The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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マッスルキャッスル回、続きます。
スタジオの描写以上に観客席側での描写が多くなっています。


第19話 Could you answer this question(2)

 マシュマロキャッチ対決は両方の健闘もあり、引き分けに終わった。

 

「ちょっといい、えっちゃん?」

 

 本田さんが不満そうな顔でエバンスさんに訊く。

 

「はい? どうしたんですか、本田さん?」

 

「えっちゃんさあ、幸子ちゃんだけじゃなくてキャンディーアイランドの応援もしてよー!」

 

 確かに、エバンスさんは先程から輿水さんの応援ばかりしている印象がある。エバンスさん自身が輿水さんのファンである事は致し方ないのだが、今はシンデレラプロジェクトのメンバーと一緒に座っている。敵に塩を送るという訳でもないが、本田さんの言う通り、キャンディーアイランドの応援もしてあげるべきだろう。

 

「でも、ぼくは」

 

「まあまあエバンスさん。両方応援してやれよ」

 

 別にどちらか一方の肩を持てとは言ってないし。

 

「……むう、分かりました。プロデューサーが言うなら」

 

 若干むすりとはしているが、聞き分けが良くて助かった。

 

「おやおや〜? シロちゃんって意外と、隅に置けないんじゃないの〜?」

 

 本田さんがニマニマしながら言う。一体何処を見てそう思ったんだよ。ダフネは「ふふっ」と笑い、本田さんに返す。

 

「もちろんよ、本田さん。だって、あたしとハーミーを口説き落としたんだから」

 

「ふんっ」

 

 突如、渋谷さんにアキレス腱を蹴られる。いってぇ。

 

「ちょっと渋谷さん、暴力はダメじゃないか?」

 

「知らない」

 

 さっきから何なのこの子。

 

「えっと、それってスカウトされたって事ですよね?」

 

 島村さんの質問に、俺は頷いて返す。

 

「当たり前じゃない! プロデューサーがナンパするなんて……ぷっ、ぷふふふ」

 

「どうして笑ったんだハーミー? 俺がナンパするのってそんなに変か? いやナンパした事もする気もないけど」

 

 それよりも、早く誰か渋谷さんを止めてくれ。さっきからアキレス腱への攻撃が絶えない。蹴るスピードも速くなってきてるし。

 

「……あれ? そういえば、双葉さんと小早川さんがいないですね」

 

 エバンスさんの言葉通り、マシュマロキャッチ対決に参加しなかったメンバーがいつの間にか、スタジオから姿を消していた。――そろそろ蹴るのやめてくれませんかね、渋谷さん。

 

「どうしたのかしらね」

 

 ダフネが首を傾げていると、十時さんがスタッフの合図を受けて声を上げる。

 

『はぁい! 準備が整ったようなので、次の対決、私服ファッションショーに移りまーす!』

 

 十時さんのアナウンスに、川島さんも続く。

 

『アイドルの私服を見るチャンスよ? 意外な一面が見えちゃうかもしれないわね』

 

 成程、おそらく双葉ちゃんと小早川さんはその準備に入ったという事か。……待て。双葉ちゃんが?

 

「ヤバいよしまむー! ピンチかも」

 

「えっ!? えっ?」

 

 本田さんも気付いたようだ。渋谷さんもため息をついているし、分かっていないのはE.G.G.Sの三人と島村さんと言ったところか。

 

「あー、まあ……。こりゃあいかんな」

 

「ちょっとどういう事? どうしてそんな諦めムードなのよ!」

 

 いきり立つハーミーに、渋谷さんは答える。

 

「見ていれば分かるよ、ハーミー」

 

『先攻は、KBYDチーム! 小早川さんの私服です!』

 

 普段から着物を着ているアイドルだ。今回も、華やかな着物姿を見せるのであろう。

 

『じゃじゃん!』

 

 セット奥の幕が開かれ、着物を着た小早川さんが――着物じゃない!? セーラー服だと!? そう来たか。

 

『放課後すぐの収録で、制服なんどす』

 

 何時ものはんなりとした着物とは違い、清楚な少女といった雰囲気だ。やっぱり、服装で印象が変わるものなんだな。E.G.G.Sの三人も、写真集を出すとなったらこんな風にイメージを変えるような服装をさせてみるのも良いかもしれない。

 

 むっ、嫌な予感。靴底が脚の筋を隠すようにかかとを上げる。すぐに、土踏まずの辺りに衝撃が走った。

 

「……」

 

 渋谷さんは無言で俺を睨みつけている。流石に学習するっての。こらこら、悔しいからって蹴り続けるのはやめなさい。

 

「どったの? しぶりん」

 

 足元の攻防に気付いていない本田さんが、のんびりとした調子で訊いてくる。

 

「さっきから城戸さんが、鼻の下を伸ばしてばっかりだから」

 

「伸ばしてないからな?」

 

 妙な事を吹き込むな。

 

「ほほ〜う、ジェラシーですかしぶりんさ〜ん?」

 

 本田さんは本田さんで、渋谷さんの逆鱗を触るような真似をしないで欲しい。その分のしわ寄せが俺に来るから。

 

「えっ、プロデューサー……もしかして、幸子さんの事も」

 

「いやだからそんな目で見てねえって」

 

 エバンスさんも食いつくなよそんな話題に。

 

「未央、嫉妬とかじゃないから。頼りない近所のお兄さんに、喝を入れているようなものだから」

 

「俺ってそんな風なの? 渋谷さん、一応俺もプロデューサーだよ?」

 

「知らない」

 

「いや知らないじゃなくて」

 

『さあ、次はキャンディーアイランドから、杏ちゃんです! どんな私服なのかしらね』

 

 あーもうほら、双葉ちゃんの番が来ちゃったよ。あーもうやっぱり、カフェで会った時に着てた「働いたら負け」Tシャツだよ。

 

「えっと……?」

 

「何かしらこれ……?」

 

「……何ですかあのTシャツ?」

 

 E.G.G.S一同は困惑しきりである。そりゃそうだろう。今までアイドルとして満点の笑みを振りまいていた女の子が、私服では「働きなくない」と声高に宣言しているのだから。そして渋谷さんはそろそろ蹴るのをやめてくれ。

 

『えーっ、と……?』

 

『素敵なTシャツですねー?』

 

 MC二人も理解が追いついていない様子である。

 

『これは杏のモットー! 週休八日を希望しまーす!』

 

 だから双葉ちゃん、余った一日は何処から来るっていうんだ。そんな事を本番中に言うんじゃない。

 

「ああ、やっぱり……」

 

「杏ならやりかねないとは思っていたけど」

 

 本田さんと渋谷さんはがっくりと項垂れた。

 

「え? 杏ちゃん、私服だよ?」

 

 島村さんはそれで良いと思っているのか。

 

『やっぱ目指すは印税生活だよね』

 

『……え、ええ、そうね』

 

 川島さんの顔も引きつっている。

 

 とはいえ、観客の笑いは取れているし、番組としては問題ないだろう。寧ろ、無難過ぎる服装だと撮れ高にならなかった可能性もある。あの子、試合に負けて勝負に出たな。「キャンディーアイランドを広く知ってもらう」という点では、あながち間違いとは言いきれない。広く知ってもらうためには、話題の提供が重要だからな。

 

『はぁい! 勝者はKBYDチームの紗枝ちゃん!』

 

 十時さんの言葉を受け、小早川さんは柔らかな笑みを浮かべる。うーむ清楚。そして双葉ちゃん、自分が撒いた種なんだからちゃんとセンブリ茶を飲め。

 

――――

 

「二〇対一二〇……圧倒的な差ですね」

 

 正直、ここから勝てるビジョンが見つからない。休憩という事で、出演者は舞台裏に引き払っているが、スタッフはひっきりなしに動いている。と言うのも、次は最後の種目だからだ。

 

「どんなゲームだろう?」

 

「うーん、わかんないなー。しぶりんは?」

 

「全然分からない。休憩挟む程だから、大掛かりなものだと思うけど」

 

「最後だから、テレビ的にも派手な種目じゃないかしら」

 

「どの道、応援しなきゃいけないわね!」

 

「ううーん……幸子さんに頑張って欲しいけど、キャンディーアイランドの三人にも頑張って欲しい……」

 

 口々に言い合うアイドル達を見て苦笑しながらも、心の片隅では緒方さんの表情が離れなかった。罰ゲームが峡谷でのバンジージャンプだと知った時の彼女の顔は、正に顔面蒼白といったものだったからだ。口に合わないセンブリ茶の後という事もあり、吐きそうになっていた。……大丈夫だろうか。

 

「……城戸さん? 智絵里の心配でもしてるの?」

 

 ふと、渋谷さんが声を掛けてきた。

 

「ああ、まあな。落ち着いていて欲しいが」

 

「大丈夫だよ。プロデューサーがついているから」

 

 渋谷さんは、ふっと表情を緩めながらそう言った。以前相談事を受けた時に見せた悩んでいるような表情ではなく、武内さんを信頼しているような、晴れやかな顔だった。

 

「――ん、そうだな」

 

 ささやかな笑顔を送った渋谷さんに、俺もにっと笑って返す。今の武内さんならきっと、緒方さんを勇気付けられるだろう。ただ回るだけの車輪でなく、シンデレラの手を引くことが出来る魔法使いに戻ったのだから。

 

「……ねえはみはみ、やっぱりしぶりんとシロちゃん、イイ感じじゃない?」

 

「あら、プロデューサーじゃ渋谷さんの相手には力不足よ」

 

「そうかな? とっても素敵だと思うよ」

 

「えっ、え? そう……かも……」

 

 ……なーんか周りが変な事を話してるな。

 

「あーのーなー、俺にはそういうつもりはぜんっぜんないんだけどな?」

 

 前世からの累計年齢で言えば、娘も同然だ。手を出すのは気が引けてしまう。

 

「そうなのかしら? 仮にそうだとしても、この六人の中で誰がタイプなの?」

 

 ダフネお前、時々とんでもない爆弾を寄越してくるよな。

 

「そんな目で見てたまるかよ。ほら、そろそろ休憩が終わるぞ」

 

 セットの中央には、白い粉がたっぷりと入った浅い箱の上に、滑り台が三つほどくっついたような器具が二つ並んでいた。……頼むから皆、白い目で俺を睨まないでくれ。

 

――――

 

 再びスタジオに戻ってきたアイドル達は、番組が始まった時から着ている体操服に加えて、ヘルメットを装着し、肘と膝にプロテクターを装備していた。

 

『最後の対決は、滑り台クイズ!』

 

 クイズに答えると、相手の滑り台の角度が上がり、先に全員滑り落ちた方が負け、というルールだ。こんな所で突然、クイズ要素を思い出したように出してくるのか。番組のノリが昭和だとツッコむのは、もう遅すぎるだろうか。

 

「頑張って、三人とも!」

 

 ハーミーが祈るように呟く。大差が付いており勝利は見込めないかもしれないが、せめて一矢報いるぐらいはして欲しい。

 

『それでは最初は、芸能の一〇から!』

 

 スタジオのモニターに、胸がデカい二人組が映し出される。目を隠す黒線が掛かっているが、正直バレバレである。下手な話、顔じゃなくて胸に目がいくからな……っと、渋谷さん、腿をつねようとするなよ。

 

「……!」

 

 彼女は右手を掴んだ俺の手を振りほどき、恨めしそうに睨みつけた。頼むから収録に集中してくれ。

 

『先週の放送で天然解答を炸裂させ、番組を終了させた、このチームの名前は?』

 

『BBチーム!』

 

『BBチーム!』

 

 輿水さん早い。三村さん惜しい、もう少し早ければ。ピンポンピンポンと正解を表わすSEが鳴り、キャンディーアイランドの滑り台が少し上がった。……モニターに映っている、及川さんと大沼くるみの黒線が消えたが、正直なくす意味がないと思う。

 

『「芸能」の二〇!』

 

 問題に正解した輿水さんは、より高い点数の問題を選ぶ。

 

『今年の四月から全国ライブを開催している、この三人組の男性アイドルユニットは?』

 

 モニターには、三人の男性のシルエットが映し出された。……この世界での男性アイドルは若干マイナーらしく、テレビでもあまり見ない。前世では、女性アイドル以上に見かけたというのに。

 

『ジュピター、どすなあ』

 

 とは言え、小早川さんが危なげなく答えた。確かにその三人は、少しだけ世間を賑わせたからな。961プロから、315プロに移籍したという話を聞いたことがある。

 

「……かんっぜんに相手のペースじゃない!」

 

 ハーミーが焦ったように声を上げる。このままだと、完封されてもおかしくないな。

 

 続く姫川さんも正解し、キャンディーアイランドの滑り台はさらに上がる。

 

『……もうむりぃ』

 

 双葉ちゃんがずり落ちそうになる。緒方さんはその腕をしかと掴んだ。いくら双葉ちゃんが小柄で軽いとはいえ、支え続けるのは難しいだろう。双葉ちゃんは体を横に動かし、足を突っ張って踏ん張る。

 

「もう後がないわね」

 

 ダフネが心配しているような声で言う。

 

「まだまだ、これからだよフナちゃん!」

 

 本田さんのその自信はどこから来るのかわからないが、今はその根拠のない信頼に乗っかるとしよう。

 

『次で決めますよ! 「歴史」の一〇!』

 

 輿水さんがクイズのジャンルを選択する。キャンディーアイランドは虫の息だ、あと少しでも角度が上がれば、カワイイヤキュウチームの勝利が決まるだろう。

 

『徳川将軍、三代目は誰?』

 

 ふと、輿水さんとエバンスさんの動きが止まる。

 

「……徳川家康?」

 

「エバンスさん、それ一代目将軍だからな? 真っ先に候補から外して欲しかったけどな?」

 

 しかし、輿水さんも分からないのか。じゃあどうして選んだんだよ。

 

『家光!』

 

 突如、キャンディーアイランドの方から声が上がる。答えたのは――三村さんか!

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