The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
観客に手を振りながら、E.G.G.Sの三人はこちら側に降りてきた。
「凄いわプロデューサー! わたし達、本当にアイドルになったのね!」
ハーミーが興奮しきりに言う。
「そうね。ハーミーの言う通り、やっと実感出来た感じよ」
ダフネはハーミーの言葉に頷き、こちらに向かって微笑む。
「ぼくは……ぼくはむしろ、夢を見ているみたいで……」
エバンスさんの言葉に、ハーミーとダフネはふふっと笑う。
「何処かの誰かさんが、ずっと焦らしてたから。あたしとハーミーは感傷に浸っちゃうわね」
ダフネもなかなか、意地悪な事を言うなあ。
「ああ。本当に悪かった。でもこうして、満点のステージが出来たんだ。俺は誇らしいよ」
おいおい、と口を挟んで来たのは、五代さんだ。
「まだまだ終わってないぜ」
……そりゃそうだ。彼にとってみれば、これからが本番だ。
『皆ー! E.G.G.Sのファンになっちゃった?』
片桐さんの問いかけに、観客は歓声を以て応じる。
『むむむっ! 皆さん、今度は私達のステージですよ!』
『一生懸命歌います〜』
『だから――』
片桐さんが、ちらりとこちらを見た気がした。
『あの子達のファンになった人達も、もう一度私達のファンになりなさい?』
……成程。言うじゃないか。
「ふうん、片桐さんって意外とビッグマウスじゃない」
「お前が言うかハーミー」
――――
兄は「おおっ!?」だったり「うわぁお」だったりと、圧倒されたような感嘆を漏らす。主に及川雫を見て。
「お兄ちゃん、サイテー」
「仕方ないだろ! あんなの、見るなって言う方が酷だ!」
……確かに、周りの男性陣は及川雫を見ているような気がする。と言うよりか、ショッピングモールのミニライブのはずなのに、家族連れの観客がほとんどいない。熱心なアイドルファンが、ここに足を運んだみたいな。
「いやあ、凄いなあ。実際にこうして見ると、やっぱりパワーを感じるな」
間奏中、兄がしみじみとした調子で言う。何を言っているんだか。
「胸しか見てなかったくせに」
「んなっ、んな事ないって! きっちりライブも見てたって!」
さあ、どうだろうね。演技はそこそこなのに、嘘は下手っぴなんだから。
「しっかし、あの子達からしてみたら、滅茶苦茶アウェーじゃないか。こんな中でよくやったもんだよ」
突然、兄の顔が真面目っぽいものになったかと思うと、これまた真面目っぽい事を言い出す。
「アウェー? 盛り上がっているじゃない?」
「だからこそだよ」
よく分からないが、兄はこくこくと分かっているように頷き続ける。
「何だったっけか。……E.G.G.S?」
「うん、確かそうだったはず」
「成程成程」
にっと兄は笑う。
「こりゃ僕も、うかうかしてられないかもな」
その表情は、頼りない兄のものというよりかは、テレビのインタビュー等でたまに見る、俳優としての顔だった。
「胸見ながら言わないでよ」
「だっかっらっ! そればっか見てる訳じゃないって!」
ほーら、やっぱり見てるじゃない。何となくムカついて、足を踏みつけてやった。
「いぃぃっっったあ! かかとぉ! かかとめり込んでる!」
知らないわよそんなの。
――――
圧倒されているのだろうか。メイクを直している時も、三人はずっと黙ったままだった。
「やっぱり、凄いわ」
漏らすように呟いたのは、ダフネだ。
「凄いわ、確かに」
「分かってはいましたけど」
他の二人も、ダフネに続いて感嘆を漏らす。……うーむ、こりゃいかんか?
E.G.G.Sの三人には、この後「お願いシンデレラ」が控えている。プレッシャーがのしかかって、失敗をしてしまわなければいいのだが。
三人とも、動悸を抑えるように胸の辺りに手を置く。
「あのサイズは真似出来ないわ……!」
「無茶よあんなに育つなんて……!」
「ぼくはもう、間に合いそうにないよ……」
――なんだそりゃ。
「及川さんにばかり目が行くけど、片桐さんも大概よ」
「そうね……。あの身長にあのサイズだから、相当のものね」
「牛乳毎日飲めば追いつくかな……無理かも……」
「おい、聞こえてるからな」
俺が声をかけると、メイク直しがほぼ終わった三人が一斉に振り向く。
「スケベ野郎!」
「見損なったわ、プロデューサーさん」
「聞かないで下さい!」
つれえ。分かっちゃいたけどつれえ。五代さんが俺の肩にポンと手を置きながら、ため息をつく。
「オレも目のやり場に困るからさあ。同じ女性だと仕方ないんじゃないかなあ」
「そ、そうですね……」
男二人、しみじみとしてしまった。五代さんも大変だなあ。
――――
さて、最後の全体曲だ。セクシーギルティの三人には連続でステージに立ってもらう事になる。大変だろうなあと思っていたのだが、「彼女達が望んだ事だから、心配する必要が無い」と五代さん。
「キツいのを承知でやると言ったんだ。本当に、お人好しなヤツらだよ」
文句をつらつらと述べているが、その顔は何処か嬉しそうである。
「まあ、E.G.G.Sの三人もいずれそうなる事を願っておきますよ」
「ははは、さっさとそうなってくれよ」
ステージの上の堀が『またまた、E.G.G.Sの皆さんでーす!』と観客たちに言うと、E.G.G.Sの三人は再びステージに上がっていった。
「そういえば、シンデレラプロジェクトってどうなっているんだ?」
不意に、五代さんがそんな事を訊いてきた。
「えっ? どうして俺に訊くんですか?」
「いや城戸くんさ、シンデレラプロジェクトのメンバーに従妹がいるんだろ?」
辺りに言いふらしている訳じゃないのに、何故か広まっている。誰だよ広めたやつは。
「従妹はいますけど、あいにく何も入ってきませんよ。最近は彼女達の営業もありますから」
特に何も聞いていないが、向こうからも――特に莉嘉から相談事を持ち込まれている訳では無い。便りのないのはいい便り、といった具合だろうか。
「そうかあ。……オレも小耳に挟んだだけで詳しいことは分からないけど、最初にデビューするのは一組だけだったみたいだぜ」
「そうなんですか? 初耳ですね」
彼の話によると、この前の三人娘のユニットはもう少し後にデビューする予定だった。つまり、当初は女子大生とロシア人ハーフの二人組ユニットが単独でデビューする事になっていた、との事だ。
「最初はE.G.G.Sみたいに、別のユニットの前座としてライブに参加するつもりだったらしいんだが、事情が変わったとか」
「事情が変わった?」
五代さんは、ため息をつきながら答える。
「いくら何でも、五人という多さで、なおかつ別ユニットを前座にする訳にはいかないだろう?」
「……そうですね」
正直、一度に紹介してしまってはしっちゃかめっちゃかになるだろう。ただでさえよく知らないのに、「私達とこの人達は別のユニットです」なんて言われても、しっくりとこない。更には、先輩アイドルユニットとその五人で、どちらが主役なのかが分からなくなってしまう。結局は先輩アイドルのライブなのだから、主役は先輩アイドルユニットに譲る必要があるのだ。――今回のE.G.G.Sの場合は、向こうの厚意があっての事である。
……俺としては、二組をそれぞれ別の先輩ユニットの前座にすればいい話であるとは思うのだが。どうしてこう、346は力技を押し切る人が多いのだろうか。
「そういうわけか、新人アイドルのみでミニライブをする事になったらしい」
「ええ!? そんな無茶な」
正気か? そもそも新人アイドルを前座に据える意味を忘れちゃいないか!?
まず、そもそもの目的として「顔見せ」というのがある。仮にデビューしても、人の目に映ることがなければ意味が全く無い。言い方は悪いかもしれないが、先輩アイドルという「客寄せパンダ」を利用して、そのファンを中心に知名度を広めていく。
ゼロからイチを作るのは至難の技である。そのため、別のイチをこちらのイチにもする、というやり方を使うのだ。
第二に、先輩アイドルユニットがいるメリットが多い、という事もある。仮に前座の新人アイドルがステージ上でヘマをやらかしても、先輩アイドルがフォローを入れるだろう。また、場馴れしていない新人のトークを広げ、盛り上げる役割もある。
最後に、今後の成長への足がかりになりやすい、というのもある。先輩アイドルがどのように観客を魅了しているのか、自分では何を武器に出来るのかを分析していける。ステージを終えた後でも、先輩アイドルから様々なアドバイスを受けることが出来るのは大きい。おそらく、プロデューサーの視点では気付かないような事もあるだろう。勿論、ステージを始める前にアドバイスを受けることも出来る。
「客寄せパンダ」と「ミスした場合の保険」、「今後の目標設定」。俺が思いつく限りでも、先輩アイドルがいる場合の利点はかなり大きなものだ。……それを、一切合切捨てる意味が見い出せない。
「そもそも誰が言い出したんですか、そんな事」
「……今西部長じゃないか?」
「うわ出た」
考えるよりも先に、声が出てきてしまった。あの人は本当に何を考えているのか分からない。
「武内さんは……まあ引き受けたんでしょうね」
「あの人、部長には頭が上がらないからなあ」
346に所属するアイドルのプロデューサーだったら、誰も頭が上がらないとは思うのだが。
「城戸くんの言う通り、かなりの無茶だ。二人組の方はともかく、三人組の方は所属してから日が浅い」
あの三人組に関して言えば、大きな場でバックダンサーとして、ステージデビューを既に終わらせた実績もある。おそらく、武内さんはその事も考慮したのだろう。
「間に合うといいですね」
「全くだ。……武内さんに限って、大きな失敗はないと思いたいが」
まあ武内さんだし。何だかんだで間に合わせるだろう。
「そろそろ終わるな」
五代さんと話し込んでいたら、いつの間にか全体曲も終わっていたらしい。ステージの上では、セクシーギルティとE.G.G.Sの六人が中央に寄り集まってポーズを決めていた。音源の再生が終わるとすぐ、爆発するような歓声が上がってきた。
『皆ー! 今日はありがとう!』
『サイキック感謝です!』
『また会いましょうね〜』
『これからも、E.G.G.Sをよろしくお願いします!』
『わたし達の事、ちゃんと覚えていなさい!』
『SNSで広めちゃってね?』
六人は観客に手を大きく振りながら、こちら側に降りてきた。
「お疲れさん。今日も成功だ」
五代さんが自分の担当アイドル達に声をかけると、片桐さんは目を輝かせる。
「じゃあ、ぱーっと飲みましょ! もちろん、プロデューサー込みで!」
「おいおい、オレは財布か」
「サイキックメッシーくんです!」
「おい誰だそんな言葉を裕子に教えたやつはぁ!」
……向こうは向こうで、そこそこにリラックスしているらしいな。
「プロデューサー、わたし達には何も無い訳?」
ハーミーが頬を膨らませながら詰め寄ってくる。頬をつついてやると、「ぷひゅー」と間抜けな音を立てながら、彼女の口から息が漏れた。
「何なのよ!」
「新人としては大成功だ。ただまあ、もっとトークを磨いていかなきゃな」
「あら、それは残念。何とかしなくちゃね」
正直、セクシーギルティとの一問一答といった形になってしまったのは良くない。近いうちにラジオ番組への出演もある事だし、自分達でトークを広げる事が出来るようになって欲しい。
「真面目な話、今回の観客は目が肥えたファンが多かった。セクシーギルティ自体の追っかけみたいな連中だな。……そいつらを沸かせたんだ。自信持ってけよ」
片桐さんも、そういった客が多いことを理解しての立ち回りだった。実際、ライブ中は異様な熱気だったしな。
「……はい!」
エバンスさんが満面の笑みを見せる。
「分かってるわ!」
ハーミーは腕を組み、胸を張る。
「過信は禁物よ?」
ダフネが二人をたしなめるように言った。
――デビューライブは、大成功だ。
■新人のみのミニライブ
ライブをやった場所も考えると、結構無茶苦茶な気がしたのでこのような設定に。
どのようにシンデレラプロジェクトと絡ませるかいまだに考えています。