The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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若干短めです。


第13話 How about their stage(2)

 パフォーマンス自体は、問題がない。ただ、本田さんの表情がずっと引っかかる。

 

「緊張しているのかしらね」

 

「多分な」

 

 定例ライブの時はあくまでバックダンサーであり、特に注目される事もない。仮に注目されるとするならば、それは大きな失敗をした場合だ。それに比べて今回は、自分達が主役であり、些細なミスでも目に付いてしまう。このユニットのリーダーは彼女らしいので、その分気負ってしまっているようだ。

 

 曲が終わり、両脇の二人が観衆に手を振っている間も、本田さんは俯いていた。

 

「……様子がおかしいわ」

 

「気付いたか、ハーミー」

 

 確かに、様子がおかしい。新人としては問題ないレベルのパフォーマンスだった。既に集まっていた観客を落胆させることもなく、寧ろ通行人を新たに引き留めるぐらいだったのだ。大成功であると言っても過言ではない。

 

 しかし、本田さんの表情は浮かないものである。――何かがおかしい。

 

 その時だった。ふと上を見上げた本田さんは、まるで逃げるようにステージを去ったのだ。島村さんと渋谷さんは、慌てて観客に向かって会釈すると、彼女を追いかけるようにステージから降りていった。

 

「やっぱり、様子がおかしいわ! プロデューサー、今すぐ向かうべきよ!」

 

 ハーミーが急かすように、俺に声をかけた。

 

「分かったよ。……迷子になったら困る。ハーミーも着いて来い」

 

「いいの?」

 

「それぐらい何とかするっての」

 

 一応、俺達も346の関係者だ。彼女達の初舞台ともなれば、武内さんもいるだろうし。

 

 スタッフ数人に場所を訊き、「関係者以外立ち入り禁止」の扉を開ける。開けた先にいたのは、既に私服に着替えた本田さんだった。

 

「本田さ――」

 俺が声を掛けようとすると、彼女は顔を俯かせ、そのまま脇を通り抜ける。

 

「待って!」

 

 ハーミーが手を伸ばすが、僅かに届かない。……ここで本田さんを逃がしたら、大変な事になる気がする。

 

「本田さん!」

 

 俺も追いかけようとするが、本田さんは雑踏に紛れ込んでしまった。――くそ、見失ったか。

 

「城戸さん……」

 

 力なく声をかけたのは、武内さんだった。その後ろには、今にも泣きそうな顔をした島村さんと、険しい目付きをした渋谷さんがいた。

 

「一体、何があったんですか?」

 

 俺が訊くと、彼は首に右手を添える。

 

「答えなさいよ!」

 

 感情を抑えられない様子のハーミーが、鬼気迫る調子で訊く。

 

「未央が――」

 

 答えたのは、未だに険しい目付きで武内さんを睨む、渋谷さんだった。

 

「未央が、アイドルを辞めるって……」

 

「……は?」

 

 どういう事だよ。

 

――――

 

 おそらく、ボタンの掛け違いだ。その時には気付くことがないが、後々になってズレていた事が分かる。服ならまだいい。ボタンをかけ直せばいいだけなのだから。しかし、人の認識となると、そもそも気付くことすら遅れる。気付いた時には、大事になってしまっている事も多いのだ。

 

「プロデューサーは、理由が分かるんですか?」

 

 翌日、問題集に向かっているエバンスさんが訊いてきた。相変わらず間違いが多いのだが、今はそれどころではない。問題集にも載ってないような、厄介な出来事が起きてしまったのだから。

 

「もっと人がいるもんだと思ってたらしいな」

 

 昨日の武内さんの話だと、どうもその辺りの認識のズレが発展したものらしい。

 

「あら、新人だったら聴いてもらえるだけでも成功じゃない?」

 

 ダフネの言う通り、実績のない新人ならば聴いてもらえるだけでも御の字なのだ。足を留めてもらうだけでも上出来なのに、あの三人組は新たに人の足を止めた。素人が二ヶ月弱であそこまで行くのは、武内さんの能力以上に本人達の実力があるからこそなのだ。

 

「武内プロデューサーは、どうするって言ってました?」

 

「戻ってくるように言うらしい。ただ、どうなる事やら」

 

 本田さん自身にその気が無ければ、どれだけ呼びかけた所で無駄になる。

 

「……プロデューサー、どうにか出来ないの!?」

 

 ハーミーが訊いてくる。その場に居合わせた事もあり、二人よりも必死だ。

 

「残酷な事を言ってしまうが、俺達にとってみれば『対岸の火事』だ。何も出来る事はない」

 

 そもそも、武内さん自身がどうにかすべき問題である。外野がしゃしゃり出るような事をするべきではないし、彼もそれを望んではいないだろう。

 

「だったら、わたしが!」

 

「何処に住んでるかとか分からねえだろ」

 

「武内さんに訊けばいいじゃないそれぐらい!」

 

「あの人が教える訳ないっての」

 

 住所はプライバシーに関わる事柄だ。武内さんが教えるとはどうも思えない。

 

「武内さんがどうにかするべき問題だ」

 

 そう、彼自身が――。大きなため息が漏れ出た。

 

「ハーミー、俺も本田さんの事が心配だよ」

 

 ただ、と言葉を続けようとして、結局口をつぐんでしまった。

 

 むすっとしたハーミーの表情が、昨日の渋谷さんと何処か重なってしまって。

 

――――

 

 ずんずんと家路を急ぐ。全くもう、プロデューサーも頼りにならないんだから。こういう時こそ、同じ新人アイドルが何とかするべきなのよ! 今に見てなさい!

 

 でも、本田さんの住所を知らないのは本当の事だった。結局、プロデューサーも教えてくれなかったし。島村さんと渋谷さんも、知らない様子だったわね。

 

 自宅のマンションの集合ポストを見て、ふととある苗字に目がいく。……まさか。「本田」なんて苗字はありきたりなものだし、そんな事ありえないわ。だって、そんな偶然が起きたら、ロックハート先生の小説みたいじゃない。

 

「いえ、当たって砕けろよ、ハーマイオニー」

 

 自分を鼓舞して、「本田」さんの家のインターホンを押す。――反応がない。いいえ、諦めてはいけないわハーマイオニー! 「サンコノレイ」って言葉もあるくらいなんだから!

 

「こうなったら、しつこく鳴らすんだから!」

 

 もう一度、インターホンを鳴らす。やっぱり返事はなかった。まだまだよ! 返事があるまで鳴らすんだから!

 

「いい加減にしなさいったら!」

 

 三度、インターホンを鳴らす。結局、何の反応もなかった。

 

「いい? 明日も来るから!」

 

 聞いていないとは思うけど、そう言ってしまった。

 

――――

 

 ハーミーから来たメッセージに頭を抱える。

 

「何やってんだアイツ……」

 

 自宅アパートに本田姓の苗字があったらしく、意地でも呼び続けるとの事だった。止めてくれよ、本田さんの家族にまで迷惑だろ。それに、違う家だった場合はどうするってんだ。

 

 だが、ここで止めようとしたら――。何だか、問題が尚更こじれてしまうような気がする。ああくそ、頭がいてえ。

 

『他の人に迷惑がかからないやり方で頼む』

 

 俺が返信を送ると既読通知がすぐ付き、よく分からないキャラクターがサムズアップしたスタンプが送られてくる。こいつ、スタンプで返事を有耶無耶にするつもりだな。

 

 さてどう返すものか、と考えていると、扉がノックされる。

 

「進兄、いる、よね?」

 

 ――珍しいやつが来たな。

 

「ああ、入って来い。美嘉」

 

 カチャ、と静かに扉を開けて入ってきたのは、沈んだ顔の美嘉だった。

 

「何か飲むか? やっすいコーヒーか紅茶しかないけど」

 

「いい。いらない」

 

 調子が狂うな。いつもだったら、何かしら文句をぶーたれるはずなのに。

 

「……アタシのせいなのかな」

 

 ぽつりと美嘉が零した。

 

「何がだよ」

 

「その、未央が辞めるって言い出したの」

 

 ……ああ、そう来るか。

 

「お前のせいじゃないって。そもそもあれは――」

 

「そうだけど!」

 

 俺が言葉を続けようとすると、彼女は突如大声で俺を制した。

 

「……そうだけど、でも、責任感じるじゃん、普通」

 

 確かに、武内さんと本田さんの間に起きてしまった、ボタンの掛け違いの切っ掛けにはなったかもしれない。おそらく本田さんは、美嘉のステージにバックダンサーとして立ってしまったせいで、「アイドルのライブにはこれくらい来るのが普通である」と誤解してしまったのかもしれない。

 

「アタシが、あの三人をバックダンサーにしたから……」

 

「本田さんが誤解した、ってか」

 

 そもそも、箱の規模が圧倒的に違うんだけどな。

 

「武内さんは、何か言ってたか?」

 

「……分からない。いなかったし」

 

「――そうか」

 

 武内さん自身、これは不味いと思っているはずだ。本田さんを呼び戻そうと奮闘しているに違いない。

 

「あの人の事信じられないよ、進兄」

 

「そんな事はないんだけどな」

 

 仕事は誠実で真面目だし、浮いた噂も聞いたことがないし。人間味があるかと訊かれたら、若干怪しいかもしれんが。

 

「どの道、お前が気に病む事はないって。結局、本田さん自身がどうしたいかって問題なんだから」

 

 簡単な話だ。アイドルを続けるのか――あるいは辞めるのか。それを最終的に決めるのは、他でもない本田さん自身である。

 

「何だったら、俺から武内さんに訊いておくよ。あの人もあの人で忙しいかもしれないけど」

 

 美嘉は小さく「うん」と返事をした。

 

「そら、さっさと帰りな。おばさんが心配してしまう」

 

「……うん」

 

 依然として浮かない表情だったが、美嘉は部屋を去っていった。

 

「――全く」

 

 E.G.G.Sにとっては対岸の火事だったが、俺にとってはそうでもなかったらしい。

 

――――

 

「武内さん」

 

 焦っている様子の武内さんを呼び止める。

 

「すみません城戸さん。先日は――」

 

「単刀直入に訊きます。本田さんは現在、どうしていますか」

 

 武内さんは視線を下ろし、首筋に右手を添える。まだ解決に至ってないって事か。

 

「申し訳ありません。無関係のはずの城戸さんにまで、心配を――」

 

「無関係じゃないんですよ」

 

 武内さんは右手を首筋に当てたまま、頭を上げて俺を見る。

 

「俺自身は兎も角、俺の『従妹』が見初めた子達ですからね」

 

 真意が分かったのか、彼は再び視線を下げた。……くそ、俺はそんな所を見たい訳じゃないんだよ、武内さん。

 

「武内さん、お願いですから一人で全部抱え込もうとしないで下さい。何だったら、俺も力になります」

 

 口を突くように、そんな言葉が出てきた。――確かにE.G.G.Sには何の関係もないし、本来ならば武内さんが解決するべき問題である。だが、そんな事は関係なく、ただ――。ただ、あの時の美嘉の顔が脳裏によぎったのだ。

 

――あの人の事信じられないよ、進兄。

 

 ……んな訳ねえだろ。

 

「……検討します」

 

 ……そうじゃないだろ。

 

「今回の問題は、私自身が対応します」

 

 ……違うだろうが。

 

「……分かりました」

 

 一体どうしたって言うんだ、武内さん。どうしてそう、頑なに一人で抱え込もうとするんだ。

 

「覚えていて下さい、武内さん」

 

 そのまま歩み去ろうとしていた武内さんを呼び止める。俺は彼の方を振り向いたが、彼は振り向きもせず、前をじっと見据えていた。

 

「あなたは一人じゃないです。……担当しているアイドルも、千川さんも、何だったら俺もいますから」

 

 武内さんはただ、考えあぐねるように右手を首筋に添えていた。




■ハーミーから来たメッセージ~~
現代っ子ぽくスマホを使うハーマイオニー・グレンジャーを見られるのはこの作品ぐらいかもしれない。


■E.G.G.Sにとっては対岸の火事~~
主人公は美嘉の親類である為、無関係とは言えなくなった。


ちゃんみお編はもう少し続きます。
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