The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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そろそろあの問題が起きます。


第12話 How about their stage(1)

 五月も終わりが近付いて来た。梅雨に差し掛かるこの時期、地下に位置するE.G.G.Sのプロジェクトルームでは筆記用具の音が鳴り響く。

 

「うう、分からない……」

 

 エバンスさんが弱音を吐きながら参考書と睨めっこする。そう、テストである。中間テストだ。

 

「分からなかったら、キッチリと学校の先生に教えて貰え。『アイドルだから勉強出来ないです』は言い訳にならんからな」

 

 俺が会議の資料を読み直しながらエバンスさんに声を掛けると、ハーミーがむっとしたような感じで言ってくる。

 

「テストがないご身分はいいわね。こうして、直前の勉強でバタバタしないで済むもの」

 

 バッカお前、俺は人の二倍は定期テストがあったんだぞ。転生してるんだから。

 

「あまり参考にならないと思うけど、プロデューサーさんの勉強方法を教えてくれない?」

 

 ダフネは問題集の自己採点を終えると、こちらに顔を向けて訊いてきた。成程、俺の勉強方法か。

 

「そりゃもう、普段から真面目にコツコツと、予習復習を続ける事だよ」

 

「身も蓋もないですねそれ……」

 

 とはいえ、それが一番良い事に変わりはない。

 

「後、余裕があるなら先の内容を把握しておくとか」

 

「よく言うわ」

 

 ハーミーがため息をつきながら、教科書をめくる。いやいや、結構大事だぞ。

 

 何せ俺の場合は、二回目の小学生時代は暇だったのだ。流石に暇過ぎて、中学高校の内容を「復習」したぐらいである。小学校の内容は兎も角として、中学高校の内容には抜けが多かったのもある。早め早めに復習を繰り返したお陰で、転生前よりも偏差値は高くなった。「勉学に王道なし」といった名言は伊達じゃない。

 

「そもそも、だったらプロデューサーが教えなさいよ」

 

 ハーミーが口を尖らせて言う。その言葉に真っ先に反応したのは、何故かエバンスさんだった。

 

「プロデューサー、教えてください! お願いします!」

 

「ええ……? 俺にも仕事があるんだけど」

 

 しかし、丁度資料は読み終わった。ここで無下にするのも、少しばかり後味が悪い。どれどれ、五教科のどれかなら少し見てやってもいいか。

 

「……って、全部かよ!」

 

 エバンスさんの目の前にずらりと並んでいるのは、英語以外の全ての科目の教科書と参考書だった。ええ……マジですか……。

 

「意外よね。エバンスさん、勉強出来そうだし」

 

 ……ダフネの言う通り、ラウンド型の眼鏡のせいでエバンスさんは頭が良さそうに見える。

 

「えええマジか……。その中でも、何処が分からないとかある?」

 

「全部です」

 

「全部ぅ!?」

 

 分からない所も分からないのかよ! こりゃ教えようがねえぞ!

 

「……プロデューサー、ファイト」

 

 ……マジですか。俺が教えなきゃいけないんすか。

 

――――

 

 シャープペンシルを置いたハーミーが、ぐぐぐと上体を伸ばす。

 

「んー疲れた! ひと休みしましょ、ダフネ」

 

「そうね。そうしましょう。……プロデューサーさん、エバンスさんはどう?」

 

「お、おお。……まあ何とか」

 

 高校一年で一番最初の定期テストという事もあり、並ぐらいの点数はマーク出来るぐらいだろう。必死に勉強すれば。

 

「……。……、……。――うあ、……。――」

 

 当のエバンスさんは、完全に思考が回っていない様子である。どの道、これ以上勉強し続けるのは無理だろう。ハーミー達に便乗して、エバンスさんも休ませておこう。

 

「そういえば聞いた? 『ニュージェネレーションズ』のデビューライブ、今週末にあるらしいわ」

 

 ハーミーが突如、ダフネに訊く。ニュージェネレーションズとはこの前出くわした、島村卯月さん、渋谷凛さん、本田未央さんの三人組の事である。

 

「ね、見に行かない? ダフネ、ハリエット!」

 

 「そうねえ」とダフネは逡巡する。

 

「でも、テストよ? 勉強した方がいいと思うけど。特に、エバンスさんなんて」

 

 うぐっ、とハーミーは言葉に詰まる。ハーミーにはまだ、別のユニットのミニライブを見る余裕があるのだろうが、あいにくエバンスさんには一ミリも余裕がない。

 

「ぼくの事は……気にしないで……ああ、お星様が見える……彗星かなあ……でも彗星はもっとこう、パーッて動くし……」

 

 いかん。エバンスさんが精神崩壊を起こしてる。

 

「しっかし、この時期にライブとはまた。武内さんも酷な事をするよなあ」

 

 ため息をつきながら言う。普通の高校生でさえ、テストやら全国模試やらで忙しいのだ。アイドルになったら、その苛烈さは言うまでもない。

 

「あたしもそう思うわね。……見直しておきたいところが多いから、今回はパスするわ」

 

「むう、残念ね……」

 

 ぷくうと頬を膨らませて、ハーミーは机に伏せる。

 

「何だったら俺が一緒に行こうか? 丁度休みだから」

 

 休みではあるのだが、今後の勉強として他の新人アイドルのライブや、武内さんの肝入りの実力を見てみたいのだ。ハーミーはばっと起き上がると、顔をしかめる。

 

「嫌よ。デートしてるって思われたくないわ」

 

 一番ねーよ。

 

「俺、そんなに童顔か? 身長低いか?」

 

「そんな事ないですよ。プロデューサー、凄く大人っぽいです」

 

 いやー、つれーわー、褒められてつれーわー。前世からの累計年齢は五〇弱だけど。

 

「あら? おめかしするのハーミー? アドバイスしてあげるわよ?」

 

「勉強するんでしょ、ダフネ!」

 

「普通でいいと思うが」

 

「ダメよプロデューサーさん。なんだったら、プロデューサーさんの分もアドバイスするわよ?」

 

「いいっての」

 

 デートじゃねえし。精々、おじと姪ぐらいにしか見えないだろう。……無理があるな。ハーミーの見た目はバリバリの外国人だし。

 

「そうじゃなくてな、ハーミー一人だと色々と不安だろ? せめて大人一人ぐらいいた方がいいかと思ってな」

 

「プロデューサー」

 

 不意に、エバンスさんが真面目な顔で話しかけてきた。

 

「警察が絡むような事にならないで下さい」

 

「いやないって」

 

 ない……よな? 武内さんみたいに。

 

――――

 

 日曜日、ニュージェネレーションズ達のライブ当日だ。……しかし改めて思うが、武内さんのコネや実力は並大抵のものでは無い。普通、新人アイドルのデビューライブにこんな所を使うか? 池袋の、しかも誰もが聞いた事のあるような商業施設だぞ? E.G.G.Sの時とはスケールが桁違いだ。

 

「結局、プロデューサーがいて正解だったわ……。凄い人ね」

 

 横でハーミーが感心したように呟く。確かに、ハーミー一人だと人混みで滅茶苦茶になっていたかもしれない。

 

「休日だし、都心だしな。並のアイドルでも中々ないぜ」

 

 デビューの話が来て一ヶ月弱で此処を押さえたとなれば、これはもう奇跡としか言いようがない。事務所も、このプロジェクトに力を入れているのだろうか。

 

「凄いわね、シンデレラプロジェクトは。こんなにも注目されているなんて」

 

「いや……それはどうだろう」

 

 俺の歯切れが悪い言い方に、ハーミーは少し引っかかったらしい。不思議そうな顔で「どうして?」と訊いてくる。

 

「こんなにも人がいるのよ?」

 

「それはあくまで、ここがそういう場所だからだよ。あの子達がライブをするとか、そんな物は関係ない。E.G.G.Sのデビューライブの時も、結局はセクシーギルティ目当ての観客ばかりだっただろ?」

 

 逆に言えば、デビューライブを行なう五人は自分達の実力のみで、施設を往来する人々の足を止めなければならない。中々に頭が痛くなりそうだ。

 

「……って事は、ライブを見て貰えないって事?」

 

「んな事はないと思うが。武内さんの肝入りだ、誰も見向きもしないなんて事は絶対にないはずだ」

 

 とは言え、ある程度の通行人の足を止められたら良いぐらいだろう。おそらく武内さんも、その辺りをライブ成功の基準に据えているはずだ。

 

「少なくとも、俺達はあの子達のライブを見る。誰も見ないなんて事態は起きないさ」

 

 人間の心理的に、何人かがライブを見ていれば便乗してライブを見てくれるだろうし。

 

「……それならいいんだけど」

 

 ハーミーは不安げな表情をして、俯いた。

 

――――

 

 開演の時間が差し迫ってきた。噴水をバックに据えたステージの周りには、ある程度の人だかりが出来ている。普通に人がいるな。こりゃ心配は杞憂だったかもしれない。

 

「何よ、心配する必要なかったじゃない」

 

 ハーミーも安堵に胸を撫で下ろす。

 

「本当に、新人としては満員御礼だ。すげえもんだよ」

 

 思えば、特にニュージェネレーションズの三人はライブ前の告知に凄い力を入れていた。それこそ、既にデビューしているE.G.G.Sよりも先にラジオ番組に出演するぐらいには。

 

「後は、この中でキッチリとパフォーマンスが出来たら完璧だな」

 

「大丈夫かしら」

 

「ニュージェネレーションズの三人に関して言えば問題ないだろうな。何せ、定例ライブのバックダンサーをしたぐらいだ」

 

 緊張はすれども、足がすくむ事はないはずだ。……彼女達よりも心配するべきは、女子大生とロシア人ハーフの二人組ユニット、「ラブライカ」だろう。その二人にとってみれば、今日が正真正銘、初ライブなのだ。

 

「……始まったみたいよ、プロデューサー」

 

 ハーミーに促されステージを見る。雪のような純白のドレスを身にまとっているのは、ラブライカの二人だ。

 

「えっと……初めまして。ラブライカの、新田美波です」

 

 たどたどしく口を開いたのは、大人っぽい魅力を持った亜麻色の髪の女性だ。

 

「オーチニ・ブリヤートナ……初めまして、アナスタシア、です」

 

 聞き慣れない挨拶をした彼女が、ロシア人ハーフだろうか。銀髪のショートは純白の衣装と相まって、雪原のような印象を受けた。

 

「聴いてください――」

 

 間髪を入れずに、新田さんは観客達に声をかける。

 

「『Memories』」

 

――――

 

 やはり武内さんの肝入りともあって、新人アイドルとしては良く出来ている。しっとりとした曲調は、静かに降る雪を連想してしまう。ただ、やはり――。

 

「少し必死になり過ぎているわね」

 

 どうやらハーミーも気付いたようだ。力が入るのは分かるのだが、力むような曲ではないはずである。緊張してしまっているのだろうか。

「ハーミーも気を付けろよ? 今後、こういう曲をやるかもしれないからな」

 

 俺の忠告に、彼女はふんすと鼻を鳴らす。

 

「当然よ。しっかり歌ってみせるわ」

 

 ふむ、心強い。エバンスさんは兎も角、ハーミーとダフネの二人はキッチリとやってくれるだろう。

 

「……ありがとうございました」

 

 曲が終わり、ラブライカの二人はぺこりと頭を下げた。その表情はやり切ったような、達成感を含んだ笑顔だった。少なくとも、緊張し過ぎて歌詞が飛ぶような事も、ゆったりとした振り付けをミスする事もなかったように思える。偉そうに批評する立場にはないが、上出来だろう。

 

「凄いわね、あの二人」

 

 ふと、ハーミーが感想を漏らす。

 

「ああ、よくやり切ったよな」

 

 さて、お次はあの三人娘だ。

 

 ラブライカの二人と入れ替わるようにして、ニュージェネレーションズの三人がステージの上に立つ。赤色を基調とした、正統派アイドルといった衣装だ。アクセサリーに、それぞれのイメージカラーをあしらっているらしい。……三人とも緊張しているのだろうか。表情が硬い。特に、啖呵を切っていた本田さんの顔色が優れないように見える。

 

「ニュージェネレーションズです!」

 

 第一声を放ったのは、ピンク色のアクセントをあしらっている島村さんである。

 

「私達のリーダーの……」

 

 渋谷さんがちらりと本田さんの方を見ながら言うと、本田さんはぱっと顔を上げて言葉を続ける。

 

「本田未央でーす! そしてこの子が――」

 

「島村卯月です! 頑張りますね!」

 

「私は渋谷凛。これから宜しくね」

 

 うーむ、本田さんは緊張が顔に出てしまうタイプだろうか。少し笑顔がぎこちない。

 

「それでは、ニュージェネレーションズで、『できたてEvo! Revo! Generation!』です! 聴いてください!」




■テスト
実際はもう少し前らしいですが、そこはアイドル活動もあって調整してもらったことにしておいてください。


■中学高校の内容を「復習」
事情を知らなければ「予習」にも見える。


■人混みで~~
※この作品では、コロナの影響はありません。


そろそろ原作キャラと本格的に絡み始めます。
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