決めている。

 

「ほら見て! 全然違うじゃない!」

 

 兄は私のスマートフォンとステージを交互に見比べ、「確かに」と一人呟く。

 

「滅茶苦茶おっぱいデカい人がいないもんな」

 

 ……満面の笑みを浮かべる兄の顔が何だかムカついたので、脛を思い切り蹴ってやった。

 

「いぃぃぃっってぇ! いや待てよ、目がいくだろ普通!」

 

 確かにそうなのだが、何だかムカついたからしょうがないのだ。うん、しょうがない。

 

「っ、つつっ、ってぇ……。……そうか、新人かあ」

 

 兄は感慨深そうに、再びステージを眺める。俳優としてある程度キャリアがある分、思うところがあるのだろう。

 

「あの子、凄いよね?」

 

 私は、眼鏡を掛けた子を指さす。純白の衣装に身を包んだ彼女は、他の二人を圧倒せんとばかりの踊りを見せていた。

 

「ありゃ相当じゃないの? ダンスだけで食っていけるぜ」

 

 日本のアイドルはレベルがたけーなぁ、とのんびりした口調である。

 

「三人とも外国人っぽくない?」

 

「……言われてみれば確かに」

 

 俄然、興味が湧いてきた。日本でデビューする外国人だけのアイドルなんて、珍しいじゃない。

 

「ちょっと見ていきましょ、お兄ちゃん!」

 

「馬鹿、僕はそろそろ休みたい……ってえ! 脛二回目! 二回目だから!」

 

 荷物持ちが文句言わない。兄の腕を引っ掴み、中庭の方へと進んで行った。

 

――――

 

 持ち曲が終わった。新人とは思えないようなパフォーマンスを見せた三人に、ボルテージが上がったような歓声と拍手が鳴り響いた。――よし、第一関門突破だ。

 

『いやー凄い! 凄かったよ三人とも!』

 

 再びステージに上がったのはセクシーギルティの面々だ。

 

『皆さん、E.G.G.Sの三人にもう一度拍手をお願いします〜』

 

 及川さんの呼び掛けに応じたような拍手が鳴る。

 

『やっぱりこんな凄いステージを見せてもらったら、名前気になるじゃない?』

 

『そうですね! 私のサイキックパワーでも、名前はわかりませんでした!』

 

 堀はちょくちょくサイキックネタをぶち込んでくるな。前世のアイドルより「なんでもあり感」があるとはいえ、ここまで行くとは。

 

『それじゃあ、お名前をお願いします〜』

 

 E.G.G.Sの三人は顔を見合わせる。右手を上げたのはダフネだ。

 

『ダフネ・グリーングラス。こう見えても一三歳よ? これからよろしくね』

 

 ダフネはちらりと横のハーミーを見る。

 

『ハーマイオニー・グレンジャーよ! ハーミーでいいわ! ちゃーんと覚えて!』

 

 最後はエバンスさんだ。

 

『ハリエット・エバンスです! ……えっと、このライブの後も、よろしくお願いします!』




■いい方法
「振付と一緒に歌詞も覚えてしまおう」という力業。振付がない場合はどうするんですかね(他人事)


■謎の兄妹
真っ赤なアイツら。
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