The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
チェーンのファストフード店。ポテトと飲み物の紙コップが乗ったトレーを受け取り、美嘉が座っている席の対面に座る。
「……進兄はさ」
おもむろにポテトをつまんだ美嘉が、顔を下げたまま訊いてきた。
「あのプロデューサーの事、信じているワケ?」
「信じている、というと?」
随分とアバウトな質問だな。
「最近はコミュニケーション取ってるみたいだけど、あの三人の事があったじゃん? 見ているユニットも人数も多いし、大丈夫なのかなって」
……ああ、そういう事ね。「三人に任せる」という発言が未だに引っかかっていると。あの時は「丸投げ?」と不満タラタラだったしな。
「まだユニットで分けられてるから大丈夫だろ。俺の知り合いなんて、一三人に加えて更に三九人見るって言ってるし」
美嘉は俺の返答を聞いて顔を曇らせる。
「それって……狂人じゃない?」
「狂ってるな」
年長者のアイドルや事務員のサポートもあるらしいが、それでも赤羽根先輩は一人でプロデュースを行なっている。……一三人の時点でも大分狂っていると思っていたが、彼は三九人追加するプロジェクトに、諸手を上げて賛同したのかどうなのか。
「それに、武内さんはもう大丈夫だろ。痛いお灸は終わっただろうし」
あの事件があってからは、特に大きな問題が起こったという話はない。その実、神崎さんの件なんてノートを拾っただけで終わったし、キャンディーアイランドもちゃんと自分達の力で収録を乗り越えた。
「どちらかと言うと、お前がどうしたいかって話なんじゃないのか」
ポテトを噛みちぎりながら訊く。図星を突かれたかのように、美嘉の肩がびくりと跳ね上がる。
「アタシは、……アタシはいいよ別に。シンデレラプロジェクトにとってみたら、部外者もいい所だし」
美嘉はそう言うと、コーラを一口飲んでため息をつく。
「それを言ったら、俺も部外者なんだけどな」
今回にしても、たまたま美嘉に巻き込まれてこうなった訳だし。下手をすれば、前川さんのストライキ未遂――いや、ニュージェネレーションズの三人がレッスンの休憩中に乱入して来た時から、シンデレラプロジェクトには巻き込まれている。
「俺もお前も、言ってしまえば関係してしまってるじゃないか。両方とも莉嘉の血縁者だし、美嘉はそれに加えて、あの三人をステージに引き摺り上げた張本人だ」
「うーん、そうだけどさあ……」
負い目だろう。本田さんが誤解したのも全ては自分の責任だという負い目が、美嘉の心に重くのしかかっている。こいつ、まだ引きずってるのか。「気にすることない」って言ったはずなのにな。
「本田さんとは話したのか?」
本田さんの口からは、美嘉に対する恨みつらみは特に聞こえてこなかった。それどころか、「次一緒にやる時は絶対良いステージにするぞ!」と意気込むほどである――という話を渋谷さんから聞いた。
「ううん。まだ」
あーやっぱり。だから今でもうじうじ悩んでるんだよ。
「全く……ちょっくら訊いてみるか」
スマホを取り出し、メッセージアプリを開く。正直、本田さんの連絡先は分からない。しかし、ハーミー経由なら聞き出せるだろう。
『本田さんに、美嘉の事をどう思ってるか聞いてくれ』
『?』
ハテナじゃなくてだな……。ひよこのようなキャラクターが首を傾げているスタンプも送られてきたが、ふざけている訳じゃなくてだな。
『今、美嘉がいるから』
そのメッセージに既読がついた途端、ハーミーは返事を寄越さなくなった。
「……どう?」
「いや、まだだ」
突然、着信音が鳴り始める。メッセージアプリの無料通話サービスのものだ。他の客や店員がこちらを見るが、何事も無かったかのように各々視線を外した。……っぶねー。ハーミーのヤツめ、突然電話を寄越すとは。しかし、そういう事か。だったら、大人のお兄さんは空気を読むとしよう。
「ちょっと進兄、目立つのはヤバイって!」
「いいから、ほら、お前が受け取れ」
「何でアタシが……」
「いいから」
俺がずいとスマホを押し付けると、美嘉はおずおずと手に取り、着信を受け取った。
「もしもし……。――! うん! それで――。……え? でも、アタシ……だけど……。……うん、……うん、そっか。……ううん、ありがと。……お、いいねそれ! うん、またね! それじゃ!」
ポロロン、と通話が終わった音が鳴った。美嘉は晴れやかな顔で、俺にスマホを返す。
「相手、本田さんだったんだな」
「うん、未央だった」
すぐに通話機能を使ってきた事から、おそらくハーミーと本田さんは一緒にいたのだろう。手間が省けて良かった。
「……ま、どうだったかは聞かなくても分かるけどな」
「そう? じゃあ言ってやんなーい」
「はは、言いやがるな」
笑いながらポテトをちびちび食べていると、再びメッセージアプリが音を鳴らす。……相手は本田さんだ。友だち追加か。ま、やっておくとしよう。「追加」のボタンをタップした後、少しスマホを操作してからアイスコーヒーを喉に流し込む。
「未央?」
同じくポテトを食べている美嘉が訊いてきた。
「ああ。申請が来たから、友だちに追加しといた」
ぷふっ、と美嘉が小さく吹き出す。
「何か、進兄が友だちって言葉使うの、すっごい違和感あるんだけど」
「悪かったな」
不貞腐れながらもコーヒーを飲んでいると、美嘉は自分のスマホを取り出す。
「ん、アタシの所にも来たみたい」
「そりゃま、俺が送っといたからな」
本田さんの事だから、『じゃあ次美嘉ねぇのID送ってー!』と言ってくるに違いないと思い、先にやっておいた。予想は当たっていたらしいな。
「……普段からそういうのなら、仕事もバリバリやっていけるんじゃないの?」
なーにを失礼な。
「言われなくてもバリバリだぜ? 入社二年目でプロデューサーしてるぐらいだからな」
「ふーん? どうなの? シンデレラプロジェクトで埋もれちゃうんじゃない?」
「うぐっ……」
無茶苦茶痛いところを突かれた。
「やっぱヤバいと思ってんじゃん。どうするの?」
「うーん……。とは言っても、ちょこちょこ小さな仕事をこなしながら、新しい曲を出していくしかないんだよな」
ポテトを齧りながら答える。武内さんが率いるシンデレラプロジェクトの強みには、武内さんのコネも関係しているのだが、それ以上に個性のレパートリーが多いというものがある。
例えば、今回のようにティーンエイジャー向けのファッションブランドの仕事もこなせるし、ラブライカの二人でもう少し大人向けのブランドにも売り込みが出来る。また、キャンディーアイランドが収録したようなバラエティ番組からトーク番組まで、顔ぶれが多く選り取りみどりな向こうなら、フットワークはある程度軽く立ち回れるだろう。
しかし、E.G.G.Sとなると話は微妙な感じになってしまう。三人しかいないという人数差以上に、フットワークが若干鈍くなるという問題が出てくるのだ。こちらはメンバーの年齢層が殆ど同じであるため、今回のようなファッションブランドへの営業も範囲が絞られてしまう。……そうなってしまえば残された道は一つ、曲をコンスタントに出していき、世間から忘れ去られないようにするしかない。
「でも、シンデレラプロジェクトも曲を出し続けてない?」
「まあな。アレは大型のプロジェクトって括りで出してるし」
幸い、デビューシングルの売上は悪くはない。とは言え、それはあくまで「外国人三人組が、日本で日本語のアイドルソングをリリースした」という物珍しさから来ていることに間違いなく、正当に実力を評価されているとは判断出来ない。
「今、作曲の先生に二曲目を催促している所だ。……向こうは『スランプだ』だの何だの言っていて難しいが」
「何時までに出来るのそれ?」
「夏フェスに間に合うようにお願いしてはいるが……。正直、間に合わないかもしれないな」
渋々ながらも了承はしてくれたのだ。信じて待つしかない。
「ダメじゃん」
「ま、こっからだよ」
少なくとも、ユニットの空中分解なんて形でE.G.G.Sを終わらせるつもりは毛頭ない。なんてったって――。
「約束したからな」
「……? 何を?」
ついつい漏れてしまった心の声に、美嘉が反応する。
「E.G.G.Sの子とな。『絶対トップアイドルにする』って、まあそんな感じの約束をしたんだよ」
「へー。進兄にしては珍しく、暑苦しいエピソードじゃん?」
「暑苦しいってお前な……」
ポテトを咥えてカラカラ笑う美嘉をじろりと見るが、彼女が動じる気配はない。あの頃は大変だったからな。今以上に骨が折れたかもしれん。
――もうこのまま、辞めちゃえばいいのよ! わたしなんて!
――馬鹿言うなよグレンジャーさん! 辞める必要なんか何処にもないだろ!
――分かったよ。誰も見てくれないって言うなら、俺が見ようじゃねーか。絶対に、絶対にトップアイドルにしてやるよ!
確かに今思えば、割と暑苦しいエピソードかもしれない。うーん、少し恥ずかしいな。
メッセージアプリが何かを受信する。……噂をすれば。相手はハーミーだ。
『美嘉さんに申請送ってもいいの?』
『自分で考えろよ』
『聞いて』
『どうして俺が』
『一緒にいるんでしょ?』
ひよこのようなキャラクターが祈るように手を合わせるスタンプが、続けざまに送られてきた。……全く、調子の良いやつだ。
「美嘉、E.G.G.Sの子が友だち申請していいか訊いてるが」
「ふーん? どんな子?」
美嘉はポテトを食べながら訊いてくる。そうだなあ。
「中一で、俺に対してはまあまあ小生意気だな」
「お、追加しとこーかなー」
「今のどこに決める要素があった……?」
俺がハーミーに『いいってよ』と返信を送るや否や、美嘉のスマホが鳴る。美嘉はスマホを操作し、静かに微笑んだ。
「ふーん? 進兄にしては、ちゃんとした子を選んだんじゃない?」
「……少し言い方が引っかかるが、お前のお墨付きを貰って何よりだよ」
睨みつける俺を尻目に、美嘉はスッスッと文章を打ち込み続けている。
「……結構長いな」
「そうでもないよ?」
納得がいかないが、女子は往々にしてこんなもんだろう――っと、何だ? またハーミーからか。
『デートじゃない』
『は?』
『まるでデートじゃない』
何がだよ。
『何処をどう見た?』
『お忍びでヤックにいる所』
『それだけ?』
『うん』
……どうしてこう、このぐらいの年頃の子は何でもかんでも色恋沙汰に結びつけるかなあ。
「おい美嘉、お前が変な事を言ったせいで――」
俺が顔を上げて美嘉を見ると、彼女は顔面蒼白といった様子でスマホの画面にかじりついていた。
「――おい、どした?」
「進兄、大変!」
……尋常じゃないな。ハーミーに急いで『用事が出来た』とメッセージを送り、美嘉に差し出されたスマホの画面を見る。相手は莉嘉からだった。
「……武内さんがどっか行ったぁ?」
美嘉の画面には『プロデューサーがどこかに行っちゃった!』というメッセージと、パンダが号泣するスタンプが映っていた。悠長にスタンプを送ってる場合じゃねえだろ。……ん? 新しくメッセージが来たな。――迷子になったぁ!?
「どうしよう!?」
「どうしようって、お前……」
スマホに表示されている時刻を見る。……ヤバいな。二回目のトーク本番まで、もう殆ど時間が無い。
「俺が社用携帯で武内さんに連絡してみる。美嘉は、莉嘉達が何処にいるか訊いてくれ」
こんな事に使うとは思っていなかったが、持っていて良かった。……掛かんねえし! どうしたんだよ武内さん! 何時もは二回目のコールぐらいで出るでしょあなたは!
「早く電話掛けてよ進兄!」
「掛けてるっての! 向こうが出ねえんだよ! ああもう、どうすれば――」
……あの人の力を借りるしかないか。
■一三人に加えて更に三九人
ミリマスアニメ化おめでとうございます(白目)。小説に響きそうで怖い……。
■目立つのはヤバイ
トップアイドルが男性と一緒にファストフード店にいたとなれば、文〇砲不可避だと思う。
■未央との会話
アニメでは夏ライブ辺りでしたが、進兄のはたらきもあって少し早い展開になってしまいました。
■Q.仕事が遅い作曲家なら、切ればいいのでは?
A.アイマス世界だから大丈夫!
凸レーション編、続きます。