The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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ちゃんみお回ラストです。


第15話 Can you open your door(2)

 そう遠くない昔――下手をすると、つい最近の出来事。

 

 ある男は、魔法使いだった。彼は、少女達に夢を与え、それが叶うように力を尽くした。彼女達と共に彼は笑い、悲しみ、努力し、走り続けた。

 

 何が起きたのかは分からない。彼が至らなかったからだろうか。あるいは、彼女達との間に溝が出来てしまっていたのだろうか。彼の元から、彼女達は去っていった。

 

 魔法使いは少女達が去った時、自らに魔法をかけたのだろう。あるいは、呪いだろうか。彼は物言わぬ車輪となり、同じく夢見る少女達を、目的地へ運ぶだけに成り下がってしまったのだった。

 

「――そんな事が」

 

 部長の語り口では、その男が誰だったのかまでは語られなかった。だが、紛れもなくあの人の事だろう。

 

「城戸君も知らなかっただろうね。正直、話してても楽しい事じゃないから」

 

 部長は穏やかな顔のまま、ため息をつく。

 

「でも、そんなの間違ってる」

 

 渋谷さんは怒りを露わにして、顔を上げる。

 

「結局同じ事が起きたら、意味がないよ」

 

「ああ、……多分、武内さんもそれは分かっているはずだ」

 

 武内さんの心を覆っていたのは、恐怖だったのだ。再び夢見る少女達が、挫折し、夢を失い、失意のうちに消えていく事への恐怖。

 

 だから彼は、耳を塞いだ。彼女達の失意を聞きたくないから。口を噤んだ。彼女達の夢を否定しないように。目を閉じた。彼女達が挫折する所を見たくないから。

 

 ――耳を塞げば、彼女達の助けが聞こえない。口を噤めば、彼女達を導けない。目を閉じれば、彼女達の夢を一緒に見ることが出来ない。

 

「私、プロデューサーを探してみる」

 

 渋谷さんが意を決したように、俺を見る。

 

「……ああ、行ってこい」

 

 渋谷さんはこくりと小さく頷くと、そのまま走り去っていった。

 

「……部長がどうしてシンデレラプロジェクトを気にかけるのか、少し分かりましたよ」

 

 渋谷さんの後ろ姿が小さくなったのを見て、俺は部長に向かって言う。

 

「おや、そうかい?」

 

「ええ、そりゃもう」

 

 シンデレラプロジェクトと言うよりかは、武内さんを気にかけていたのだろう。車輪になってしまった、悲しい魔法使いである彼を。

 

「ははは、気恥ずかしいから言うのだけは止めてくれよ?」

 

「はは、分かりましたよ」

 

 この件に関しては、俺の役目は終わっただろう。外野にはもう、見守ることしか出来ない。

 

――――

 

 わたしは、動く事が出来なかった。本田さんは泣いているけれども、わたしの心の中では色んな感情が出てきては消えていた。同情。悲しみ。嫌悪。焦り。怒り。その全てが、目の前の本田さんに向かっていて、混ざり合っていた。

 

「……それだけなの?」

 

 漏れてきた言葉は、自分でも予想がつかなかったものだった。だけど、堰を切ったように言葉が溢れてくる。まるで、大雨で決壊したダムのように。

 

「それだけなの!? ステージの前に立って、パフォーマンスして、沢山の拍手をもらって! 楽しくなかったの!? 嬉しくなかったの!? アイドルになったんだって、アイドルとして皆に認められたって、そんな気持ちにならなかったの!?」

 

「なったよ! なったんだよはみはみ! 確かに楽しかったし、アイドルとして認められたんだって私も思った! ……だけど、それは美嘉ねぇのステージで、私達はバックダンサーだった。私、早とちりしていたんだ」

 

「だったら! ……だったら、逃げないでよ、本田さん。早とちりだったなら、そうだったと認めたらいいだけの話じゃない! それに、本田さんがいないと、ニュージェネレーションズじゃないわ! 絶対に皆、そう思っているもの!」

 

「分かんないよそんなの! 皆、見捨ててるかもしれないじゃん! 昨日、プロデューサーにも当たり散らしちゃったし! 何を話せばいいの、はみはみ!? 今更『誤解でした、逆ギレしてごめんなさい』って言って、許されると思ってるの!?」

 

「違うわよ! そんなのじゃないわ! 本田さんは今、どうしたいの!? ただ謝りたいだけなの!?」

 

 本田さんの動きが止まる。いつの間にか前のめりになっていた上体を元に戻し、言い争いをする前と同じように俯いた。

 

「私は――私は、アイドルを辞めて――」

 

「本当の事を言って、本田さん」

 

 絶対に本心じゃないと思った。だって、さっきから目が泳いでいるもの。

 

「私、本当は――」

 

 本田さんの目が潤み、大粒の涙が零れ落ちた。

 

「――本当は、アイドルを続けたい! だって、みっともないじゃん! このままじゃ、後悔しちゃうよ! 何も出来ていないし、何も始まっていない! 嫌だよ、このままアイドル辞めちゃうのは! だって、だって私――」

 

「……いいの。いいのよ、本田さん」

 

 まるで小さな子供のように泣きじゃくる本田さんをなだめる。

 

「大丈夫よ、本田さん。皆分かってくれるわ。本田さんがアイドルを続けたいって気持ち。だから、逃げないで。武内さんからも、自分の気持ちからも」

 

「……でも」

 

「いざとなったらわたしがいるわ! プロデューサーでも何でも使って、武内さんを納得させるんだから!」

 

 わたしが胸を張ると、本田さんは涙を流しながらも「ふふっ」と笑った。

 

「――うん! ありがと、はみはみ」

 

「任せなさい! 学年はともかく、アイドルとしては先輩なんだから!」

 

「えー? 何週間かの差じゃなーい?」

 

「そっ、そんな事ないわよ!」

 

 いつの間にか、雨も晴れたようだ。夕日が窓から見える。

 

「晴れたわね」

 

「うん、晴れたね」

 

 ふと窓から地面を見ると、黒いスーツの男の人が警察に話を聞かれていた。……あれ? 何か見覚えがあるわね。

 

「って、プロデューサー!? ごめんはみはみ、私ちょっと行ってくるね!」

 

 本田さんはばたばたと忙しなく、リビングを出ていった。バタン、と玄関の扉が閉じた音を聞き、わたしはため息をついた。良かった、本田さんの本心を聞けて。やっぱり、続けたかったんじゃない。

 

 出された麦茶を飲み干してコップをキッチンのシンクに出した。そろそろ帰った方がいいかしら。……このまま本田さんの家族と出くわしても居心地が悪いし、そうしましょう。

 

 玄関に向かうと、わたしと同じくらいの、中学生ぐらいの男の子が玄関に突っ立っていた。

 

「あ、っと、えっと」

 

 えっ、もしかして弟さん?

 

「日本語、おーけー?」

 

 男の子は気が動転したのか、日本語とも英語ともいえないような質問をして来た。

 

「……ええ、大丈夫よ。お邪魔しました」

 

 すっごく気まずいわ。いそいそと本田さんの家を後にした。

 

――――

 

 俺と渋谷さんが話をしている間、武内さんは本田さんの家に向かっていたらしい。いつものように警察のお世話になりかけつつも、何とか本田さんと話が出来たという事だ。……本心では辞めると言った事を後悔していたらしく、本田さんの方から「続けさせて欲しい」と頭を下げたと聞いた。後に渋谷さんも合流し、本田さんの助力で仲直りした、とか何とか。

 

「それでだハーミー、お前お節介を焼いたそうじゃないか」

 

 俺が訊くと、ハーミーはむっとした顔で返してきた。

 

「いいじゃない。プロデューサーだって、結局渋谷さんの相談に乗ったんだから」

 

「ま、そこは大人としてな。あんなにぷりぷり怒っていたら、流石に気になるからな」

 

 ダフネは俺とハーミーのやり取りを聞いて、くすくすと笑った。

 

「プロデューサーさんも、お人好しじゃない。大体の大人は、女の子がぷりぷり怒っていても気にしないものよ」

 

「そうかあ?」

 

 ……そうかも。

 

「兎に角、ハーミーもよくやったな。正直深入りはして欲しくなかったんだが、結果としては本田さんの本音を引き出したんだし」

 

 ハーミーは突然きょとんとし、吐き気を催したような表情になった。

 

「……何だか、変な気分ね。プロデューサーに褒められるの」

 

「素直に受け取ってくれよ……」

 

 あの、と声を上げたのはエバンスさんだ。

 

「ぼくも、褒めて欲しいんですけど……」

 

 テーブルの上に並べられたのは、赤点をギリギリ回避した答案用紙たちだ。……英語以外の点数が軒並みあやしい。

 

「エバンスさんは普段から勉強してくれ」

 

「ええっ!? 酷くないですかそれぇ!」

 

 ダフネとハーミーは余程堪えきれなかったのか、腹を抱えて笑う。

 

「ふ、二人ともぉ、笑う所じゃないってば!」

 

「あーもう、おっかしい。何だったら、プロデューサーに見てもらえばいいんじゃない?」

 

「そうね、名案よハーミー」

 

 くるりとエバンスさんは俺の方を向く。

 

「……分かった分かった。大学生の時は、家庭教師のバイトもやってたからな。分からない所をハッキリさせてから質問してくれよ」

 

 こう見えて、結構人気だったからな俺。「一緒にいると勉強が捗る」だの、「横にいてくれるだけでも心強い」だの。……今思い返すと、置物みたいな評価されてるな。

 

「はい! 全部お願いします!」

 

「全部ぅ!?」

 

 ダフネとハーミーは再びゲラゲラ笑う。あのなあ、笑う所じゃねえからこれ。

 

 突然、メッセージアプリの通知音が鳴る。

 

「わたしのスマホね」

 

 ハーミーはスマホの画面を眺めると、にっこりと微笑んだ。先程のゲラゲラ笑いとは違い、優しい笑みである。

 

「……『未央さん』? 本田さんから?」

 

 画面を覗き込んだダフネが、ハーミーに訊いた。

 

「……ええ。未央さん、ちゃんと謝ったみたいね。もう大丈夫みたい」

 

 いつの間にか本田さんとの距離が近くなったのは、ハーミーが本田さんの家に上がり込んだからだろうか。……まあ、喧嘩別れなんていう事態にならなくて良かった。

 

「プロデューサーさん、どうかしたの? ニヤニヤして」

 

「いや、平和なのはいい事だと思ってな」

 

 今の俺は気分がいいから、遠回しに「気持ち悪い」って言ってきたダフネにも大人の対応をするぞ、うん。

 

「進兄、いる?」

 

 ……美嘉が突然部屋に来ても、今の穏やかな俺は平気――。

 

「えっ、嘘、城ヶ崎美嘉!?」

 

「あら、本当ね。……本当、ね。……」

 

「ダフネさん!? ダフネさんが動かない!? プロデューサー、プロデューサー!」

 

 ――俺が平気でも、E.G.G.Sの三人は平気じゃねえの忘れてた。

 

「あの、アタシ出直した方がいい?」

 

「大丈夫、大丈夫だって」

 

――――

 

 三人はぼんやりとした顔で、美嘉を見ていた。

 

「……本当に本物の城ヶ崎美嘉……」

 

「す、凄い。ぼく、初めて見ました」

 

「オーラが違うわね……」

 

 突如、三人は厳しい目で俺を見る。

 

「本当にイトコなの?」

 

「プロデューサーさん、白状した方が身のためよ?」

 

「……誤魔化さないで下さい」

 

 何で俺そんなに信用ねえの? さっきまで楽しく談笑してたじゃん。

 

「従妹だよ従妹。な、美嘉」

 

「……そうだね。認めたくないけどそうだね」

 

「渋々認めるの止めてくれよ!? 一応血は繋がってるだろ!?」

 

 三人はじっと俺を見続けている。

 

「……証拠か? ……うーん、あ、そうだ、八重歯だ。美嘉にも莉嘉にも八重歯があるけど、俺にもあるんだよ、ほら」

 

「見たくないわよ、ばっちい」

 

「ばっちい!?」

 

 ハーミー、その言い方はないだろ! ばっちくねえし! 昼食後にも歯磨いてるし!

 

「……で、どうかしたのか美嘉。何か用事があって来たんだろ」

 

「ああ、うん」

 

 無理やり話題を変えた俺に、美嘉は頷く。よし、何とか空気を変えることが出来た。

 

「その、ごめんなさい、進兄。アタシの軽い思いつきで、色んな人に迷惑をかけちゃった。進兄やその子にも」

 

 美嘉はじっとハーミーを見る。真っ直ぐな視線をカリスマギャルアイドルから向けられたハーミーは、少し恥ずかしそうだ。

 

「ったく、美嘉は昔っから律儀だな。昨日も言ったけど、お前が気に病む必要はない。それに、何だかんだで丸く収まったからいいだろ」

 

 結局、今西部長は何処まで見越していたのかは分からない。あの三人をバックダンサーにしたのも、デビューライブを新人のみで行なったのも、結局は部長の一声があったからこそである。この騒動が想定の範囲内だったなら、美嘉も彼の掌の上で踊らされていたに過ぎないのだ。――やっぱあの人の考えている事はよく分からん。

 

「そうだったとしても、ごめんなさい。――そして、ありがと。二人とも」

 

 美嘉は派手な服装に似合わない、丁寧なお辞儀をした。

 

「あっ、その、いや、大丈夫、大丈夫よ! わたしも、自分がしたい事をしただけなんだから!」

 

「てな訳だ。――さ、楽しい楽しい芸能活動に戻ろうじゃないか」

 

 目指すは、夏の346フェスだ。




■未央の本心
若干アニメ本編と違うような気がするけど、二次創作なので。


■仲良くなった未央とハーマイオニー
雨降って地固まる的な感じです。


何とか書けました(満身創痍)。これでやっと、シンデレラプロジェクトとの関わりを持てたような気がします。
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